| 「どうしてこうなったのさ」 リッキーはソファの影に隠れてタロスに声をかけた。 「さあな。こうなったら暴風が吹き止むのを待つだけだ」 ソファの影に入りきらないタロスは頭の上にクッションを置いている。 本当なら仕事の後の休暇は、どんなにか待ち遠しいものだったのに。 今はその休暇が恐怖でならない。 誰が好き好んで暴風化した二人の面倒を見なければならないのだ。 こんなことになるのなら、まだ仕事の方が幾分もましなのである。 現在、ミネルバのリビングは凄まじい嵐の惨劇に見舞われていた。 「モ、モウソノヘンデ喧嘩ハヤメマショウ。二人トモ」 ドンゴが仲裁役をしているが、まったく役に立たない。 逆に二人はエスカレートして怒りをまき散らしている。 「もういいわ、謝らないのなら。タロス!」 「へ、へい」 ハリケーン並みの暴風域のアルフィンに名指しで呼ばれ、タロスは慌てて立ち上がる。 頭の上のクッションが床に転がる。 怒れる女神の表情はクラッシャー暦四十年のタロスでさえ背筋が凍った。 「さ、タロス。こんな人ほっといてさっさとホテルに行きましょ」 アルフィンは困惑気味のタロスの右手を強引に引っ張り、リビングから連れ出してゆく。 「リッキー!」 チームリーダーのジョウに呼ばれて、リッキーも慌ててソファの影から姿を見せる。 怒りに震えるジョウの形相に、思わずリッキーも身が竦む。 「俺達も降りるから、荷物の準備してこい!」 「う、うん。分かったよ兄貴」 何とか通れる床の間を飛び跳ねて、リビングを出て行く。 「ドウスルンデスカ。ココ↓」 ドンゴの声にジョウは思わず怒鳴った。 「帰ってくるまでに片付けとけ!」 「キャハ、私ガデスカ?」 「チームリーダーの命令だ!」 「ソンナ・・・横暴デス」 「命令だ!」 「ワ、ワカリマシタ」 ジョウの怒りに恐れをなしたドンゴはランプをけたたましく点滅させて頷く。 そんなドンゴを後に、ショウも惨劇のリビングを出た。 「女って奴は、なんであんなことぐらいであそこまで怒れるんだ」 ――― 本当ならアルフィンと二人で楽しい休暇になるはずだったのに 女心が今一まだよく分からないジョウはぶつぶつと文句を言いながら、休暇の荷物を纏めるべく自室に向かった。
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