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■542 / inTopicNo.1)  Present for you
  
□投稿者/ 璃鈴 -(2003/10/26(Sun) 20:04:50)
    「どうしてこうなったのさ」
    リッキーはソファの影に隠れてタロスに声をかけた。
    「さあな。こうなったら暴風が吹き止むのを待つだけだ」
    ソファの影に入りきらないタロスは頭の上にクッションを置いている。
    本当なら仕事の後の休暇は、どんなにか待ち遠しいものだったのに。
    今はその休暇が恐怖でならない。
    誰が好き好んで暴風化した二人の面倒を見なければならないのだ。
    こんなことになるのなら、まだ仕事の方が幾分もましなのである。
    現在、ミネルバのリビングは凄まじい嵐の惨劇に見舞われていた。
    「モ、モウソノヘンデ喧嘩ハヤメマショウ。二人トモ」
    ドンゴが仲裁役をしているが、まったく役に立たない。
    逆に二人はエスカレートして怒りをまき散らしている。
    「もういいわ、謝らないのなら。タロス!」
    「へ、へい」
    ハリケーン並みの暴風域のアルフィンに名指しで呼ばれ、タロスは慌てて立ち上がる。
    頭の上のクッションが床に転がる。
    怒れる女神の表情はクラッシャー暦四十年のタロスでさえ背筋が凍った。
    「さ、タロス。こんな人ほっといてさっさとホテルに行きましょ」
    アルフィンは困惑気味のタロスの右手を強引に引っ張り、リビングから連れ出してゆく。
    「リッキー!」
    チームリーダーのジョウに呼ばれて、リッキーも慌ててソファの影から姿を見せる。
    怒りに震えるジョウの形相に、思わずリッキーも身が竦む。
    「俺達も降りるから、荷物の準備してこい!」
    「う、うん。分かったよ兄貴」
    何とか通れる床の間を飛び跳ねて、リビングを出て行く。
    「ドウスルンデスカ。ココ↓」
    ドンゴの声にジョウは思わず怒鳴った。
    「帰ってくるまでに片付けとけ!」
    「キャハ、私ガデスカ?」
    「チームリーダーの命令だ!」
    「ソンナ・・・横暴デス」
    「命令だ!」
    「ワ、ワカリマシタ」
    ジョウの怒りに恐れをなしたドンゴはランプをけたたましく点滅させて頷く。
    そんなドンゴを後に、ショウも惨劇のリビングを出た。
    「女って奴は、なんであんなことぐらいであそこまで怒れるんだ」
    ――― 本当ならアルフィンと二人で楽しい休暇になるはずだったのに
    女心が今一まだよく分からないジョウはぶつぶつと文句を言いながら、休暇の荷物を纏めるべく自室に向かった。

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■543 / inTopicNo.2)  Re[1]: Present for you
□投稿者/ 璃鈴 -(2003/10/26(Sun) 20:05:46)
    事の起こりは昨日、アルフィンが二カ月も前からジョウの誕生日プレゼントに秘密で準備していたテラ産のカシミア毛糸を使った手編みのセーターを間違って解いてしまったことから始まる。
    ジョウに気がつかれないように細心の注意を払い、仕事の合間を見てアルフィンは愛情を込めて一目、一目編んでいた。
    今度の休暇で迎えるジョウの誕生日に間に合わそうと、必死で頑張ってきたのに。
    それをジョウは前身、右腕、左腕と編んで後身も後少しという所まで来て、後身を解いてしまったのだ。
    確かに不可抗力と言えばそうなのかもしれないが、アルフィンにしてみれば青天の霹靂であった。
    その日、夜遅くまで次回の作戦プランを練っていたジョウは、温かい淹れたてのコーヒーを飲むべくキッチンに向かった。
    コーヒーメーカーに豆を入れようといつもの缶の蓋を開けると、中は既にからっぽだった。
    近くを手当たりしだい探すが、やはりキッチンの主でなくては分からない。
    諦めようかと思ったものの、やはり諦めきれずにアルフィンに尋ねることにした。
    部屋のドアを軽くノックする。
    返事がない。
    もう一度ノックをしたがやはり反応はない。
    ――― 何処に言ったんだ?
    仕方なくドアから離れようとした所へ、中から物音が聞こえドアに手をかけた。
    ロックがかかっていなかったのでそっとドアを開けると、アルフィンがサイドテーブルの明かりの下、ソファに持たれて眠っていた。
    手には木の棒と紺色の糸が絡み合った物を握っていた。
    「おい・・・アルフィン。そのままじゃ・・・風邪・・・引くぞ」
    身体が見える透けた薄桃色の悩殺的なネグリジェ姿のアルフィンに小声で呟く。
    なるべく見ないように軽く肩を揺する。
    「う、うん」
    余程疲れているのか一向に眼を覚ます気配がない。
    「アルフィン!」
    少し強く呼びかけると、夢うつつでアルフィンが呟く。
    「抱っこ・・・」
    「えっ・・・抱っこって」
    抱き上げて自分を運べとばかりに、気だるそうに左腕を上げた。
    「しょうがないな」
    ジョウはそう呟いて嬉しそうにアルフィンを抱き上げ、傍にあるベッドに横たえた。
    アルフィンの手に握る糸の絡み合った物をサイドテーブルに置き、ブランケットをかけてやると気持ちよく眠る恋人の頬に軽くキスをする。
    ――― コーヒーは諦めるか
    これ以上留まるとアルフィンを抱きたい欲望が止まらなくなるので早々に退散すべく、眠りの妨げにならぬようライトを消した。
    だが、それが間違いの元だった。
    最初の物音の時にアルフィンがひっくり返した毛糸玉が入った籠から飛び出た玉が、ジョウの足元に転がっているとは知らず、紺色で眼に入らなかった毛糸がジョウの右足に絡みついた。
    転びそうになり慌てて左足で体制を立て直す。
    「っつ、一体なんなんだあ」
