| 「なによっ!うっさいわねっ!ジョウは絶対に渡さないんだからっ!!!」 アルフィンの怒りは収まらない。なにせ、自分の経歴にケチを付けられ、クラッシャー半人前と言われ、あまつさえ、そんなチンケなチームを棄てて、自分とチームを組めだ事の、ムチャクチャを言われたからだ。(半人前と言うのは本当の事なのだが、ルーには言われたくない。) 3時間に渡る口論。いい加減にしてくれと言わんばかりに 「タロスっ!回線、切っちまえっ!!!」 痺れを切らしたジョウが叫ぶ。 『あ〜ら、逃げるのね?』 フフッンと、ルーに鼻で笑われたアルフィンは更にヒートアップする。 「あんですってぇ〜!?」 ・・・火に油だ。勘弁してくれ〜。 <ミネルバ>の3人のクラッシャーは思った。しかしこれは、<ナイトクイーン>の2人のクラッシャーも思っている事であろう。 そこでジョウは腹を決めた。 キャンキャン言い合いをしているアルフィンの背後に行き、アルフィンの耳元に何か囁いたのである。 「・・・・・・・・」 ピタっと、アルフィンのマシンガン毒舌が止む。 いくら罵っても、アルフィンが反撃してこない。スクリーンの向こうのルーも、相手をしてもらえなければ(?)間が持たない。なんなのよっ!どうしたのよっ!?と問いかけても、固まっているアルフィンには糠に釘。 ジョウは、その状況を見て叫ぶ。 「タロスッ!今だっ!回線、切っちまえっ!」 「へ、へいっ!」 何が起こったのかはさっぱりだが、とにかくこの罵り合いに終止符が打てる。 考えるより先に、タロスの手は通信回線をOFFにしていた。 「ひゃぁ〜っ。助かった・・・。」 リッキーがほっとしたようにボソリ呟いた。 暫く、沈黙の時間が過ぎ。(実際には1〜2分) 痺れを切らしたリッキーが。 「でも、兄貴。何のまじない唱えたんだい?」 どんな魔法の言葉を唱えたのか。不思議で堪らない。 「お〜。あっしも知りたいですな。」 興味深々でタロスとリッキーが聞く。なにせ、3時間も続いていた罵りあいをたかだか5分と掛からず収めてしまったのだから。 「な、なんでも無いっ!」 心なしか、顔が赤いジョウ。 「えぇ〜!?ンなの無いよーっ!“アルフィン封じ”に、教えといてくれよ〜っ!」 何時もであれば、ここでアルフィンの鉄拳が飛んでくるハズなのだが、一向に気配がない。 「・・・教えられっかよ。」 ボソリと呟くジョウ。 「きゃはははは。私ニハ聞コエマシタ〜♪」 言わなきゃ良いのに、正直者のドンゴは黙っていられない。(笑) 「え?ドンゴっ!教えてくれよ〜♪」 すりすりとドンゴに近付くリッキー。 「ドンゴ。俺にも教えてくれ。」 タロスまでがドンゴに近寄る。2人の顔はニヤついている。 「あ゛―っ!ドンゴッ!チームリーダー命令っ!今の俺の言ったこと全部消去っ!俺以外に内容の掲示拒否っ!!!」 やばいと思ったジョウの苦肉の策。 ドンゴにとって、チームリーダーであるジョウの命令は絶対である。他の3人の命令よりも、それは最優先される。 「了解。消去シマス。以後、内容ノめもりーガ残ッテイタ場合、じょうニノミ開示シマス。」 即座に反応するドンゴ。 「あ゛―っ!ずっりーや。職権乱用だぜ、兄貴っ!」 よっぽど知られたくない内容なのか、ここまでジョウがするのは珍しい。 タロスは内容がなんなのか、少し見当が付いた。 「まー、しょうがねぇやな。諦めな、リッキー。」 「え゛〜!?ンなの、アリかよぉ〜。タロス、諦めが早いっ!」 心底残念そうに、未練タラタラに食い下がるリッキー。 「お前は知らなくて良いんだよっ!」 「あんだよ、分ったのかよ、タロスっ!?おいらにも教えろよっ!」 「いんにゃ。分んねぇ。」 リッキーと何時も通りの言い合いを始めたタロスは、ジョウに目配せをする。 “ジョウ、アルフィン連れてブリッジ出なせぇ。” ジョウも気付いたのか、 “すまない、タロス。” と、これも目配せでタロスに伝え、固まったままのアルフィンを連れてブリッジを出た。
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ジョウは最初、リビングにでも行こうかと思っていたが、そこでは直にリッキーに見つかってしまう。 そこで、アルフィンの部屋へ行くことにした。アルフィンを部屋に押し込んだら、自分の部屋に戻れば良い。 アルフィンの部屋に着き、入る。アルフィンをベットに座らせ、自分は出ようとした瞬間。 「ねぇ、本当?」 頬を赤らめ、固まっていたアルフィンが、おずおずと口を開く。 「“ルーの事なんかほっとけ。俺はアルフィンだけだ。”って。信じて良いの?」 更に真っ赤になるアルフィン。つられてジョウも赤くなる。 