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■743 / inTopicNo.1)  空の楽園
  
□投稿者/ 璃鈴 -(2004/06/13(Sun) 14:30:56)
    ドクン、ドクン。
    何の音だ?自分の体内から聞こえるこの音は。
    ああ、自分の心臓の鼓動が聞こえてくるのか。
    いつも意識して聞いているわけじゃないが今日はやけに大きく感じる。
    本当なら目の前の神父が言う言葉の方が大きく聞こえるはずなのにそれが遠くに聞こえる。
    返事をしている自分が他人のように感じた。
    自分で思っているよりかなり緊張しているみたいだ。
    こんなに緊張するなんて久しぶりだ。
    彼女が傍に来るまでは大丈夫だったのに、手を取ったその時から急に四肢が緊張で固くなるのが分かった。
    燕尾服の下もじっとり汗ばんでくるのが分かる。
    こういう形式ばった式は苦手だがそれでも俺ひとりならこんなに緊張することはない。
    情けないが傍に居る彼女の言葉に出来ない程の美しさに逆上せ上がったというのが本音だろう。
    今更ながらにアルフィンに惚れ込んでいる自分にジョウは内心苦笑した。
    それでも式は淡々と進みリハーサルどおり誓いの言葉を言って指輪の交換をした。
    少し震えていたのを彼女に気付かれただろうか。
    神父が誓いの口付けをするように告げた。
    その言葉に小さく唾を飲み込んで俺はアルフィンを見た。
    美しいその姿を隠したベールの裾を掴んで上げると、彼女の後方に下ろす。
    現れたのは煌く黄金の髪に青い宝玉を宿した俺だけの女神。
    その瞳に溺れそうな感覚を抑えて、俺は軽くアルフィンの唇に口付けた。
    クラクラと痺れるような幸せな眩暈。
    神父が結婚の宣誓を言い終えるとアルフィンが俺の顔を見上げて腕に手を回した。
    満足そうな微笑に俺もつられてほんの少し微笑んだ。
    二人で礼拝室の出口へゆっくりと歩きながら向かう。光が溢れる礼拝室の中で彼女の存在がなお一層輝いて見えた。
    両側の参列者が、祝いの言葉と拍手で俺達を祝ってくれる。
    「おめでとう」「幸せに」そんな心からの言葉がとても嬉しかった。
    表のアプローチに出てアルフィンがブーケを投げると手に取ったのは親父だった。
    あの場合、頭の上に落ちてきたと言った方がいいだろう。
    苦笑しながらも軽くブーケを持つ手を上げてアルフィンを見た。
    アルフィンはそんな親父の姿を満足そうに微笑む。最初から彼女は狙っていたようだ。
    教会の前で記念写真を済ませるとタロスとリッキーに揉みくちゃにされて何時の間にかアルフィンと離れてしまった。
    彼女は両親と歓談しているので笑顔が絶えない。
    ふと、視界の片隅に親父が墓地に上がっていくのが見えた。
    その後姿に惹かれるように俺はアルフィンを置いて親父の後を追った。
引用投稿 削除キー/
■744 / inTopicNo.2)  Re[1]: 空の楽園
□投稿者/ 璃鈴 -(2004/06/13(Sun) 14:31:41)
    なだらかな丘陵地には緑の芝生と木々の梢をそよ風がやさしく撫でてゆく。
    細い石畳を上って整列と並んでいる墓碑の一つにダンは足を止めた。
    亡き妻の墓碑の前に先程嫁となったアルフィンから受け取ったブーケを置いた。
    ただ何も言わず墓碑を見つめながら佇むその姿にジョウは近くまで行くと声を掛けた。
    「何話してるんだ、お袋と?」
    「お前には関係ない」
    墓碑から目を逸らさずにダンは返答した。
    ジョウも相変わらずのダンの態度にそれ以上聞かずに黙ってダンの傍に立ち墓碑を見た。
    母親の名の記された墓碑は他の墓碑と違って美しく清掃されていた。
    風雪に晒された年月の経過は感じられるが、それでも大事にしているのは一目で分かった。
    ジョウがここへ来た記憶はニ、三度しかない。
    生まれてすぐに亡くなった母親の記憶なんて無いに等しい。
    それでも母親の面影を求めた時期もあった。
