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■61 / inTopicNo.1)  キスまでの距離
  
□投稿者/ ごんた -(2002/03/29(Fri) 16:54:44)
    「アルフィン、飲まないのか?」

    俺は無駄だと思いつつ、アルフィンに話し掛けた。ついでに紙コップに口をつけジュースを流し込む。返ってくるはずのない返答を待った。
    ・・・・やっぱり無駄か。
    眉間に皺がよる。隣に寝転がっている彼女の胸は規則正しく上下している。その寝顔はやけに安らかで俺の言葉は届いてないことは明らかだ。なんだかちょっと腑に落ちない。ふうっと大げさにため息を吐き出してみた。彼女をちらりと見る。全く起きる雰囲気はない。
    とことん呆れた。俺はごろんと寝転がってぼんやり空を見上げた。

    時間は午前10時半をちょっと過ぎた頃だろうか。
    目をゆっくりと閉じたりひらいたりしてみる。
    少し、眩しい。

    俺がぼんやり眺めた先にはまっ青な空が広がっている。雲がところどころにぽっかりと浮び、快晴に近い。日差しもまだ柔らかく、芝生のにおいもいい。今更ながら地に足を着けていることを強烈に感じる。全身に重力を受けるのもいい。気持ちのいい風がすっと通り抜けていく。

    ──J・Fセントラル自然公園でリラックス。

    そう言ったのはアルフィンだった、たぶん。仕事の後処理がスムーズにいき、一日だけスケジュール空いたのだ。
    危険物輸送の護衛最終地になった惑星ガイーヤにはこの宙域で有名なJ・Fセントラル自然公園がある。もちろん俺たちのいるこの巨大公園ことだ。ここの売りは良質の空気らしい。遥か昔の惑星改造に伴った極めて稀な特性だ。この空気を吸いに多くの人が訪れる。
    深く息を吸い込んで吐いてみる。なんとなく分かるような気がしてくるから不思議だ。
    ひなたぼっこを楽しむ老夫婦。あたりを散策するカップル。にこやかに挨拶を交わすウォーキングする人達。そしてキャッチボールをする親子・・・。すれ違った人たちを空に思い描いて見た。穏やかな彼等の顔はそれの証明だ。アルフィンの選択もまんざらじゃなかったってとこだろう。

    それにしても。
    俺はむっくりと起き上がった。
    アルフィンが「ジュース買って来て」と命令口調で言ったのはほんの少し前。それで嫌々隣のエリアまでひとっ走りしたというのに、いざ買ってきたら命令した本人は寝てる。それが人に物を頼んだあげく取る態度なのか。

    とはいえ・・・ま、アルフィンらしいといえば、らしい。
    いつもの調子を思い出して、俺は中途半端な納得してしまう。
    アルフィンが小さく寝言を言ったのが聴こえた。

    俺はアルフィンに自然と目を向けた。
    濃紺のノースリーブのデニムワンピース。白くすんなり伸びる素足にスニーカー。
    いつものカジュアルな普段着だ。金色の髪にきめの整った肌も見慣れている。
    でも、彼女のいつもより少し紅い唇。

    ゆっくりと普段隠してる俺の何かが湧いてくる。
    やばい・・・。
    俺は目を背けた。後ろめたい気分に苛まれる。それを肯定したいのか、それとも否定したいのか。俺は考えながらゆっくり視線を元の位置に戻した。
    ふっと風が俺の背中を叩くように吹いた。その時短い葛藤は正の意識の反対にかたんと傾いた。途端に俺はアルフィンに引き寄せられていった。

    起きるなよ。
    そうつぶやいて目を閉じた。

    「あ、に、き〜〜!兄貴〜〜!!」

    背後からでかい声がした。
    俺は未遂のままがばっと体を離した。
    心臓が跳ね上がるのを押さえながら、声の主を探す。ここからいくらか離れた遊歩道にその声の主はいた。ちょっと前にはぐれていたリッキーとタロスだ。そこからゆうゆうとこちらに手を振っている。何事か言い合って小さく見える彼等がひょいひょいっと柵を乗り越えてこちらに走ってくるのが見えた。

    木陰の中に慌しい空気とともにタロスとリッキーがやって来た。穏やかという雰囲気から一変してしまった。涼やかな風もやんだように感じるのは俺の焦りなのかもしれない。

    「やっと見つけましたぜ、ジョウ・・・」
    タロスは苦虫をつぶした様な顔をして、腰を下ろしてからタオルでしきりに汗をぬぐっている。
    「そうだよ。こっちはさあ、探しまくってんのに、ふたりはのんきにお昼寝かい?」
    リッキーは嫌味ったらしい。
    「昼飯は一緒に食おうって兄貴が言ったんだぜ」
    「すまん」
    俺はこれだけ言うのがやっとだ。首をコキコキとリッキーが鳴らして、こっちを見る。
    「それがさ、兄貴〜!」
    リッキーが機関銃のように話しはじめた。タロスは・・よほど疲れたと見える。黙って聞いている。余程、歩き回ってくたびれたのだろう。タオルで風を送り込んでいる。俺に話の水を向けられないのは好都合だ。まじめに聞いてるふりをする。

