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■661 / inTopicNo.21)  Re[2]: Dark Veil
  
□投稿者/ まき -(2004/03/30(Tue) 12:13:59)
     どのくらいの時間眠っただろうか。
     ジョウは手元の時計で時間を確認する。ざっと3時間弱の睡眠時間を確保できたようだ。
     一度枕に顔を埋めて名残を惜しんだ後,両腕をベッドに突っ張って勢いよく背中を伸ばす。
    「ぅしっ!」
     反動を付けてベッドから飛び降り,改めて大きく伸びをする。
     ジョウの鍛えられたしなやかな筋肉がぐうっと盛り上がる。
     部屋着のTシャツ姿のまま,軽くストレッチをする。寝起きの固まった筋肉をほぐすためのストレッチは,自然に身に付いた習慣だ。
    「………腹減ったな」
     ある程度身体を動かして頭もすっきりしてくると,生理的欲求が湧いてくる。
     少し寝癖のついた髪は気にせず,<ミネルバ>のダイニングキッチンへと向かう。
     <ミネルバ>は居住性を重視した船ではないので,あくまでも簡易式のキッチンだが,クラッシャーにはそれで充分だ。ゆったりと豪勢な食事を楽しみたいのなら,休暇の時に高級ホテルのレストランにでも予約を入れれば良いのだ。

    「あ?兄貴,おはよ」
     ダイニングキッチンには先客のリッキーがいた。
     ちょうど温められたプレートディッシュに手を付けようとしていたらしく,フォークを持った手をひらひらと振ってジョウに挨拶する。
    「おう。早いな」
     ジョウも片手を挙げて応える。
    「へへへへへ。俺ら育ち盛りだかんね!人一倍腹が減るってもんさ」
     リッキーが得意げに,まだ筋肉の薄い胸を張る。
    「っけ!万年欠食児童のチビが何言ってやがる。おめえのどこが育ってるってんだよ?」
     ジョウの後ろから,タロスが悪態をつきながら入ってきた。
    「なんだとぉっ!?……ふんっ,ぃやだねぇまったく。退化の一途を辿るしかないジジイのヒガミなんて,ミットモナイだけだぜ?」
     リッキーも負けじとやり返す。
    「んだとぉ?……てめえなんぞ食ったそばから栄養分をクソと一緒に出しちまってんじゃねぇのか?一向に成長の兆しが見えねぇしなぁ」
     口に人工ミートローフを頬張った瞬間を狙って放たれた下品な台詞に,リッキーは眼を白黒させてむせ返る。
    「わははははは!ざまぁみやがれ!」
     してやったりとばかりにタロスは大きな身体を揺らして笑っていたが,ジョウの呆れたような冷ややかな視線に気付き,慌てて顔を引き締める。微妙に顔が赤らんでいる。
    「……ありゃ?」
     いつもならここで,”食事中のマナーがなってない”だの”まったく下品なんだから”だの,甲高い抗議の声が機関銃のように吐き出されるハズなのだが…。
     ジョウも拍子抜けした感で尋ねる。
    「アルフィンはまだ来てないのか?」
    「…俺らが一番乗りだったぜ?アルフィンの事だから,まだ寝てんじゃないの?」
     ようやく咳が治まったリッキーが涙目になりながら答える。
    「まったく困ったお姫様ですな。仮眠は取りすぎると時差ボケを起こしやすぜ」
    「ああ,そうだな。…リッキー,ちょっとアルフィンを起こしてこい」
    「ええええええええっ!?」
     リッキーが世にも情けない声を上げる。今にもフォークを取り落としそうな感じだ。
    「チームリーダーの命令だぞ。とっとと行って来いや」
     こちらは被害を免れて余裕の表情のタロスである。
    「あ,兄貴ぃ…!!」
     リッキーが恨みがましい表情で非難の声を上げるが,ジョウはさっさと背中を向けてドリンクのボトルを取り出している。
     アルフィンの寝起きの悪さは折紙付きである。誰も近付きたがらない。
    「ちぇっ!分かったよ!俺らが犠牲になれば良いんだろう!?」
     ちくしょうっ!っと半ばヤケになりながら,リッキーは渋々席を立った。
     かつてアルフィンに殴られた記憶のある顎が,軽く疼いた。
引用投稿 削除キー/
■660 / inTopicNo.22)  Re[1]: Dark Veil
□投稿者/ まき -(2004/03/30(Tue) 10:55:10)
    「身体の打ち身くらいは放っておいても良いが,頭を打ってるとなると精密検査が必要だぞ?」
     思いの外ジョウが真剣な表情で見つめてくるので,途端にアルフィンの鼓動が早さを増す。
    「うううん!そんな大事じゃないわ!平気よ」
     慌てて否定して,オマケとばかりにウィンクしてみせた。
    「そうか?それなら良いが…」
     ジョウはしばし逡巡する様子を見せたが,ほんのり上気するアルフィンの薔薇色の頬を確認して納得したようだった。
    「へへへへへっ。兄貴はアルフィンの事となると,すぐムキになるんだから!」
     リッキーが懲りずにまた軽口を叩く。
    「ばーか。アルフィンはおめえと違って生まれも育ちも良いんだから,ジョウが気に掛けるのも当ったり前だろうが」
     ジョウの目が据わったのを見て,タロスが慌ててフォローを入れる。
    「けっ!ポンコツの身体のタロスには言われたくねぇよ!」
     タロスが敵に回ったことで形勢不利を悟ったリッキーが,捨て台詞を吐いて席を立つ。
    「俺らひと眠りしてくる。あー瓦礫のせいで身体中が痛ぇー」
     わざとらしく肩に手を当て,首をコキコキと鳴らしながらリッキーはブリッジを出ていった。
    「ウマく逃げたわね」
     アルフィンはくすくす笑っている。
     その様子に,ジョウもようやく表情を綻ばせて指示を出す。
    「よし,あとはオート運航で良いだろう。ブリッジはドンゴに任せて,俺たちも仮眠を取るぞ」
    「キャハ。了解」
     即座に甲高い声でドンゴが応答する。
     依頼主への事後報告を終えれば,待ちに待った休暇である。
     ジョウ達は,リゾート惑星の熱い日差しに思いを馳せながら,各々の部屋へと退散して行った。

