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No1158 の記事


■1158 / )  Re[4]: Dreams come true
□投稿者/ 舞妓 -(2006/06/17(Sat) 23:35:57)
    No1157に投稿(舞妓さんの小説)

    「すみません、初めからお話できなくて。もちろん、ドリームズ・カム・トゥルーにはこのことは言っていません。あなたともしお会いできたら、直接話そうと…思っていました。先ほど車の中で、話そうかとも思ったのですが、ジミーと会う前に先入観を持って欲しくなかったので。ジョウさんには、驚かせる結果になってしまいました。本当に申し訳ありません」
    「いやそれは…いいんですが」
    ジョウは、何がなんだか少々混乱していた。
    このジミーという少年は、ダンの隠し子らしい。
    つまり、自分とは異母兄弟。
    「グラントさん、あなたは…」
    「はい、私はジミーの本当の父親ではありません。」
    ジョウは言葉を継ぐことができなかった。
    「これを、見てください」
    グラントが一枚の写真を見せた。そこには、確かにダンが写っていた。ブルーのクラッシュジャケット。そして隣に寄り添って、黒髪に黒い瞳の、ジミーによく似た美しい女性が写っている。日付は、11年前。ダンが引退する少し前の時期だ。
    「この女性は、キャロル・アサカワ…ジミーの母親です。3年前に私の妻になり、それから一年でジミーと同じ病で他界しました。そういうわけで、ジミーは私の息子なんです」
    「…」
    ジョウは信じられない思いでその写真を凝視した。もう死んでしまったキャロルという女性。
    「この写真は、キャロルが死んだ後、彼女の遺品の中からジミーが見つけてきました。それから、ジミーは古い宅配便の送り状を私に見せました。『これは、僕が小さかった頃、おもちゃを送ってきた宅配便だよ。ママは自分で買ってきたみたいに言ってたけど、僕知ってたんだ。これがこっそりゴミ箱に捨ててあったのを、僕取っておいたんだ。これはダンって書いてあるんでしょう?アラミスってどこ?この写真のおじさんは、ダンって人なの?』と、涙をいっぱいにためて、私に聞きました」
    グラントはそこで紅茶を一口飲んだ。
    「私は、分からないよ、と答えました。ママは死んでしまった。もう真実を知る人は誰もいない、と。でもこの人のことなら調べてあげられる。そして私はクラッシャー評議長のダンのことを、彼に教えました。とても立派な人だと。それから、ご子息であるあなたのことも。それから、ジミーは信じているんです、ダンが父親であなたが兄だと。」
    「つまり、グラントさん、あなたも真実をご存じないということですか?」
    ジョウはできる限り平静を装って、聞いた。
    「そうです。私には、その写真と宅配便の送り状から推測するしかありません。その写真については、調べましたよ。なぜキャロルがクラッシャーダンとそういう写真をとるに至ったか…ジミーのためにね。」
    そこでグラントは、照れたように笑った。ジミーのため、だけではないことは一目瞭然だった。
    「私は、その時期仕事でこの惑星を離れていました。忙しくもあり、あまり故郷の出来事には注意を払えなかったのですが、大きな事件が起こっています。キャロルは、名門の全寮制学校のカウンセラーだったのですが、キャロルが勤める学校でテロリストの人質立てこもり事件がありました。警察が動こうにも、警察のかなり上層に内通者がいることがわかっていました。しかしVIPの子息が多い学校ですので、万一の失敗も許されません。そこで警視総監自ら、クラッシャーダンに依頼をしたという経緯だったようです。それで知り合ったようですよ」
    「そうですか…」
    そうですか、と言うしかない。
    ジョウはその頃まだ8歳で、養成学校を卒業する前だ。ダンは、いつも仕事でアトラスに乗っていた。たまにしか顔をあわせることはなかったし、どんな仕事をしているか内容を詳しく聞いたことも殆どない。
    ジョウの母親ユリアが死んで何年も経つ。いい年の男だ。そういうことがあったとしても、別におかしいことではないだろう、とジョウは思った。ただ、このキャロルという女性とジミーをもほったらかしにしていたのであれば、到底許せることではない。
