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No1162 の記事


■1162 / )  Re[8]: Dreams come true
□投稿者/ 舞妓 -(2006/06/17(Sat) 23:42:37)
    No1161に投稿(舞妓さんの小説)

    一つ困った問題があった。ジミーが、どうしても譲らなかったのだ。
    「宇宙を見たい。ワープ空間を見たい」
    という希望を。
    身体にかかる負担が大きいから危険だと、何度も説明したがジミーは譲らなかった。
    結局、最初の一回だけ、体験させることにした。
    リッキーのシートに身体を固定する。
    離陸、大気圏離脱、ワープ可能域までの通常航行。
    ジミーは、言葉もなくそれらの全てに感動していた。
    漆黒の闇に、星々の光。
    ジョウたちには日常であるはずのそれは、ジミーにとっては今まで、どうやっても手の届かないものだった。
    「すごいや…」
    ジミーが発した言葉は、それだけだった。

    ワープインして、しばらくは耐えていたようだったが、それもすぐに限界が来た。ジミーは失神し、ワープアウトした時点でカプセルに移した。

    幸いジミーの体調がそれ以後深刻になることはなく、テラに着いたのは深夜だった。
    バーニーから送られてきたスケジュールによると、ダンは今宿泊するホテルで就寝中、ということになっている。そして明朝は5時30分起床で、一日中会議と会談だ。
    「ジョウ…」
    二人きりのブリッジで、アルフィンが後ろから声をかけた。
    「何だ」
    「大丈夫なの…?」
    「何が」
    「議長の、機嫌とか…」
    振り返ると、アルフィンはこわばった顔をしている。
    「知るか。こっちは、それどころじゃないんだ」
    「あたし、知らない…」
    アルフィンは隠れるように首をすくめてしまった。
    「黙ってろ」
    ジョウは、電話をかけた。それはダン個人の電話で、この番号を知っているのはジョウを含めて数人、という極めてプライベートな電話だ。
    「きゃー…」
    「うるさい」
    呼び出し音が、5回。
    「何だ」
    ダンが、出た。
    「俺だ」
    「分かってる。用件は何だ」
    特にいつもと変わった声ではなさそうだ。
    ということは、いつも機嫌が悪い、ということ?
    とアルフィンは思った。
    「今テラのMED宇宙港にいる。客を連れてきた。会いたいんだが時間くれ」
    「…分かった」
    数秒の沈黙のあと、ダンは了承した。
    このジョウが、テラまで来て、深夜、ダンに電話をして、会いたいというのだから。
    それはそれは大変なことに違いない。
    とアルフィンは思った。
    「<ファイター>でジュネーブまで来い。ホテルのヘリポートを使えるように話をしておく。そっちの入管にも今話を通す」
    「分かった」
    それだけで電話は切れた。
    ものすごく通じ合ってるのに、二人とも憮然として。
    何だか聞いてて面白いんだけど。
    と、アルフィンは思った。

    星間会議の影響で、警備も審査も恐ろしく厳しい様子だったが、ダンのおかげでジョウ一行は何事もなく<ファイター1><2>に乗っていた。
    <1> にジョウとジミー、<2>にアルフィンとグラントが乗った。
    ジミーは、顔色が少し悪いが体調は問題なく、ジョウの横に大人しく乗っていた。
    よほどはしゃいでいるか、と思ったが逆にジミーは沈んでいるようにも見える。
    「緊張してるのか」
    「あ、うん…」
    ジミーはジョウの横顔を見て、小さな声で言った。
    「お兄ちゃん、僕恐いんだ。本当のことが、わかってしまうかもしれないよ」
    ジョウはジミーの顔を見た。ジミーは、泣きそうになっていた。
    「ダンお父さんが僕の本当のお父さんだったら、僕はどうしたらいいんだろう」
    「…」
    混乱した胸の内を、ジミーは精一杯表現していた。
    どうしたらいいんだろう。
    それは、ジョウも同じだ。
    とても易しく、そして難しい質問だった。
    ジョウは、優しく語りかけた。
    「もし俺の親父がジミーの本当のお父さんだったら、親父が今までジミーとママをほったらかしにしていたことを、ちゃんと責めるんだ。そして謝らせろ。ママのためにも。そしてもし本当のお父さんでないことがわかったとしても、今までどおりお父さんだって思ってていいさ。誇ってていい親父だよ。…たぶんな」
    それから、左手を伸ばしてジミーの頭を撫でた。
    「そして、どっちにしても、ジミーは俺の本当の弟だ。忘れるな」
    「…うん!わかったよ!」
    ジミーはぱあっと笑顔になった。
    眼下に、ホテル屋上のヘリポートの明かりが見えてきていた。


