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■486 / inTopicNo.1)  Feelings
  
□投稿者/ 夕海 碧 -(2003/08/28(Thu) 01:17:37)
    夕食の支度を終えたアルフィンは、リビングにひょこっと顔を出した。そこではタロ
    スとリッキーがテレビを見ながら寛いでいた。
    「あれ、ジョウは?」アルフィンは小首を傾げて二人をみた。
    「夕飯の支度が出来たんだけど。まだ、レポート書いてんの?」
    「いや、気分転換するって言って散歩に行ったよ。そういや、ちょっと遅いなー」
    リッキーが伸びをしながら答えた。
    アルフィンは口を尖らせ窓に歩み寄る。せっかく時間をかけて腕を揮った料理の味が
    落ちてしまう。しかし、ジョウ抜きで先に食べる気にはなれなかった。彼女はカーテ
    ンを手で少しずらすと外を何気なく見た。が、途端に驚きの声をあげる。
    「やだ、土砂降りよ。」アルフィンは振り返って叫んだ。
    「んも〜。ジョウってば何処行っちゃったのかしら!」
    「さすがウェザーコントロールしてない星だな。突然降りやがる」
    タロスがのそりと立ち上がるとアルフィンの横に来た。彼も外を覗き見る。なるほど
    大雨だ。おまけに風も強い。昼過ぎまでは晴天だったとゆうのに。昨夜に到着した惑
    星ヤーヌスは開発が進んでおらず、滞在するには些か不便な所であった。
    「感心してる場合じゃないでしょ!」アルフィンは柳眉をキリッと上げタロスを睨む。
    「なんで貴重な休暇の三日間もこんなトコにいなきゃなんないのよ!これじゃ、迂闊
    に外へ出らんないじゃない!」
    「まぁ、まぁ。ココでクライアントと落ち合うのが、一番無駄が無くて良かったんだ
    から」タロスはなだめる口調になった。
    「ジョウは独りで良いって言ったんだがな。ここんとこ無理してるから、ちっとは俺
    達も気にしてやらんと。いくらジョウでも身体を壊すぜ」
    そう言われると、アルフィンも黙るしかない。彼女とて気付いているのだ。だからこ
    そ、ホテルではなくキッチン付きのコテージでの宿泊を主張した。自分に出来る精一
    杯のこと。栄養のある料理で彼を労わりたかった---密かに愛情をたっぷり込めて。
    アルフィンが不満を口にしたのは、それが肩透かしを食ったためだった。なにせ、幾
    晩もかけてメニューを考え、今日は昼過ぎからキッチンに篭っていたのだから。
    そこでアルフィンはふと気付き眉をひそめる。怒気が収まると、キッチンで料理して
    た身体に室内の空気がヤケに冷たい。彼女は腕を抱えて呆れた声を出す。
    「ねぇ、あんた達。いいかげんにクーラー切ったら?」
    「へ?」リッキーは目を丸くしてあたりを見回した。
    「クーラーなんてかけてないぜ」
    「そーなの?リッキー、あんたは寒くない?」
    「う〜ん。俺ら達、ずっといっからなー。言われてみれば、なんか冷えてきたなぁ」
    「呑気ねぇ」
    アルフィンは肩を竦める。そして、コーヒーでも入れようとキッチンに向かった。と、
    その足が止まる。彼女は振り返り、タロスとリッキーを交互に見た。
    「ね、これじゃ、外かなり寒くない?ジョウ、ほんと何処に行ったのかしら?どう考
    えてもずぶ濡れで帰ってくるわね・・・」
    そこへ。
     ピンポン・・ピンポン!
    忙しなく、チャイムが響く。
    アルフィンの頭からコーヒーなど消し飛ぶ。ドアに駆け寄った。
    「ジョウ?」
    ドアを開けると、倒れこむようにジョウが中に入ってきた。予想通り、ずぶ濡れだ。
    「・・・・」
    ジョウは閉じたドアに、精根尽き果てた様子でもたれかかる。俯き加減で呼吸を整え
    ていた。アルフィンはそんな彼を見つめたまま立ち尽くしていた。
    すると。ジョウがゆっくりと面を上げてアルフィンを見た。
    「-----タオル、くれ」
    「え、ええ?」アルフィンは我に返る。
    「も〜、何してたのよぉ!いい?タオル持ってくるから、そこにいるのよ!」
    叫ぶように言うと、アルフィンは返答も待たずにバスルームに走って行った。
    「・・・」
    タロスとリッキーは顔を見合わせる。そして、同時にジョウに目を向けた。
    「-----兄貴、何してたんだよ」
    リッキーが呆れ顔で言う。それに対し、ジョウは方をすくめて見せた。
    「ちょっと、な」
    「ちょっとじゃ、ないですぜ」タロスは心配顔だ。
    「ここの気候じゃ、体調崩しますぜ、無茶すると。どうしたんです?」
    「少し、遠出したら雨に降られただけだよ」
    ジョウは濡れた髪をかきあげた。ついでにびしょ濡れのシャツも脱ぐ。
    「-----まいったぜ」
    「大丈夫ですか?かなり疲れた様子見えますぜ。この雨ン中、走ってきたんですかい?」
    「うっ。いや、それもそうなんだが・・・」
    ジョウの返答は歯切れが悪い。タロスが心配げに何か言いかけたが―――――
    「ジョウ!」
    アルフィンの声に三人はビクッとする。彼女が駆け寄ってくると、リッキーとタロス
    は反射的に後ろに下がって道を開ける。もちろん、アルフィンは二人には目もくれな
    い。腕には数枚のバスタオルを抱えていた。
    「ほら、コレ」
    「ぶっ」

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■487 / inTopicNo.2)  Re[1]: Feelings
□投稿者/ 夕海 碧 -(2003/08/28(Thu) 01:20:48)
    アルフィンが、いきなり背伸びしてジョウの頭を持ってたタオルで包む。そして、ク
    シャクシャと両手で髪を数回擦ってやってから、もう一枚のタオルを彼の肩にかけた。
    と、その時。アルフィンは彼の肩に手が触れ、驚きの声を上げた。
    「やだ、冷え切ってるじゃない!どのくらい雨の中にいたのよ?」
    「う・・・いや」
    ジョウは間近でアルフィンに問い詰められ、うろたえて一歩下がる。しかし、アルフ
    ィンは彼の肩にかけてやったタオルの両端を掴み逃がさない。
    「なによぉ。まずい事でもあるの?」アルフィンはキッとジョウの目を見つめる。
    「いったい、何処に行ってたのよ?」
    ジョウは困った顔で瞳を泳がせていたが、碧い瞳は許してくれない。ジッと彼と視線
    を合わせようとしてるのにジョウは降参した。
    「砂浜、ずっと歩いて・・・結構、遠くまで行ったんだが」ジョウは渋々話し出す。
    「そしたら、岩場が浜から三百メートルくらい続いてるトコがあったんだ。で、そこ
    を沖に向かって少し歩いてったら、一休みするのに丁度良いトコがあってな---そ
    こで、座り込んでたら寝ちまったらしくて・・・」
    「で、雨が降ってきて起きたの?」アルフィンは眉を顰める。そして、ふと気付く。
    「腕にいっぱい、かすり傷あるけど」
    「ん?」ジョウが慌ててアルフィンの視線の先を見る。確かに、二の腕に新しい傷だ。
    「い、いや。これは・・」
    「どうしたのよ!」
    「いや・・・いきなり大雨が降ってきたから、目ぇ覚めたんだが」
    ジョウは言いよどむ。
    「で?」
    「焦って飛び起きて---」ジョウはそっぽを向きながらボソリと付け足す。
    「---落ちた」
    「はぁ?落ちたって、海に?」
    「うん」
    アルフィンの迫力に押され、少年のように素直な返事をするジョウ。アルフィンは、
    眼を見開き手にしたタオルを引きジョウを引き寄せ追求する。
    「じゃ、また岩をよじ登って戻って---」アルフィンは言いかけ、ハッとする。
    「-----まさか、面倒臭いから泳いで岸まで戻った、とか言わないわよね?」
    「うっ」
    ジョウは絶句して無意識に後ずさりした。図星。彼が、ヘトヘトに疲れてた理由。落
    ちたついでとばかりに泳ぎ始めたのは良いが、たちまち荒れだした海を強引に岸まで
    戻ったのである。陸に上がってからの風雨が身に堪えたのも無理は無い。
    「ね、どーなのよぉ!」
    「----だって、それのが早いだろ?どーせ、濡れんの同じだし」
    ジョウの弁解はいかにも弱弱しい。反対にアルフィンの声はトーンが上がってくる。
    「何考えてんのよ!どうして、そんな無茶するのよ!」
    「い、いや、だけど----」
    「もう、いいわ!」アルフィンはしどろもどろなジョウの言葉を一蹴する。
    「早く、お風呂はいりなさい。バスタブにお湯入れてあるから。あ、その前に身体拭
    いて。」
    アルフィンはそう言うと掴んでたタオルから手を離す。ジョウは素直に首にかけられ
    たタオルを手に取り身体を拭う。そして、アルフィンは濡れたシャツとタオルをジョ
    ウから取り上げると、抵抗する隙も与えずにバスルームへと引っ張ってゆく・・・・・
    「・・・・・」
    再び、無言で顔を見合すタロスとリッキー。
    「---すげぇ」リッキーが呆然として呟く。
    「なんか、母ちゃんみてぇ・・・」
    「あぁ・・・」
    さすがのタロスも顔を強張らせて頷く。その耳には、微かに二人のやり取りが聞こえ
    ていた。

