| 時をやや同じくして、北の雪降る大地のとある王国に、一人の美しい姫君がおりました。 名前はアルフィン。 素晴らしく美しい姫は近隣諸国からも呼び声高く、聡明で雪の妖精を思わせる可憐な仕草に、見るものすべてを虜にしていると云われておりました。 この王国も平和で、豊かで、独自の政治学によるものと高く評価を受け、争いに巻き込まれる事もなく、皆幸せに静かに暮らしておりました。 他諸国の王女と違い、アルフィン王女は生れ落ちた時よりすでに結婚相手を決められている、ということもなく、皆からの愛情を一身に受け、のびのびと天真爛漫で気さくで心優しい姫君として、国民からの親愛をも余りあるほどでありました。 王女としての嗜みもさることながら、其の聡明さゆえ自国の政り事だけではなく、他諸国における諸行事やそれぞれにおける言葉にも精通し、外交的にも優れる真に以って稀にある姫君よと謳われることも記述いたしましょう。
ただ・・・・・・。
深窓の姫様ではなかった、という事はどうぞお留め置きいただければ、と存じます。
「姫様〜〜〜!!ひめさまああ〜!!!」 「全く、困ったものね〜。また脱走なさったのかしら?」 「今から、ダンスのレッスンだと判っていながらどちらにいかれたのかしら?」 「あなた、城外にいってくださる?4人体制でね。どこに出られているかわからないから」 「では、私たちは城内を・・・」
ばたばたと足音も高く姿を隠した貴人を探す宮廷内のお付きの女官たち。 これは珍しいことではなかった。
外に漏れる噂は、彼女の姿見、人当たりのすばらしさ、誠にもってありがたいことばかりではあったものの、実際そこまで聡明で溌剌とした姫君が、城の奥深く閉じ込められて満足するわけがなく・・・・。
ひめさまあ〜アルフィンさまあ〜〜〜
女官たちの騒々しいまでの声を彼女はとある所から聞いていた。
「こんにちわ〜。今日も元気ね。また見にきちゃった・・。うわあああ。かわいい!!!」 誰かに話しかけているのかと思いきや、それはついこの前卵からかえった小さな小鳥の雛。 この親鳥が雛のとき。怪我をして庭で苦しんでいたところを助けた。 それから、言葉を超えた交流とでもいうのか、普通雛に人間が近寄るともうその雛の面倒を親鳥が見なくなったりするものだが、この親鳥は助けられた彼女の事を忘れず、彼女の部屋近くの木の枝奥に巣をつくり、みつけたつがいと共にそこで暮らしていた。 もちろんそこに生まれた雛を彼女が見にやってくることなど、全く問題がない。 彼女は時間があれば部屋からその木に乗り移り、枝まで移動して雛を見にやってくる。 今回は外交のため3日間城を空けていたための4日ぶりの対面だった。 その4日でワタボコリのようだった雛が、見た目も愛らしく成長している。
「いずれはあなたたちも飛び立っていくのよね・・・・」 餌をついばむような仕草をアルフィンに向ける雛たちの頭を指でなでるようにしながら、ふとした言葉を呟いた。 「あ〜〜。私も思い切って、この世界以外に飛び立ってしまいたいな・・・」 それはきっと、彼女の心からの願いだったのだろう。
全く接点をもたないこの2人が出会い、そして恋に堕ちる。 それはすでに宿命として決められている自然の摂理のように。 愛し合う者同士の再会。 星が定めた未来。
はるか昔の物語。
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