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No763 の記事


■763 / )   Girls Talk
□投稿者/ 藍々 -(2004/11/17(Wed) 16:53:10)
    No762
    クロノメーターを見ると、約束の時間を五分過ぎていた。
    私は慌てて、歩調を速めた。
    「こっちよ!アケーシア。」
    小さなカフェテリアの席からブロンドの女が大きく手を振った。
    ここはドルロイのドッグにあるスタンドカフェ。
    私の名前を呼んだ女は、明るいピンクのクラッシュジャケットに身を包んでいた。
    私は自分の褐色の肌に一番映える、ワインレッドのクラッシュジャケットを身につけている。黒髪を肩までそろえたボブは私のお気に入りの髪形だ。
    「元気そうね、トレイシー。」
    私はするりとトレイシーの横の椅子に座ると、近づいてきたハミングバードにお気に入りのカフェモカを注文した。
    「そっちこそ。」
    トレイシーはふわりとカールしたブロンドを左手でかきあげ、先に頼んでいたオレンジジュースを一口飲んだ。
    「久しぶりにメールしたらドルロイにくるって言うじゃない?ぴったりうちのチームと合流できると思ったの!」
    トレイシーはニコニコして言った。笑顔に愛嬌があり、笑うとえくぼができる。
    彼女に会うのは3ヶ月ぶりだ。
    お互い学校の同級生で同じ時期にクラッシャーになった。
    トレイシーは父と弟達との家族でチームを組んでいる。
    私は現在パイロット見習い中でバッカスというチームに入っているの。ランクは・・・。まあ、二人ともそこそこね。
    「ほんと、珍しいことよね。ドッグが込み合ってて・・・。でもね、1時間ほどで、もう行かなきゃいけないんだ。」
    「大変ね。パイロットは。」
    「まあ志願してなってるからね。そっちはどう仕事は?」
    「あははは、うちの弱小チームじゃそんなに忙しくないわよう。
    警護の仕事だって、宇宙海賊って超怖いじゃない。できる限りお会いしたくないわ。
    それより、それよりね。面白い情報がはいったの。」
    トレイシーの淡いブルーの瞳がキラリと輝いた。
    私はその輝く瞳をみて、またかとあきれ返った。
    トレイシー・トレイサー。これはトレイシーに名づけられた渾名だ。
    銀河系の芸能、政治を問わずゴシップに関しては彼女の耳を通らないものはない。
    クラッシャー間の情報なら尚更だ。彼女はほんの小さな噂話でもあっという間に掴んでしまう。もっとも内容は恋愛に限られていて、仕事に使える情報はほとんど言って無い。いや全然無い。
    「何掴んできたのよ?」
    私は運ばれてきたカフェモカをふうふうと口で冷ましながら(猫舌なのだ)目を細めて聞いた。どうせ、また誰がくっついたとかくっつかないとか。自分の事はどうなのよと突っ込みたくなる。
    トレイシーは待ってましたとばかりの顔でなのに、もったいぶった口調で話し始めた。
    「ルーを憶えてるでしょ?」
    「ルー?あのクラッシャールー?もちろんよ。」
    ルーも同級生だった。私は学校時代、彼女とパイロットの腕も競ったことがあり、気性や癖まで良く知っていた。
    「あのルーがね。うふふ。聞いて信じられないでしょうけど・・・。」
    「もったいぶらずに、早く言いなよ。」
    「あの、クラッシャージョウに転んだのよ。」
    人差し指を立てて、ニヤリとトレイシーが笑った。
    「うそ!信じられない。あのルーが。」
    私は思わず大声を出した。カフェ中の視線を集める。
    おまけに飲みかけのカフェモカをこぼしかけ、慌ててナプキンを探した。
    ええっ、嘘でしょ?
    ルーはもとより、エギルの娘達のチーム「地獄の三姉妹」のクラッシャージョウ嫌いは仲間内では有名な話。もっともエギルの娘達がジョウを一方的に嫌っていて、私は直接ルーからジョウへの皮肉を聞いたこともあった。
    しかし、トレイシーが言うのだ。彼女のネタはゴシップばかりだが、きちんと裏をとるらしく、不思議にガセネタは流さない。
    「本当よ。だってベス本人から聞いたんだもの。間違いないわ。彼女さあ、今、怪我をしてパスツールの病院に入院しているのね、それでお見舞いの電話をしたらすっかり話がはずんじゃって・・・。なんでも、この間一緒にお仕事をしたんですって。その時に恋が芽生えたらしいわよ。」
    「話がはずんだねえ・・・。」
    はずませたの間違いでしょと私は思った。
    トレイシーは見た目は愛らしく、彼女の柔和な笑顔と会話には人を油断させるものがある。それで秘密をもらす奴は多いのだ。

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