    絡んだ毛糸を思い切り引っ張って外すと、アルフィンが転ばぬようソファの上に置いてジョウは部屋を後にした。

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■544 / inTopicNo.3)  Re[2]: Present for you
□投稿者/ 璃鈴 -(2003/10/26(Sun) 20:07:46)
    「キャーッ。なんで、なんでよぉ」
    アルフィンの絶叫が部屋中に響き渡る。
    朝、目覚めるとセーターを編んでいたはずの自分がベッドに寝ており、編みかけのセーターは編み棒が外れ、かなりの長さが解かれていた。
    「うそぉ。ここまで編んだのに」
    解かれた残骸を手に呆然とする。
    「あたし・・・昨日ソファで編んでる内に眠くなって・・・。あん、何で何にも覚えてないのよお」
    とそこへタイミングよくドアをノックする音がした。
    「アルフィン、起きている?コーヒー豆知らないかって兄貴が聞いてくれっていうものだから・・・」
    リッキーの声にアルフィンが居ても経っても居られずにドアに走り寄り思い切り開け放つ。
    「ねえ、あんた。昨日の晩あたしの部屋に来た?」
    怒りの形相に似合わない悩殺的なネグリジェ姿のアルフィンに、リッキーは思わずしどろもどろになる。
    「え・・・あ、き、来てない。おいら全然来てないよ」
    眼のやり場に困りつつもそこはお年頃の男の子、手で覆った指の隙間からしっかり見るものは見ている。
    それに気が付かない訳がない。
    アルフィンは、リッキーの頬を思いっきり叩いた。
    それも二往復以上のビンタの応酬で。
    「ほんとーに来てないのね!」
    叩いてしまった後のセリフではないが、今のアルフィンには逆らえない。
    リッキーは涙目で両頬を手で押さえて、コクコクを無言で頷いた。
    「分かった。着替えてすぐ行くってジョウに伝えて」
    そう言ってアルフィンは乱暴にドアを閉めた。
    真っ赤なクラッシュジャケットに着替えて、早々にリビングに顔を出す。
    そこにはジョウ・タロス・リッキーが顔を既に揃えていた。
    ジョウは昨日のプランデータの入力、タロスは雑誌を広げて寛いでいた。
    「一体、何があったんだ?」
    ジョウが両頬を冷やすリッキーに哀れな目線を送る。
    「あたしの体を見たのよ」
    不機嫌の絶頂にあるアルフィンは、低い声音で冷たく言い放つ。
    「えっ」思わずアルフィンの方を見た。
    「違うよお。アルフィンがネグリジェで出てきただけじゃん」
    「ネグリジェ・・・」
    ジョウの頭の中に昨夜の悩殺的ネグリジェが呼び起こされる。
    「見たのか?」
    今度はジョウが不快感を露にする。
    「お、おいらは服だけだよ。む、胸なんて見てない」
    涙目で訴えるも、恐怖の余りリッキーは余分な事まで口走ってしまう。
    「バカ・・・」
    タロスは広げた雑誌の内側で、小声で呟く。
    「やっぱり、見たんじゃない!」
    アルフィンの金切り声に、リッキーは蛇に睨まれた蛙のごとくソファの上で縮み上がった。
    「あ、わわ。ほんのちょっとだけだったらあ」
    「そうか、見たのか」
    しばらく俯いていたジョウが、リッキーの方に向き直る。
    こちらも不機嫌さ全開モードだ。
    「機関室の総動力チェックに行って来い」
    それだけ言って、ジョウは再びノートにデータを打ち込み始める。
    「そ、それは昨日終わったばっかりで・・・おいら一人で・・・」
    総動力チェックは一人ですると、まる半日はゆうに潰れる。
    リッキーも弱々しくも一応の抵抗を試みた。
    「行け」
    だが、抵抗も空しくジョウのその言葉に、リッキーは肩を震わせてリビングを出て行った。
    「ジョウ・・・いくら何でもあれはちょっと・・・」
    タロスがジョウに横から声をかける。
    「何ならお前も行くか、タロス」
    「いや・・・いいっす」
    ジョウの怒りの視線にタロスはそれ以上何も言わずに、雑誌に視線を戻した。
    ――― 惚れた女の身体を見られたぐれえでこの調子じゃ・・・他の男が掻っ攫った日にゃ
    タロスは大きく溜息をついた。
    女の嫉妬も男の焼きもちもどっちも払い下げだった。
    取り敢えず三人で朝食を済まし食後のコーヒーを頂いて一息ついた。
    タロスはやはりリッキーが気になるのか、動力室へ手伝いに出て行く。
    二人っきりになったところで、アルフィンがポツリと言葉を漏らした。
    「どうしよう・・・」
    「何がだ?」
    アルフィンの落胆にジョウは作業再開しようと開きかけたノートの蓋を閉めた。
    「んんっ。何でもない。今日は、当直午後からだったわね」
    そう言ってアルフィンはジョウに笑顔を見せて空のコーヒーカップを持ってソファから立ち上がった。
    そのままキッチンにカップを戻しリビングを出ようとした。
    「それまで自室にいるから、何かあったら声をかけて」
    「ああ、何かわからんが根詰めすぎるなよ」
    「ええ・・・分かって・・・。えっ?」
    ジョウの言葉に思わずアルフィンは立ち止まった。
    「それどういう事?」
    「ああ、昨日コーヒー豆の在り処を聞きに言ったんだが、アルフィン熟睡してたからベッドに寝かせて出てきたんだ。何かしているみたいに見えたんであんまり無理すると身体壊すからと思ったんだが」
    心配しているジョウの言葉に、今朝の惨劇の全てが符合する。
    「あれ解いたの、ジョウ?」
    振り向いたアルフィンの顔は特上の笑みだが、言葉は氷点下のごとく冷たい。
    「解いた?いや、サイドのライトを消して部屋を出ようとしたら何か足に絡み付いて転びそうになったから、思わず引っ張っちまったが・・・それが何か?」
    ジョウのために編んだプレゼントをジョウ自らが解いてしまう。
