| オーガンジーのベールに真珠のティアラ、サテン地のウエディングドレスに揃いの手袋、白を基調とした清楚な花々のブーケ。 ジョウの花嫁となるべく選んだ品々が目の前にずらりと並んだ教会の奥にある花嫁の控室に、アルフィンは居た。 どれも思い入れのある品々、ジョウの花嫁になる時を夢見て密かに集めてきた物。 スタイリストが艶やかな黄金の髪を櫛に取りながら結い上げてゆく。 ペチコートを付け、自らがデザインしたウエディングドレスに身を包む。 上半身はシンプルで大きく肩が開いている。 無駄が無くアルフィンの綺麗な肢体を余すところなく表現していた。 腰から下は大きく膨らんで後ろは長いトレインがある。 それでも全体としてすっきりとした印象のあるドレスだった。 次に粒の真珠で作り上げた小さなティアラが黄金の髪に付けられた。 その上からベールが付けられ顔の前に降ろされた。 このベールを上げた時、アルフィンはジョウの花嫁になる。 手袋を嵌め、薄化粧を施し最後にうっすらと紅いルージュを引いた。 「お綺麗ですよ」 スタイリストはお世辞ではなく今まで手がけた花嫁の中で一番綺麗に思えた。 象牙で造られたかのような白い肌、黄金色の艶やかな髪、青く澄んだこの世に二つとないサファイアの瞳。 その全てが白いウエディングドレスに一層映えた。 「もう仕度は出来たみたいだな」 「お父様、お母様」 扉を開けて入ってきたハルマン三世とエリアナの姿を見てアルフィンはベール越しに微笑んだ。 「綺麗だよ、アルフィン」 「ありがとう、お父様」 「幸せにね、アルフィン」 「はい、お母様」 三人の間に暫し言葉を超えた沈黙の時間が流れた。 これからの幸せを願う父母の想いと育ててくれた感謝の娘からの想い。 アルフィンは立ち上がって傍に寄ると両手で二人を抱きしめた。 「あたしを産んでくれて育ててくれてありがとう、絶対に幸せになるからね」 愛娘の言葉に二人は黙って頷いた。 「そろそろお時間ですよ」 スタイリストがアルフィンに声を掛けた。 「行こうか?」 「はい」 ハルマン三世の腕をアルフィンはそっと取った。 娘から妻になる花嫁を花婿に渡すのは父として少々癪だが、今のアルフィンは何処に出してもおかしくない宇宙一の花嫁と言えよう。 その娘と二人、控室から礼拝室の外の廊下まで歩いてきた。 列席者は既に礼拝堂の中に居るようだ。 「幸せか?」 今一度嫁ぎ行く娘に父として尋ねた。 「うん、とっても」 花が零れるような笑顔を見せてアルフィンは父に微笑む。 「そうか。それならいい」 娘の笑顔に安心したようにハルマン三世は正面に向き直った。 パイプオルガンが奏でる荘厳な音楽が鳴り響き、正面の重厚な扉がゆっくりと開いた。 赤い絨毯のヴァージンロード。 その先には愛するジョウが心持ち緊張した表情でこちらを見ている。 「お父様、ゆっくり歩いてね」 「ああ」 父と礼拝堂に向かって一礼をし、ゆっくりと足を踏み出した。 ハイヒールが歩きにくいわけじゃない。 アルフィンはこれまでの思い出を噛み締めながら歩きたかった。 父の大きな腕にぶら下がるのが大好きだった。 退屈を持て余しよく王宮を抜け出しては、両親を心配させた。 熱を出した時は氷枕を何度も換えて一晩中傍に居てくれた。 友達が欲しくて都内の学校に行きたいというわがままも叶えてくれた。 そしてクラッシャーになりたいという一番のわがままを何も言わず送り出してくれた。 もし、あの時両親が後を押してくれなかったらきっと今日のこの日は来なかっただろう。 どんなに感謝しても足りないが、一歩ずつジョウの元に近づいて行きながらアルフィンは心の中で何度も感謝と御礼の言葉を呟いた。 「娘をよろしく頼む」 ジョウの傍にやって来てハルマン三世はアルフィンの腕を取り、ジョウの手に愛娘の手を渡した。 「はい、必ず幸せにします」 少し緊張気味の声でジョウはそう答えた。 アルフィンは今、最高に幸せな時を噛み締めていた。
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