     蒸気が上がるシャワールームで,アルフィンは伸びやかな肢体を解放させていた。
    「いつつつつっ!」
     熱い湯が傷にしみた。
     クラッシュジャケットを着ていたとはいえ,何十個という瓦礫の塊を全身に浴びたのである。
     アルフィンの透き通るような白い素肌に,何カ所も痛々しい痣や擦り傷ができている。
    「まったく…,こんな身体を見たら,お父様もお母様も気絶しちゃうわね!」
     痛みを紛らわせるように,わざと声に出してボヤいてみる。
     傷跡が残らないと良いな……と考えつつシャワールームから出てきたアルフィンの身体を,ふいに違和感が襲った。
     だんっ!
    「!?」
     自分が膝を床に落とした音で我に返る。
     両手を床に着き,身体を支える。
     身体に巻き付けていたバスタオルが解け,音もなく床に滑り落ちた。
    「………」
     シャワーで温まったはずのアルフィンの白い背中に冷たい汗が浮かんでくる。
     動悸がおさまらない。
     目の前が暗くなっている。
    (いやだ…貧血かしら……?)
     動揺を沈めるように,アルフィンはなんとか冷静になろうと努めた。
     とりあえず,ここは自室だ。落ち着かなければ。
     這うようにしてベッドまで辿り着き,どうにかシーツに潜り込む。
     この際,裸なのも髪の毛が濡れたままなのも気にしないことにする。
    (起きてから,また髪を洗い直さなきゃ……寝癖,ついちゃうわね…)
     押し寄せてくる不安の波を誤魔化すように,他愛もない事を考えつつアルフィンは固く眼を瞑った。
     元よりの疲れもあり,ほどなくアルフィンは眠りの淵へと墜ちていった。
引用投稿 削除キー/
■659 / inTopicNo.23)  Dark Veil
□投稿者/ まき -(2004/03/30(Tue) 10:17:00)
    「いやあ,今度の仕事もチョロいもんだったぜ!」
     <ミネルバ>のブリッジに得意げなリッキーの声が響く。
    「ほー。瓦礫のシャワーを浴びてビービー泣いてたのは,どこのお坊ちゃんだったかねぇ?」
     タロスがわざとらしくのんびりとした口調で横槍を入れる。
    「!?……だ,誰が泣いてたって!?冗談言うない!…そりゃ,ちょっとばかし驚いて声を上げたかもしれないけどさ…。でもっ,絶対ビービーなんて泣いてねぇぞっ!」
     途端にリッキーが反論する。
     確かに,焦って多少涙目になったような気もするが,その辺は”男の沽券”に関わるので,きっぱりと否定しておかなければならないところなのだ。
    「あらぁ,情けない声を出して,あたしの腕にしがみついてきたのは誰だったのかしら?」
     アルフィンの良く通る声が,さらりとリッキーの主張を挫く。
    「アルフィンっ!!」
     どうにもこうにも二の句が継げず,結局リッキーは恨みを込めてアルフィンの名前を叫んだ。
    「なによう。そんな大声出さなくたって,ちゃんと聞こえてるわよう。ただでさえ瓦礫のせいで頭が痛むってのに,響くからよしてよ!」
     アルフィンがシートから振り返りながら恨めしそうに言う。
    「………」
     そう言われると何も反論できず,リッキーはぐうっと喉を詰まらせた。
     タロスが大きな身体を器用に震わせているのが視界に入ったが,これ以上噛みついても墓穴を掘るだけなのは明らかだった。
     リッキーは誰にも聞こえないように,ちくしょうっと呟いた。
    「アルフィン,頭が痛むのか?」
     それまで黙ってメンバーのやり取りを聞くともなしに聞いていたジョウが,初めて口を挟んだ。
    「うん,…ていうか,痛むのは全身なんだけど…」
     アルフィンは情けない表情をして,小首を傾げてみせた。

