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No982 の記事


■982 / )  PROMISE
□投稿者/ りんご -(2006/04/10(Mon) 23:48:51)
    <ミネルバ>の操縦室は、いつになくのんびりした空気が漂っていた。
    操縦は自動制御に切り替えられ、コンピュータが舵をとっている。
    次のワープを行うまでの、ちょっとしたブレイクタイム。
    キッチンに立ったアルフィンを除く、ジョウ、タロス、リッキーの三人は、それぞれのシートでくつろいでいた。
    そんな雰囲気も手伝って、リッキーの口はいつにも増して軽やかだ。
    「ねえねえ、本当にあると思う?そういうことって」
    「あー、何がだ?」気の抜けた様子で、タロスが付き合う。
    リッキーが、じれったそうに「昨日のドラマだよ、ド・ラ・マ!」
    「アルフィンに付き合わされて、みたってやつか?」とジョウ。
    「そうそう。でも、兄貴は宿直だったから、みれなかったんだね」
    「ああ」返事をしながら、ジョウは昨日の騒ぎを思い出した。
    それは、夕食を終え、食後のコーヒーを楽しんでいるときのことだった。
    絶対にはまるから、皆で一緒にドラマを見よう、とアルフィンが言い出した。
    それは、ギャラクシーネットワークで放送されている、人気のメロドラマで、アルフィンお気に入りの番組だ。
    オーバーな演技と、くさいセリフが受け、高い視聴率をマークしている。
    しかし、甘々のドラマに、二人は食指が動かない。なんとか理由をつけて、逃げようとした。
    だが、アルフィンは許さない。
    一緒にみなければ、明日から毎日ピーマン料理のオンパレードよ!と宣言した。
    二人とも、ピーマンが大の苦手だ。できれば、顔も拝みたくない。
    二人は、ひでえ、脅迫なんてずるいぞ、と抗議したが、結局アルフィンには逆らえず、一緒にみたのだ。
    「どういうストーリーなんだ?」
    笑いをかみ殺しながら、ジョウがきいた。
    「ケッ、青くせい話なんですよ」
    さもくだらん、とばかりに、タロスが説明を始めた。
    「主人公は女でしてね。こいつが、孤児院時代に知り合った初恋の男と、恋を成就させるまでの、波乱万丈の物語ってやつでして。
    昨日のは、大人になった二人が再会して、お互いの気持ちを確かめあう山場の回で・・」
    「タロスぅー」にやにやしながら、リッキーが口を挟んだ。
    「なんだぁ?気持ちの悪りぃ声だして」
    「昨日のドラマ、初めて見たって言ってたわりに詳しいじゃん♪」
    ドキン!
    「ば、馬鹿言え!あんなくだらないドラマ、1回みりゃあ、話の筋なんて察しがつくんだよ」
    タロスの目に動揺の色が走った。
    「へー察しがね。おかしいと思ったんだよ。いやだって言いながら、身を乗り出してみてるんだもんなぁ。本当はタロス、あのドラマのファンだったりして」
    おちょくるような視線を、タロスに送った。
    「なっ、何いいやがる。そういうお前こそ、真剣になって見てただろ!」
    「あーみてたさ。意外に面白かったし、初恋を実らす主人公っての参考にしたいからね」
    「参考だぁ?ガキの分際で色づきやがって。おおかたてめえは、ミミーのことでも思い出して、自分と主人公を重ねてやがったな」
    リッキーの顔が真っ赤になった。
    「図星だな」
    形勢逆転に、タロスの顔に余裕の笑みが浮かぶ。
    「ふんふん。デリカシーのない奴に言われたくないぜ。あっ!わっかたぞ。タロスってば、おいらの事やっかんでんだな?」
    「やかんでるだぁ?」
    「そうさ、きっとタロスの初恋なんて、玉砕間違いなしの悲惨な出来事なんだろう。そいつに引き換え、おいらにゃ、輝く未来と素敵な恋が待っている。ご老体には、もう縁がないときた。うらやましくもなるよなー」
    そう言うと、くくくっと笑った。
    「なんだとぉー、このくそちび、表に出ろ」
    青筋をたてて、タロスが立ち上がった。
    「おっ、やるのか、でくの坊!」
    リッキーも席を立ち、しゅしゅっとパンチを打つ真似をする。
    「いい加減にしろ!」ジョウの鋭い声が飛んだ。
    「だって、ジョウ」二人が合唱する。
    「だっては、無しだ。ふざけ過ぎだぞ!」そう言って、二人をギョロッと睨んだ。
    ジョウの視線を受け、二人はしぶしぶ腰を下ろす。口は閉じたが、二人とも臨戦態勢のままだ。
    (仕方のない奴らだ)ジョウはため息をついた。
    二人の喧嘩は、ジェネレーションギャップを埋める儀式のようなものだ。しかし、耳元でやられては、たまったものではない。
    「・・・でもさ、昨日のドラマ、ほんとに面白かったんだよ」
    タロスを無視して、リーッキーが話を蒸し返した。
    よほど気に入ったのだろう。ジョウは苦笑した。
    「ねえねえ、兄貴の初恋ってどんなの?」
    「なんだ、いきなり」突然自分に話が振られて、ジョウはびっくりした。
    「タロスのかわいそーな初恋は聞きたくないけど、兄貴のはどうなのかなって思ってさ。ひょっとして・・・アルフィンだったりして」
    「馬鹿いえ」これには、ジョウの頬が赤くなる。
    「すんません、ジョウ」
    いかにもかわいそうだという身振りで、タロスが割って入った。
    「こいつは、ボランティア精神に溢れたミミーに優しくされて、勘違いしちまってる、哀れなピエロなんでさぁ。ほっといてやりましょう」
    「!!!」
    第二ラウンドが始まった。
    ジョウは、始末に終えんと言う顔で、スクリーンに目をやる。そこには、漆黒の宇宙が広がっている。
    リッキーの問いが、耳に残った。
    (俺の初恋だって?・・・)
    二人のやり取りが、どんどんヒートアップする。
    それとは、逆に、ジョウの目は少しづつ遠くなった。

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