| 午前2時。ジョウがそっと、自分に割り当てられた部屋を出た。 人気のない通路を歩き、制御ルームがある棟に向う。 しかし、ジョウの行き先は制御ルームではない。 目指しているのは、前々から気になっていた、ある部屋だ そこは、奥まった所にあった。ドアは施錠されていて、中に入ることが出来ない。 サイモンに、その部屋は何に使うのかと訊いてみた。 「ああ。そこは、以前ここが研究所として使われていたときに使用した、薬品や資料が置いてあると聞いてます。取り扱い注意の薬品もあるので、 立ち入らないよう、お願いします」と言われた。 ならば・・・ジョウは、その部屋に侵入すべく、やってきた。
その部屋のドアは、数字を組み合わせて開くタイプのものだった。壁に、暗証番号を打ち込むよう、テンキーのパネルが、埋め込まれている。 ジョウは、ポケットから、電卓のような装置を取り出した。 それを、テンキーに向け、スイッチを押す。 すると、ジョウの手のなかで、ブーンと振動が始まった。その装置の画面に、数字が浮かび、めまぐるしく入れ替わっていく。 5分程して、振動が納まった。8桁の数字が表示された。
ジョウは、その数字を、壁のテンキーに打ち込んだ。 ガチャ。ロックが解除された。 (やるじゃないか) 思わず、笑みが浮かんだ。 この装置は、ジェニーから借りてきた。なんと、ジェニーが作ったものだという。 一体、何のために使うんだ?と、ジェニーに訊いたら、こういう時でしょ!と返された。 まったく。食えない奴だ。
ジョウは、そっと、部屋に入った。 電気はつけず、用意しておいた、ペンタイプのハンドライトをつけた。 中は、意外と広く、ショーケースのような棚が何列にもわたって設置されている。 近づいて、中を覗くと、確かに、薬品が並んでいた。 一つ目の棚を調べ終わり、次の棚に移ろうとしたとき、「ガチャ」っと、ロックの外れる音がした。 慌てて、ジョウはハンドライトを消して、棚の後ろの隠れた。 キィー。ドアが開いた。 コツ、コツ、コツ。静まり返った部屋の中に、足音が響いた。 入ってきたやつも、部屋の電気はつけずに、小さなハンドライトを持っていた。 そして、ジョウが隠れている棚に、ハンドライトの灯りが向けられた。 ジョウは、息をひそめた。 棚から何か取り出すような気配がした。 しばらくして、再び、足音がした。どうやら、部屋を立ち去るようだ。
顔を覗き見ようと、ジョウは体をドアに向けた。 その時、ジョウの肩が隣の棚にぶつかって、本が床に落ちた。 しまった! 素早く、ジョウは引っ込んだ。 出て行こうとしていた、男が振り返った。 少しのあいだ、部屋の中を見渡しているようだったが、気が済んだのか、ドアが閉まった。 ふぅー。ジョウが息を吐いた。 (びっくりしたぜ・・・やっぱり、俺にスパイは向かないな) そう自嘲した。 立ち上がり、さっきの、棚を調べてみた。 何かを持ち出したような気配がしたが、特にそんな様子は感じられなかった。 (この部屋は怪しいと思ったが、空振りだったか) ジョウは、そっと部屋を出た。そして、自分の部屋に戻るべく、歩き出した。 この時、ジョウは気づかなかった。 通路の片隅で、何者かが、ジョウを見ていたことに。
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