| きっと俺は、今、すばらしく幸せな男に違いない。
追いかけて、強奪して、向かった先はこの小さな教会。
まさかこんなサプライズパーティを実行するとは知りもしなかっただろう。 いきなりの事だったから周りの人間も迷惑なやつらだと思っただろう。 かまやしない。 彼女が、もうどこへもいかないと、神の前で宣言するのなら。 カッコ悪くても、情けなくても、泣いて縋るほど落ちぶれちゃいない。なんて、まだ青いね、俺も。 だがしかし、一番の家族が祝ってくれる。 俺にとっても、彼女にとっても、それが何よりと思う。あいつらがいて、2人がいる、そのことが。
神と誓いながら、以前彼女が、幸せな笑顔を振りまく花嫁の姿を、どこかの町のちいさな教会で見かけたとき、とてもうらやましそうな顔をしていた事を思い出す。
ああ、確か、そのときは まだ 彼女に 愛していると 伝えていなかったかもしれない
そんな感傷はライスシャワーのつぶてにかき消される。 となりで幸せそうに微笑む彼女は、そのときの花嫁の何十倍もきれいだと、心の中でつぶやく。
なぜもっと早くに彼女にこんな表情をもたらせてやれなかったんだろう。 どうして、一度手を離したりしたんだろう。 なぜ、彼女が居ない日常を送ろうとしたんだろう。 すべては俺のふがいなさだ。 彼女の涙にはどうしていいかわからない。 彼女の微笑みにはどうしていいかわからない。 彼女が苦しむ姿は見て居られない。 この手から離れて行くのを、力強く飛び立とうとする翼を、ともに持つことに、どうして躊躇したんだろう。
いや。
あの日々がなければ、きっと。 俺は。 ここに立つことすら許されなかったのかもしれない。
−うばいとったんだから、生涯離すんじゃないわよ− 当たり前だ −幸せにしてやってくださいよ− そのつもりさ −まったく。もっと早く踏ん切りつけりゃいいのにさ− わるかったな
いつのまにか隣から離れ、談笑の渦に巻き込まれていた俺の花嫁がそっと俺の横に帰ってきた。 きゅっと俺の手を握り締めた。 隣に居る俺にしか聞こえないくらいのちいさな声で。
ありがとう
そうつぶやいた。
ありがとう、そんな台詞は俺がアルフィンにいわなくちゃいけない。 ありがとう、こんな俺を選んでくれて。 なんだかんだともてはやされていたけれど、なんてこったない。 自分の気持ちを表現することすら知らなかった大馬鹿者だったのさ。 両手に持ちきれないくらいの色々な感情を、どうやって吐き出せばいいのかなんてことすら知らなかったのさ。 彼女を手離すまで。
何年の月日を無駄に過ごしてきたんだろう。 幾千粒の涙を流させてしまったんだろう。
でも、今流す、きらきらと零れ落ちる雫は、あのころのような哀しみのものではないんだろ?
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