     アラミスを経由して届いた今回の依頼は,プルトニウムを主原料とするエネルギー物質の輸送だった。
     とある企業が宇宙ステーションの建設にあたり必要としたものだ。
     プルトニウム系のエネルギーは,かつては全燃料の主要な地位を占めていたが,その毒性の強さから次第に影を潜めていった。
     エネルギーとしての効率は良いものの,容易に発火する性質とその爆発が及ぼす影響の大きさは,些細なことが命取りになる宇宙開発事業においては必然的に敬遠されるものとなっていったのだ。
     今回,そのプルトニウムを敢えて使用しようという宇宙ステーションは,宇宙動物保護団体によって絶滅種に指定されている動物の保護と,種の存続を目的とするための施設である。
     保護されてきた,あるいは保護してきた絶滅種の個体から遺伝子を取り出し,クローン技術と人工授精などの交配措置を軸として,絶滅の危機から救おうという研究チームが組まれたのだ。
     ひとくちに絶滅種といっても,それらの生息する環境は当然のごとく様々で,灼熱の大地を住処とするものもいれば,万年氷のクレバスで一生を過ごすものもいる。
     それら全ての動物たちに適合する環境を作り上げるには,莫大な燃料が必要になってくる。
     現在の宇宙開発事業で主として使用されているエネルギーは,安全性こそ高いものの,掛かるコストもかなりの高さである。
     そこで注目されたのが,比較的安価なかつての主燃料であったプルトニウムだったのである。
     危険物の輸送などもクラッシャーの仕事の一つだが,今回ジョウのチームが選ばれたのにはもう一つの理由があった。
     その宇宙ステーションの建設反対を訴える宗教団体の存在である。
     『真の動物保護を求める会』と銘打ったその団体は,危険を承知でプルトニウムを使用する施設に,貴重な絶滅種を”閉じこめ”て,”実験”しようとするという事に対し,猛抗議してきたのだ。
     再三に渡り,文書での抗議を送りつけ,マスコミを煽り,宇宙動物保護団体の本部前でデモ行進し,いかに”彼ら”が非人道的な行いをしようとしているかを訴え続けてきたが,ことごとく上からの圧力によって制されてしまった。
     一時的におとなしくなったように見えた『真の動物保護を求める会』のメンバーだったが,実は脈々と次の手段を練っていたのだ。
     つまるところ,実力行使に出ようというのである。
     いつの時代も”確信犯”が一番厄介だという事に変わりはない。彼ら独自の道徳的観念に基づき,自らの正義を信じて捨て身の行動を取る。
     「我々は『弱者を救う正義の戦士達』と結託した。これ以上宇宙ステーションの建設を進行しても,貴君らが持ち込もうとしているプルトニウムの核爆発によって,全て宇宙の塵と消えるであろう」
     テロの予告とも取れる,この声明書,あるいは脅迫文が届けられたことにより,アラミスはAAAランクのジョウのチームを適任と判断したという訳である。
     
     果たしてジョウ達は,『弱者を救う正義の戦士達』という名の宇宙海賊の一派の攻撃に遭遇することになる。
     タロスの言うところの”瓦礫のシャワー”は,ジョウ達が銃撃から身を隠すために逃げ込んだターミナルの上から爆弾を喰らった事による災難だった。
     辛くも爆撃によって生じた穴をつたって地下通路に抜け出し,4人は<ミネルバ>へと帰還し,<ファイター>との連係プレーで敵を撃退したのである。

     件の宇宙ステーションは,目的が目的であったし,プルトニウムを使用するという事で,建設される場所もいわゆる”辺境の地”であった。
     途中,燃料補給に立ち寄れる惑星もなく,ワープを使用しない”省エネ”航行を余儀なくされている。おかげでジョウ達は逸る気持ちをムリヤリ抑えて,のんびりと帰途についている次第である。
     往路ではちょうど2週間掛かったが,復路は今日が15日目の航行である。
     宇宙海賊との激しい戦闘の後だけに,こののんびりとした航行は苦痛を感じるほど退屈な時間であった。
     しかし,それも後数時間で終わりである。
     もうすぐ依頼主への報告を終えて,休暇に入れるという思いが,ジョウ達の心も体も軽くする。
     一番若いリッキーが,浮かれてはしゃいだ発言をするのも無理はない。
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