| エアバイクが疾走する姿を追って、小型機が高度を下げてきた。近くの岩場をレーザーが灼く。 ジョウはいくつかの方向ノズルを制御して、エアバイクを蛇行させた。 「兄貴!うまく脱出できたじゃん!」 通信機からリッキーのハイテンションな声が聞こえた。 「ちょっと!ちゃんと援護してよ!」 アルフィンが必死に捉まりながら手首の通信機に叫んだ。 「リッキー!もうすぐ仕掛けてきた爆弾が爆破する。『ガンズロック』には近づき過ぎるな」 ジョウが右手上方の<ファイター2>の赤い機体をちらりと見て言った。 「兄貴たちはどーすんの?」 「俺たちは大きく迂回して<ファイター1>が置いてある谷底に向かう。追尾されないようちゃんと援護してくれよ」 「まかせとけって!」 「ジョウ。お疲れさんでした」 タロスの凄みのある声が通信に割って入ってきた。 「お疲れのとこすみませんがね。『ガンズロック』が援軍の要請を出してるようです。通信を傍受しましたわ。もうすぐ雑魚がわらわら来ますよ」 「構わん。もうすぐ連合宇宙軍の手入れが入るさ」 「へ?」3人に声が一斉に重なる。 「それとなくバードに匂わせておいたよ。プロトタイプ・データのことは勿論伏せてな。素粒子使用の武器製造は許可がなければ違法行為だ。しかし、製造を裏付ける証拠がなけりゃ、連合宇宙軍だって介入できない。だが、今すぐ手入れが入れば『ガンズロック』の中にわんさと証拠が見つかるさ」 「ほー。これまた美味しい餌を撒いたもんですなあ」 タロスが通信機の向こうで面白そうに笑った。 「それじゃ、ゆっくり<ファイター1>で帰って来てくだせえ。おい、ボケナス!おめぇ、ちゃんと援護しろよ!」 「なんだよ!タロスこそ、上空でのたのた浮いてないで降りてこいよ!」 またいつものケンカが始まったようだ。 ジョウとアルフィンは顔を見合わせて笑い、通信機のスイッチをオフにした。
地面が割れるかと思われるような轟音の後、『ガンズロック』が火を噴いた。 連合宇宙軍の手入れを考えてジョウは研究開発ルームのある最下層部分は避けて仕掛けてきた。 −あとはバードが上手くやるだろう。 ジョウはエアバイクの針路を変えて、南側の谷の方へ向かった。 東側の地平線からは眩しいばかりの朝日が昇ってきている。 急速にごつごつした岩場が光はじめ、黒い影とのコントラストを作る。 幾く筋かの朝の光が、風になびくアルフィンの金髪をも眩しく輝かせた。 仕事を終えた安堵感からか、彼女もその陽光の降り注ぐ景色をエアバイクのシートからうっとりと眺める。 そして自分の目の前にあるジョウの大きな背中にそっと頬をつけた。碧い瞳が嬉しそうに煌く。
「ねえ、ジョウ」 「なんだ?」 ようやく安定した操縦になったのを見計らってアルフィンが口を開く。 「その・・・。ジョウにとっての『いい女』って何?」 「はあ?」 思わず間抜けな声を出したジョウの気持ちを表すようにエアバイクが激しく揺れる。 「あん、もう。ねっ、ちゃんと答えてよ!」 アルフィンが振り落とされないように捉まりながらも片手でジョウの背中を叩く。 「痛てっ!」 思わずジョウがのけぞった。また、蹴りを入れられたところだ。 「もう聞こえないふりなんて、許さないんだから」
ジョウが前を向いたままぼそり、と答えた。 「足の速い女だろ」 「え・・・?」 「どこに逃げたって追いついてくるんだろ?」 ジョウが面白そうに漆黒の目を細めて、肩越しにアルフィンの方を見た。 アルフィンは思わずどぎまぎして、碧い目を逸らす。 頬が上気してくるのが分かった。ジョウの腰に廻す手にぎゅっと力を入れる。 「もちろんよ。銀河の果てまでだって追いかけるんだから」 ジョウが声をあげて笑った。 「期待しているぜ」
エアバイクが土埃を上げながら、大きく迂回して谷底への下りに入った。 ジョウがスピードを落とさずにかっ飛ばしてゆく。 アルフィンのはしゃぐ声が朝の風に乗って、いつまでも流れていた。
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