| 一本の映画。 ふるいふるいオールドムービー。 小さな頃から写真ですら立体映像でしか見たことがなかった。 だけどそれは未だ平面的な画像で、モノクロ。 一種安っぽいエアポートの管理官とのやりとりを思わせるような単調な色合い。 だけど大きく違うもの。それは。 その映画は、何世紀にも渡ってひとびとに愛され続けた。 ひとりの気品あふれる女性への不滅の敬愛によっていまなお語り継がれる たったひとつの恋の物語。
久しぶりの休日。 私たちのチームは、太陽惑星国家ルーシアの第2惑星。最近とみにリゾート惑星として名高く謳われるようになったシルベニアに滞在を決めた。 何度もニュースパックでお目にかかったことのある、その星の中でも新しくモデル都市として開発された海洋地区。 なぜかことに心惹かれていたリッキーは、迷うことなく宿泊先を決めた。 この海洋地区にある、中世の城を思い起こさせるが如くのメインタワーを持つホテル。広大な敷地に名だたるコーディネーターの手により設計された、ヴィラが点在する。 マンションタイプ、水辺のコテージタイプとそれこそゲストの好みに合わせリクエストをする事ができる贅沢さ。
実はハイスクールを終えたミミーが、友人との卒業旅行として滞在していた。 もちろんリッキーと示し合わせたからの行動なのだろうけれど、あのリッキーがミミーのためとはいえ、私たちにいかにこのホテルが如何に素晴らしいかを説いて回っていた姿は、可笑しいというよりも微笑ましくて。
「アルフィン?ねえどうしたんだい?」
以外と鋭いリッキーが私を覗き込んだ。 「ここってモデル都市になっているから、ホテル内のショッピングモールもアルフィンの好きな超高級ブランドからデザインがよくってリーズナブルっていうようなSOHOな店まで、この銀河系内で有名なブランドのが全て揃うといってもいいくらい、ありとあらゆるものが揃っているんだろ?」 「ええ。そうみたいね」 「なんで喰いつかなかったんだい?」 「なんでって・・・」 「俺ら達、間違いなく兄貴にはアルフィンから説得してくれるもんだって、勝手に合点しちまってたんだ。」 「・・・・」 「さっき、途中からは加勢してくれたけど、最初乗り気にはみえなかったんだよな。兄貴たちはそのホテルの雰囲気とか街の雰囲気とか、ちっとも気にしないし。その点アルフィンはベッドのスプリングまで気にするじゃないか」 「えっ・・・。はは。そうだった?」 力なく脱力した私はリッキーと目を合わせないようにして、データをまとめたリ、打ち込んだり、チェックしたりする作業に没頭しているフリをした。 「そうだよ。この前だって・・」 「あ〜はいはい。わかったわかった。それはおいといて。で?私へのご用件は?」 ・・・語尾はややぼやけたかもしれない。今更なんだけど。やっぱり照れるわ。 鋭いとはいえ、まだまだお子ちゃまなリッキーに、ややテレを隠しつつ、本題へ振って。 「うん。たまにはミミーも俺らたちと一緒に行動するのはいいんだよね?」 「あたりまえじゃない」 何をいまさらと、いう眼を向けると 「じゃあ。お、俺らも、ミミーの方と合流して遊びに行ってもかまわないってことだよね。」 「・・・」 何をいまさら・・・。あくまでも今回は休暇。時間つぶしではなくきちんとした休暇。 そりゃ、もちろん至急ですって言われたら仕事へ向けてすぐに動き出す私達だけど、休暇中基本的には個々自由。 「あ〜もう!!」 あくまでも何を言いたいかがピンとこない私にリッキーが地団駄をふんだ。
「!」 そっか。そういうわけね。 やるじゃあん。リッキー。 ニヤリと笑った私にリッキーは一気に赤面した。 「あ・あ・あのさ。べ・べつに変な意味とらないでくれよ。あ・あっちだって友達もボディガードも一緒なんだしっ!」 とわけもなく、一オクターブ高い声で言い訳をするリッキーに、くすくす笑いをこらえきれず、ますます顔を赤らめさせてしまった。 「そうよね。しばらく一緒にいても、いいんじゃない?今回はよっぽどでなきゃアラミスも何か言ってこないわよ。 ここのとこ、なにかとこっちにまわされることが多かったでしょ?ジョウもさすがに管理官にくってかかってたわ。」 「え?!またきたの?」 「うん。でも・・」 嫌な予感を感じたのか、なんとも情けない顔のリッキーは私の顔を覗いて次の言葉を待っていた。 「だいじょぶよ。断ってたもん。単なる打診だけだったし。」 と、にっこり返事をすると、心底ほっとしたようなため息をひとつついた。
「よかったぁ。また前のときみたいに全部約束反故にしたらなんていわれるか・」 「・・・あんたも言うようになったわね。」 「入国完了したらひとまず連絡入れることになってるんだ。向こうも色々予定があるからさ。会えるときに会うって話にはなってるんだけど・・。」 「でも同じホテルでしょ?」 「うん。でもあっちはあっちでマンションにいるし、それに友達と旅行ってことで、友達の都合もあるからさ。」 などと遠慮がちな発言を連発するリッキーに、 「2人で会おうとするから時間がとれないのよ。友達がいたってかまわないじゃない。ミミーがいいっていえば。」 「そっか。そうだよね。俺らもそうしようかと思っていたんだ。けど、女の子ってよくわかんないからさあ。」 などと、いっぱしの彼氏きどりで彼女についてのアドバイスをもらったかのように一人納得して私から視線をずらした。 最後のenterキーを押して、今日までの任務を終了して立ち上がった私と一緒に居住区へ向い、何かを思い出すようにぽりぽり頭を掻いたかと思うと 「あ。武器庫のチェック・・・」 と、はっとしたように弾かれて駆け出していった。
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