| 「・・・眠れねえ」 ジョウはブランケットを跳ね除けて起き上がった。 星が霞むほどの明るい月の光が窓からジョウに降り注ぐ。 その光に惹かれるようにベッドから降りて、バルコニーに向かう大きなガラス戸を開けた。 外は幾分冷たい夜風がジョウの顔を撫でては駆け抜けてゆく。 明日は結婚式だ。 誰の結婚式だって? もちろん、俺のだ。 いつかはするものだろうと思っていたが、その日が明日っていうのが自分でも不思議な気分だ。 親父以外の人間でこの世で家族と呼べる人間がこの俺に出来るのだから。 マリッジブルーっていう言葉は結婚前の花嫁に使う言葉らしいが、男の俺にもどうやらそのマリッジブルーっていうものがあるらしい。 嬉しいのに、妙に物悲しい気分。 ワクワクするような気持ちとは裏腹に不安と戸惑いが心の隅に渦巻く。 きっとそれは、傍に抜けるような澄んだ青空の瞳がいないからだ。 風になびく黄金色をした煌く髪も。 その全てを持つ大切な俺の宝物。 ジョウは自分の右手をギュッと握り締めた。 今は何もない掌に、明日は新妻となる花嫁を抱く。 この世のものとは思えない程の美貌と初々しさを兼ね備えた俺だけの女神。 神を信じてるわけじゃないが、彼女を俺のものに出来るのなら神にでも誰にだって誓ってやるさ。 そんなに難しいことじゃない。 人間、その気になれば何だって出来る。 女のことになると口下手な俺でも、ここ一番っていう人生の岐路に立たされりゃな。 このままベッドに潜り込んでもきっと眠れないだろう。 まあいいさ。 明日、花嫁の腕の中で心地いい眠りに付ければ。
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