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■679 / inTopicNo.21)  Re[20]: Dark Veil
  
□投稿者/ まき -(2004/04/04(Sun) 13:51:09)
     さらに1週間が過ぎた。
     どかどかと廊下を走る靴音に,クレアはぎょっとして振り返る。
    「静かにっ!!病院内で走らないで下さいっ!!」
     若くとも数々の修羅場を経験しているナースである。その一喝の迫力に,靴音は一瞬ピタリと止まる。
     が,”彼ら”はすぐに,今度は”足音を立てないように”駆け出した。
    「わりぃ!ちょっと急いでるんだ!見逃してっ」
     小柄な少年が両手を合わせ,拝むようにして叫ぶ。
    「わわわっ,置いてかないでくれよーっ!」
     もはやクレアの返事はお構いなしである。
    「こらーっ!!」
     後にはクレアの怒鳴り声が虚しく響くだけであった。

     ふとクレアの声が聞こえたような気がして,アルフィンは身体を起こした。
     探るように耳をすませると,いきなりノックの音が聞こえた。
     反射的に返事をしようと口を開けかけた時,すでにドアは些か乱暴に開けられていた。
    「!?」
     驚きに言葉を無くしたアルフィンだったが,乱入してきた面々を”見て”,そのままフリーズする。
    「………アルフィン,見えてるんだな?」
     アルフィンの様子をじっくりと観察した後,確認するようにジョウが訊く。
     タロスとリッキーも食い入るようにアルフィンを凝視している。
     アルフィンは呆気にとられたまま,まだ動けないでいる。
     ジョウはゆっくりとアルフィンの方へ近付いていった。視線はアルフィンの瞳に固定したまま…。
     そしてアルフィンも近付いてくるジョウから眼を離せずにいた。
     ジョウがベッドの傍らにたどり着き,身を屈めて互いの息がかかる程の至近距離からアルフィンの瞳を覗き込む。
     途端にアルフィンの頬が薔薇色に染まる。
     それは,アルフィンの眼が見えているという他ならぬ証明となった。
    「ぃやったーっ!!」
     リッキーが歓喜の声を上げる。
    「ふへへっ。<ミネルバ>に無理させて,あの距離をぶっ飛ばしてきた甲斐があったもんだ」
     タロスも眼を細めている。
    「…それじゃジョウ,俺たちは先に戻ってまさぁ。アルフィンの眼が治ったんなら,次は<ミネルバ>を直してやらないといけねえ。エンジンにかなり負担掛けちまったんでエンジンの機嫌をとってやらねぇと。……おいチビ,行くぞ!」
     タロスはぐいっとリッキーの襟首を掴むと,そのまま引きずって部屋を出ようとする。
    「えええええっ!?な,なんで俺らまでっ!」
     リッキーが暴れて抵抗するが,素早くゲンコツが落ちてきた。
    「このガキっ!ちったあ気を利かせろってんだ」