    「いい、ちゃんとゆっくりお風呂に入るのよ」
    「いや、でも----」
    「え?そーよ、バラの香りよ。アロマテラピーでリラックスするのよ!」
    「だけど---」
    「なぁに?入れた方が温浴効果も高まるのよ!」
    「でも---」
    「いーから、黙って入るの!いい?十五、ううん、二十分は入ってるのよ!」
    「・・・・」

    「・・・・」
    タロスとリッキーの顔が引きつっていた。
    「兄貴・・・」
    リッキーが同情を込めて呟いた。
    そこへ。
     パタ・パタ・パタ・・・
    小走りに戻ってくるアルフィン。
    室内の空気がピンと張り詰める。リッキーに至っては反射的に逃げ場を探し、キョロ
    キョロと周りを見渡す。

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■496 / inTopicNo.3)  Re[2]: Feelings
□投稿者/ 夕海 碧 -(2003/09/07(Sun) 17:14:59)
    アルフィンが戸口に現れた。
    「タロス!」
    「へい!」
    アルフィンにいきなり呼ばれ、タロスは何故か姿勢を正して返事をしていた。
    「ちょっと、ジョウの事お願いね。絶対、二十分は外に出しちゃダメよ!見張っとか
    ないと適当にシャワーで済ませちゃうんだから、きっと」
    「あっしが?」
    タロスは情けない声を出した。ドアの前に立って、見張れとでも言うのだろうか?だ
    が、逆らう事はおろか、反論もタロスには出来ない。
    次にアルフィンはリッキーに目を向けた。リッキーは小さな身体を更に小さくした。
    彼としては、見えなくなるくらい小さくなりたい心境だが。それでも、諦めてアルフ
    ィンが何か言うのを待った。
    「リッキー!あんたは、あたしの手伝いよ。ジョウが出てきたら、すぐに食事にする
    んだから」
    アルフィンは断固として言い渡すと、腰に手を当て二人をキッと見つめた。
    「いいわね?」
    「はい!!」
    二人はピシッと直立し、お姫様の言葉に従った・・・・


    タロスはソファに座り、神妙な面持ちで時計を見つめていた。リッキーはアルフィン
    にキッチンへと連行され手伝いをさせられている。
    「-----もう、そろそろ、だな」
    タロスは呟きバスルームの方角へ目をやった。ありがたい事にジョウは出てきてはい
    ないらしい。もっとも、あのアルフィンの迫力をもってすれば、さすがのジョウとい
    えども従うしかないだろう。
    タロスはキッチンの様子を窺いつつ、緩慢な動作で腰を上げた。キッチンから見える
    わけではないが。ずっと座り込んでいたのが知れたら、どんな解釈をされるか分かっ
    たものではない。
    足音を忍ばせ、タロスはバスルームに向かった。
    ドアの前。
    中の様子を探ろうと聞き耳を立てるタロス。
    微かに聞こえる物音。
    「---まだ、入ってるな」タロスは困惑顔になる。
    「どうしたモンかな。アルフィン、遅きゃ遅いで怒りそうだ」
    タロスはそっとドアを開けた。入ってすぐの所は、ランドリーコーナーになっている。
    今も稼動音が響いていた。さっきのジョウの濡れた服に違いない。右手の方には短い
    通路があり、奥にあるもう一つのドアを抜けるとバスルームとシャワールームがある。
    ソチラの方から勢いのある水音が聞えていた。
    「まさか、ずっとシャワー浴びっぱなしじゃ・・・」タロスは怯える。
    「勘弁してくだせぇ、ジョウ。アルフィンに知られたら・・・」
    タロスは急ぎ足になり、バスルームのドアに近づく。
      シャー・・シャー・・・
    絶え間無く続く、シャワーの音。
    「---ジョウ」
    声をひそめて呼びかけるタロス。だが、返事は無い。
      シャー・・シャー・・シャー!!
    シャワーの音だけが響く。
    「ジョウ」仕方なく、タロスは少し声を大きくして呼びかける。
    「俺です」
      ・・・・・
    シャワーの音が止んだ。
    「---なんだ?」
    ジョウの気だる気な声が返ってきた。
    タロスは何故か背後を振り返り声をひそめる。キッチンまで聞えるわけは無いのだが。
    「二十分過ぎました。出ても構いませんぜ」
    「---あぁ」
    溜息のようなジョウの返事を聞くと、タロスは先ほどのランドリーコーナーまで移動
    した。別にジョウを待ってる必要は無いのだが、何となくすぐに戻るのは躊躇われた。
    とゆうより、ジョウがちゃんとバスに入っていたかを確かめる必要があった。なにせ、
    仕切り出したアルフィンには、サイボーグのタロスとて太刀打ち出来ないのだから。
    ここでジョウがシャワーのみで済ましたとしたら、絶対にヒステリーの矛先はタロス
    に向かう。それを回避する為に。タロスはジョウが出てくるのを待っていた。
    暫くして。身体を乾かすドライヤーの音が止んだ。居心地悪そうに待つタロスの目に、
    ドアが開くのが見えた。
    それと同時に、辺りにはバラの香り微かに漂う。
    腰にタオルを巻いたジョウが現れた。タロスが居るのを見て不思議そうな表情を浮か
    べたが、何も言わずタロスの方へやってきた。ときおり、首を廻らせ自分の肩に鼻を
    近づけながら。
    「?」
    「---ったく」ジョウは顔を顰めてボソリと言う。
    「-----取れやしねぇ」

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■500 / inTopicNo.4)  Re[3]: Feelings
□投稿者/ 夕海 碧 -(2003/09/12(Fri) 21:10:58)
    一瞬キョトンとしたタロスだが、忽ちその意味を理解し安堵の溜息を吐く。石鹸の香
    りに混じってジョウの周辺に僅かに漂うバラの香り。さっきのMAXレベルのシャワー。
    あれは、肌に残ったバラの香りを消そうとムキになっていたらしい。
    「どうでした、バラ風呂は?」
    別にからかうつもりは無いが、思わずタロスは口に出す。すると。ジョウはふんっと
    鼻を鳴らし、クルリと身体の向きを変えた。バスルームの方へ。
    「ち、ちょっと、待ってくだせぇ」
    「---んだよ!」
    慌てて引き止めるタロスにジョウは不機嫌な声で答える。そのまま無視して行こうと
    するジョウの背中に、タロスは声をひそめて忠告した。
    「信じませんぜ、アルフィン。全く匂いしねーと」タロスは必死だ。
    「---気持はわかりますが。我慢してくだせぇ」
    ジョウの足が止まる。
    肩が落ちた。降参のようだ。
    「はぁ・・・」
    「先、行ってますぜ」
    同情を込めてタロスが声を掛けると、ジョウは背を向けたまま力無く右手を上げた。
    それを見て、タロスはジョウを残し一足先にダイニングルームへ向かった。


