| お誕生日おめでとう!!!
ミネルバに奇声といっていいほどの大声と音楽が響いた。 「うわ〜っっ」 「音消せ!!」 「ななななんだ!?!?」 同時に3人の叫び声が響く。
その日のために、あれやこれやと画策していた計画は宙に消え、ご機嫌もそぞろな紅一点のアルフィンを除いて。
残念ながら、今回は任務中に迎えた11月8日。 そう我らがチームリーダー、ジョウの誕生日。 待っていたかのように、標準時間午前0時。 先だってともに任務を遂行した、同僚からのメッセージが届いた。 開封は自動開封。
メッセージを受け取った事を意味するシグナルに送付先を確認すると、それはデリバリーメール。 サプライズと銘うたれた昔で言うところの電信書面。 腑に落ちないながらも、宛名がJOEと書かれていた。 安全を意味する封印もあることから、開封日時もなにも書かれていなかったメールはそのまま受信箱で忘れ去られていた。
突如大音響が轟いたかと思えば、耳が慣れてそれが古来よりのバースデイソングとわかったころ。
「お誕生日おめでとう!!」
単調な作業にそろそろ眠気も襲ってきていた時刻だっただけに、一気に目が覚めたリッキーがいち早く状況に気がついた。
「あっ!そっかあ!ごめん。兄貴。」 「あ?」 MAXで響き渡っていた音楽と、ごちゃごちゃお誕生日祝いを述べ連ねているかの同僚の言葉を背にしながら、ジョウがこちらを振り向いた。 「すっかり忘れてた。ってわけじゃないけど、ついつい。仕事にかまけちゃってさ〜」 「おめえのタコあたまじゃ2つの事はいっぺんにはおぼえきれねえな」 「うっさい!てやんでえ!木偶の棒とはよくいったもんだ!」 「なんだと?!」 「タロスは俺らたちと違って今回運転手オンリーなくせに、なんだって覚えてねえん・・・・だ・・??」
今回は細かい計算をしながら、ワープポイントを測定し、新しく太陽系国家としてスタートすべく惑星群にふりそそぐアステロイドベルトの残骸を処理する、というある意味地味な仕事であった。 しかし、そのポイントを間違えれば、ミネルバ自体が隕石とぶち当たることもありうることから計算は緻密に行われた。 そのかいあってか、作業は順調に進み、いままさに任務終了と一声かけようとするそのタイミングでもあったのだ。 この作業は機動力、測定の勘、どちらかが狂ってもカバーできにくい。 また、自然の摂理ではあっても、ベクトルの計算で予測をつけることも不可能ではない。 その機動力はリッキーが。測定力はアルフィンが。 其々の能力を発揮し、みごとに終焉をむかえようとしていたのだった。
だからといって、この隣の彼女、金糸のごとき髪をさらさらとなびかせ翡翠のようにきらきらとかがやく碧い瞳の彼女が忘れるはずもない。 はず。
一気に緊張の糸が切れた艦内で、いつものごとくのやり取りを繰り広げかけていた2人は重大なそのことに気がついた。
バックミュージックのごとく、のんきにやや作りこんだ趣のあるキャットボイスで、あれやこれやと未来の夢を詠う同僚。 これは前もって作られたものの再生だとわかってはいても、この不穏な空気を察して欲しいと願わずに入られなくなってきた木偶の棒と呼ばれた大男と、先ほどまで眠気と戦っていた赤毛の少年。
そろそろと、首をひねってリッキーが彼女をみる。 あんなにさわがしかったバックミュージックはもうすでに耳に入らないくらい緊張している自分。 阿修羅のごとき表情をしていることを想定に入れて焦点をあわせるのと同時に、空間立体表示スクリーンの人影をを認めた。
「あ・あ・あ・あ・あれ???」
素っ頓狂な声にまたもやタロスが小ばかにしたように振り返る。 「・・・おっと」 一言いってやろうと思ったその表情は、しばらくするとふとやさしいものに変った。
リッキーが振り返り、彼女の表情を認めたときは、そう。 想像通り蒼い炎が浮き立ちそうなオーラに包まれていたものの、やがて瑠璃色の大きな瞳に変った。 そしてぽとりぽとり。と大粒の涙。 「えっと・・・。アルフィン?」 おずおずとした口調のリッキーの声と、振り返りながらも顔を前に向けたタロスの仕草に、ジョウの首も後ろをめぐらせた。
その瞬間。 ぎっっと宙を睨みつけたアルフィンは。
「く〜〜〜〜〜や〜〜〜〜し〜〜〜〜〜〜!!!!」
ばたばたとブリッジを走り去る彼女は立体表示スクリーンに大粒の涙を残していった。
《ジョウ!お誕生日おめでとう!あんたの誕生日くらい、ちょっと調べたらすぐに判るわ。お父様にあんたのこと話しておきました。笑っていたけど、ものすごくいい案だと思わない? 私ならきっといいペアを組めると思うわ。なんていったって小さい頃からのあんたの癖や考え方なんかはぜ〜んぶしってるもの。この前一緒にいた時間で、ちっともかわっていないってわかったわよ。ほんのちょっとだったけど、あれこそ幼馴染のなせるわざよね。すぐにピンとくるっていうの?次にあんたが何をかんがえるかっていわれないでも判るわよ。ほら、あの時もそうだったでしょ?次の誕生日はきっと一緒に迎えられるように仕事も選ぼうかしら?今回はメッセージだけで残念なんだけど、この時間ならだれよりも早くお祝いが言えるとおもってね。 ああ、もし仮眠中だったらごめんなさい。でも誕生日になったんだって判ったからよかったでしょ?・・・・あら!こっちで音量調整しろってかいてあるわ。ごめん!いま大きな声ではなせないから、MAXで声ひらってるのよ。もしかしたら大音量に変換されちゃうかも。でもいいわよね。いい目覚ましでしょ?じゃ、私もいまから仕事よ。お互い次のバースデイに無事に出会える事を祈って!ば〜い!!!》
よくもまあ、アルフィンは黙って聞いていたと思う内容がバースデイソングと共にリフレインしていた。
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