    「・・・・というわけでここまでたどり着いたんだよね」
    リッキーの独演会は短く終わった。あっけない。なんのことはない、道を間違ったという事だった。
    「ふうん」
    と思わず気のない返事を俺はした。
    「なんだよ、兄貴。その返事は〜!」
    リッキーがふて腐れてアルフィンに買ってきたジュースを飲んだ。もうすっかり氷も溶けている。薄い、とリッキーが文句を言った。

    「しかし・・・・」
    涼むことに専念していたタロスが口を開いた。
    「よく寝てますな」
    全員同時にアルフィンに目を落とす。
    まったくだ。
    俺はまた寝転がった。葉の間から射す光が俺の目に沁みた。余計なため息が出そうだ。
    そこにぬっとリッキーが顔を出した。くりくりと目玉を動かしている。なんか嫌な予感がする。視線をそらす。リッキーは俺の耳元に顔を寄せると小さく囁いた。
    「ね、兄貴。さっき俺らが呼んだ時慌ててアルフィンから離れたように見えたんだけど
    何してたの?」

    ──直撃。
    反射的に身を起こす。横ににやにやと笑うリッキー。その目はどこまでもいやらしい。
    俺はこみ上げる怒りを押し込める。
    一呼吸置いて、凄んでリッキーに言い渡した。

    「・・・・・・・リッキー。お前、減俸!」
    「え!いえええぇぇぇ〜〜〜?!」

    ※※  ※※  ※※  ※※  ※※  ※※  ※※  ※※  ※※  ※※

    「あったま、痛え」
    俺は面を上げた。ずきっと頭の端が痛む。
    ・・・・ミネルバのリビングだよな。
    壁に掛かる時計に目をやる。標準時間午前3時ちょっと前。

    痛みとぼんやりが交差する頭がだんだん焦点を絞り始めた。
    ・・・・・ああそうか。

    俺たちはセントラル公園から帰って、夜酒盛りをした。本当はゆっくり過ごすつもりだった。でも次の仕事の段取りは整っている。移動も明日の午後。というわけで自制は飛んでどこかへ行きタロスに付き合って飲んだ。仕事の話をつまみに。そこにリッキー達が加わったのまでは覚えている。そうだよな。あとは、覚えてない。タロス好みの酒はかなりきつい酒だった。おかげで最悪の気分だ。明日酔いが抜けなかったら文句をつけてやる。俺はぶんぶんと頭を振った。

    体を揺すったせいか、俺は何かに触れた。暖かい。横を見ると、俺と同じ様にソファに突っ伏すアルフィンがいた。どうやらアルフィンも酔いつぶれていたらしい。寝息が漏れている。誰が飲ませたんだろうか。ああ、いや、アルフィンだ。間違いない。かすかに笑いがこみ上げた。

    パジャマ姿のアルフィンは頬を染めて眠っている。酔いつぶれてるとは思えないほど清らかにみえる。うっすら口を開き、楽しい夢を見ているような寝顔。ソファに肩肘を突いて、俺はしばらく飽きることなく彼女を見ていた。

    「・・・・・」
    アルフィンの消え入りそうな寝言。その瞬間セントラル公園での彼女の寝顔が重なった。
    俺の胸が疼いた。

    今度は迷わない。
    少しだけ、じっとしててくれ。
    起きるなよ。
    そっと顔を寄せた。

    「・・・・・ん。ジョウ?」

    「!!」

    至近距離で蒼い目が開かれた。驚きのあまり俺は止まった。動けない。
    アルフィンはとろんとした目で俺を見ている。

    ・・・・・・・・・・・ばれた?

    パチパチと数回まばたきをして、アルフィンは口を開いた。

    「・・・・ジョウってば鼻息かけるのやめてよね」

    「はあ?」

    こっくり。彼女の頭がソファへ垂れた。
    それっきりアルフィンは何も言わず、また眠りへ落ちていった。とても深く。

    俺はゆらゆらと頭を振る。
    ・・・・キスまでは、あまりに遠い。
    急激に萎えた俺はソファに突っ伏し固まった。

                   END

    ☆これは「ファミリー」という漫画のパクリです。





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