    ダイニングルーム。リビングの隣にそれはあった。
    タロスが足を踏み入れると。今まさに、ディナーの用意のラストスパートのようだ。
    「リッキー、コレ運んで!」
    「え?うん」
    「あ。次はあれね」
    「はい・・・」
    予想通り、リッキーは新米のボーイの如く追い使われていた。
    タロスが入ってきたのにアルフィンが気付く。
    「タロス、ジョウは?」
    「へ?」
    リッキーを痛ましそうな視線で眺めていたタロスは、急に声を掛けられうろたえる。
    「あ?あぁ」タロスは大袈裟に頷いてみせた。
    「さっき、出てきた。ちゃんと、入ってたぜ。うん」
    「そう。じゃ、もう来るわね♪」
    アルフィンは上機嫌で、ニッコリ微笑む。
    そこへジョウが入ってきた。
    「ジョウv」
    輝くばかりの微笑を浮かべ、アルフィンはジョウを迎える。彼女は軽やかな足取りで
    ジョウに近づくと、小首を傾げながら彼を見上げる。更に輝きを増す美しい笑顔。先
    ほどまでの『仕切り屋アルフィン』と同一人物とは、とても思えない。
    「ねぇ。良いモンでしょ?バスエッセンス入れてはいるのって」
    「・・・・・」
    ジョウは言葉に詰まる。否定も出来ない。あらかさまに嫌がって怒りをかうか、はた
    また拗ねられるか。肯定は更にまずい。下手をすると彼女御用達の店に発注をされて
    しまう。心身ともに疲れきった今の状態では。どうしたらいいのか、咄嗟に判断が出
    来ない。ジョウは他の二人に『HELP!』の視線を送った。
    「コレ、運ばなくていいのかい?」
    リッキーは自分も空腹な事もあり、すぐに助けに乗り出した。散々手伝いをさせられ
    て、この上アルフィンがご機嫌を損ねたらとんでもない事になる。ただでさえ、夕食
    がこの騒動で遅れているのだから。
    「え?」
    アルフィンが振り返ってリッキーを見る。気が逸れた。どうやら、自分が<スペシャル
    ディナー>を用意してたのを思い出したらしい。
    「そうそう、アルフィン。せっかくの料理が冷めちまうぜ」
    タロスも口を挟む。ジョウの事もあるが、これ以上のとばっちりは勘弁して欲しい。
    タロスは、もう食事しか頭に無いような素振りでサッサとテーブルに座った。その
    様子に、アルフィンも慌ててセッティングに戻る。
    ―――――ジョウ救出、成功。
    タロスとリッキーは、ホッとしてこっそり顔を見合わせる。二人が目を向けると、ジ
    ョウは口元に苦笑を浮かべ片目をつぶって見せた。
    そして、全員が席に着きアルフィン渾身の<スペシャルディナー>が始まった。
    サラダにスープ、メインの肉料理とシーフード。半日かけて作っていただけあって、
    並べてみると実に壮観だった。材料も最上の物を、到着に合わせてコテージに届くよ
    うに手配していたのだから。
    タロスとリッキーは食べながら、大袈裟なくらい褒め上げる。アルフィンも自分の料
    理の出来栄えに大満足。彼女はご機嫌で皆に料理を取り分けていた。

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■501 / inTopicNo.5)  Re[4]: Feelings
□投稿者/ 夕海 碧 -(2003/09/12(Fri) 21:13:34)
    暫くして。アルフィンは、ふと肝心のジョウがあまり食が進んでないことに気付く。
    「ジョウ?」アルフィンはニッコリ笑って声を掛けてみた。
    「ね。何か取ろうか?カナー鳥のローストは、どぉ?」
    「---うん?」
    サラダを口に運ぶでもなく、フォークで突っついていたジョウはギクッとして顔を上
    げた。身体がだるく、食欲が全く無い。普通に食べてるフリをしていたのだが。
    「だからぁ、お代わりはどぉ?」
    アルフィンはまだご機嫌なまま重ねて聞く。
    「いや。いいよ。まだ、あるし。もう、十分だよ」
    ジョウはあっさり断る。それを聞いて、タロスとリッキーが震え上がる。
    ―――――ジョウの命知らず。んな、ご機嫌損ねる発言・・・勘弁してくれ。
    二人は同時に心で叫んでいた。
    しかし、当のジョウは彼らの恨みがましい視線に気付かない。彼は、アルフィンに見
    られてるので、慌てて料理を口に運び出す。とにかく、自分の皿に盛られた料理は片
    付けるつもりらしい。
    ジョウを見つめるアルフィンの顔が不安げに曇る。
    「---ジョウ」アルフィンはシュンとした風に小さな声で聞く。
    「あの・・・。美味しく、ない?」
    「---うん?いや」ジョウは彼女の悲しげな顔にうろたえる。
    「い、いや。美味いよ。でも、んーとな。ほ、ほら、眠くなるとマズイだろ?」
    「?」
    「---まだ、レポート残ってんだよ」
    「え?じゃ、また今夜もやるの?」
    「あぁ」
    ジョウは肩をすくめる。アルフィンは小さく溜息を吐く。それでも、一応薦めてみる。
    「---デザートあるんだけど」
    「ん?」
    「ラズベリーパイとレモンシャーベット」
    「いや。あっと・・・あぁ」一瞬断ろうとしたジョウ。でも思い返して頷く。
    「じゃ、シャーベットくれ」
    「うん」
    少し口を尖らしながらも、アルフィンはいそいそとキッチンに向かう。彼女の姿が見
    えなくなったのを見計らって、リッキーが言い始める。
    「兄貴。アルフィン張り切って作ったんだからさー。もっと、褒めてやんなよ」
    リッキーは頭の後ろで手を組み口を尖らせる。
    「お代わりも断るしさ。ちっと、ひどいぜ。眠くなるとか・・・なんだよ、あれ」
    「---んな事言っても、食べれねーんだよ、マジで。寄越されたのはクリアしたぜ」
    リッキーに責められ、憮然とするジョウ。
    「お前達があんだけ褒めまくってたから、十分だろ?」
    「もー、そうじゃないんだって!」リッキーは天を仰いで見せた。
    「俺ら達がいくら褒めてもさー、兄貴の一言のが重いんだぜ!わっかんねかーなぁ」
    「そうですよ。アルフィン、下準備も半端じゃなかったですぜ。ジョウの身体を気遣
    ってんですよ。それをねぇ。少しは気持を汲んでやったらどうです?」
    「うっ。分かったよ。だけどなぁ」タロスにも言われてジョウは溜息を吐く。
    「お前らも、あの甘ったるい中に浸かっててみな。拷問だぜ、ありゃ」
    「そんなこと言ったって---」
    タロスは慌てて言葉を飲み込む。アルフィンが戻ってきたのである。手に持ったトレー
    には、コーヒーカップと美しくシャーベットが盛られた皿が載っていた。彼女は、部
    屋の重い空気に首を傾げる。
    「どうかしたの?」
    「いや、別に・・・」
    タロスは慌てて首を振った。リッキーは食事に集中してるフリをする。そして、ジョウ
    はどうにか微笑を浮かべ手を差し出す。
    「サンキュ」
    ジョウはコーヒーとシャーベットを受け取った。口に入れると、スッと溶けるシャー
    ベットの冷たさがとても心地良い。彼が気に入ってるのをみて、アルフィンは嬉しそ
    うに微笑む。ふと、ジョウもアルフィンの視線に気付き目を向ける。幸せそうな笑顔
    だった。そんなアルフィンに。
    ―――――あいつらの言う通りかもな。
    と、ジョウは少し反省してみる。同時にバスルームに連行された様子を思い出す。あ
    の威圧感は半端じゃなかった。女って、本当によくわからない。でも、こうして笑っ
    てくれてると何故か自分も嬉しさがこみ上げてくるのはなぜだろう。
    ジョウは、そんな事を考えつつ席を立つ。
    「美味かった。また、よろしくな」ジョウは、横に座るアルフィンの肩を軽く叩く。
    「あ、夜時間があったら食べるから、パイ取っといてくれ」
    「うん!」
    ジョウの言葉にアルフィンは顔を輝かせる。
    「じゃあ。悪いが、お先に」
    ジョウがタロスとリッキーに片手を上げてみせると、二人はアルフィンがこちらを見
    て無い事をいいことに、拳を握って親指をぐっと上げ『ナイス!』と合図する。
    ジョウは急に照れくさくなり、足早に立ち去った。
    後に残った三人は、そのまま食事を続けた。

