| 「・・・いったいなんなのこれ?」
補給に立ち寄った惑星のとあるマーケットで、彼女が目にしたものは、あまり見た事のない光景、とでもいうのか。 懐かしいメロディラインの歌が流れ、ワゴンにうずたかく積まれた派手なラッピングボックス。 フロアを埋め尽くす甘い香りにそれに負けない女の子の熱気。 そういわれれば、あちらこちらの店のディスプレイはなにげにキュートだった。
St,Valentain!!ののぼりに、ふと、気がついた。 慌ててクロノメーターを見て見ると、今日は「2月14日」
−あー。・・・・。忙しくって、時間の計算するの忘れてたわ。みんなにカード作んなくちゃ。 うーん・・。ジョウには・・プレゼントも・・・あげちゃおかな。−
せわしなく必要不可欠なものを購入するべく、東奔西走しつつ、あまりにも異様ともいっていい光景がどうも気になる。
・・・・・なんか・・。ちょっと違う気がする・・。
そう。この場の光景は、どうも彼女が今まで見てきていたバレンタイン・デイとどうやら一味違うのだ。 この日に思い出されるのは、バレンタイン司祭の殉教の日。ルペルカーリアの日。 確か幼い頃から、そのように学んだ、はず。 両親や、乳母や、家庭教師なんかにもカードを用意し、友達同士ででもプレゼント交換なんかをしてきた。 愛を説いて、そして殉教の道へと進んだバレンタイン司祭のお話は、ちいさな自分も感銘してた。ように思う。 ルペルカーリアはいまいち、よく意味がわからなかったけれど。 どちらにしても、幼い自分にはちょっとむつましく、少し怖い気がした、ように思う。 でもまあ、ちょっとしたお祭りみたいなものだと、家庭教師から説明されてほっとして。 お祭り好きなピザンでは国を挙げてクリスマスかハロウィンかというくらい、行事浸透していた。 ようは、プレゼントをあげたりもらったり。カードを交換して、家族や恋人や友人たちで楽しく騒いだ一日だった。 その上、女の子はそのための用意をしたり、考えたりする時間が好きだと思うけれど、アルフィンも例にもれずで。 こっそり抜け出して、みんなとバレンタイン・パーティなんかをしたこともあったし、あまり関係のないことで盛り上がっていた バレンタイン・デイではあったけれども。
でも、ここはちょっと・・・・。
彼女の幼い頃からの日常的に例年行われていたバレンタインではなかった。
好奇心旺盛なのはアルフィンのいいところで、欠点だというチームメンバーもいるけれど。 自分はそれはそれでいいと思う。なので、素直にメイド風な衣装に身を包んだキャストだと思われる人を捕まえてみた。 「あのーー・・・」 「はいっっ。いらっしゃいませ。どういうチョコをお探しですかっ?」 職業意識満面の笑顔で答えられ、面食らう。 「いや・・・・えっとぉ。つまりは、これはなに?」 鳩が豆鉄砲といえば、こういう顔をさすのか、―いまさらなにを―という顔を露骨にだした彼女は失礼にも、アルフィンを舐めるように 上から眺め、ひょいとあごを挙げた。 「バレンタインですから」 「ええ。それは知ってるのよ。そうじゃなくって、なんでここはチョコレートばっかり売ってるわけ?」 催事場一面のチョコチョコチョコ。 芳りにむせ返りそうなくらいの。
確かにプレゼントにチョコをつけたりもしたけれど. でもキャンディだったりもしていたし。 まあ、チョコレートは女性なら誰もが大好きだけれども。 こんなフロア一面を埋め尽くすチョコレートが必要だとはそうそうは思えない。
ふむ、と口元に指を置き、眉をしかめながらも、そのちょっとした仕草でさえ愛らしいアルフィンである。 こんなにかわいい女の子なんだから知らないはずはない、と単純に考えうることができる。 当初は少し不審に思いつつも会話をしていたキャストも、思い当たることがあった。 「失礼ですが、お客様はご旅行でこの星に?」 先ほどとは打って変わって、小馬鹿にしたような素振りでもなく、営業スマイル満面な押し付けがましさでもなく、悪戯っぽそうな瞳でメイドキャストが尋ねる。 手早く身近に鎮座するご試食チョコのトレイを持ちつつ、覗き込むように。 「ええ。そう。今朝ついたの。すっかり日にちを間違えてて。そのディスプレイで思い出したんだけど。ただね。このチョコの山はなんなのかなって?」 どうぞ、といわんばかりにトレイを眼前につきだしながら、問題を投げかけられた彼女は答えた。 「これはね。わが国の古来からの風習なんです。・・・お教えしましょうか?」 ぱちん、とウインクをするキャストからは、同世代の女の子の気安さが滲みあふれていた。
素敵・・・・・なんて素敵なの!
なんて秘密めいたノスタルジックなキュートな日なの!! バレンタイン司祭のことなんて消し飛んじゃうくらい?ううん。もう忘れちゃったわ! なんでこんな素敵な事しらなかったのかしら!
今日の日の法則を教えてくれたキャストに飛びつき、ぎゅうっと抱きしめてお礼をし、足元も軽く選別に店をまわる。
すっかり心を奪われてしまったアルフィンをとめられるものはもうだれもいなかった。
しかしながらそのチョコレート。 受け取った本人は、もちろんどういう意味なのか露とも知ることはなくて。 だけど、それでもよかったのだ。 ジョウが受け取ってくれたのだから。 アルフィンにとっては。。。
顔を真っ赤にしたアルフィンからチョコを受け取ったジョウ。 熱でもあるのか、と額に手をやれば、きゃっと悲鳴と共にしゃがまれて、面食らった。 なんでもないの、と手を振り後ずさりながら、食べてねー。という言葉と共に彼女が走り去る後姿をいぶかしむ。 首をかしげつつ、部屋に戻る途中、リッキーとでくわした。
「兄貴。なにそれ?」 「あ?これ?食うか?チョコ」 「いるいる!!!サンキュー♪」 「それ、アルフィンからもらったんだ。あとで礼いっとけよ」 単純に、ひとことつけそえたジョウ。 チームリーダの教えに従ったリッキーに、とんでもない悲劇が降り注ごうとは誰も知る良しもないことなのであった。
なんだよー。まったく。本命にチョコをあげるんだ。なんて法則はどっからでてきたんだよ。 バレンタインってなんだよ。 おいらはだいっきらいだーーー!!!!
すでに妙なバレンタイン法則のある星からは飛び立ち、新たなる旅立ちを始めたクラッシャージョウチーム。 しかしながらこの2月14日の「この日ばかりはアルフィンからジョウに渡されたチョコレートは決してもらうべからず」という格言はこの先毎年、語り継がれるのである。 こうしてバレンタイン伝説は継承されるのであった。
|