| ブルックリー商会。 いまやネットで行うのが当たり前と思われているオークション。 それを、古来よりの方式で執り行っている専門業者である。 ここ最近、この風変わりなオークション法に人気が高まり、ネットで裁くにはどうかと思われる古美術に絵画、手渡しでないと不安になる高価な貴金属、もしくは有価証券証書。そんなものがこの会社で取り扱う品々であった。 しかしすべてが一般人お断り。キャッシュと趣のある人間にのみ開催される、魅力的なオークション。
オークションは、ブルックリー商会の自社豪華宇宙客船内にて行われる為人員も厳選される。 入場を許された、たとえそれだけでもステータスシンボルとなる。それがこのオークション。 その入場をしめすもの、時代を感じ出させるが如く紙質を考慮に入れた特別な材質で作られたチケットである。 紙材というものはこの時代なかなか入手できにくいものとして珍種されている。 その紙の特性を生かし、また劣性を利点とさせ、あらたなる材質をつくりあげてしまったのが、もともとこのブルックリー商会であった。 この新材質が会社に莫大な利益をもたらし、創設者長年の夢であるオークションを開催するまでに成り上がった経緯があることも忘れてはならない。
人間はいつの時代も傲慢なもので、ここの会場に入るためのその特別なチケットを窃取する輩が増え、また物がものだけに警備を必要とすること請け合い。
そこでクラッシャーの出番となる。
ジョウチームはこの会社のお贔屓さんで、必ずやオークション開催時はお声が掛かるのである。 もともとは、彼らが開発した新物質を、テラのジュネーブに本拠地を置くとある商社へ持ち込み、商品として売り出すための第一歩を踏み出す際に、護衛を引き受けた事から付き合いがはじまった そのときはジョウは今より血気あふれる少年で、アルフィンはもちろん一国のプリンセスとして国事私事に忙しく、ガンビーノは現役。 リッキーですらまだいなかった。
全く新しい物質とはいえ、ガンビーノやタロスにしては郷愁を感じさせるような手触り。 そして強度はポリエチレンなみに強く、折り曲げても折り目がつかない。形状記憶とでもいえばいいのか。自在に折りたため、そして軽い。 紙は以外とまとまると重いものだが、これは通常の紙の1/5ほどの重さという画期的なものだ。
社運をかける一大プロジェクトとして決行されそして成功した物質は、その見本品ならびに製作過程を綴ったマイクロチップとともに珍重された。 そして更なる成功を導き出す為、この新素材を研究開発したブルドレン博士を保護し、途中企業抗争にも巻き込まれながらもテラまで運びきった事を、前任者のロアウド・ブルックリー氏は高く評価した。 以後なにかの際の取引で護衛や調査が必要な時、そして彼らの時間が合うときには必ず指名を試みてきた。 それはなかなか困難で、双方の時間が合うときがなかった事が現実ではあるが。
そしていまやオークションという、秘密業務の遂行よりやっかいな仕事を引き受けざるを得なくなっているのである。
この仕事はなんにせよ頭を悩ませる。 4人分割行動にて商品の搬入から、招待客の警備はもちろん行い、それに主は現在の当主であり開催者でもあるトーマス・ブルックリー氏の護衛という事も 忘れてはならない。 そうなると、商品についている保険会社のセキュリティーパイロットとの打ち合わせ。 こういう場に出席するからにはそれ相応の人物ばかり、よって、かれらのSPとの打ち合わせ、という雑務も発生する。
ブルックリー氏のSPとの打ち合わせにおいては前もってできるとしても、商品保険会社のセキュリティーパイロットとなるともう泣きたくなってくる。 搬入日当日でしかできかねるからだ。しかも搬入の多事の合間をぬって行わなければいけない。 招待客のSPとの打ち合わせ。これも前もってできるようでやはりできないのが現状。 ブルックリー商会の本部を置く惑星アレクに人々が集まり、社所有の豪華客船ベル・エピキュリアンに搭乗したときから。 それが、彼らの業務契約となるのである。
やはり搭乗日当日からしかできないのであった。
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