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■502 / inTopicNo.6)  Re[5]: Feelings
□投稿者/ 夕海 碧 -(2003/09/15(Mon) 13:21:33)
    「明日も、このまま降るのかしら?」
    アルフィンは憂鬱な表情で外を見ていた。そして、ウンザリした口調で呟くとカーテ
    ンをサッと引いて窓から離れる。彼女はソファに座って、テレビのリモコンを手に取
    り当てもなくチャンネルを変えていく。
    「ん〜。つまんない。ろくなのやってないわねぇ」
    アルフィンはテレビを消し、ポイッとリモコンを放り出す。
    「ん・・・」両手を思いっきり頭上に伸ばし、アルフィンは背伸びをして呟く。
    「まだ寝るのも早いわよねぇ。コーヒーでも飲もうかしら?」
    夕食が終って、各自に決めた寝室に引っ込んだのは良いがアルフィンは暇を持て余し
    ていた。ジョウは仕事中だと、いくら甘えてみても相手をしてくれないと分かってい
    るから、彼女自身も邪魔をする気はなかった。
    アルフィンは立ち上がると部屋を出てキッチンに向かった。
    キッチンにも、途中に覗いたリビングやダイニングにも誰もいない。静かなものだ。
    タロスやリッキーもそれぞれ部屋で寛いでるのだろう。ジョウは勿論、レポートを書
    いてるはずだ。彼の口調だと、暫くかかる様子だったから。
    ふとアルフィンは、ジョウの為に取っておいたパイを思いだす。
    ―――――もう食べたかしら?あんまり甘くないようにしたんだけど・・・気に入っ
         てくれたかしら?
    思わず微笑むアルフィン。だが、パイがそのまま残ってるのを見て顔を曇らす。
    「忘れちゃったのかな・・・」
    ポツリと寂しげに呟く。
    しかし、アルフィンは肩をすくめて思い直す。ジョウの事だ。仕事の区切りが付くま
    で先延ばしにしてるのだろう。何事も仕事優先なのだから。少し、寂しい気もするが。
    ―――――じゃ、持っててあげようかなv
    アルフィンは口元に笑みを浮かべる。ジョウに会う良い口実でもある。煩がられる可
    能性もあるが、あの照れたような優しい笑みを見せてくれるかもしれない。もし、彼
    の邪魔にならないのなら、少しは傍にいられるかもしれない。
    そう考えて、アルフィンはご機嫌になり手早く用意を始めた。コーヒーも保温ポット
    に用意する。パイはすぐに食べない場合を考慮して、蓋付きの皿に入れておく。
    「ん、カンペキv」
    アルフィンは、トレーにポットと皿を載せジョウの部屋へと歩きだした。


    ジョウの部屋の前でアルフィンは立ち止まり、トレーを左手だけに持ち替えた。
      コン・コン・・
    アルフィンはドアを軽くノックする。
    が。反応が無い。
    「ヘンねぇ?」あるフィンは首を傾げもう一度繰り返す。やはり、答えは無い。
    「---寝ちゃったのかしら?」
    暫し躊躇するアルフィン。しかし、せっかくだからと思い壁に付いてるボタンを押し
    てみた。ダメなら諦めれば良い。
    しかし。あっけなくドアはスライドする。鍵を掛けていなかったらしい。
    「入るわよ」
    小さな声で、誰に言うわけでもなく呟きながら、アルフィンは部屋に足を踏み入れた。
    部屋の中は明かりがついていた。
    この部屋は他の寝室より少し広かった。ベッド・ソファ・テーブル等は同じだが、大
    きめのデスクが此処には奥に置いてあるからだ。グルッと部屋を見渡したアルフィン
    の眼がそこで留まる。ジョウがいた。デスクに突っ伏して身じろぎもしない。
    アルフィンは声を掛けようとしたが思い止まる。彼女は足音を忍ばせてテーブルに近
    づき手にしたトレーをそっと置く。チラッとジョウの方に目を走らせたが、やはり起
    きる気配すらない。いつもは敏感すぎるくらいなのに。
    アルフィンは、右の手のひらを頬に当て考え込む。起こしてベッドに行かせるのがベ
    ストだが、多分それは聞き入れてもらえないだろう。すぐに仕事をやりはじめるのに
    決まっている。ならば、このまま寝かせておこう。
    そこでアルフィンは足音を立てないように移動した。クローゼットの所に行き、静か
    に戸を開ける。彼女は中からタオルケットを取り出し、それを持って忍び足でジョウ
    に近づいてゆく。
    ジョウはアルフィンが真後ろに立っても、身じろぎひとつしなかった。右手をデスク
    に置き、それに額を当てている。軽く左を向いて、左手はダラリと垂らした格好で。
    よっぽど疲れていたんだな、とアルフィンはクスッと笑う。
    ―――――もっと楽な姿勢にしてあげたいけど、起こしちゃうだろうし。ほんと、強
         情なんだから。でも、傍で彼の寝顔を安心して眺めるなんて、なかなか出
         来ないわね。うたた寝してても、大概はすぐ起きちゃうし。それより、怪
         我とかで心配しながら見守ってる事の方が多いんだもの。
    アルフィンは微笑を浮かべ、ジョウの肩にそっとタオルケットを掛ける。そして、何
    気無く彼の顔を覗き込む。
    「!」
    アルフィンの表情が訝しげな色に変わった。ジョウの様子がおかしい。眉間に微かに
    皺を刻み、呼吸も荒い。額には汗が。アルフィンが慌てて彼の額に手を当ててみると。
    「や、やだ。凄い熱じゃない・・・」
    動揺するアルフィン。手から伝わる熱さに心をざわつかせて。