    「ジョウのバカ!だいっ嫌い!」
    そんな矛盾にアルフィンは居たたまれなくなって、リビングを駆けだしていった。
    「な、何だ?」
    突然のアルフィンの言葉にジョウは面食らってしまうが、結局訳が分からないのでそのままにしておいた。
    それからというものアルフィンがジョウをことごとく避け始めた。
    昼食・夕食は一緒に取らないのはもとより、話しかけてもそっけないだ。
    しばらくは仕事が捗ると喜んでいたものの、やはり一抹の寂しさを感じ今朝に至るという訳である。
    もうミネルバは宇宙港に停泊しており、後は下船するのみになっていた。
    リビングに集まった四人+1の間に、言い尽くせない緊張感が漂う。
    正確に言えば約一名の不機嫌波のせいなのだが。
    流石に休暇に入ってもこの調子を通されたんじゃ楽しい休暇がとんでもないことになると感じ、タロスとリッキーに目配せされてジョウの方から尋ねてみる。
    「アルフィン、そろそろ機嫌直してくれよ」
    「もう、いいの。今はそっとしておいて」
    押さえていた怒りが甦ったのか、冷静さを装うもののアルフィンのカップを持つ手が微かに震えている。
    「そうは言っても・・・」
    「ほっといてって言ってるでしょう」
    机を叩いてアルフィンは立ち上がった。
    金の髪が怒りにざわめき立っている。
    「ほっとけないから言ってるんだ。何が悪いかぐらい言ってくれてもいいじゃないか?」
    ジョウもここまで下手に出ているのに、言いたがらないアルフィンに次第に苛立ちを覚えた。
    「言えばジョウが元に戻してくれるってでも言うの?」
    アルフィンの対応は冷ややかだ。
    「いや、そういう訳では・・・」
    「何も出来ないのに、口だけなんて迷惑だわ」
    流石にその一言にジョウの方も切れた。
    「いい加減にしろ。理由もなく拗ねられたんじゃこっちの方がいい迷惑だ」
    「なんですってぇ」
    二人は立ち上がり、互いを睨みつけた。
    「ジョウがあたしの部屋に無断で入ってさえこなければ、あんなことにはならなかったのよ。それを迷惑ですって・・・」
    タロスとリッキーは危険を感じソファの後ろに避難する。
    ドンゴはキッチンの方に逃げ出す始末。
    テーブルの上の雑誌やコーヒーカップがジョウに向かって投げつけられる。
    「わっ、止めろ。あぶねえ」
    投げられる物を避けてはいるが、ジョウはじりじりと後退してゆく。
    リビングに破壊された破片が次々と散乱してゆく。
    「ちょっとぐらい謝ってくれてもいいじゃない!」
    「理由が分からないものをどう謝れってんだ」
    「さっきから言ってるでしょ。無断で部屋に入ったからって」
    「コーヒー豆さえあれば、部屋に行くこともなかったさ。それにノックだってしたんだぜ。部屋の鍵も開いてたし・・・」
    ――― ここまできたら引き下がれない。
    ジョウは言いかけた謝罪の言葉を頭からすっ飛ばした。
    アルフィンの方も金切り声で応戦する。
    リッキーがキッチンから見つめるドンゴに目配せした。
    仲裁しろと顔の前で手を合わせる。
    暫く首を横に振っていたが、仕方なくドンゴがキッチンから仲裁のため出てくる。
    キャタピラの動きがとてつもなく重い。
    それでも暴風域の中に徐々に突入してゆく。
    ――― で、最初の場面に戻るというわけだ。
    タロスは頭の中で回想しつつ、コーヒーを飲みながら大きく溜息をついた。
    最近溜息が多い・・・。それをつくづく感じる。
    タロスとアルフィンは取り敢えず宇宙港を後にし、エアカーを走らせ怒れる姫を連れて今回予約をしたホテルには行かずシティの中にあるカフェテリアに一先ず腰を落ち着けた。
    年中真夏の惑星オレロフは、海とマリンスポーツを売り物にしたふたご座宙域の太陽系国家ガーボネスの第二惑星だ。
    ちなみに第六惑星まであり、第五惑星ウォルグは冬のウィンタースポーツを売り物にしていた。
    夏の日差しが燦々と降り注ぐ通りからパラソル一つ中に入ったカフェテリアの一角で、アルフィンは怒りに涙を浮かべ、タロスに必死に訴え続ける。
    ――― まあ今回はアルフィンの言いたいのも分かるが、いかんせんあのジョウじゃなあ
    苦笑した表情が余り読み取れないタロスの風貌と何処から見ても金髪美少女のアルフィンにカフェテリアの周りの客から視線が集まる。
    「ああ、もう。暫くジョウの顔なんて見たくない。タロス、ショッピング付き合ってよね」
    「え、あっしが・・・」一瞬言葉を失う。
    「そうよ。他に誰がいるのよ」
    ニッコリと微笑を浮かべアルフィンはタロスの右手を握り締めた。
    「確かに・・・」
    タロスは少し冷えたコーヒーを喉の奥にゴクリと飲み干した。
    ホテルに連絡を取り荷物を取りに来てもらってから、二人はいや主人と下僕?はショッピングに出かけた。

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■545 / inTopicNo.4)  Re[3]: Present for you
□投稿者/ 璃鈴 -(2003/10/26(Sun) 20:08:20)
    「初めてよね、こういうの?」
    アルフィンが何時の間にかタロスの左腕に自分の右腕を絡ませてくっついてくる。
    流れる金の髪からはいい香りが漂う。
    悪い気分ではないもののジョウに見られたらと思うとタロスは冷や汗を流す。
    ショーウィンドーに映るそんな二人の姿を見てなおのことタロスは眼を潜めた。
    アルフィンは裾に少し白のレースをあしらった胸元が開いた薄い緑のフェミニンなブラウスに、濃紺のジーンズパンツ、ラメ入りのミュールを履いており、すらりと伸びた白い素足が通り過ぎる者達の目を釘付けにする。
    一方のタロスは着古したグレーのジャケットにスラックスという姿で別の意味で眼を引くことこの上なかった。
    ――― まるで親子だな