    「あなたはいつ、キャロルさんと知り合ったんですか?キャロルさんとジミーは、どうやって暮していたんですか?」
    グラントはそのジョウの質問の意味をすぐに汲み取った。
    「私は、キャロルとは中学校の同級生なんです。好きだったんですが、相手にされなくて。再会したときは、胸が震えましたよ。でも彼女はその時もう、お腹にジミーを宿していました。私がその子の父親になる、とプロポーズしました。でも彼女は拒んだんです。彼女は学校で働きながら、ジミーを産んで育てました。結婚は断られても、私はキャロルの恋人でしたから、経済状況はよく知っています。どこかから援助を受けていた様子はありませんでした。私は弁護士なので、彼女から死後の財産整理を任されていました。亡くなった後財産を洗いましたが、振込みなどの形跡はありません。ジミーが出してきた宅配便については、そこまでは知りませんでしたが…とにかく、彼女は自分の力だけで、ジミーを育てました。父親のことは、一切ジミーには話しませんでした。私にも。私は何年も求婚を続けました。そして3年前、キャロルは自分が病だと分かってようやく、結婚を承諾してくれたんです。」
    「それは…」
    ジョウは言いよどんだ。
    「そうです、もちろん、ジミーのためですね。私はそれでもよかったんです。死に行く彼女の支えになりたかった。キャロルが一番心残りのはずのジミーのことは、僕がいるから大丈夫だと安心させたかった。生まれたときから可愛がっているジミーを、僕の本当の子供にしたかった。僕は満足ですよ」
    そこでグラントはふと黙り込んだ。
    「…1年前、ジミーがキャロルと同じロイス骨腫であることがわかりました。極めて稀な病気なんですが、ごく低い確率で遺伝するんだそうです。」
    グラントは目を伏せ、そのあと長い沈黙があった。
    「私はすぐに、ドリームズ・カム・トゥルーに連絡を取りました。ジミーをクラッシャーダンとクラッシャージョウに会わせたいと。私が個人で、『赫々しかじかこういった事情で、ダンとジョウに会いたい』なんてアラミスの評議会に言っても、悪戯と思われるだけでしょう。悪くすれば、ダンさんのスキャンダルにもなりかねない。だから、NPOの力を借りるしかなかったんです。運良く、ドリームズ・カム・トゥルーはジミーに関心を持ってくれた。そしてジョウさん、あなたに本当に会えた。」
    グラントは、目を潤ませてジョウを見た。濁りのない、真っ直ぐな、美しいグレイの目だった。
    「あなたがジミーの兄かどうか、ひいてはダンがジミーの父親かどうかは、あなたとジミーのDNA検査をすれば真実はすぐに分かります。でも、そういったことはもうどうでもいいのです。どうか、ジミーの兄としてふるまってやって下さい。ジミーはもってあと2ヶ月と言われています。あの子は、何年もあなたとダンに思いを募らせてきました。自分は憧れであるクラッシャージョウの弟だと信じたままでいさせてやりたいんです」
    グラントは声を詰まらせた。
    ジョウは、写真と古びた宅配便の送り状をじっと見つめながら、しばらく考えた。
    様々な事を、考えた。
    ややあって、口を開いた。
    「事実としてあるのは、この写真と宅配便だけです。真実を知るには少なすぎる物証です。あなたの言うとおり、真実を知るキャロルさんは亡くなって、我々には推測するしかありません。しかし、もしジミーが俺の本当の弟だとしたら、今日明日ジミーと遊んで、それでいいという話でもない。正直、俺にも衝撃的な話ですよ」
    「そうですね…その通りです。こちらの都合ばかりで、あなたのお気持も考えずに申し訳ありません」
    グラントはうなだれた。
    「少し…時間をくれませんか。ジミーと遊びながらでもいいんですが、整理させて欲しい」
    「もちろんです。無理な事をお願いして、本当に申し訳ありません」
    ちょうどその時、お兄ちゃん!とジミーの声がして、ぱあっとリビングのドアが開いた。
    「お兄ちゃん、遊ぼうよ!」
    「よし、じゃあジミーの部屋を見せてくれ」
    「いいよ!」

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