| ジョウ、リッキー、アルフィンの三人はミネルバのリビングでくつろいでいた。 スクリーンにニュースパックの映像を流しつつ、とりとめのない話をしている。
「ねえねえ、リッキーの初恋の人ってやっぱりミミーだったりするわけ?」 アルフィンが唐突に切り出した。 「ええっ!俺ら?いくらなんでもそれはないよー!俺らもう15だぜ!」 リッキーが大きな目を剥いて反論する。 「まあそりゃそうよね!いくらなんでもね」 大きくうなずくアルフィン。 「そういうアルフィンはどうなんだよ!どうせピザンじゃそんな相手いなかったんだろ?兄貴が初恋じゃないのかい?」 それを聞いて、コーヒーを飲みつつスクリーンを見ているジョウの横顔がわずかに赤くなる。
「失礼しちゃうわね。初恋は11歳のときだったかしら。新しくいらした家庭教師の先生でね。とーっても紳士的でハンサムで素敵だったの」 なぜか自慢げなアルフィン。 「ふーん、それでどうしたんだい?」 憮然としつつも二人の方を見ようとしないジョウをチラリと横目で見つつ、ニヤニヤしながらリッキーは聞いた。 「それが・・・しばらくして私の侍女と結婚したわ」 「ぶっ!」ジョウがコーヒーを噴いて笑い出した。 同じく大笑いしているリッキーの頬をキリリとつねってから、アルフィンが慌ててジョウの腕をとって甘えた声で弁解する。 「ねえ、ジョウ!誤解しないでね!ちょっと憧れただけなの!本当に好きになったのはジョウが最初よ。本当よ」 アルフィンの初恋の人の話なんぞ愉快なはずもなかったが、こんなストレートな告白を聞いてはジョウも嬉しさを禁じえない。
アルフィンにつねられた頬を押さえてリッキーが続けた。 「じゃあさあ、兄貴の初恋の人ってのは誰なのさ」 「!」ジョウの顔が強張る。 一気に赤面してうつむきながらジョウはつぶやくような声で言った「いいだろ・・・そんなこと。」 ふと見ると隣に座るアルフィンが睨むような目で「どうなの?」といわんばかりにじっと見ている。
そのとき、インターコムの呼び出し音が鳴った。 「わりぃリッキー、ブリッジに来い!手伝ってくれ!」タロスである。 「ちぇっ!タロスのやつ、今いいところだったのにな」リッキーは文句をいいつつ「じゃ、ごゆっくり」とリビングを出て行った。 タロスのおかげで助かったとほっとしていたジョウだったが、当然アルフィンは先ほどまでの話題を忘れてはくれてはいなかった。
「で、ジョウ、さっきの話だけど」 「え!まだ終わってないのか!」 「当然よ、私だって話したんだから!まさかルーやダーナじゃないでしょうね!」 「そんなわけないだろ!」 「じゃあどんな人なの!」 ルーのことなど勝手に連想して一人憤り、アルフィンの柳眉が逆立つ。
詰め寄るアルフィンを抑えながらジョウは真っ赤になって蚊の鳴くような声で答えた。 「クライアント・・・だったかな」 「え!」 アルフィンは固まった。 自分が問い詰めたとはいえジョウがこんな話をするとは思わなかった。 聞きたかったけれど、いざ聞かされると聞きたくなかったような。
「そ、そうなの・・・いくつの時?」 一気におとなしくなったアルフィンを見て少し余裕ができたのか。 すっと立ち上がったジョウは腕組みをして、悄然とするアルフィンを見下ろして怒ったように言った。 「18」 「好きでないやつは助けない。って言ったろ」早口で言ってそのまま逃げるようにリビングを出て行く。
−好きでないやつは助けない− アルフィンははっとして面をあげ、リビングを飛び出した。 「ジョウ!待ってよ!ジョウ・・・」 end
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