    クラッシャーにとってチームは家族だ。
    だから、アルフィンもタロスの家族であることには変わりない。
    しかし、本当は他人の男と女、その上タロスは独身だ。
    アルフィンのような美少女に纏わりつかれて悪い気はしない。
    「いつもはジョウ、ジョウって叫びまくってるしな」
    「んっ、もうタロスったら今はジョウのことは言わないで!」
    アルフィンが口を尖らす。
    「で、お姫さんは何処に行きたいんだ?」
    「せっかく海に着たんだから、新しい水着が欲しいのよ」
    「水着・・・ですか」
    ショーウィンドーの中は色取り取りの熱帯魚が泳ぐかの様に、ビキニやワンピースのカラフルな水着がディスプレイされている。
    タロスには一番縁遠いものの類だ。
    「ねぇ、あれどう?」
    アルフィンが指差す水着は、紐で括るタイプの真っ赤なマイクロビキニだった。
    布の部分が申し訳程度にマネキンの胸と足の付け根を隠している。
    「うっ」
    タロスは言葉に詰まる。
    似合うと言えばいいのか、それとも素直に刺激的過ぎると言えばいいのか、タロスが無言なことを他所にアルフィンは呟く。
    「やっぱり、着てみなくちゃわからないわね。行きましょタロス」
    「あ、あっしもはいるんですかい?」
    「当たり前でしょ」
    「はあ」
    女だらけの店内に二メートルを超す大男が金髪美少女に手を引かれて入って来たので、女達のざわめきが起こる。
    近くの店員にディスプレイの商品を持ってきてくれるよう頼み、アルフィンは早々にフィッティングルームに姿を消した。
    居たたまれないのは一人残された大男タロスである。
    フィッテッィングルームの脇にあるベンチに腰掛けて店内を見る。
    何処もかしこも若い女か、カップルで水着を探している。
    どうにも視線のやり場がない。
    この場を逃げようかとも思ったが、そうなると姫の機嫌が暴風域からMAXパワーを振り切って緊急避難モードに切り替わるのは眼に見えていた。
    「どう、似合ってる?」
    思ったより早く着替えを終えたアルフィンがフィッテッィングルームのカーテンを開けた。
    透き通る白い肌に赤い水着が艶やかに映える。
    周辺の客達もアルフィンの肢体に視線を集めた。
    賞賛と溜息が店内に充満する。
    何も答えないタロスに、アルフィンは近づき腰を屈めた。
    掻き揚げる金髪が流れるように美しい。
    寄せられた豊満な胸の谷間に思わず眼が釘付けになった。
    「どう、タロス。似合ってる?」
    愛くるしい笑顔でタロスに微笑むアルフィンに、タロスは無言で頷いた。
    「そう、よかった。一目ぼれだったのよねぇ。じゃあこれにしよっと」
    クルリと振り返りフィッテッィングルームに戻っていった。
    ――― これじゃあ、ジョウが敵わねえ訳だ
    顔色が余り表に出ないことを今ほど感謝したことはない。
    タロスは肩で大きく深呼吸した。

引用投稿 削除キー/
■546 / inTopicNo.5)  Re[4]: Present for you
□投稿者/ 璃鈴 -(2003/11/01(Sat) 14:00:12)
    先に出て行ったタロスとアルフィンとは別のエアカーでジョウとリッキーは宇宙港を後にした。
    彼らが出てからもうかなり時間を経過していた。
    オフィスビル群を抜けて湾岸沿いのハイウェイを暴走する。
    スポーツカータイプのエアカーは高速設定されてはいるものの既にその走りは常識を遥かに超えていた。
    陽が西の空に傾き始め、もうすぐ夕暮れを迎えようとしている。
    二人ともTシャツにジーンズ、ジョウの方は上に黒っぽい麻のジャケットを羽織っていたが、いたってラフな軽装だ。
    「あ、兄貴〜っ。も〜少しでいいからスピード落とそうよ?」
    リッキーの泣きが入った声がジョウの耳に届く。
    凄まじい勢いで後方に流れ去る景色に、横目で見たスピードメーターはレッドゾーンに達していた。
    行きかうエアカーの間をすり抜けて右に左に卓越したドライビングテクニックを駆使し、ただひたすら爆走してゆく。
    リッキーの言葉にジョウは答えなかった。
    オープンカーのシートを必死で掴みながら、リッキーは今日の命の保障を探していた。
    ――― 誰か止めてくれよお
    「兄貴〜っ」
    今にも泣きそうなリッキーの声に、ジョウはようやくスピードを緩めた。
    「意気地がねえな」
    ジョウは一瞥をくれてぼそっとリッキーに呟く。
    「なんとでも言ってくれ」
    ――― 暴風域っていつ解除されるんだあ
    リッキーはやっと惑星オレロフの海に視線をやることが出来てほっとした。
    本来なら宇宙港から一時間は有にかかるホテルにも、三十分もせずに到着したことからすればジョウの暴走ぶりがよく分かる。
    ホテルの玄関でリッキーはフラフラになりながらエアカーのトランクから二人分の荷物を降ろし始めた。
    足に少し震えが残る。情けない。我ながら苦笑せざるをえない。
    そんなリッキーの傍に、すぐさまルームボーイが荷物を持ちに駆けつけた。
    二人分の荷物をキャリーに載せるのを確認しているとジョウが大きな声でリッキーを呼んだ。
    ジョウは既にチェックインをし、フロントからこちらを睨みつけていた。
    まるで大型ハリケーンだなあ。リッキーは肩を竦めた。
    「行くぞ!」
    「待ってくれよ、兄貴」
    リッキーは縺れそうな足でジョウに駆け寄っていった。
    人で賑わう白を基調としたすっきりとしたデザインのメインタワーを抜け、ルームボーイがプライベートビーチに面した二階建てのコンドミニアムに案内した。
    建物一つに付き一組の客という贅沢さだが、それが逆に客の心を引き付ける。
    そこも白い壁が印象的な石組み造りの建物で、エントランスを抜けると広大なリビングとキッチンが眼に入った。