    「私はもう行くが、お前はどうするんだ?」
    ふいにダンがジョウに声を掛けた。難しそうな表情はジョウの父親から既にクラッシャー評議会議長の顔に戻っていた。
    「もう少しここにいる」
    「花嫁の傍に居なくてもいいのか?」
    「・・・すぐに帰る」
    少々不機嫌になったジョウの言葉にも臆することなくダンは振り返らずにゆっくりと去っていった。
    父親に自分の妻の心配をされて少なからず嫉妬心を覚えた。
    義理の親子の仲が良いのはいいことだが、自分より仲が良さそうに見えるのはちょっと癪に障る。
    こんな男の虚栄心をきっと彼女は知らないだろう。
    一人、母親の墓碑を前にして佇むジョウに穏やかな初夏の日差しが木陰の隙間から降り注ぐ。
    「酷いわ、ジョウったら一人でお義母さまの所に来るなんて」
    ちょっと拗ねたような彼女の声が聞こえてふと慌てて振り返った。
    下からウエディングドレス姿のままアルフィンがこちらにやって来た。
    両手でドレスの裾を一杯に持っている姿が妙におかしい。
    「着替えてくればいいのに・・・」
    「いやよ、せっかくお義母さまにも見ていただこうって思ってたんだから」
    アルフィンが抱えた裾を降ろしてドレスを広げて皺になった部分を整える。
    ジョウはその姿を黙って見ていた。
    「うん、バッチリ」
    満足したのかアルフィンは顔を上に上げてジョウの顔を見た。
    微笑んでジョウの腕に自分の手を回す。
    「お義母さま。今日、貴方の息子さんと結婚式を挙げました。これから二人で力をあわせて生きていきます。だから安心してくださいね」
    アルフィンの言葉にジョウの視界が何時の間にかぼんやりと歪んでいく。
    母親の墓碑が涙で霞む。
    やがてその雫は頬を伝って零れ落ちた。
    「大の大人が情けねえ」
    ジョウは照れ隠しをするように燕尾服の袖口でグイと涙を拭った。
    「ジョウ、情けなくなんかないわ。あたしはジョウの全てが好きなの。怒ってる貴方も、笑ってる貴方も、泣いている貴方も全てが愛しいの。だから私の前では自分を隠さないで」
    頬に手を当てる手袋越しにも彼女の暖かさが伝わってくる。
    アルフィンの青い瞳が晴れ渡る空を映したようにキラキラと輝く。
    まるで楽園へ誘う道標のように。
    「愛してるわ、ジョウ」
    「俺も・・・」
    頬寄せる彼女を抱きしめてジョウはその柔らかい唇に口付けた。
    アルフィンの腕がジョウの首に廻される。
    空渡る風が二人を優しく包みこんでゆく。
    彼女がくれる幸せが自分にとって最上の幸せだということをジョウは改めて感じた。
    長い口付けの後、ジョウは何か吹っ切れたかのように墓碑の方に向き直った。
    穏やかな笑顔にアルフィンは黙って傍に立つ。
    「また来るよ」
    ジョウはその一言だけ言ってアルフィンを抱き上げる。
    「きゃあっ」
    いきなりの行動にアルフィンは悲鳴をあげた。
    「びっくりするじゃない」
    「早く帰らないとみんなが心配してるだろ?」
    「それならそう言えばいいじゃない」
    ちょっと剥れてアルフィンはジョウから顔を逸らした。
    「その方がアルフィンらしい」
    小さく呟いたジョウの言葉が聞き取れずアルフィンは聞きなおしたが、ジョウは何も言わずにただ笑いながらアルフィンを抱きかかえて墓地を後にした。
引用投稿 削除キー/
■745 / inTopicNo.3)  Re[2]: 空の楽園
□投稿者/ 璃鈴 -(2004/06/13(Sun) 14:37:04)
    □あとがき

    今回もやっぱり短いっ!
    JさんサイドのSSになりました。
    私ったらJさんを泣かせたくてあれこれ考えてましたから(笑
    本当はこんなに涙もろくないかもしれませんがそれはちょっと目を瞑ってくださいましv
fin.
引用投稿 削除キー/



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