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■883 / inTopicNo.1)  Trouble with women -another episode-
  
□投稿者/ 香夏 -(2005/05/12(Thu) 22:42:35)

     タロスはコーヒーを淹れにキッチンへ向かおうと、廊下へ出た。
    と、突き当りのリビングから何かが割れる音が聞こえた。
    首をめぐらすと、リビングのドアの前に小柄な影が見える。
    「どうした?リッキー」
    その姿に訝しげに声をかけて、近づいた。

    「あ、タロス」
    リッキーは振り返り、ほっとした表情を浮かべて言った。
    「よかったー。今どうしようか悩んでたんだ。いや、リビングが騒々しいから来てみたらさあ」
    ちら、とリビングのドアに視線をやる。
    「なんだかまた兄貴とアルフィンが、もめてるみたいなんだ」
    ああ?とタロスは小柄なリッキーをどけて、リビングに向かおうとする。
    「い、いや!やめといた方がいいよ!今日のはまた一段と激しいんだ!あぶないよ、命にかかわる」
    「まじか?そんなにすげェのか?」
    「ああ。今日のは度を越してる。俺らもここで10分以上機会を伺ってるけど、とても入れないよ」
    命知らずのクラッシャー達とは思えない、ふたりの怯えようであった。
    中からまた派手な音が聞こえた。かなり重いものまで投げているに違いない。
    それにアルフィンの甲高い罵り声が重なる。

    そこへ今度はドンゴがキャタピラをシャリシャリといわせながら、近づいて来た。
    「キャハ?フタリトモ何ヤッテルンデス?」
    ふたりは同時に振り返り、こいつがもしかしたら仲裁に入れるかも、と目を輝かせた。
    「ド、ドンゴ。いいとこに来た。ちょっとリビングのふたりの様子を見に行ってくれないかなあ?」
    リッキーが伺うように、ロボットに愛想笑いをした。
    「フタリノ様子?」
    「ああ。ちょっとジョウとアルフィンがな。もめてんだ」
    タロスも凄みのある顔を情けなさそうに歪めて、笑った。
    「マタデスカ?ソレハイクラワタクシデモ、ドウニモ対処デキカネマス」
    ドンゴは迷惑そうに、あっさりと断った。
    「男女ノ関係ハ、ワタクシノ優秀ナ頭脳ヲモッテシテモ、解決デキマセン」
    「わかったようなこと、ぬかしやがって」タロスが毒づいた。

    「ソレニじょうニハ、『女難ノ相』ガミラレマス」
    「へ?」ふたりが声を揃えて聞き返した。
    「キャハ。ワタクシ最近、ぎゃらくしーほろすこーぷヤふぃじおぐなみーニ凝ッテマシテ」
    「ふぃじおぐなみー?ってなんだよ?」
    リッキーが聞きなれない言葉にとまどう。
    「りっきーノ頭デモ分カルヨウニ言ウト、人相学デス」
    ドンゴがもったいぶって説明した。
    「じょうハ生年月日、オヨビ人相学的ナ見地カラミテモ、仕事運ヤ総体運ハスコブルイイノデス」
    「ほお」タロスとリッキーは顔を見合わせて、感心する。
    「但シヒトツダケ。『女性運』ダケハ、決シテイイトハ言エマセン」

    「俺ら、それよく分かる気がするよ」
    リッキーは腕組みして、何度も大きく頷いた。
    「確かに兄貴って、モテるけどさあ。寄ってくる女性がちょっと面倒っぽいんだよねー」
    もっともらしく顔を歪めて言う。
    「へっ。ガキのおまえなんか寄ってこられる以前の問題だから、そんな悩みもなくていいやな」
    タロスが嘲笑うように目を細めた。
    「なんだよ!タロスだって、そんな顔してエラそうに言うなよ!」
    リッキーが前歯を剥き出して、喚いた。


引用投稿 削除キー/
■884 / inTopicNo.2)  Re[1]: Trouble with women -another episode-
□投稿者/ 香夏 -(2005/05/12(Thu) 22:45:28)


     と、突然リッキーは思いついたように、ドンゴの方に首をめぐらす。
    「それって、俺らたちのことも調べられんの?」
    「勿論デス。ワタクシノ豊富ニ蓄積サレタでーたト照合スレバ、問題アリマセン」
    ドンゴが胸をはって答えた。
    「じ、じゃあ、俺らの『女性運』ってどうかなあ?」
    彼らしくもなく、頬を少し赤らめながら訊く。