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■680 / inTopicNo.22)  Re[21]: Dark Veil
□投稿者/ まき -(2004/04/04(Sun) 15:40:21)
     部屋に取り残された形の2人は,まだ動こうとしない。
    「……ジョウ」
     アルフィンがようやく見えない呪縛から解放され,言葉を紡ぎ出す。
     その瞬間,ジョウがアルフィンの身体に腕を回して力強く抱き締めた。
    「ジョウ!?」
     アルフィンが突然のジョウの行動に驚いて声を上げる。
    「……良かった」
     ジョウがぽつりと呟いた。
     それは小さな囁きだったが,アルフィンの胸を突くには充分な一言であった。
     みるみるアルフィンの瞳に涙が浮かんでくる。
    「……ジョウ!」
     様々な想いがいっぺんに押し寄せてきて,アルフィンは声を詰まらせる。やがてアルフィンもそっとジョウの背中に手を回した。ジョウの背中は大きく,アルフィンの腕は回らない。軽く手を添えるようにクラッシュジャケットを掴んだ。
     そのままアルフィンの涙が収まるまで,ただ抱き締め合った。
    「……ずいぶん痩せたな」
     病院のルームウェアは,いつものクラッシュジャケットに比べると遙かに頼りない作りである。薄い生地を通して,アルフィンの華奢な身体が実感される。
    「……だって,ずっと寝たきり状態だったのよ?食欲なんて湧かないし,…そうね筋肉も落ちちゃったかもしれないわね」
     薄物一枚の状態で抱き締められていることに今更ながら気付き,アルフィンは恥ずかしげに身をよじってジョウの腕から逃れようとする。
     ジョウは一度腕を弛めたものの,ベッドに横掛けに座り直すと,再び左手を伸ばしてアルフィンを抱き寄せる。
    「ジョウ」
     自分の動揺を誤魔化すように,少し非難の響きを込めてアルフィンはジョウの名前を呼んだけれど,ジョウはこれをあっさりと無視した。
    「ジョウってば…!」
     アルフィンがジョウの右胸に左手を押しやり抵抗するが,さっきと違ってジョウは腕の力を弛めない。恥ずかしさにアルフィンが軽く睨む真似をして見上げると,ジョウが色の濃い瞳に優しい光を湛えて見つめていた。
     ジョウの瞳に捕らえられ,アルフィンはもうそれ以上抵抗できなくなる。
    「……もう」
     一言そう呟いて,ジョウの心臓のあたりに頬を寄せる。力強い鼓動が聞こえた。顔がひどく熱かった。
    「……アルフィンを置いて行くのが,こんなにツライとは思わなかった」
     不意にジョウが言った。
    「え?」
    「何故だろうな。このまま2度と逢えなくなるような気がして,何度も仕事を放り投げて引き返したい衝動に駆られたもんさ」
     冗談とも本気とも取れる口調に,アルフィンは再び顔を上げてジョウの表情を窺う。
    「アルフィンが泣いているのを見るのはつらいな。どうしたら良いのか判らなくなる」
     ジョウは器用に顔を歪めて,途方に暮れた表情を作ってみせる。
    「……ご,ごめんなさい」
     反射的にアルフィンが謝る。
    「いや,そういう事じゃないんだが…」
     ジョウは本気で苦笑いを浮かべる。
     無防備に見上げてくるアルフィンの瞳は,先程の涙で潤みを帯びて,まるで青い宝石のようだ。
     ジョウの左腕に抱かれ,ほっそりとした身体を預けてくるその重みは心地よく,ジョウの胸を熱くする。
     たった3週間だが,離ればなれになって,初めてアルフィンの存在の大きさに気付いた。
     それまでは,ヤキモチ焼きで,すぐにヒステリーを起こして,けれどベタベタとまとわりついてくる,子猫のようなものだと思っていたのに。
     3週間前の別れの日,アルフィンが自分の元から去ろうとしている予感を確かに感じた。あの時ムリヤリにでも連れて行きたい衝動を堪えるのにずいぶん苦労した。
     だから,一刻も早く帰ることだけを考えていた。
     アルフィンがどこかに行ってしまう……何度その悪夢にうなされただろう。
     だが,アルフィンはここで待っていた。
     眼に光を取り戻し,少し痩せたものの,確かな存在感を持って,今自分の腕の中にいる。
     自分でも驚くほどこみ上げてくる愛しさに,ジョウは翻弄される。
     ジョウは右手を伸ばし,アルフィンの左頬に触れる。
     アルフィンは恥ずかしそうな素振りで軽く俯く。
     ジョウは,瞳も伏せてしまったアルフィンの瞼にそのまま親指を滑らせて長い睫をなぞるように優しく撫でた。アルフィンの瞼がくすぐったそうに揺れる。
     ジョウの右手はアルフィンの白い頬に掛かる金髪をすくい上げるようにして耳の横を滑り,小さな頭を捕らえる。
     ジョウは閉じられたアルフィンの左眼の脇に,ついばむような口づけを落とした。
    「あ……」
     アルフィンがぴくりと身体を震わせて,溜息のような小さな声を漏らした。
     ジョウの右胸に添えられていた華奢な左手が,思わずジョウのクラッシュジャケットを掴む。
     ジョウは乱暴にならないように注意しながら,少し力を入れ,改めて抱きすくめるようにアルフィンの身体を引き寄せた。
     滑らかな額にも軽く口づける。
     アルフィンは逃げるようにジョウの鎖骨の下辺りに顔を埋める。
     アルフィンの頭に左頬を寄せ,ジョウも黙って眼を閉じた。
     静かな病室で互いの呼吸音だけが聞こえていた。
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■681 / inTopicNo.23)  Re[22]: Dark Veil
□投稿者/ まき -(2004/04/04(Sun) 16:53:05)
     こんこんっ!
     突然のノックの音に,ジョウとアルフィンは電流が走ったかのような勢いで互いの身体を引き離した。
     ジョウは慌ててベッドから降りる。
    「アルフィンさん,入りますよ」
     そう言ってドアを開けたのはクレアだった。
     部屋の中にいるジョウを見つけて,クレアは細い眉をきりりとつり上げて叫んだ。
    「あ,あなたは!さっきのっ!」
    「やばっ!」
     ジョウは明らかに逃げ腰である。
     アルフィンには事の展開が全く読めない。そちらに気を取られたせいで,先程の気恥ずかしさはキレイに忘れている。
    「じゃ,じゃあ,また明日来るから」
     ジョウは慌ててアルフィンにそう告げると,そそくさと部屋を出て行こうとする。
     どうも怒鳴る女性は苦手である。
     むろん,普段のクレアはどちらかというと優しげな印象なのだが,ジョウは先程の”一喝を入れた”クレアしか知らない。
    「え?うん,分かった。ありがとう」
     アルフィンは呆気にとられたまま,反射的に答える。
     ドアに手を掛けたジョウが,ふと動きを止めた。
     軽く頭を捻ると,訝しげに牽制するクレアの横をすり抜け,再びアルフィンの前にやって来た。
    「どうしたの?」
     アルフィンがきょとんとして尋ねる。
     ジョウは返事の代わりに素早く腰を屈めると,アルフィンの唇に一瞬のキスをした。
    「じゃあな」
     簡単にそう言うと,今度は真っ直ぐにドアを開けて出て行った。
    「「えええええええええっ!?」」
     ドアが閉まった瞬間にアルフィンとクレアの大合唱が聞こえてきた。

