| リッキーがはっとしてメーターから顔を上げた。 メインスクリーンを見つめる副操縦席のジョウを凝視する。 メインスクリーンは彼の指示どおり2分割されて、左にジョウの護衛する小型宇宙船、右には船籍不明の小型宇宙船が映し出された。 その操作をしたのは航宙士のシートに収まったロボットのドンゴである。ドンゴにしても、ジョウの指示に対する音声での復唱や応答はしなかった。 リッキーは続いてパイロットのタロスを見た。 タロスも何事もなかったかのようにスクリーンを見つめていた。 タロスとドンゴの意図を悟り、リッキーもスクリーンとメーターに注意を戻す。 彼らが見つめる中、右半分のスクリーンから不明宇宙船はゆっくりと去っていった。
1週間前、ジョウはタロスとリッキーに予約を受けていた仕事を正式に受けた旨を告げた。 太陽系国家ミュラの大統領候補・キーツの選挙期間中の護衛である。 ジョウが言い終えると、リッキーがジョウに強い視線を向けた。 「なんでなんだよ、ジョウ。こんなときに」 「おまえが入ってくる前は俺とタロスとガンビーノとドンゴでやってたんだ。できないはずがない。いる人間でやる以外ないだろ?」 「そりゃ、仕方ないのかもしれないけどさ…」 リッキーは口篭もった。 ミーティングといっても、今回は夕食の後のミネルバのリビングルームでジョウの決定をチームメイトに伝達するという形式のものだった。仕事を受けるか否かについて、チームメイトに決定の権限はない。 ジョウは静かに続けた。 「…チームリーダーが欠けたわけでも、船がないわけでもないんだ。こっちから契約を拒む正当な理由はない。今回の仕事なら、ドンゴにアルフィンの代わりは充分務まるさ」 「今回はいいよ。でも今回受けたらその次の仕事だって…」 「…アルフィンが戻ってこなければ、航宙士かその候補をスカウトする必要はあるだろうな」 「兄貴。兄貴はそれでいいのか」 平然とコーヒーを飲むジョウに焦れたのか、リッキーが声を荒げた。 掴みかかりそうなその勢いにタロスが首根っこを抑えて留めようとする。 しかし、リッキーはタロスにクラッシュジャケットの襟を掴まれたまま叫ぶように言った。 「ついてろなんて言わないさ、でもなんで、わざわざピザンに帰しちまうんだよ!」 「リッキー」 「兄貴、後悔しても知らないぜ!アルフィンがそんなこと望んでると思うのかよ!?」 「止めろ、こっちこい」 「兄貴っ!」 タロスがリッキーを吊り上げて騒々しくドアの外に消えて行く。 彼らをちらりと見て、ジョウはドンゴに聞いた。 「…どうも味が違うような気がするんだがな?」 「嗜好品ノ味ハ微妙ナモノラシイデス。あるふぃんガ言ウニハ」 「……諦めるか」 「あるふぃんノ入レル味ニナルヨウニ正確ニ計量スレバイイノデス。キャハ」 「…」 ジョウはドンゴの言葉には応えずにコーヒーカップを置いた。 ゴトリと無粋な音がした。
|