    窓の外には夕日を浴びて黄金色に輝くオレロフの海が眼下に広がっている。
    「ここからビーチに直接行けるんだよね」
    窓に駆け寄ったリッキーの言葉に、ルームボーイは丁寧な物腰で返答した。
    「はい。お客様の右手にございますデッキテラスの階段を下りられましたら、ビーチはすぐ目の前でございます」
    「すごいよ、ねえ兄貴?」
    不機嫌なジョウに努めて明るく振舞う。
    何も答えないままリビングに横たわるソファに寝転がったジョウを横目に、ルームボーイは「御用がありましたらいつでもお呼びくださいませ」とだけ言いそのまま部屋を後にした。
    「兄貴、これからどうする?」
    「寝る」
    「もったいないよ。まだ着いたばっかなんだぜ」
    「寝る」
    それだけ言って、ジョウはゴロンと横になってしまった。
    「兄貴〜っ」
    リッキーが再度呼びかける。
    ジョウからはまったく返事がない。
    「じゃ、おいらちょっと出かけてくるからね」
    ふて腐れたリッキーは、荷物をそのままにコンドミニアムを出た。
    いつもの軽口を叩く相棒もいないので、誘われるままふらりとメインタワーの中にあるショッピング街に足を運んだ。
    レストラン、ブティックと様々な店舗が軒を連ねている。
    いつもなら、かしましいほどに賑やかに過ぎ去って行く風景が、ゆっくりと眼の端を過ぎてゆく。
    一人でいることは楽しくない。
    本当に孤独な時は誰からも相手にされない時だとリッキー自身の体験からそう思う。
    リッキーは憮然として雑踏を歩いていた。
    ふと、数ある店舗の中で宝飾店のショーウィンドー越しに飾られているある物を見つけた。
    鮮やかなチェリーレッドがリッキーの眼に飛び込んでくる。
    最初はローデスに居るミミーのことが頭に浮かぶ。
    あの細く可愛らしい首にきっと似合うだろうなと一人ごちる。
    「あっ!」
    リッキーは思わぬ企みを思いついて、ほくそ笑んだ。
    宝飾店に入ると先程の物を包装してもらい、一応?持っていたカードで支払いを済ませ早々に店を出て来た。
    包みを見てまた笑い始めた。
    周囲の人間が通り過ぎながらいぶしかんでリッキーを見た。
    楽しい企みに笑みが止まらない。
    早々にメインタワーのロビーに戻り、隅のソファセットに腰掛け腕のレシーバーで急いでタロスを呼ぶ。
    「タロス、聞こえるかい?」
    小声で呼びかけると、すぐにタロスからも小声で応答が来た。
    「ああ、聞こえるぜ」
    「アルフィンは?」
    「ショッピングに夢中だから暫くはいいぜ。そっちはどうだ?」
    「兄貴は部屋でふて寝中」
    「さて、どうしたもんか」タロスはまた溜息を付いた。
    そんなタロスにリッキーが思わず笑った。
    嘲笑じみた声にタロスは思わず憮然とした。
    何故、俺がガキに笑われなくちゃならない。理由が分からない怒りが沸々と湧き上がってくる。
    「旦那、おいらにいい案があるんですけどいかがですか?」
    笑いを堪える様な声でリッキーが呼びかける。
    「いい案?お前が?」タロスの言葉が冷たい。
    「いいんですよ。このまま機嫌の悪いお二人の面倒を一緒に見ていただいても・・・」
    「な、なんてこといいやがんだ」
    思わず言葉が上擦った。それは避けたい。なんとしても避けねば。
    完全に主導権はリッキーだ。
    望まないまでも従わなければ、リッキーは何処かに逃げ出しこのままだと本当に二重暴風域はタロスを直撃する。
    八割方サイボーグのタロスとしても、ジョウやアルフィン達と戦う訳ではないのでひたすら通過を願うしかないのだ。
    休暇ぐらい休暇させろと心の中でぼやきを漏らした。
    「結構だ!話を聞いてやる。さっさと言いやがれ」
    「言いやがれ?」
    ぶん殴りたい衝動を堪えてタロスは奥歯を噛み締めてリッキーにお伺いを立てた。
    「・・・聞かせて下さいよ。リッキーの旦那」
    「よろしい・・・」
    そう言って話し始めたリッキーの話に耳を傾けていたタロスは思わずニンマリと笑った。
    「いいねえ。お前にしちゃ上出来だ」
    「だろ。んんっ、お前にしちゃ・・・?」
    「いや、流石リッキー様!考える事があっしらとは違うって褒めたんで」
    「ならいいんだけどね。で、後は何処に呼び出すかなんだけど」
    ――― 詰めが甘い!
    タロスは心の中で舌打ちした。
    どだいリッキーの考えることに穴がない訳がない。
    行き詰った二人にしばしの沈黙が流れた。
    ふと、タロスが何か見つけたらしく嬉しそうにリッキーを呼んだ。
    「いい所がある」
    「え、どこ?」
    「今、アルフィンといるショッピングモールを抜けた所に大きな噴水公園があるんだが、今日はそこで大きなウォーターショーがあるらしい。銀河標準時で三時間後にそこへ二人を呼び出すってのはどうだ?」
    「夜のイルミネーションに煌く水飛沫、その中で出会う恋人達・・・いいかも」
    「おいおい、お前が妄想入ってどうする」
    「ま、タロスにしてはいい案だぜ」
    「『しては』ってどういうこった。一言余計だチビ!」
    「うるさい。そっちの『チビ』こそ余計だい」
    「チビをチビって言って何が悪い・・・っと俺達まで喧嘩してても拉致があかねえ。おい、リッキー。ジョウを何とかして外に連れ出せ。待ち合わせの場所は今からデータを送る。ドジるなよ」
    「分かってらあ。ちゃんとデータ送ってくれよ。そっちこそ何せ老体なんだから、おいらの足引っ張るような真似はするなよな」
    「このお・・・」
    タロスが言い返す前にリッキーが一方的に通信を切った。
    大声で怒鳴り返そうとしたが、慌てて声を潜ませた。
    幸いアルフィンには気づかれてないらしい。
    複数の店員にあれこれと洋服を持たせては、次のコーナーに移ってゆく。
    ――― あれ全部買うのか?
