| 翌朝、ゲルゼン宇宙港。 フィオレンシアはいつもどおり黒のクラッシュジャケット姿で搭乗口に姿を現した。 他に知った者は誰も居ない。 仕事は終わった。 ならば帰る場所に一人戻るだけだ。 チケットを受け取り搭乗までの時間、近くのソファに腰を降ろした。 慌しい数日もあの島に帰ればまたいつもどおりの日々が始まる。 これまでも一人、これからも一人。 気楽な隠居生活だ。 大勢の人々が行き交う雑踏の中を見慣れたクラッシュジャケット姿が二つこちらにやって来た。 「黙って行くなんて水臭いじゃないか?」 「見送りぐらいさせてくだせえ」 青いクラッシュジャケット姿のジョウにフィオレンシアと同じクラッシュジャケットのタロスだった。 「仕事は終わったのよ。挨拶は昨夜の酒場でしたと思うけど?」 「あれが挨拶?あれは飲み逃げっていうんじゃないのか?」 「あんた達が弱すぎるのよ」 昨夜の酒場で酔い潰されたメンバーだったが、酒にあまり酔わないタロスとリーダーの意地でジョウが見送りに来た。 ちなみにこの情報はバレリーからの情報だ。 その背後にダンがいることをジョウには知らせていないタロスだった。 「今度はいつ会えるかわからねえしな」 「あんた達の仕事がふがいないようならすぐに会えるわよ」 ジョウの言葉に不敵な笑いを浮かべて冷たく青い瞳が輝く。 「まあしばらくはこの世界に戻ることはないでしょう」 行き先を告げるアナウンスを耳にしてフィオレンシアが立ち上がった。 「二度と戻って来ないつもりですかい?」 タロスの寂しそうな瞳にフィオレンシアは悲しそうに微笑む。 「戻りたくはないわね・・・でも・・・帰って来いと言うならいつの日かね・・・」 「絶対帰って来いよ!」 ジョウがアンバーの瞳を真剣にフィオレンシアに向けた。 AAAの自信はあった。 でも、それ以上にフィオレンシアの能力が上だった。 負けっぱなしではジョウの気が治まらない。 「・・・仕方ないわね・・・じゃ、約束手形♪」 柔らかく微笑むフィオレンシアの瞳にイタズラな光が宿る。 スッと手を伸ばしジョウの顎を捕まえるとそのまま唇を奪った。 どう反応していいのか分からずに固まってしまったジョウを他所にフィオレンシアはタロスに軽くウィンクして早々にその場を立ち去って行った。 赤いルージュの跡がジョウの唇に残る。 なんの約束手形か分かりはしないが、帰ってくるのは間違いないらしい。 それがいつの日になるかはジョウにもタロスにもフィオレンシアにさえ分からなかった。 急ぐ必要はない。 まだ、未来は不確定で宇宙は未知数に彩られていた。 「そのまんま帰るのは止めた方がいいですぜ」 タロスに囁かれて、ジョウは慌てて唇を手で拭った。 窓の外には鮮やかな軌跡を残して旅立つ宇宙船が、青い空の彼方に消えていった。
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