| ドクン、ドクン。 何の音だ?自分の体内から聞こえるこの音は。 ああ、自分の心臓の鼓動が聞こえてくるのか。 いつも意識して聞いているわけじゃないが今日はやけに大きく感じる。 本当なら目の前の神父が言う言葉の方が大きく聞こえるはずなのにそれが遠くに聞こえる。 返事をしている自分が他人のように感じた。 自分で思っているよりかなり緊張しているみたいだ。 こんなに緊張するなんて久しぶりだ。 彼女が傍に来るまでは大丈夫だったのに、手を取ったその時から急に四肢が緊張で固くなるのが分かった。 燕尾服の下もじっとり汗ばんでくるのが分かる。 こういう形式ばった式は苦手だがそれでも俺ひとりならこんなに緊張することはない。 情けないが傍に居る彼女の言葉に出来ない程の美しさに逆上せ上がったというのが本音だろう。 今更ながらにアルフィンに惚れ込んでいる自分にジョウは内心苦笑した。 それでも式は淡々と進みリハーサルどおり誓いの言葉を言って指輪の交換をした。 少し震えていたのを彼女に気付かれただろうか。 神父が誓いの口付けをするように告げた。 その言葉に小さく唾を飲み込んで俺はアルフィンを見た。 美しいその姿を隠したベールの裾を掴んで上げると、彼女の後方に下ろす。 現れたのは煌く黄金の髪に青い宝玉を宿した俺だけの女神。 その瞳に溺れそうな感覚を抑えて、俺は軽くアルフィンの唇に口付けた。 クラクラと痺れるような幸せな眩暈。 神父が結婚の宣誓を言い終えるとアルフィンが俺の顔を見上げて腕に手を回した。 満足そうな微笑に俺もつられてほんの少し微笑んだ。 二人で礼拝室の出口へゆっくりと歩きながら向かう。光が溢れる礼拝室の中で彼女の存在がなお一層輝いて見えた。 両側の参列者が、祝いの言葉と拍手で俺達を祝ってくれる。 「おめでとう」「幸せに」そんな心からの言葉がとても嬉しかった。 表のアプローチに出てアルフィンがブーケを投げると手に取ったのは親父だった。 あの場合、頭の上に落ちてきたと言った方がいいだろう。 苦笑しながらも軽くブーケを持つ手を上げてアルフィンを見た。 アルフィンはそんな親父の姿を満足そうに微笑む。最初から彼女は狙っていたようだ。 教会の前で記念写真を済ませるとタロスとリッキーに揉みくちゃにされて何時の間にかアルフィンと離れてしまった。 彼女は両親と歓談しているので笑顔が絶えない。 ふと、視界の片隅に親父が墓地に上がっていくのが見えた。 その後姿に惹かれるように俺はアルフィンを置いて親父の後を追った。
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