    タロスの横には既に大きな箱が二つに紙袋が五つが所狭しと並んでいる。
    もうこれ以上はタロス一人で持ちきれる範囲ではない。
    ストレスをショッピングにぶつけているのか、アルフィンの機嫌は少しずつ回復しつつあった。
    タロスのストレスは逆に限界点に近づきつつあった。
    全ては、安全で幸せな休暇のためなのだ。
    その思いだけを胸にタロスはひたすら耐え続けるのであった。

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■547 / inTopicNo.6)  Re[5]: Present for you
□投稿者/ 璃鈴 -(2003/11/01(Sat) 14:01:04)
    「何か買ったの?」
    この店では気が済んだのかアルフィンが店員を従えてタロスの傍に戻って来た。
    大小様々な袋を複数の店員が抱えている。
    「いや」
    タロスは軽く首を振った。
    アルフィンのショッピングに付き合うだけで相当疲れているのに、自分の物を買おうという気力が沸いてくるはずがない。
    「さて、次は何処行こうかしら?」
    アルフィンの言葉に、タロスは慌てた。
    次?それは困る。これからの作戦のためには予定通り事を運ばなくては。
    「あ〜、これから食事に行くからそれはホテルに送ってもらえ。いいな」
    少々低い声音で、タロスが不機嫌そうに言い放つ。
    「えーっタロス持ってくれないの?」甘えるように、タロスを見る。
    そんな眼で見てもダメなものはダメだ。タロスは固く心に誓った。
    「持てねえ。絶対に持てねえ」
    「ケチ」アルフィンは軽く拗ねている。
    「ケチで結構。随分待たされたから腹が減ったんだ」
    「ん、もう分かったわよ。すみません、その袋とこの箱全部ホテルの方へ送っておいて下さい」
    どう足掻いてもタロスが動こうとしないことに諦めが付いたのか、アルフィンは店員に振り返った。
    特上の笑みのサービス付きで。
    「全て・・・でございますか?」
    女性店員達の少々困惑気味の表情が見える。
    「ええ、お願いね」笑顔の天使が降臨した。
    「分かりました」
    アルフィンの笑顔にあきらめたように店員達は荷物を抱え始めた。
    「あ、待って」
    荷物を持ち去ろうとする店員をアルフィンはふと呼び止めた。
    「そうよね。せっかく夕食に行くんだから、新しい服に着替えてくるわ」
    タロスは諦めて手を振った。
    「・・・ああ、好きにしな」
    アルフィンは着替えるために店員達と店の奥に消えて行った。
    「休暇・・・させてくれえ」
    タロスは悲しく一人ぼやいた。

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■548 / inTopicNo.7)  Re[6]: Present for you
□投稿者/ 璃鈴 -(2003/11/01(Sat) 14:02:13)
    「ねえ、ここでウォーターショーがあるの?」
    アルフィンが公園の入口で中を指差す。
    白のチャイナカラーのショートジャケットに鮮やかなストロベリーピンクのドレス。
    膝丈の裾が動く度に波打つように同布のフリル状の生地が踊る。
    夜の帳が辺りを支配し始めた臨海公園は、大きな噴水庭園を中心に周囲一キロ程の緑地公園だ。
    すぐ傍がヨットハーバーということもあり、夜は恋人達のデートスポットとして沢山の人々が集まってくる。
    特に今日は色取り取りの照明に照らされた噴水庭園でショーがあることもあり、人が溢れかえっていた。
    「先程のレストランでも言ってたが、結構綺麗らしいぜ」
    「そう、じゃもっと前へ行かなくっちゃ」
    アルフィンが手を引こうとタロスの腕に手を伸ばそうとした時、タロスのレシーバーからアラームが鳴った。
    「なあに?」
    「ああ、銀河標準時間じゃ十一月八日になったって合図さ」
    「十一月八日・・・」
    そう呟いて、アルフィンは黙った。
    愛しい男の十九回目の誕生日。
    こんなにもジョウのことが気になるのに何故自分は傍にいなかったのだろう。
    ふと気が付くと碧の瞳から涙が零れていた。
    「アルフィン・・・」
    タロスがアルフィンの顔を覗き込んだ。
    自分の頬に伝う透明な水にアルフィンは慌てて頬を拭った。
    「ごめん。急にびっくりしたわよね」
    何も言わず、アルフィンの頭を撫でてやる。
    「優しすぎるよ」
    「俺はいつでも女には優しい」
    「タロスったら」
    アルフィンは悲しげな微笑を見せた。
    タロスの軽口も今は胸に痛い。
    「おーい。タロス、アルフィーン」
    雑踏の向こうから、何処から現れたのかリッキーが手を振りながら走ってやってくる。
    「どうしたのよ。こんなとこで」
    「こっちこそだよ。あれ、兄貴見なかった?」
    息を切らせて走ってきたリッキーが二人に尋ねた。
    「いや・・・こっちには来てないぜ」
    「ジョウ・・・来てるの?」
    アルフィンは戸惑いの表情を浮かべリッキーを見た。
    「夕飯食べて帰ろうとしたら、何かこっちが賑やかそうだから来てみたんだけどなんか逸れたみたいで・・・」
    周囲を見回すリッキーに二人もつられて辺りを見渡した。
    ジョウらしき人物は見当たらない。
    「あたし、探しに行ってくる。あんたたちここで待ってて」
    「ちょーっとタンマ」
    駆け出そうとするアルフィンをリッキーが慌てて腕を引っ張って呼び止めた。
    ポケットから大事そうに取り出してアルフィンに包みを渡す。
    「何よ、あんた!急に引っ張ってあぶないじゃあ・・・」
    リッキーが宝飾店で購入したあの包みだ。
    「これって?」
    渡されたはいいがどうしていいか分からない。
    そのまま持っているとリッキーがアルフィンに軽くウィンクした。