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■519 / inTopicNo.7)  Re[6]: Feelings
□投稿者/ 夕海 碧 -(2003/09/29(Mon) 00:21:16)
    しかし、彼女はすぐに平静さを取り戻す。とにかく、ジョウをベットに寝かせねばな
    らない。自分一人では無理だ。そこで、アルフィンは彼の肩を軽く揺すりながら起こ
    すことにする。駄目ならタロスを呼ぶつもりで。
    「ジョウ。ねぇ・・・起きて」
    ややあって、ジョウの目蓋がピクリと動く。
    「ん・・・」
    ジョウは薄目を開けてぼんやりとあたりを見渡した。と、自分を覗き込むアルフィン
    に気付く。
    「うっ。あ・・」ジョウはビクッとして身を起こす。
    「やべぇ。寝ちまった。で、何か・・・用、か?」
    そう言いながら、ジョウはアルフィンの視線から逃れるように端末の方へ向き直る。
    彼は、何気無い動作で仕事を続けようとしていたが、所詮無駄な芝居であった。心配
    そうにジョウを見ていたアルフィンだが、この期に及んで平気な振りをして無理を重
    ねる彼に頭に血が上る。
    「---なさい」
    「うん?」
    ジョウは端末のスイッチを入れようとした。が、横からさっと手が伸びて蓋が閉じら
    れる。同時に背中に悪寒が走った。そして、恐々横目で見ると。
    目が合った。いまや、怒りの炎を吹き出さんとする碧い瞳に。
    「うっ・・・」
    「寝なさい!!」
    焦るジョウにアルフィンは一喝する。もう、ヒステリーレベルの声だ。思わず頭を抱
    え込むジョウ。アルフィンの甲高い声が堪えたらしい。しかし、アルフィンは容赦せ
    ず彼の腕を掴みながら早口で言葉をぶつける。
    「どうして、無理ばっかすんのよ。熱あるでしょ!どうせ、薬も飲んでないんでしょ?
    何で、調子悪いの言ってくれないのよ!」
    「だ、だって・・・たいした事ないぜ。ちょっと、風邪引いた---」
    「これのどこが、ちょっとなのよぉ!さっき触ったら、凄く熱かったわよ」
    「い、いや。そぉか?」一応、自分の額に手を当ててみるジョウ。
    「別に---」
    「んもー、あたりまえでしょぉ!熱ある人が、自分の手で測ってもわっかる分けない
    じゃない!」
    「くっ」キーンとジョウの頭の中を、アルフィンの声が突き抜けてゆく。
    「ア、 アルフィン・・・頼む、声のトーン落としてくれ」
    ジョウは小声で泣きを入れる。しかし、アルフィンはそれどころではなく、ジョウの
    手を握ってみてその熱さに改めて驚く。無理にも程がある。何が何でも、すぐに休ま
    せねば。アルフィンは、腰が引き気味のジョウをキッと見やる。手を伸ばし、彼のこ
    めかみ辺りから髪に両手を差し込み逃がさない。
    「な・・・」
    戸惑うジョウを強引に引き寄せ、アルフィンは自分の額に彼の額をくっ付けた。
    「どう?あたしのがずっと冷たいでしょ?」
    アルフィンは、至近距離でジョウの瞳を見捉えたまま言った。ジョウは固まっている。
    一気に顔が上気して、咄嗟に彼は身を引こうとした。が、バランスを崩す。
    「うわっ」「きゃあ!」
    ジョウが椅子から転げ落ち、アルフィンもつられてもつれるようにして落ちた。
    「痛っ・・・」
    顔を顰めて身体を起こすジョウ。そんな彼の上に落ちた為、驚いただけでダメージは
    無いアルフィン。彼女は先に立ち上がり、口を尖らしながらジョウに手を差し出す。
    「もー、だから言ってるじゃない」ジョウを立ち上がらせ上目遣いに見る。
    「身体だってふらついてるでしょ?」
    「そ、そんなんじゃなくってだな---」
    「いいから、言う事聞いて頂戴!」アルフィンは聞く耳持たない。
    「いい?あたしが戻ってくるまでにベッドに入ってんのよ!」
    「---はい」
    「ん」
    アルフィンは、視線でジョウの言葉を押さえ部屋を出て行った。残されたジョウは溜
    息を吐くと大人しく着替えだした。


    暫くしてアルフィンが戻ってきた。手には大きなトレーを持ち、その上には看護に必
    要と思ったモノが色々載っている。彼女はベッドに近づき、トレーをサイドテーブル
    の上に置いた。
    大人しくベッドに寝ていたジョウはゆっくり目を開いた。
    「どぉ?寝てるとずっと楽でしょ」
    「・・・あぁ」
    ジョウは渋々認めて頷くと半身を起こした。すると、アルフィンはベッドの枕もとに
    腰掛けトレーを少し引き寄せる。彼女は、優しく左の腕をジョウの肩に回しその身体
    を支えるようにした。
    「!」
    背中に感じるアルフィンの柔らかさ。硬直するジョウの唇にアルフィンの右手がそっ
    と当てられる。
    「はい、薬よ」

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■520 / inTopicNo.8)  Re[7]: Feelings
□投稿者/ 夕海 碧 -(2003/09/29(Mon) 00:26:17)
    「い、いいよ。」ジョウはどぎまぎして言う。
    「自分で飲めるって」
    「駄目よ」アルフィンはにべも無い。
    「あたし、知ってるんだから。この前、捨てちゃったでしょ?」
    「へっ?」
    「ドンゴに調べさせたんだから。捨てたでしょ」
    「うっ・・・」ジョウは小声で毒づく。
    「---あのやろぉ」
    「いいから、口開けて」
    アルフィンは断固とした口調で言うが、ジョウの方はやはり気恥ずかしくて顔を逸ら
    してしまう。そんな彼に。
    「あたし、教わった事あるのよね」アルフィンがわざとらしくゆっくり言い出した。
    「口を開けさせるのって、鼻を摘むと良いんですって」
    「いっ」
    ジョウはギクシャクと首を廻らせアルフィンの顔を窺う。
    ニッコリ。
    アルフィンの口が微笑む。しかし、目は笑っていない。はっきり言って、恐ろしい。
    「---試されたい?」
    「---いや」
    ジョウは顔を正面に戻し、大人しくアルフィンに薬を口に入れてもらう。そして、さ
    れるがままに水も飲む。
    「じゃ、もう横になって」
    アルフィンに言われてジョウは素直に従った。完全に彼女のペース。
    ―――――薬飲まして貰うなんて、俺はガキか?
    ジョウは心の中で苦笑する。でも、不思議と不愉快ではなかった。逆に嬉しいかも、
    と感じて妙に照れる。
    そんなジョウの気持も知らず、アルフィンはテキパキと彼の世話をしていた。濡らし
    たタオルで顔や首を拭き、頭の下に柔らかい素材で出来たアイスパックをしいてやる。
    そして、額には熱を吸収するゼリーが詰まったシートを貼り付けた。
    一通り済むと、アルフィンはホッとして微笑む。今度は慈しむように。照れ臭くて、
    ジョウは上目使いにチラッと彼女の方を見るだけ。
    「さ、もういいわよ。大人しく寝てればすぐ良くなるわ」
    「あぁ。サンキュ」ジョウは、もごもごと言った。
    「もう、いいぜ。君も休んでくれ」
    「ううん、もう少しいる。寝ていいわよ」
    アルフィンは小さく首を振りながら言った。サラサラと揺れる金髪に、体調が悪いの
    にも関わらずジョウは目を奪われる。先ほどから、風邪とは別に体温が急上昇してば
    かりでくたくただった。その反動の為か、ジョウの口調は素っ気無くなる。
    「いいって。平気だよ。風邪、うつるぜ?」
    「---でも、心配なんだもの」アルフィンは淋しげにポツリと呟く。
    「あたし、いると邪魔?」
    「い、いや。違うって。そおじゃないって」
    ジョウは身体を起こそうとした。それをアルフィンは慌てて押しとどめる。
    「ごめん。ただ、俺・・こんな風に世話してもらった記憶無くて落ち着かないんだ」
    「え?そうなの?そう、よね・・・」
    アルフィンは少し考えるような仕草をしたが、何も言わずに再び横たわった彼に毛布
    を直してあげるだけだった。彼女はそっと右手でジョウの頬に触れた。
    「じゃ、あたし部屋に戻るね。ちゃんと寝てるのよ」
    「あぁ。サンキュ、アルフィン」
    頷くジョウにアルフィンは微笑むと、サイドテーブルの上のトレーを手に取った。そ
    して、彼女は静かにドアに向かって歩きだす。
    アルフィンの姿がドアの向こうに消えた。

