| 機転をきかせたミミーのおかげで消えた花嫁は、人の眼にさらされずにすんだ。 われながら、よくもまあ、やってしまったと思う。 用意周到さは、父親に似たんだろうが、たまにかいま見る無謀な血は母親ゆずりなのか? そうしたら、俺とアルフィンの子供はどうしようもない無謀な血を受け継ぐんじゃなかろうか、などと、馬鹿な事を考え、よくよく考えて一人赤面しながら花嫁を迎えに行く。 あとは、明日、どんなお小言も、どんな罵詈雑言も甘んじて受ける心境を抱くことに切り替え、ドアを開け中を見回した。 部屋の片隅に置かれた年代物の長椅子で、猫のようにしなやかな肢体を預け、肘掛けに腕を置いて顔を隠すように眠る彼女を見つけた。
きっと今日のこの日は数年前からのアルフィンの中では夢に描いていたんだろう。 幾度となく、頭のなかでリフレインしては頼りない俺にため息をつき、それでもつきあってきてくれていたんだろう。 もう見果てぬ夢だと、お互いが手放した事、それは彼女のせいじゃない。 そうして、それを後悔する事も俺も彼女もこれから先もしないだろう。 きっとそれは俺たちにとっては必要なことだったのだろうから。 特に、煮え切らない、俺には。
自嘲気味に苦笑いをすると、彼女の漏れる吐息でわれに返る。 あまりにも急速な展開についていけなくなって疲れたか? そりゃそうだろうな。
転がり落ちたティアラを拾い上げ、乱れた金髪を少し整える。 ふいにひとつ、気に入らない事がある事を思い出した。 このドレスはほかの男に見せるために彼女が選んだのだろう。 そいつはこの姿をみたのだろうか。 眼を覚ましたら、アルフィンに聞いてみよう。
みなが待つ、「我が家」へ帰る為。 彼女が望む果てしなく目くるめく冒険の日々を再び手に入れる為。
眠る彼女をそっと抱き上げ、薄く閉じた唇に約束のくちずけを再び落とした。
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