| (せっかくの休暇だってのに・・・この様か) ジョウはベッドに横たわり、むなしく天井を見上げた。 染み一つ無い、真っ白な色は、よけい気が滅入る。 ジョウのチームは、仕事でこの星に来ていた。 運んできた荷物を、無事依頼人に渡し、次の仕事までに空いた五日間を、この地で過ごすことにしていた。
この星は、建国30年という節目を迎え、星全体がお祭りムードに染まっている。 ジョウ達も、それに一枚かもうとしたのだが、ケチがついた。 風邪をひいたのだ。ジョウが。しかも、ひどい風邪だ。 40度以上の高熱に、激しい咳を伴う。症状が重い場合は幻覚をみるという、たちの悪いやつだ。 しかも、この風邪には、特効薬がない。ひたすら体を休ませ、菌が出て行くのを待つしかない。 ジョウは、この星の総合病院に入院していた。
ウィルスとの戦いは、三日目に突入したが、まだ回復の兆しは見えない。 それどころか、激しい咳のため、夜もろくに眠れないし、熱で食欲もさっぱりわかない。 強力なウィルスは、ジョウの体を散々痛めまくっていた。 (そういえば、薬がでてたな) ジョウは上半身を起こし、ベッド脇のテーブルに用意されていた、薬を飲んだ。 咳で眠れないジョウの為に、担当医が、軽い睡眠導入剤を処方してくれていた。
ゴホ、ゴホ。咳が止まらない。 (今ごろ、皆は、中央公園で花火見物でもしてるかな・・・) 今夜は、大統領府そばの中央公園で、大掛かりな花火大会が行われる予定だ。 ジョウは、ぼんやりと夕方のことを思い出した。 アルフィンは、ジョウ一人を置いて行くのは忍びない。病院に残ると言ってくれた。 気持ちは嬉しかったが、風邪を移したくない。それに、面会時間は9時までだ。それ以降、病院に留まることは出来ない。 ならば、自分の側にいず、花火を楽しんできてくれ。そう言って、皆を送り出した。
花火を打ち上げる場所が、病院の近くのようで、先ほどから、ドーンという大きな音が、断続的にしている。 枕もとのスイッチを入れる。窓にかかっている、カーテンがサーット開いた。 ジョウは、のろのろと起き上がると、窓に近づき外を見た。 ジョウの病室の前は、背の高い木々が視界をさえぎるように立っている。その合間から、華やかな光が、少しだけ見えた。 (ここからじゃ、無理か) あきらめて、ベッドに戻った。 そのときピカッと、眩しい光が部屋に充満した。 ジョウは、腕で目を覆った。 (でかいのが、あがったのか?)と、訝ったとき、突然声が聞こえてきた。
「いててて。おい、どけよ、マーティ。僕に乗っかってるぞ!」 小さな、男の子の声だ。 「悪い、悪い。すぐ、どくよケイン」 ジョウは、声がした方向に顔を向けた。 すると、そこには、小さな男の子が二人立っていた。 「なんだお前達、一体ここで何をしてるんだ?」 ジョウは、唖然となった。ついさっきまで、一人だった病室に、子供がいる。 入院患者だろうか?いや、違う。少年達は患者用の、パジャマを着ていない。あれはどうみても、クラッシュジャケットだ。 そういえば、この風邪の症状の一つに、幻覚を見ることがあると、ドクターが言っていた。 ついに、くるとこまできたのだろうか・・・
ゴホ、ゴホン。ジョウは、ベッドに横たわった。 「大丈夫?」二人が、ベッドのそばにやってきた。 「まだ、苦しいの?」 二人して、ジョウの顔を覗き込む。 ジョウは、気がついた。二人は、まったくおんなじ顔をしている。 金色の髪はくせが強いのか、くしゃくしゃとなっている。そして、目はサファイアを思わせる青だ。 誰かに、似てるな・・と思った。
「熱はあるの?」 小さな手が、ジョウの額に触れる。ひんやりして、気持ちがいい。 (幻覚は初めて見るが、意外とリアルなんだな) 「うわ!凄い熱だよ」 「えっ!ほんと、僕も見てあげる」 今度は、もう一人の手が額に乗った。 「わー、スッゲー!玉子焼きができそうだね。パパ」 少年達は、なにやら興奮している。 (ん?パパって、言ったか?) ジョウは、その言葉の意味を吟味していた。 パパとは、父親のことをさす言葉だが、ジョウには子供はいない。いるわけがない、結婚すらしていないのだから。 「いま、パパって言ったみたいだが、どういう意味だ?」 二人は、にっこりして言った。 「パパだから、パパっていったんだよ。僕らは、あなたの子供だよ。クラッシャージョウ」 いたずらっぽい光がともった瞳で、ジョウをじっとみた。
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