| さらに1週間が過ぎた。 どかどかと廊下を走る靴音に,クレアはぎょっとして振り返る。 「静かにっ!!病院内で走らないで下さいっ!!」 若くとも数々の修羅場を経験しているナースである。その一喝の迫力に,靴音は一瞬ピタリと止まる。 が,”彼ら”はすぐに,今度は”足音を立てないように”駆け出した。 「わりぃ!ちょっと急いでるんだ!見逃してっ」 小柄な少年が両手を合わせ,拝むようにして叫ぶ。 「わわわっ,置いてかないでくれよーっ!」 もはやクレアの返事はお構いなしである。 「こらーっ!!」 後にはクレアの怒鳴り声が虚しく響くだけであった。
ふとクレアの声が聞こえたような気がして,アルフィンは身体を起こした。 探るように耳をすませると,いきなりノックの音が聞こえた。 反射的に返事をしようと口を開けかけた時,すでにドアは些か乱暴に開けられていた。 「!?」 驚きに言葉を無くしたアルフィンだったが,乱入してきた面々を”見て”,そのままフリーズする。 「………アルフィン,見えてるんだな?」 アルフィンの様子をじっくりと観察した後,確認するようにジョウが訊く。 タロスとリッキーも食い入るようにアルフィンを凝視している。 アルフィンは呆気にとられたまま,まだ動けないでいる。 ジョウはゆっくりとアルフィンの方へ近付いていった。視線はアルフィンの瞳に固定したまま…。 そしてアルフィンも近付いてくるジョウから眼を離せずにいた。 ジョウがベッドの傍らにたどり着き,身を屈めて互いの息がかかる程の至近距離からアルフィンの瞳を覗き込む。 途端にアルフィンの頬が薔薇色に染まる。 それは,アルフィンの眼が見えているという他ならぬ証明となった。 「ぃやったーっ!!」 リッキーが歓喜の声を上げる。 「ふへへっ。<ミネルバ>に無理させて,あの距離をぶっ飛ばしてきた甲斐があったもんだ」 タロスも眼を細めている。 「…それじゃジョウ,俺たちは先に戻ってまさぁ。アルフィンの眼が治ったんなら,次は<ミネルバ>を直してやらないといけねえ。エンジンにかなり負担掛けちまったんでエンジンの機嫌をとってやらねぇと。……おいチビ,行くぞ!」 タロスはぐいっとリッキーの襟首を掴むと,そのまま引きずって部屋を出ようとする。 「えええええっ!?な,なんで俺らまでっ!」 リッキーが暴れて抵抗するが,素早くゲンコツが落ちてきた。 「このガキっ!ちったあ気を利かせろってんだ」
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