「そ、それはっ!」 しどろもどろ。あの時は、何とかしなくちゃヤバイ。そういう思いが先にたち、本音がポロっと出てしまった。通常、とてもではないが口に出来ない本音が。 「やっぱり、あの喧嘩を止めるためのウソ?」 その言葉の後、アルフィンは激昂するかと思った。しかし。 「・・・私、ジョウの足手まといになってるよね。その火傷だって・・・。やっぱ、ルーと比べたら半人前だね。」 泣きそうに笑うアルフィン。なんのかんのと言いつつも、自分の不甲斐無さに自己嫌悪しているのであろう。 そんなアルフィンをジョウは、堪らなく愛しいと感じた。 「確かに、まだまだだ。」 ジョウは正直に言う。 「やっぱり・・・ね。」 うな垂れるアルフィン。 「でも、それはしょうがない。アルフィンはクラッシャーに成り立てと言ってもおかしくない。経験も、ルーに比べればかなりの差だ。それにルーは、俺と同じ生粋のクラッシャーだ。比べるほうがおかしい。」 「・・・」 何も言わないアルフィン。小刻みに肩が震えている。涙が落ちそうになるのを歯を食いしばって耐えているのだ。悔しい。堪らなく悔しい。確かにルーとのクラッシャー暦の差ある。それの差は、大きい。それは分っている。でも、負けたくない。1人前のクラッシャーとして、認められたい。アルフィンの胸の内は、その思いで一杯だ。ジョウは、そのアルフィンの思いを知ってか知らずか。 「でもな。1年経つか経たないかでここまで来てるのは、正直凄いと俺は思ってる。俺も鍛えた甲斐があるってもんだし。」 ジョウは、アルフィンに向き直る。 「・・・」 アルフィンは何も言わない。いや、言えない。 「正直、ピザンから追って来られた時、すぐ根を上げて帰ると思ってた。お姫様のお遊びなんぞに俺は付き合うつもりもなく、とっとと追い返すつもりだった。でも、そうじゃなかった。」 ジョウは屈み込み、両手をアルフィンの肩に置いた。 「俺と居たいが為に全てを棄ててクラッシャーになり、慣れない仕事に必至について来て、任務をこなそうとする。そんな中でも、何時も俺だけの事を考えてくれてる。ちょっと困る事もあるがな。・・・後悔してないか?疲れないか?」 ジョウの言葉に、はっと表を上げるアルフィン。 「そんな・・・そんな事無いっ!」 断言するアルフィン。堪えていた涙が、堰を切り、溢れる。 「俺は、何時もアルフィンを泣かせてる。」 ジョウは、そっとアルフィンの涙を拭う。 「私、幸せよ?。」 ジョウの手に頬擦りするアルフィン。 「何時も危険な目に合わせてる。」 アルフィンの頬を両手で包み込む。 「自分から望んだ事よ。」 ジョウの手に、アルフィンは自分の手を置く。 「こんな俺でも良いのか?」 真っ直ぐアルフィンの碧眼を見るジョウ。 「ジョウじゃないと、嫌。」 アルフィンも、そんなジョウのアンバーの瞳を見返す。 「俺もアルフィンじゃないと、嫌だ。」 クスリと二人揃って笑う。こんなにお互いが素直になったのは初めてだ。 「あぁ。アルフィンは笑った方が良い。」 たまに、ほんのたまにしか見せない、アルフィンだけに見せるジョウの笑顔。 この時のジョウは、堪らなく優しい。 「ジョウ。」 涙が止まらないアルフィン。 「泣くなよ。」 そう言って、ジョウはアルフィンを抱き寄せる。 「ジョウ、ジョウ。」 アルフィンは、ジョウの名を呼びながら泣きじゃくる。 ジョウは、そんなアルフィンの背中を優しく擦ったり、今回のミッションで少し痛んだ金髪を撫でる。愛しいという想いが溢れる。 「アルフィンは誰にも渡さない。アルフィンは俺んだ。」 自然に言葉が出る。 ジョウの言葉に、ハッとするアルフィン。今まで一度として言ってくれなかった言葉。 「・・・嫌か?」 少し不安そうに聞くジョウ。 「嫌じゃないっ!嫌なわけないっ!ジョウ、大好きっ!!!」 アルフィンはそう言って、ジョウの胸に顔を埋める。 「知ってる。」 ジョウはクスリと笑うと、アルフィンの頬に両手を添え、上に向かせる。 親指で涙を拭う。 キラキラと涙を湛えた碧眼の瞳が、ジョウを見上げる。 “最初からこの瞳に、想いに捕らわれていた。” ジョウは、今まで誤魔化していた自分の気持ちを認めた。 「アルフィン。好きだ。」 不思議なくらい、気持ちが言葉となって出てくる。 「私も。」 アルフィンの瞳からは、止めどなく涙が零れ落ちている。 「知ってる。」 2人はクスリと笑い、見詰め合う。 そして、アルフィンの唇に吸い込まれるように、自身の唇を重ね、想った。
ずっと・・・。ずっと捕らわれていたい。そして、捕らえていたい。
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