    ―――――ガキの様にか。もし、おふくろがいたらこんな感じだったのかな。

    ジョウはぼんやりと思うと目を閉じた。

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■532 / inTopicNo.9)  Re[8]: Feelings
□投稿者/ 夕海 碧 -(2003/10/13(Mon) 16:53:33)
    翌朝。
    タロスは、リビングのソファに座りテレビを見ていた。まだ7時前で、暫くは誰も起
    きて来ないだろう。たまには、こんな時間があっても良い。常に無い穏やかに気分で
    タロスは独りコーヒーを楽しむ。
    ところが。
      パタ・・パタ・・パタ・・・
    忙しない足音が近づいてくる。もしや。タロスの背中に嫌な汗が流れる。
    「あ。ちょっと、タロス!」
    「う。やっぱり・・・」
    タロスが首をすくめて声の方向に顔を向けると、アルフィンが戸口に現れた。タロス
    は、静かな朝もこれで終わりかと感づかれないように溜息を吐く。なにせ、彼女は血
    相を変えすっかり動揺してる様子だから。
    「ねぇ、タロス。ジョウ、見かけた?部屋にいないのよ!」
    早口で捲くし立てるアルフィンにタロスは戸惑う。こんな朝早くに何事だろう?
    「さっき、出かけたぜ」タロスはコーヒーを一口飲む。
    「そうそう、クライアントと会う約束の時間が早まったんだ」
    「出かけたのぉ!何でよ!」
    アルフィンの叫びに、タロスのカップを持つ手が滑る。
    「うおっと。危ねぇ・・・」辛うじて持ちこたえ、タロスはカップを置く。
    「何でって、その為に此処に来たんだぞ?」
    呆れてタロスはアルフィンを見る。だが、彼女の沈んだ顔に驚き目で訳を促す。アル
    フィンはゆっくりと移動し、タロスの横に座った。
    「昨日、ジョウってば、凄い熱あったのに」
    「は?」
    「お夜食持っていってあげたら、机のトコでダウンしてたの」
    「まあ、昨日の様子じゃな」
    タロスはボソリと言う。
    「うん。で、薬のませて休ませたんだけど」アルフィンは溜息を吐く。
    「傍に誰かいると落ち着かないって言うから、あたし部屋に戻ったの」
    「そりゃ、そうだわな」
    タロスはアルフィンを眺めて苦笑する。こんな娘に枕もとで付き添われたら、別の意
    味で苦しむ情況になる。さぞや、ジョウは焦った事だろう。しかし、アルフィンの表
    情を見てタロスの緩みかけた口元が引き締る。あまりにも切なそうな瞳に。
    「どうして、無理ばっかりするのかしら」アルフィンは淋しげに呟く。
    「---あたし、心配で眠れなかったのに」
    タロスは言葉に詰まり、人差し指で頬を掻く。そして、無言でカップを持って立ち上
    がるとキッチンに向かった。
    程なくして戻ってきたタロスの手には、二つのカップが握られている。その一つをア
    ルフィンの前に静かに置く。
    「---ありがと」
    アルフィンはカップを手に取る。薫り高いブラックコーヒーは彼女の気持を落ち着か
    せたようだ。それを見て取ったタロスは穏やかな笑みを浮かべる。いつもは我侭なお
    転婆娘で手におえないが、本当に良い娘だなと思う。外見の美しさもさる事ながら、
    ひたむきで一途な思い。時にそれが災いしてとてつもない嫉妬心を引き起こすが。
    「ま、これが終ったら本格的な休暇だ。ジョウだって分かってるさ。さっさと終らせ
    てゆっくりしたいんだろうぜ」
    「うん」
    アルフィンは頷くとコーヒーを飲干し腰を上げる。
    「朝食、用意するわ。リッキーはまだ起きないかしらね?」


    日が傾き始めたころ、タロス、リッキー、アルフィンの三人はリビングでお菓子をつ
    まみながらコーヒーを飲んでいた。
    ジョウはまだ帰らない。アルフィンは時折不安げな表情で外を見ていた。
    「心配ないよ、アルフィン」リッキーが見かねて声を掛ける。
    「兄貴はさー、仕事が絡んでれば絶対倒れたりしないって」
    「あほ。慰めになってねーよ」
    リッキーの隣に座るタロスが呆れた声で言う。
    しかし、アルフィンは彼らのやり取りが耳に入ってない様子で沈んだ表情を変えなか
    った。
    やがて、彼女の気を逸らさせようとリッキーがおしゃべりを始めた。タロスもそれに
    気付き彼の相手をする。アルフィンもいつもに比べて口数は少ないものの、二人の会
    話に加わった。
    そして、一時間も過ぎた頃。
    チャイムの音が。
    たまたま一番近くにいたリッキーがロックを解除する。
    「おかえりー、兄貴」リッキーはワザと元気な声でジョウを迎える。
    「あんまり帰ってこないんで心配してたんだぜー」
    言いながらもリッキーはジョウを観察する。入ってきた時はかなり疲れた様子に見え
    たが、リッキーを見た途端素早く表情を変えたのを見逃さない。アルフィンが心配す
    るのも判る気がした。
    「---アルフィン、多分怒ってるぜ。兄貴、具合が悪かったんだろ?」

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■533 / inTopicNo.10)  Re[9]: Feelings
□投稿者/ 夕海 碧 -(2003/10/13(Mon) 16:56:07)
    リッキーは囁くと、さっさとソファーに戻った。残されたジョウはバツの悪そうな顔
    で立ち尽くしていたが、肩を竦めると皆が座ってるソファーに近づく。
    「どうでした?」
    タロスが何気無い口調で問い掛ける。彼もジョウを一瞥して体調が悪そうなのを見て
    取ったが、あえて気付かぬ振りをした。
    「あぁ。交渉成立だ」ジョウは幾らかホッとした口調で答える。
    「ただ、少し調べなきゃいかんことがあるからな。ミーティングはそれからだ」
    「そうですかい」
    タロスが頷く。アルフィンは黙したままだ。ジョウはチラッと彼女に目を向けたが、
    結局何も言えずに視線を逸らす。
    「じゃ、そうゆうことだ。少し時間がかかるかもしれないから、先に飯は食っててく
    れ。俺は---」
    アルフィンがいきなりソファーから立ち上がった。ジョウは思わず口を閉ざす。後の
    二人にも怯えが走る。嵐の予感を受けて。強い視線を感じ、ジョウは諦めてアルフィ
    ンの方に向き直った。
    「!」
    そこに見たのは、今にも零れ落ちそうな涙を湛えた大きな瞳だった。ジョウはうろた
    える。ヒステリーを起こされるものと覚悟していたが、まさか泣かれるとは思いもよ
    らない。
    無言のまま、アルフィンの瞳から大粒の涙が頬を伝ってく。
    予想外の反応に、タロスとリッキーも黙って二人を交互に見ていた。
    沈黙が流れる。
    それを破ったのはリッキーだった。ソファーの肘置きに両手を組んで載せ、それに顎
    を載せてポツリと呟く。
    「あーあ、泣かしちゃった・・・」
    ジョウはリッキーを睨みつけたが、自分が悪い事を承知してるのでイマイチ迫力に欠
    けてしまう。ハッキリ言って分が悪い。ジョウは早々に退散する事にした。
    「---と、とにかくそんなところだ」ジョウはリッキーから視線を逸らし歩きだす。
    「それと。疲れたから・・・もう、寝る」
    弁解口調で付け足すジョウに、タロスとリッキーは笑いを堪える。
    そして、ジョウの後姿をそれぞれの思いを込めて見送った。