    「いいから、いいから。日頃お世話になってるアルフィンにおいらとタロスからだよ」
    「リッキーとタロスから?本当に・・・いいの?」
    タロスを見上げてアルフィンは問う。
    「ああ、よかったら付けてやってくれ」
    タロスの笑顔にようやくアルフィンは頷いた。
    「開けてみてよ。おいらアルフィンに合うの必死に探したんだぜ」
    リッキーの言葉にアルフィンは恥らいながら微笑んだ。
    年下の男に言われてちょっと面映い。
    その手で丁寧に包装を開けてゆく。
    可愛らしい薄いピンクの箱を開けると、赤い布に小さなピンクダイヤがあしらわれたチョーカーが眼に飛び込んできた。
    「可愛い!」
    ベルベット調の赤い紐の中ほどに、既にリボンのように結んである部分がある。
    その結び目にダイヤが一つ埋め込まれていた。
    「それ、今着てる服に合うんじゃない?」
    リッキーの言葉にアルフィンはそのまま首に当てた。
    「どう?似合ってる?」
    小首を傾げて二人を見た。
    「似合う似合う。な、タロス」
    タロスは黙って頷いた。
    ――― リッキーの奴。あんまり大げさにするとバレるぞ、似合ってるのは確かだが。
    褒めすぎて、アルフィンに裏を勘繰られないかと冷や冷やする。
    「ありがとう二人とも。大事にする」
    嬉しそうに微笑んでアルフィンはそのまま箱に仕舞いかけたので、二人はギョッとして互いを見た。
    「ア、アルフィン。それ今付けてほしいなーっておいら思うんだけど」
    「今?二人からくれた大事なものだから、今度ゆっくりと・・・」
    「だめだよ。今、今してくれよ。お願いだから」
    アルフィンの言葉を遮ってリッキーは必死で懇願した。
    「変なリッキー?まあいいけど」
    流れる金の髪を掻き揚げて首に赤いチョーカーを巻く。
    優雅な所作だ。思わず視線を釘付けにされる。
    アルフィンの白い肌に映え、鮮やかに彩を添えた。
    「ありがとう、二人とも」
    御礼の言葉を掻き消すように、ワアッと歓声が上がり夜のイルミネーションに煌いて、水の乱舞が始まった。
    大きく立ち昇る噴水はビルの五階程の高さまで吹き上がる。
    「さて、うちのリーダーを探しますか」
    リッキーがパンを拍手を打った。
    アルフィンもジョウのことを思い出して真剣な顔に戻った。
    「あたし、あっちの方探す」
    リッキーが来た方とは逆の左側の方を指差す。
    「じゃ、おいらもう一度来た方を探してくる」
    「お願い!」
    そう言ってアルフィンは二人を後に早々に雑踏の中を駆けて行った。
    二人がニンマリと笑ったことも気づかずに。
    周囲の喧騒を他所に、アルフィンはひたすらジョウを探した。
    大勢のギャラリーは繰り広げられるウォーターショーに釘付けになって見つめている。
    煌く水飛沫、幻想的なショーが繰り広げられている。
    ――― ジョウに会いたい。
    その一身で雑踏を掻き分け必死になって辺りを見渡した。
    時間だけが刻々と過ぎてゆき、不安が募ってゆく。
    ショーは最終を向かえて今までで一番大きく水流が立ち昇った。
    何時の間にか、人を掻き分けアルフィンは最前列に出て来ていた。
    一段と大きな歓声と拍手の後、立ち昇っていた水流は意志を失って水面に落下した。
    誰かがショーの終わりを告げた。
    興奮冷めやらぬ会場は、ざわめきに溢れている。
    人々が噴水広場から去り始めた時、噴水の反対側にアルフィンが一番求める者の姿を見た。
    アルフィンの視線の先にこちらを見つけたのか驚いた表情のジョウがいた。
    身体が求めるように既にジョウに向かって駆け出していた。
    もう、ジョウしか見えない。
    「ジョウ!」
    華奢な少女の身体が愛しい男の胸に飛び込んだ。
    後悔と謝罪の念で心が痛い。
    「ごめんなさい・・・ジョウ」
    顔を上げた碧の瞳にうっすらと涙が滲む。
    「一体、何があったんだ?」
    困惑気味のジョウにアルフィンはただ胸に顔を埋めた。
    溜息を一つついて、ジョウは安心させるようにアルフィンの身体を抱きしめた。
    互いの温もりがそれぞれの心に染み込んでゆく。
    「なあ、リッキー見なかったか?」
    暫くして呟いたジョウの問いにアルフィンは顔を上げた。
    「ここで待ってろって行ってから、あいつ全然帰ってこねえ」
    「リッキーなら・・・」
    そう言い掛けてアルフィンは慌てて言葉を止めた。
    タロスとリッキーが自分達を仲直りさせるために仕組んだことと気が付いてジョウの胸でクスリと笑った。
    「大好きよ。ジョウ」ジョウの身体に腕を回す。
    「なんだ?突然に」
    「だーい好き」
    「知ってる」ジョウもアルフィンの背中に腕を回した。
    「本当に?」
    「本当さ!」
    ギュッとジョウの身体を抱きしめる。
    「お誕生日おめでとう。ジョウ」一番最初にジョウに言えた。それが嬉しい。
    「・・・ああ、誕生日。そうだったな」忘れていたのか、ジョウはそっけなく答えた。
    「プレゼントまだ出来てないの」
    「出来たらくれればいい」
    「本当は今日渡したかったのよ」少し拗ねてみる。それぐらい許されるはず。
    「アルフィンが傍にいてくれれば何もいらないさ」
    自分で言った言葉に照れて、ジョウはほんの少し顔を赤くした。
    そんなジョウを見てアルフィンがとびきりの笑顔で微笑んだ。
    「そうね。ジョウの傍にいられたらあたしは幸せよ」
    少し背伸びをしてアルフィンはジョウの頬に軽くキスをした。

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■549 / inTopicNo.8)  Re[7]: Present for you
□投稿者/ 璃鈴 -(2003/11/01(Sat) 14:03:41)
    「やっとですぜ旦那」
