| 昼食の後、ジョウが今度の仕事の報告書を書くと言うので、タロスとガンビーノは〈ミネルバ〉のリビングに集まった。 先にソファの一画を占領していたジョウは、ローテーブルの上に何やら広げて、しきりに呻っている。 タロスとガンビーノは、顔を見合わせた。 「あ、二人とも、ちょっとこれを見てくれよ」 二人はソファに腰を下ろすと、それぞれテーブルを覗き込んだ。 「こいつぁ、報告書ですかい?」 怪訝な顔で、タロスが訊いた。ジョウは頷くと、ガンビーノの方を顎でしゃくって、 「マギーが特別にないしょで貸してくれたんだ。報告書のお手本さ。ガンビーノの持ってる方が良い見本で、それでこっちが悪い見本だって」 「ほ、ほう」 と、ガンビーノは、それが癖の鳩のような奇妙な声で相槌を打つと、何気なく報告書をめくりだす。 「一つずつ読んでるとわからないけど、こうやって二つ並べて見るとスゴいよくわかるぜ。二つとも同じ仕事の報告書なんだけど、マギーが悪い見本だって言ったこっちの方は解りにくいんだ。説明が足りないっていうか、読んでても状況がなかなか思い浮かばない。でも同じところをそっちで読むと良く解るんだよ」 「へえ‥‥‥」 タロスは残っていた悪い見本とやらを手に取った。ページをめくる。 「‥‥‥“ゴウト星域の航路開拓における宇宙塵の撤去作業”‥‥‥?」 何やら記憶に引っ掛かるものを感じて、知らずタロスは首をひねった。太い指で、さらにページを繰る。 「こいつぁ‥‥‥」 読み進むうち、タロスの表情は徐々に強張っていく。タロスはガンビーノの方を盗み見た。果たせるかな、ガンビーノも似たような有様で固まっている。 まったくマギーの奴、なんてモノを寄越しやがる。 マギーの冴えた顔を思い出して、タロスは胸の内で毒づいた。 「―――マギーが、“報告書というものは他人に読んでもらうことを前提に書くものだ”って言ってたけど、その通りだと思うよ。この二つの報告書を見比べてみても、とても同じ仕事をしてるようには思えない、特にこっちの方は」 と、ジョウはタロスの持っている報告書を指さして、 「仕事を手を抜いていると受け取られかねないもんな。大ざっぱなんだよ、書き方が。そう考えると、マギーの言うとおり、報告書って大事なんだって思うよな」 しきりに感心して見せるジョウに、タロスは冷や汗が出る。 何しろ先程からジョウが悪い悪いと言っているのは、彼の父親のものだからである。 マギーの配慮で固有名詞は一切消されているが、間違いない。 このゴウト星域の仕事は、三年ほど前に、クラッシャーダンのチームとクラッシャーエギルのチームが合同で行った仕事で、無論タロスはよく覚えている。 タロスは、ガンビーノの手元へ目をやった。 タロスの持っている方がダンの報告書ならば、当然ガンビーノの方はエギルのモノのはずだ。いわゆる、良い見本である。 「‥‥‥マギーの奴」 タロスは呻った。呻り声以外、出てこない。すると、その様子に不審を感じたらしいジョウが、慌てて両腕を振り回した。 「あ、そうだ、二人とも、このことはないしょだからな! バレたらマギーが怒られるんだから!」 「心配は無用じゃ、ジョウ」 答えたのはガンビーノだった。ジョウにぎこちなく頷いたタロスへ素早く視線を投げて、白髪の老クラッシャーは、おごそかに、こう誓いを立てた。 「‥‥‥この内緒事は、わしもタロスも墓場まで持っていくぞい」
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