    コン・コン・・
    軽いノックの音と共にドアがスライドする。
    横になっていたジョウは、ゆっくりと身を起こしベッド脇の明かりをつけた。
    入ってきたのはアルフィンだった。彼女と一緒に暖かなスープの匂いも漂ってきた。
    アルフィンは静かにベッドに歩み寄り、手にしたトレーを昨夜と同じくサイドテーブ
    ルに置いた。彼女はジョウの食事を持ってきたのだ。それも、わざわざ少量でも栄養
    のあるスープを作って。
    ジョウは困惑した表情を浮かべたままボソリと言った。
    「あっと、サンキュ」
    彼の横顔をジッと見詰めてから、アルフィンはジョウと向き合うような形でベッドに
    腰かけた。
    「具合、どう?」
    「うん?あぁ・・・」
    曖昧に答えるジョウに、アルフィンは有無を言わせない口調で言った。
    「熱測るから、ちょっとじっとしてて」
    言うなりアルフィンは、トレーに手を延ばし体温計を取る。そして、ジョウの首の辺
    りに左手を添えて動きを止めると右の耳たぶに体温計を当てた。小さな電子音が鳴り、
    計測が終った事を告げる。アルフィンは数字に目を走らせた。
    そして、無言のままジョウの目の前に体温計を突きつける。
    三十九度。
    内心、ジョウ本人も驚く。少しヤバイとは思っていたが、気が張っていたせいかクラ
    イアントとの話し合いも支障無く済んだ。帰りのエアカーも、いつもよりは飛ばさな
    かったものの、何事も無く帰ってきたのだから。
    ジョウはチラッとアルフィンの顔を盗み見る。
    「---どうして、こんなに熱あるのに黙って行ったの?」
    アルフィンが非難するとゆうより、むしろ悲しげな口調で。ジョウは更にバツが悪く
    なり言い訳がましくなる。
    「だって、仕方ないだろう?仕事なんだから」
    「でも、こんな熱でエアカーなんて運転したら危ないじゃない」
    「だから、仕方ないだろ?クライアントと会うのは俺の役目だ」
    「---ジョウは、いつもそう」
    「うん?」
    アルフィンの呟きに戸惑うジョウ。彼女を見ると淋しげな顔で俯いていた。
    「いつも、そうよね。助けさせてもくれない」アルフィンは唇を噛む。
    「心配してるのに。ジョウは判ってない」
    アルフィンは顔を上げてジョウを見つめる。
    「エアカーの運転くらい、させてくれても良いでしょ?チームって、そうなの?リー
    ダーだけが全て背負うの?違うでしょ。あたしたち、運転くらい喜んでするわ」
    「---ごめん」

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■534 / inTopicNo.11)  Re[10]: Feelings
□投稿者/ 夕海 碧 -(2003/10/13(Mon) 16:57:29)
    ジョウは低い声でポツリと言った。アルフィンはジョウの瞳をジッと覗きこむ。
    「無理はしないで。お願い」
    「---あぁ」
    頷くジョウ。それ以上何も言わず、アルフィンは食事の乗ったトレーをジョウの膝の
    上に載せた。スープとパンとフルーツ。そして、マグカップほどの大きさの保冷ケー
    ス。
    「これ、アイスクリーム入ってるから」ケースを指差してアルフィンは言った。
    「じゃ、食べれるモノだけでもいいから食べてね。」
    言いながら彼女はベッドから腰を上げる。
    「また来るから。欲しいものとか、ない?」
    「---いや」
    アルフィンは部屋を出ようと歩きだす。それをジョウの声が引き止める。
    「---アルフィン」立ち止まる彼女にジョウは唐突に言った。
    「んーと、美味かった、パイ」
    「は?」
    キョトンとして振り返るアルフィン。
    「昨日、持ってきてくれたヤツ。朝、食ってったんだ」
    はにかみながら言うジョウに。アルフィンの顔に今日初めて笑みが浮かぶ。その微笑
    にジョウは照れ臭くなる。しかし、視線は合わせないが自分も微笑を浮かべ重ねて言
    った。
    「美味かった。サンキュ」
    「どういたしまして」
    アルフィンは小首を傾げて言うとくるっと向きをかえて部屋を後にした。テーブルの
    上に置かれたままのトレーに載った、カラの皿とカップを持って。
    数分後。
    アルフィンは戻ってきた。そして、ジョウの食事が終るのを待ち、昨夜と同じように
    かいがいしく世話を始めた。
    しかし、アルフィンが薬を取り出すとジョウは素早く手を伸ばし手中に収める。
    「あ。ちょっと」
    「ちゃんと、飲むよ」アルフィンが抗議の声を上げるとジョウは首を振る。
    「ほら、これで良いだろ?」
    ジョウは大袈裟な仕草で、薬を口に放り込む。アルフィンは呆れた表情で動きを止める。
    「ミジュ」
    「?」
    顔を顰めて言うジョウに、アルフィンは首を傾げる。すると、ジョウは更に眉間に皺
    を寄せ手を差し出す。
    「ミジュ、クデ」
    「は?---ミジュ?」アルフィンは戸惑う。が、吹き出すと彼の言葉を理解する。
    「あぁ、水ね。はいはい・・・」
    口内で薬が溶け出したらしい。ジョウは、アルフィンの差し出したコップの水を慌て
    て一気に飲む。
    「ふー、苦げぇ」
    呟くジョウにアルフィンは笑い転げる。一瞬、憮然としたジョウ。しかし、苦笑を浮
    かべ反論はせずに静かに横になった。
    「もう、寝るから」ジョウは毛布を引き上げながら小声で言った。
    「ごめんな。心配かけて」
    「---ん」アルフィンは優しく微笑む。
    「ゆっくり休むのよ」
    そして彼女は、昨夜と同じようにジョウの頬にそっと触れると部屋を出て行った。
    ジョウはアルフィンの姿を目で追っていたが、その姿が視界から消えるとゆっくりと
    眠りに落ちていった。


    ―――――重い。体が・・・動かない

    金縛りか?

    ―――――何かに押さえつけられてるみたいだ。

    これも熱の為か?単なる風邪ではなく。

    ジョウはいきなり目が覚めた。寝返りをしようとしても出来ない辛さに。押さえつけ
    られてるような重みは今も感じている。寝起きでぼんやりしていたが、ジョウは身体
    の自由が利かないまま視線を周囲に走らせた。間接照明のおかげで、物の形は判る。
    と、人の気配を感じた。それも、すぐ近くに。首は動かせたのでソチラを向くと。
    「!」
    アルフィンがいた。ベッド脇に、どこからか持ち出してきた椅子に座り両手を枕代わ
    りにして熟睡している。意図的なものか判らないが、アルフィンはその身体でジョウ
    の掛けている毛布を押さえ込み、彼の動きが適わないようにしていた。大方、夜中に
    どうしても心配になって様子を見にきてそのまま眠り込んでしまったのだろう。

    ―――――お、俺、どうすりゃ・・・いいんだ?

引用投稿 削除キー/
■535 / inTopicNo.12)  Re[11]: Feelings
□投稿者/ 夕海 碧 -(2003/10/13(Mon) 16:58:36)
    ジョウは困り果てる。寝返りが打てないのは辛い。しかし、動けば彼女を起こしてし
    まう。こちらを向いてる彼女の寝顔はあどけなく、起こしてしまうのは忍びない。か
    と言って、このままでは風邪を引かせてしまうかも。それに・・・