    「これでやっと安眠できる休暇が迎えられるな」
    立ち並ぶ樹木の影でそんな二人の様子を見ていたタロスとリッキーは互いの手をハイタッチした。
    もちろん、タロスがかなり背を丸めてだが。
    「さて、俺達の用意したプレゼントのヒントでも言ってくるか」
    タロスは大きく伸びをした。
    やっと暴風から解放される。それに勝る喜びは今はない。それが一番だ。安心な休暇・・・、いい響きだ。
    「兄貴、鈍いからなあ」
    ――― ガキがませたこと言いやがる
    「後はジョウの努力しだいだな」
    タロスがリッキーの頭をポンと叩いた。
    二人は影から出て、ジョウ達のもとに近づいてゆく。
    「お二人さん♪仲直りは済んだのかい?」
    リッキーが先に走り寄り二人に話しかける。
    「リッキー!何処にいたんだ」
    「そうよ。二人でどこ隠れてたのよ」
    二人はタロスとリッキーを見つけて互いの身体から慌てて腕を離した。
    「ま、いいじゃない。そんな些細なことは」
    「些細って・・・」ジョウはあきれ返る。待ちぼうけが些細なこととは思えないのだが。
    「おいらの事なんて兄貴の次だろアルフィン?」
    「リッキー!」
    顔を赤くしてアルフィンが逃げるリッキーを追いかけ始めた。
    その姿にジョウとタロスが声を立てて笑った。
    やっといつものチームらしくなった。
    ジョウは心からそう思った。
    「ジョウ」
    ふと笑いを止めてタロスがジョウの耳に二言、三言囁いた。
    「えっ?」
    ジョウは改めて聞きなおそうとしたが、タロスはそのままジョウの傍を離れた。
    そのままアルフィンに追い掛け回されるリッキーを捕まえると軽がると肩に担ぐ。
    まるでおもちゃのように。
    「じゃ、あっしらはこれで」
    「兄貴〜遅くなったけど誕生日おめでとう!」
    タロスとリッキーはほくそえむような笑みを二人に向けたまま、広場から去っていった。
    「お、おい。お前ら何処行くんだって聞いてないか」
    「何か一気に疲れちゃった」
    ジョウの傍に戻って来たアルフィンが肩を竦めて微笑んだ。
    二人は興奮冷めやらぬ噴水広場を後にして、徒歩で近くの海岸沿いにある洒落たカクテルバーに入った。
    薄明かりの照明と窓の外の夜景だけが二人を照らす。
    窓に沿って備え付けられた長いカウンターに並んで座り夜景を見た。
    街のイルミネーションが夜の海に煌く。
    「なに悩んでるのよ?」
    アルフィンがジョウの逞しい左腕に腕をそっと回した。
    「ちょっとな・・・」
    ジョウはアルフィンの方を見ずに答える。
    タロスから投げかけられた言葉の意味が分からない。
    それが悔しい。
    それに怪しい。
    相手にして貰えないアルフィンは少し憮然としてしまう。
    だが、今のジョウはタロスの残した言葉の謎の方が今は気になる。
    去り際の二人のほくそえむような笑みがジョウの頭の中から離れない。
    考えれば考えるほど、頭の中が混乱してくる。
    一息入れようと呑みかけのカクテルに手をやると、ふとアルフィンの首に赤い紐らしきものを見つけて、それを繁々と見つめた。
    「アルフィン・・・その首に巻いているものはなんだ?」
    「ああ、これ。綺麗でしょ。最近流行のチョーカーなの。せっかくだから付けて見たのよ、どう?」
    そう言って、襟元に隠れていた結び目を出してジョウに見せる。
    「でも、タロスとリッキーが絶対これをしてって言ったのよね。何故かしら?」
    予め布が結ばれたデザインの赤いチョーカーに、タロスが言った言葉が突然頭の中にフィードバックしてきた。
    『あっしらからのプレゼントには、ジョウが分かるように赤いリボンがついてますから』
    「あっ」
    ジョウは慌てて口元を手で押さえた。
    吹き出しそうになるのを必死で堪える。
    ――― やってくれるぜ。
    「ジョウったら変よ?さっきから一人でずっと悩んでいたと思ったら、急に笑い始めるんだもの。何かリッキーと変な物でも食べたの?」
    訳が分からないアルフィンはジョウを見つめキョトンとしていた。
    「いや、これからおいしく頂くのさ♪」
    そう言って、アルフィンに極上の笑みを浮かべ微笑んだ。
    ジョウのその微笑に、アルフィンは一瞬で頬を紅くした。
    見つめるジョウの眼が情熱的で、思わず恥ずかしくなり俯いてしまう。
    そんなアルフィンを見つめながら、ジョウは笑みが止まらなかった。
    これからどうやって二人からのプレゼントを受け取ろうか、考えるだけでも楽しくなる。
    ――― 誕生日が終わるまで、あと二十一時間。
    腕時計を見ながら、ジョウは傍らのアルフィンの肩をそっと引き寄せた。

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■550 / inTopicNo.9)  Re[8]: Present for you
□投稿者/ 璃鈴 -(2003/11/01(Sat) 14:18:00)
    あとがき

    今回も最後まで読んで頂きありがとうございます。
    ちょっと早めのJ氏誕生日祝いのSSです。
    そのわりにはJ氏はあまり出てきません。(J氏ファンの皆様御免なさい)
    J氏の最後のセリフとA嬢を赤いリボンでJ氏にプレゼントしたい。(笑)
    ただそれだけのために書いたSSです。
    けれど、収拾付きそうになかったこのSSをまとめてくれたのは他ならぬT氏とR君です。ほんとにありがとうです。この二人がいなかったら、このSSは終わりを迎えてはいませんでした。
    無事『済』マークを入れられて幸せです。
    今度は、裏物を書いたら、表にはラブコメを書くつもりです。よかったらまた読んで下さいませ。
    2003.11.01 璃鈴
fin.
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