FAN FICTION
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■94 / inTopicNo.1)  夜想曲
  
□投稿者/ ぴぃすけ -(2002/06/02(Sun) 22:44:32)
http://www5d.biglobe.ne.jp/~precious
    漆黒の空は、宝石箱をひっくり返したような星々に彩られていた。
    今は生活の場を宇宙に移し、その厳しさも恐ろしさも良くわかっているアルフィンであるが、こうして地上から見上げる空は、やはり格別に美しい、と思う。

    (今、隣に居るのがジョウだからかもしれないわね)

    そう心の中で呟きながら、そっとアルフィンは彼に視線を移す。
    だが、彼女のそんな想いには全く気づいていないかのように、ジョウはグラスを傾けていた。

    (もう、相変わらずなんだから。こうして休暇の一日を折角二人だけで過ごしているっていうのに、甘い雰囲気なんて程遠いじゃない。そこがジョウらしいっていえばジョウらしいけれど…でも…)

    「ん?どうかしたのか、アルフィン?」

    ジョウの瞳が僅かだが、細められていた。
    訝し気なその表情に、アルフィンは慌てて笑顔を作ると首を振った。

    「ううん。何でも、ない」

    彼と出会った頃の彼女だったら、“ジョウの鈍感!”とむくれてみせたかもしれない。
    でも、何年もの間、数え切れないほどの困難や死闘を共にくぐり抜けてきた現在<いま>は、少し違う考え方をするようになっていた。すなわち。

    こうして一緒に居られるだけでも幸せなのだ、と思う。
    たとえジョウの態度がアルフィンの期待に比して物足りなくても、もどかしくても。
    それでもやっぱり、幸せなのだ、と思う。
    もし万が一彼が居なくなってしまったら、彼女の気持ちは行き場を失ってしまう。

    …もし、ジョウが居なくなってしまったら。

    「…?」

    ふわり、とした感触を肩に感じ、アルフィンは顔を上げた。
    そして意外なほどの至近距離にジョウの顔をみつけ、うろたえる。

    「なっ、何?」
    「震えてる…その格好で寒いんじゃないのか?中に入った方が良くないか?」

    淡いブルーのホルターネックのワンピース一枚のアルフィンの身体を気遣い、ジョウがそっと自分の薄手のジャケットをかけてくれたのだった。

    「違うの…寒いんじゃなくて…」
    「え?」
    「……その…怖い…の…」

    あなたをもし失ってしまったら、と思ったら。
    と、アルフィンはそっとつけ加えてみた。心の中で。

    「怖かったって、何が?」
    「あ、ううん、忘れて。何でもないの」
    「…アルフィン、何か心配なことでもあるのか?」

    ジョウはアルフィンの瞳を覗き込んだ。
    吸いこまれそうなほど美しい碧眼が、儚げに揺れている。
    だが、アルフィンは頑なに首を振った。

    「私は…大丈夫よ。だって、ジョウは…ずっと傍にいてくれるでしょう?」
    「……ああ。俺は、いつもアルフィンの傍にいる。何かあったら、俺が守る。だから…そんな不安そうな顔をするな」

    ジョウは小さく頷くと、アルフィンを抱き寄せた。
    甘い香が、ジョウの鼻孔をくすぐる。

    「…ねぇ、ジョウ」
    「……うん?」
    「暫く、こうしていて?こうして貰うと、すごく、落ちつく……」
    「ああ。俺も暫くこうしていたい…」
    「……え!?」
    「あ、いや……」

    ジョウは腕にこめた力を少し強めながらも、ごまかすように空を見上げた。

    そこは、今にも降ってきそうなほどの迫力で、星が一面を飾っていた。
    幼い時から宇宙に親しみ、その綺麗なだけではない正体を良く承知しているジョウであるが、こうして地上から見上げる夜空の美しさは、やはり格別だ、と思う。

    (今、俺の腕の中にアルフィンがいるからかもしれないけれどな…)

    ジョウは片手をゆっくりと解くと、アルフィンの顎をそっと持ち上げた。
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