    ―――――タロス、頼む。来てくれ

    ジョウは、心の中で叫ぶ。必死だ。これでは、薬など飲んでも意味が無い。また熱が
    上がりそうだ。
    その念が通じたのか。
    静かにドアが開き、誰かが足音を忍ばせて入ってくる。ジョウはすぐに気配を察し、
    右腕をそっと毛布から引き抜くと出来るだけ高く上げて手招きした。
    やはり、やはり、近づいてきたのはタロスだった。彼はアルフィンに気付き、彼女と
    逆の側からジョウのベッドの傍に歩み寄る。
    「どうしたんです?」
    タロスはアルフィンを見ながら低く囁く。ジョウも小声で答える。
    「---寝返り打てなくて、目が覚めたらいたんだよ」
    すると、タロスの口元に笑みが浮かぶ。
    「心配で堪らなかったんでしょうな」タロスは声をひそめたが、からかう口調になる。
    「昨日も心配で寝れなかったって言ってましたぜ。あんたが、無茶するから」
    「うっ」
    ジョウは言葉に詰まる。
    「じゃ、このまま寝かせてやりなせい」タロスはニャッと笑う。
    「寒くないように何か掛けてやりますから、問題ありませんな」
    「なっ---」
    「う・・・ん」
    思わず声を上げかけたジョウだが、アルフィンが身じろぎするのを見て口を閉じた。
    暫しの沈黙。だが、アルフィンは再び眠りに落ち起きる様子は無かった。
    それを見たタロスが、彼女をジョウの寝返りの妨げにならないようにその身体を上手
    く移動させてやった。そして、腕の下にクッションを置いて寝やすいようにして、昨
    夜彼女が取り出してきたタオルケットを掛けてやった。
    「ゆっくり休んでくださいよ」タロスは笑いを堪えてる。
    「たまたま、俺が来たから良いようなものの---」
    「---おまえは、いつも来てくれてたろ?」
    ジョウの低い呟きがタロスの言葉を押さえる。タロスはハッとして真顔になった。
    「---知ってたんですかい?」
    「あぁ」ジョウは笑みを浮かべ、タロスに顔を向ける。
    「ガキの頃から、おまえは様子を見に来てくれてたよな。俺が寝た頃に。初めは気の
    せいだと思ってたが」
    「いやぁ」
    タロスは照れ臭そうに頭を掻く。ダンに甘やかすなと言われ、負けん気の強いジョウ
    も弱音を吐かなかった。だが、時折見せる淋しげな瞳にタロスは気付いていた。だか
    ら、気になって様子を見に行かずにはいられなかったのだ。
    「おまえ達、俺が知ってるの気付いてなかったろ?」
    「やっぱり、ガンビーノもですかい?」
    タロスは苦笑を浮かべる。タロスはガンビーノの隙をついていたつもりが、どうやら
    お互い同じ事をしていたらしい。ジョウにしても、二人に悟られないように寝た振り
    をしていたようだ。
    「おまえ達には、感謝してるよ」
    こんな時でないと言えない言葉。
    「やめてくだせぇ」
    タロスは不意に、初めて病気で臥せってるジョウの様子を見に行った時の事を思い出
    す。もう、本人は覚えていないだろうが。まだ、ジョウがアラミスにいた幼い日。

    ―――――ココにいて。
    高熱を出して独りで寝ていたジョウ。たまたま家に立ち寄ったタロス。何気無く部屋
    を覗き込んだタロスの手を掴んだ小さな手。その熱さと、心細そうな瞳。思わず頷く
    と。安心して眠る少年の傍でタロスは夜を明かした。

    ダンに頼まれ、ジョウと生活を共にするようになっても。タロスにはあの時の事を忘
    れられなかった。だから、何かあるとこっそり様子を見に行かずにはいられなかった。
    部屋にしんみりした空気が流れた。
    しかし、ドアが開くと共にそれは破られる。リッキーも気になったらしく、様子を見
    にやってきたようだ。
    「あれぇ?」一応声をひそめてリッキーが近づいて来る。
    「なんだよ。皆、いるんじゃん?」
    「う・・・ん・・・」
    再びアルフィンの口から、むずがるような声が漏れる。タロスが囁き声で叱咤する。
    「あほ。静かにしろ」
    「ちぇ」
    リッキーはふて腐れたらしい。だが、取りあえず黙ってジョウの傍まで来る。
    「どうだい、兄貴?」
    「あぁ。どうってことないさ」

引用投稿 削除キー/
■536 / inTopicNo.13)  Re[12]: Feelings
□投稿者/ 夕海 碧 -(2003/10/13(Mon) 17:01:44)
    ジョウはアルフィンの様子を見ながら身体を起こした。リッキーが何かを言おうとす
    るとタロスが首を振って止める。
    「そろそろ、行きますわ」そして、リッキーに向かって言った。
    「ほれ。おまえも行くぞ」
    「なんだよー。今来たばっかりだぜ」
    「ジョウは寝なきゃいけねぇんだぞ。邪魔してどうする」
    タロスはリッキーの首根っこを捕まえて引っ張った。仕方なく諦めるリッキー。彼ら
    が部屋を出ようとするのをジョウが慌てて引き止める。
    「ちょっと待て」小声でもその動揺が十分伝わる。
    「冗談抜きにアルフィンどうにかしてくれ」
    タロスとリッキーは顔を見合わせた。二人に意地の悪い笑みが浮かぶ。それを見たジ
    ョウの顔が引きつる。すると、リッキーがジョウに近づき耳に囁く。
    「へへへ・・・。なんなら、ベッドに入れてやれば良いじゃん?」
    「ばっ」
    ジョウは真っ赤になって睨みつけ、リッキーを掴もうと手を伸ばす。この明るさでは
    彼の紅潮した頬は実際には見えないが、態度ですっかりばれている。リッキーは笑い
    をかみ殺しながら、器用に足音を立てずにドアの所まで逃げた。
    「じゃ、これで」
    タロスも歩きだす。
    「お、おい・・・」
    うろたえるジョウを尻目に、タロスはさっさとドアに辿り着く。そして、彼らは部屋
    を出て行ってしまった。ジョウの必死に延ばしてた手が力無く下ろされる。
    「ったく。勘弁しろよ・・・」
    ジョウは小さく溜息を吐く。彼は、困リきってアルフィンを見下ろす。しかし、彼女
    は無防備な表情で穏やかに寝息を立てるだけ。
    ジョウの顔にふっと笑みが浮かぶ。
    ジョウはそっと手を伸ばし、僅かに寝乱れたブロンドを整えてやる。夢でも見ている
    のか、アルフィンは微笑む。
    そして。
    「ジョウ・・・」
    「ん?」
    起こしてしまったのか。急に呼ばれてジョウは驚く。だが、寝言のようだ。ジョウは
    苦笑する。
    「ジョウ・・・」アルフィンは瞳を閉じたまま身じろぎする。
    「ダメだからね・・・」
    後の言葉は聞えない。ジョウは優しく微笑むと、少しずれたクッションを寝やすいよ
    うに直してやった。
    そして、呟く。
    「了解、アルフィン。---仰せの通りに」

    ―――――とは言っても、俺は何を止められてるんだかわからねぇけどな。

    ジョウは、アルフィンを起こさないように気を付けながら再び横になった。
    ジョウはアルフィンの方に顔を向ける。
    夢の中でまで、自分の事を労わってくれる彼女。ジョウは薄暗い照明の中で彼女を見
    つめる。不思議だった。いつもは手におえない我侭姫で、振り回されてる事が多いけ
    れど。こんな風に、どうして自分を癒してくれるのだろう?

    ―――――母性ってやつなのか?それとも、アルフィンだからか?

    ジョウは考えたが、別に答えを出そうとは思わない。ただ、このまま彼女に傍にいて
    欲しい、それだけだ。そして、朝一番に彼女の顔を見れたら。いつか、そんな日々を
    迎えたい・・・
    そこまで考えて、ジョウはドキリとする。

    ―――――と、とにかく。明日は先に起きてくれ。

    ジョウはかっと顔が熱くなるのをおぼえた。焦って己の妄想を打ち消す。要するに、
    明日は彼女に起こしてもらうのもいいかって思ってるだけなのだ、自分は。一生懸命
    になって自分自身に言い訳してみる。

    ―――――ヤバイな。これじゃ、眠れん。

    ジョウは考えるのを止める事にする。ゆっくり深呼吸して早まる鼓動を静めようと努
    力しながら。そして、もう一度アルフィンに目をやりそっと呟く。

    「おやすみ。アルフィン」

    同じ夢を見ることは出来ないが。せめて、君の夢でも見れたらな。そんな思いが頭を
    過ぎり、ジョウは苦笑しながらも彼女を目に焼き付けてから瞳を閉じた。

    <FIN>

fin.
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