    ドンゴの頭部のLEDランプが一時激しく点滅した。
    しばらくした後、結果がでた。
    「キャハ。りっきーノ生年月日オヨビ人相学的見地カラミルト、ソンナニ悪クハアリマセン。大キナ障害モナク、恋愛モ順調ニススムデショウ。但シ、ソレハ身長ガ170せんちヲ越エタ場合」
    「ほんとかよ!?やったぜ!」リッキーは指を鳴らして単純に喜んだ。
    「アホ。身長が170センチを越えたらだろ?ドンゴ、その可能性は?」
    小躍りしているリッキーを尻目に、タロスが腕組みして冷静に訊いた。
    「キャハハ。りっきーノ身長ガ170せんちヲ越エル可能性ハ、今ノトコロ16ぱーせんと」
    なんのためらいもなく、無情にもドンゴはきっぱりと答えた。

    「なんだよ!それ!」リッキーが目を剥いて喚いた。
    隣ではタロスが腹を抱えて、大笑いしている。
    「くっそお。じ、じゃあ、タロスの『女性運』はどうなんだよ!?」
    リッキーは苦し紛れにドンゴに向かって喚いた。

    「よせ、ドンゴ。俺のはいい」
    タロスがあわてて止める。しかし、すでにドンゴのLEDランプは点滅し始めていた。
    「いいじゃん。今までの様々な事柄を思い出して反省してみるってのも、悪くないよ。タロス先生」
    リッキーが仕返しをしようと、意地悪く促した。
    と、ドンゴが得意気にしゃべり始める。
    「たろすノ女性運ハ、驚クホドイイデス。相性ノ良イ女性ニ恵マレ、幸セナ恋愛ガススムト思ワレマス」
    意外な結果に、リッキーがどんぐり眼を見開く。
    「ほんとかよ!?だって、今は女の影も形もないんだぜ?」
    「ほっとけ!」
    柄にもなく、顔を赤らめタロスがリッキーの頭をこづいた。
    そうしながらも、そんなにいい思いはあんましした覚えはねえけどな、と独りごちる。
    そんなタロスの思惑をよそに、ドンゴが説明を加えた。
    「シカシ、今ノ結果ハたろすガ大事故ニ遭ウ前ノ人相カラ、ハジキダシテイマス。現在ノ人相デハ、ワタクシノ豊富ナでーたヲ持ッテシテモ解析不能。キャハハ」

    ふたりはお互いの顔を見合わせた。
    そして胡散臭そうに、チームメイトのロボットを見下ろす。
    「なんだか随分といい加減な答えだぜ」
    タロスが凄みのある顔で、睨みつける。
    「ほんと。ちゃんと全てのデータが揃ってんのかよ!」
    ふたりで同時に合金のボディを蹴った。
    たまらず、ガシャガシャとドンゴが廊下に倒れる。
    「キャハ。訊カレタカラ、答エタノニ」ぶつぶつと呪いの言葉を吐き出している。

    「まあ、それよか自分のことを心配した方がいいな」
    タロスが面白そうに目を細めて、リビングの方に顎をしゃくった。
    「あそこの片付けをさせられるのは、目に見えてる」
    「そーだよ!もう30分以上、やってるかんね!リビングめちゃくちゃだよ、きっと」
    リッキーも面白そうに後を引き継いだ。
    「キャハ。ワタクシメニ依頼ガクル可能性・・・」
    ドンゴが冷静に自己状況分析を始める。
    「99ぱーせんと」

    ふたりのクラッシャーは申し合わせたように、吹き出した。
    「やっぱりねー!修理に必要な工具、出しといたほうがいいぜ」
    リッキーが片手をひらひらと振りながら、片目をつむって言った。
    「まあ、最後の1パーセントを神に祈るんだな」
    タロスも口の端をにやりと上げて、ドンゴを見下ろした。

    「キ、キャハハ。ソウダ。格納庫デノ仕事ガ残ッテイタッケ・・・」
    あわててドンゴは方向転換をして、廊下を走り出した。
    いつのまにか、キャタピラを車輪走行に変えている。
    ドンゴの擬似思考回路は機械史上はじめて、『神』に祈っていた。

    しかしそんなドンゴの願いは『神』へは届かなかった。
    −リビングを完全に元通りにするのに銀河標準時間で8時間がかかった。


    <END>

fin.
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