    ダンは、律儀にスーツに着替えて待っていた。
    ジョウたちが入ると、ジョウが言葉を発する前に、ダンが言った。
    「ジミー・アサカワ…!」
    ダンは、ジミーを見つめていた。
    「あ、あの、僕…」
    ジミーが緊張してうまく喋れないでいると、ジョウとアルフィンが心底驚いたことに、何とダンはジミーにつかつかと近寄り、ジミーを抱きしめたのだった。
    「大きくなった…!」
    ジミーは顔を赤くして固まって、動くこともできない。
    そうやってしばらくジミーを抱きしめていた手を緩めると、ダンはジョウに言った。
    「よく、連れてきてくれた」
    「…」
    今度はジョウが絶句した。
    今、カンシャしたか?ひょっとして。
    「こちらは?」
    ダンがグラントを示して言った。
    「ジミーのステップファーザーだ。アーサー・グラント氏」
    グラントがダンに握手を求める。
    「グラントです。非常識な時間に、非常識な事をしまして、お詫び申し上げます」
    「いや、いいんですよ。そうですか、あなたが…。」
    握手をしながら、ダンはグラントを、旧友にでも会ったかのような様子で見ていた。
    「どうぞ、お疲れでしょう。こちらでお茶でも」
    ダンは一向にソファを薦めた。
    深夜にもかかわらず、人間のボーイがコーヒーを4つとジュースを一つ持ってきて、テーブルに置いて静かに去る。
    「経緯をきこう」
    ダンが言う。
    「バーニーが、俺に持ってきたんだ。ドリームズ・カム・トゥルーってえ団体のボランティアでジミーに会ってくれってな。だがジミーが本当に会いたかったのは、俺じゃない。親父だ。だから、無理させて連れてきた」
    ドリームズ・カム・トゥルー、のところでダンの眉がぴくりと動いた。
    そして、無言でグラントを見た。
    グラントは、ゆっくりと、頷いた。
    それでダンには、全てが通じた。
    「ダンさん」
    ふいに、ジミーが言った。
    皆が一斉にジミーを見る。
    決心したように、大きな声で。
    「ダンさんは、僕のお父さんですか」
    そう言ったあと、ジミーの目からぼろぼろと涙がこぼれだした。
    張り詰めていた糸が切れてしまったように、それから大きな声で泣き出した。肩を震わせ、声をしゃくりあげ。
    「ダンさんは、僕の、お父さん、ですか」
    そしてもう一度、泣くのを必死に止めようとしながら、声を振り絞るように、問うた。

    ジミーの泣き声以外、声はなかった。
    やがてダンが、ジミーの隣に座って背中をさすった。
    その場にいる全員が、固唾をのんだ。

    「ジミー」
    「…はい」
    「私は、君のお父さんじゃない」
    はっ、とジミーが背を硬くしたのが分かった。
    泣き声が一瞬止んで。
    そのあと、とうとうジミーはわあわあと号泣した。

    グラントの背が、しぼむのが見えた。
    そうしている自分の身体からも、力が抜けていくのがジョウにも分かった。


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