| ここは、クラッシャーとその家族だけが眠る墓所だった。 と言っても、クラッシャーは宇宙葬を行うため、亡骸は宇宙に還り、墓碑だけが建てられていた。 「ここだ」 ジョウは、ひとつの墓前に立ち止まった。 墓碑には、ジョウの母親であるユリアの名前が刻まれていた。 アルフィンがそっと花束を置く。 膝まつき、両手を合わせた。 「はじめまして、ジョウのお母様。チームで航法士を務めるアルフィンと申します」 (アルフィン・・・) しばらく、アルフィンをみつめていたジョウは、彼女が誰かに似ていることに気がついた。 だが、それが誰なのか思い出せない・・・記憶を辿ってみる・・・ジョウはハッとした。 「ほら、ジョウも突っ立ってないで、ちゃんとお母さまにご挨拶なさいよ」 アルフィンは立ち上がりジョウに視線を向けると、彼の様子がおかしいことに気が付いた。 「ジョウ、どうしたの?」 アルフィンがジョウの顔を覗き込もうとした、その時、ジョウはアルフィンを掻き寄せ、力強く抱きしめた。 「ち、ちょっとジョウ・・・」 「ごめん、しばらくの間、このままにしてくれないか」 ジョウは、更に力を込めた。 「しばらくの間って・・・ジョウ」 「母さん・・・」 ジョウが聞き取れないほどの小さな声で、そう呟いた。 アルフィンは驚愕し、固まってしまった。 ジョウは、墓前で手を合わせるアルフィンに、母ユリアの姿を見た。 写真でしか見たことのない母・・・物心ついた時には、もうこの世には居なかった。 母のぬくもりを知らずに育ったジョウに、今、寂しい少年時代の思い出が走馬灯のように駆け巡っていた。 アルフィンを通して、始めて母に会い、始めて母のぬくもりを感じる。 (ジョウ、泣いてるの?) こんな時でもアルフィンに悟られまいと、ジョウは声を殺して泣いていた・・・が、その肩は震えていた。 最初は体を固くしていたアルフィンだったが、ジョウの気持ちを悟ったのだろうか、何も言わず彼に体を預け、そっと腕を回した。 『ジョウ、幸せになってね』 アルフィンの暖かい体を通して、母ユリアがそう囁いている・・・そんな気がした。
水平線に太陽が傾き、海がオレンジ色に染まっている。 墓参りを終えたふたりは、オレンジ色の照り返しを受けながら、駐車場へと向かって歩いていた。 不意にアルフィンが立ち止まり、海に目をやる。 「ねえ、ジョウ見て。海が凄く綺麗。キラキラ、オレンジ色に光ってる。」 あの後、アルフィンはジョウに何も訊かなかった。 そんな彼女の配慮が、ジョウはうれしかった。 何時の間にか大人になっていた彼女・・・。 「ああ、綺麗だな」 ジョウは、アルフィンの横顔を見ながら呟いた。 「あのさ・・・さっきの」 そうジョウが言いかけた時、アルフィンがその言葉を遮る様に話し始めた。 「ねえ、ジョウ。今夜ボーリングやらない?タロスとリッキーと4人でさあ」 「ボーリング?」 「そう、私、結構得意なのよね。アラミスにだって、ボーリング場くらいはあるでしょ?」 アルフィンがウィンクした。 「おい、アラミスを田舎だと思ってバカにしてないか。ボーリング場くらいはあるさ」 「そう、なら夕食を賭けてボーリングバトルしましょ。あ、そうそう。私はか弱い女の子だから、当然ハンディは貰うわよ」 「誰が、か弱いって?」 「何よ〜文句あるの?」 アルフィンが、キッと睨む。 「はいはい、お姫様の言うことには逆らいません」 「よろしい。資格停止も解除になって、3日後にはまた仕事が始まるでしょ。今のうち目一杯遊んどかなくちゃね。さ、行きましょ」 アルフィンが先頭を切って歩き出そうとした、その時、ジョウが彼女の手を取った。 びっくりしてジョウに目をやると、彼は真っ赤になりながらアルフィンを見つめ微笑んでいた。 「その・・・たまには手を繋いで歩くのも、いいかなって思ってさ」 今度は素直に、アルフィンの手を取ることができた。 自分の心の中に、彼女の存在が大きくなっていることを改めて感じたジョウは、今、彼女との出会いが偶然ではなく、運命だったのだと思い始めていた。 (ねえ、ジョウ。今、ジョウの心の中に少しでも私がいるって自惚れてもいい?) アルフィンは頬を染めながら、その蒼い瞳でしっかりジョウを見つめ、心の中で訊いてみた。 ジョウも目を離さず、漆黒の瞳でアルフィンを見つめていた。 「さ、タロスとリッキーが待ってるぞ。帰ろう」 「うん!」 ふたりは、お互いの気持ちを確かめ合うように、しっかりと手を握り合い、夕日の中を歩き出した。 タロスとリッキーが待つミネルバに向かって・・・。 ふたりの明るい未来に向かって・・・。
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