| 「……………」 ゆっくりと開いた瞳に眩しい部屋の灯りが飛び込んでくる。 ジョウは思わずもう一度ぎゅっと眼を閉じた。 (ああ…灯りを点けたまま眠っちまったのか…) うまく動かない頭でぼんやりと考える。まだ眠い。 (もう少し寝ても大丈夫か……) 改めて寝直そうと,無意識に身体を動かそうとする。 が。 「……………」 妙に痺れている左腕に小さな金髪の頭がひとつ。 「!?」 瞬時に意識が覚醒する。 あまりの衝撃に心臓が止まる。 (なんだこれは) 愕然としながらも,不自然なほど冷静に脳の一部が考えている。 (………アルフィン……だよな…) 他の可能性などあるはずもない。 一度深く息を吸って,気持ちを落ち着けようとする。 が,鼻腔をくすぐる甘い香りに,再び頭がじんと痺れる。 「……………」 暴走しそうな「何か」をジョウは本能的に自制する。全身から汗が噴き出してくる。 (確か報告書を書き終えて,ちょっと仮眠を取ろうと横になったんだよな…) 余計な事を考えまいと,ジョウは記憶を反芻する。 (あの後……,そう言えばアルフィンの声を聞いたような…。でもアレは夢じゃなかったのか……?) じわじわと蘇る記憶に,ジョウの顔からさあっと音を立てて血の気が引いていく。 (………どうすればいいんだ?) 気持ちはどんどん焦っていく。それでもどこか冷静に思考している自分がいる事を,さらに客観的に見ている自分が認識している。 分裂気味の「自分」を統一しようとジョウは懸命に精神統一を図る。 (………よし) 呼吸を整えて,まずアルフィンの身体に回っている腕と脚を解除しようと力を込めた。 強張った筋肉は思うように動かない。二人を覆う一枚のシーツがひどく重く感じられる。 どうにか右腕と右脚を自分のもとに回収するが,小さい頭が乗った左腕はびくとも動かない。いや,正確には動かせない。 それでもなるべく身体をアルフィンから遠ざけようと試みる。 二人の間にわずかな隙間が出来る。 既にジョウは全身汗まみれである。 ようやく露わになったアルフィンの顔を,ジョウはこっそりと覗き見る。 「…………」 ぴたりと閉じられた瞳を縁取る睫毛が長い。 潜り込んでいたせいか,微かに頬が上気して滑らかな白い肌をほんのりとピンク色に染めている。 ジョウは無意識に頬に掛かる金髪をそっと掬うように右手を伸ばしていた。 現れた綺麗な輪郭をジョウはゆっくりと目でなぞる。 夢見るように微笑みを浮かべた可愛らしい唇の上でジョウの視線が止まる。 もう一度右手を伸ばし,その親指で軽く柔らかな唇に触れてみる。 ジョウはふと息苦しさを覚える。 いつの間にか呼吸を止めていたらしい。 途端に動悸が激しくなる。 そんな自分にジョウは少し動揺する。 (何やってんだ,俺は……) 急激に羞恥心が湧き起こり,ひとりで顔を赤らめる。 アルフィンの頭を乗せた左腕はそのままに,ごろんと仰向けになってみる。 天井の眩しい照明がジョウの瞳に飛び込んで,更に意識を覚醒させる。 白い光はジョウにいつもの冷静さを取り戻させた。 (灯りを消してたらヤバかったかもな…) 冷静になって振り返ると,内心冷や汗ものである。 (それにしても) ジョウはちらりとアルフィンに視線を遣る。 俺だって男なんだけどなぁ…と小さく溜息を吐いてみた。 あまりにも無防備というか,警戒心がないというか,嬉しいような嘆かわしいような複雑な気分である。 ふっと軽く笑って,ジョウはもう一度天井に向かって溜息を吐いた。
リッキーは自室で大口を開けて爆睡している。 ブリッジではドンゴに操縦を任せたタロスがシートにもたれたまま眠っている。 アルフィンはジョウの腕枕でクリスマスデートの夢を見ている。 すっかり眠気の取れてしまったジョウは左腕奪還に悪戦苦闘するはめになっていた。
=Very Merry Christmas !! =
-fin-
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