| 「おい、リッキー。気を抜くな!さっさと片付けて、お師匠さんの所に行くぞ!」 タロスが大声で、リッキーに叫んだ。 「わかってるよ!でも、こいつら、しつこくって!」 リッキーは、目の前の下っ端妖怪を蹴散らしながら、答えた。
ここは牛魔王が支配する、火炎国。 徳の高い僧を食べれば、寿命が三百年は延びると、アルフィン法師がさらわれた。 アルフィン法師を救うべく、牛魔王の館に飛び込んだ、タロスにリッキー。 だが、いくらやっつけても、ありの様に湧いて出る牛魔王の手下のせいで、なかなかアルフィン法師の元に、たどり着けない。
「ジョウは、なにしてんだ!」 怒気を帯びた声で、タロスが言った。 「兄貴は、破門されたじゃないか・・・」 「あ・・・またか」タロスの目が点になった。 「そうだよ。もう、これで五回目だよ!」 リッキーが口を尖らせた。
普段、お師匠さんとジョウは、仲がいい。いや、良すぎるくらいだ。 でも、女が絡むと、お師匠さんが癇癪を起こす。 昨日もそうだった。 町はずれの古ぼけた寺に、お師匠さんを隠し、おいら達は、火炎国の様子を調べていた。 「ねえ、素敵なお兄さん。あたしの家で、お茶でもいかが?」 なんだか、なまめかしい女が、ジョウを呼び止めた。 ウーラって言う、牛魔王の館で働く女だった。 牛魔王が、お師匠さんを狙っていたのは知っていたから、内部情報を聞きだそうと、ジョウはウーラの誘いに乗った。
しかし、これがお師匠さんの逆鱗に触れた。 さらに、間の悪いことに、ウーラの家から、戻ってきたジョウのほっぺに、赤い口紅の痕がついていたんだ。 「ジョウ、なんなのそれ!」 お師匠さんが、きれいな柳眉を吊り上げて、叫んだ。 「ご、誤解だよ。なんにも、してない。ただ、お茶を飲んだだけだよ」 「じゃあ、なんで、口紅がついてるのよ!」 「こ・・これは、ウーラがつまずいたんで、抱きとめた時についたんだ」 「抱きとめた?・・・」 しまった!自分の失言に、ジョウが青くなった。
お師匠さんの、肩がぶるぶる震えた。 「そんな、不埒な事をするジョウなんて嫌い!いえ、仏様がお許しになりません。ジョウ、あなたを破門します!」 ここで、兄貴も詫びのひとつ、もしくは、お師匠さんのご機嫌でもとればいいのに、それが出来ない。 「破門だぁ?俺は、もう“ナマカ(チームメイト)”じゃないってのか!」 「・・・そうです」 くるっ。兄貴は向きを変えると、胸元から、一枚の羽を取り出した。 「いでよ、金斗雲」 そう言って、羽を投げると、あら不思議。ただの羽が、あっという間に、金色の雲に変化した。 兄貴は、そいつに、飛び乗った。 そして、別れの挨拶もせず、物凄いスピードで、飛び去っていく。
兄貴が、見えなくなると、お師匠さんが、わっと泣き出した。 おいらと、タロスは、またか・・・と、げんなりした。 なんてったって、このあと、お師匠さんを慰めるのは、おいら達の仕事なんだから。 そんな事を思い出してたら・・・ひゅっ!敵の刀が、おいらの頬を掠めた。 あっぶっねー。真剣に、やらなくちゃ!
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