    「なぁタロスぅ,俺ら達いつになったら休暇に入れるんだぁ?」
     リッキーが工具をぶらぶらと弄びながら,作業中の大きな背中に呼び掛ける。
     ジョウは単身依頼主の元へ事後報告に出掛けている。
    「さぁな。アルフィンの退院が先か,<ミネルバ>の修理が完了するのが先かって感じだからなぁ。…少なくとも後1週間は足止めじゃねぇの?」
    「ええぇぇぇー」
     リッキーはへなへなとその場に座り込む。
     仕事で約2ヶ月も退屈な航行を強いられてきたのに,まだ1週間以上も耐えなければならないのか。その現実はリッキーから見事に活力を奪った。
     遊びたい盛りのオコサマにはチョットばかし可哀想かな,とタロスも少しは同情するが,それを口に出したりはしない。
    「アルフィンの病院へ行って,ナースの姉ちゃん達に遊んでもらったらどうだ」
     からかうように言う。
    「げー,いやだよ。アルフィンの担当の姉ちゃん,おっかないモン。見つかると睨まれるんだぜっ」
     リッキーは冗談じゃないとばかりに首をすくめる。
    「まあ確かにそうだなぁ。…若いのに大した迫力だったなぁ」
     くくくくくっとタロスが肩を揺らす。
     当人の知らない所で散々な評価をされている事を,幸か不幸かクレアは知らない。今頃クシャミのひとつもしているかもしれないが。
    「よーし,それじゃあ,あの姉ちゃんに見つからないようにアルフィンの見舞いに行くにはどうすりゃ良いか,作戦を立てながら病院に行くとするか」
     タロスが時計を確認した後,工具を放り投げて言う。
     ジョウもその足で病院に寄ると言っていた。
    「え!?そんなら俺ら着替えてくるよ!」
     リッキーは油にまみれた作業服のジッパーに手を掛けながら,慌てて走り出した。
    「……けっ!色気づきやがって。まったくガキのくせによぉ」
     そう毒づきながらもタロスの口元はにやりと笑っている。
    「しゃーねーなぁ。俺もちったぁこざっぱりとしてくるかぁ?」
     のんびりとひとりごちて,タロスも歩き出す。
     タロスが生きてきた年月を思えば,1週間などあっと言う間だ。
     クラッシャージョウのチームが全員そろって再び宇宙に飛び出すのは,もう間もなくである。


    <Fin> 





    ************************************************************************
     
     こっから下はワタクシの独り言ですので…。
     
     ムダに長いお話を最後まで読んで下さった貴方,お疲れ様でした。
     そして,お付き合い頂き,本当にありがとうございました。
     書き終えた今,なんだかとっても脱力でございます…。
     お話を書くのがこんなに大変だとは,正直思いませんでした。
     いやもうホントに『モノ書き』の皆様には頭があがりません。
     書き上げるまでの途中途中の言い訳を上げたらキリがないのですが,
     ええもうたくさん反省しております…。
     
     また絵描きに戻って,絵板で精進致します。はい。
     お話もいずれまた…って懲りてないですね?すびばせん。
     でも本当に,いつか幅も厚みもあるお話が書けたらいいですねぇ。
     ああ,これはイラストでもそうなんですけどねぇ。
     
     とにかく本当に『スミマセン』と『ありがとうございました』です。
     では。
fin.
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