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■1042 / inTopicNo.1)  Our precious princess
  
□投稿者/ ヒロコ -(2006/05/09(Tue) 11:48:55)
    勇気を振り絞りまして、再投稿致します。(^^ゞ
    すぐに読み終わる掌編です。
    登場人物は、アルフィンの両親とその他1名です。
    登場人物から推察できるように、糖度ゼロ、萌えポイント全くナシです。
    脳内イメージを壊す前に、合わないとお感じになられましたら
    どうぞ回れ右して下さい。よろしくお願いします。
引用投稿 削除キー/
■1043 / inTopicNo.2)  Re[1]: Our precious princess
□投稿者/ ヒロコ -(2006/05/09(Tue) 11:52:51)
    Our precious princess


    絶叫にも近いナレーションが流れる。それと同時に愛娘の顔が3Dモニタにいっぱいに広がった。
    目がチカチカしてくる。
    自身の目を閉じるのと同時に手元のコントローラで3Dモニタの電源もオフにした。
    部屋に静寂が戻った。
    ハルマンV世は右手で両の目を覆い、しばしの間押し黙る。
    なんてことだ。あれは本当にアルフィンか?ほんの少し前まで、お父様、お父様と無邪気に
    駆け寄り、愛くるしい笑顔を振りまいていた王女アルフィンなのか?
    これは夢なのだと思いたかった。
    が。
    眩暈を感じる。頭の一部がじんと痺れる。鈍い頭痛もしてきたのは気のせいか。
    ───気のせいではない。…これは紛れもなく現実だ。
    うつむいていた顔をあげ、宙をきっと睨みつけた。ハルマンV世は声を張り上げた。
    「エリアナ!エリアナはどこだ?」


    事の始まりは、王室執務室長からの一報だった。
    執務室にて煩雑な公務についていたハルマンV世は、一瞬手を止めた。
    「それは急を要する用件かな?」
    スクリーンに映る執務室長は、顔色が青ざめているようにも見えたが、あえて指摘はしなかった。
    「いえ、急いでいる訳ではございませんが…その…」
    執務室長が口ごもる。
    「アルフィン王女に関することなのですが…。いえ、もちろん安否に関わることでは全くございません。…ですが」
    ハルマンV世の眉がピクリと動いた。
    しかし、それも一瞬のことで、彼は再び机上の書類に目を落とした。
    「ならば、公務を終えてからにしよう。アルフィンは既に王室を出た人間だ。」
    かしこまりました。それではご公務後、改めましてご報告に参ります、と
    執務室長は、困惑顔で小さく返事をした。
    妙だな、とは思ったが、娘アルフィンに関することとはいえ、急を要する件ではない。
    そして今は執務中だ。公私の区別をつけるためにも、ハルマンV世は奇妙な予感を頭の中から
    追い出すことにした。


    公務を終えると、ハルマンV世は執務室長から渡された記録済みのディスクを携えて、王宮内の
    私室に戻った。ハルマンV世の心中は複雑だった。とにもかくにも、内容を見てみないことには
    分からない。執務室長の言葉が彼の脳裏で繰り返されていた。


    「銀河標準時間で40時間程前に、太陽系国家ルビーサスの第四惑星ドミナンにてミス・ギャラクシー
    コンテストという催事が行われました。これは毎年開催されるものでして、銀河系規模の大きな
    コンテストであります。実は…そのコンテストにアルフィン王女様が出場されたとの情報を得まして
    …出すぎたこととは重々承知の上ですが、その模様を録画したものを取り寄せました。」


    ミス・ギャラクシーコンテストという名前だけは、以前にどこかで聞いた覚えがあった。
    内容もよく分からないし、自分には全く関係のない次元の話だ。
    そして早朝、起床後のルーティンとして行っている、各メディアの発行物に一通り目を通した際
    『ミスコン会場にてテロ未遂 犯人逮捕なるも事件全容の解明急ぐ』
    という見出しを斜め読みしたのを思い出した。自国にはとりあえず関係のない事柄だったので、
    そのまま素通りしてしまったのだが。


    額に汗を浮かべながら執務室長は言葉を続ける。どうしてそんなに青くなっているのだろうか。


    「テロリストの逮捕に貢献したのは、クラッシャージョウとクラッシャーダーナの2チーム
    だった模様です。犯人サイドには死傷者が出ましたが、主催者、観客、出場者サイドには
    直接の被害はなかったようです。避難する際に、軽傷を負った者が多数出た模様ですが。
    王女様は、コンテスト出場者としてクラッシャーの任務を担っていたと思われます。
    コンテストの様子は全銀河に生中継されまして、テロが起こり、会場が混乱する様子も
    一部始終放送されました。…ご覧になりますでしょうか、陛下」


    ハルマンV世は、自室のソファに身体を沈めると、目の前のテーブルと一体化している
    3Dモニタにディスクを挿入した。自動的に映像の再生が始まった。
    コンテスト会場の全景が立体的にモニタ上に投影される。
    激しい色彩の乱舞の中、オープニングショーが始まった。騒々しい音楽が耳をつんざく。
    執務室長の報告が正しければ、アルフィンはコンテスト出場者として出てくるはずだ。
    よって、主催者の挨拶やらオープニングショーは早送りにした。
    間もなく、舞台上手から下手から、水着姿の美女たちがイオノクラフトに乗って登場し始めた。
    再生のスピードを慌てて通常に戻す。
    彼女たちはフワリと舞台上を回り、得意のポージングで自身の魅力を目一杯アピールする。
    気になるのは、肌の露出度の高さだ。
    ワンピースタイプの水着を着用している者はほとんど皆無。
    セパレートタイプでも、多くはマイクロビキニ、中には小さな布切れを恥部に貼り付けただけ
    という、目のやりどころに困る出場者ばかりだ。
    一体なんという破廉恥なイベントだろう、とハルマンV世は小さくため息をついた。
    こんな痴態を全銀河に中継だなんて、本当にどうかしている。全く、この娘たちの親の顔が
    見たいものだと思って、はたと気がついた。


    執務室長の言葉が繰り返される。
    「王女様は、コンテスト出場者としてクラッシャーの任務を担っていたと思われます。」


    ハルマンV世の血の気が引いた。見る見る顔が青ざめていく。まさか。まさか。


    舞台上手から、見覚えのある、いや、決して忘れることのない、懐かしい黄金色の髪を持つ少女が現れた。
    イオノクラフトを巧みに操り、彼女の魅力を最大限に引き出すポージングを行っている。


    彼女がいきなりズームインして、ハルマンV世の眼前に大写しになる。
    彼の心臓はさらに早まった。脂汗がじとりと流れる。


    華奢で雪のように純白の長い手足、程よく豊かな胸、引き締まったウェスト、そして何よりも
    その肢体をほんの少ししか隠していない真紅のウルトラマイクロビキニがアップになる。


    これが、全銀河に放送されたというのか。
    ハルマンV世は目を剥いた。
    嘘だろう。
    私のアルフィンは常につつましく、恥ずかしそうに下を向き、その頬を赤く染めるような子だった
    はずだ。少なくとも、こんなことを公衆の面前で行える度胸を持つ子ではなかった。
    そうだ、この娘は別人だ。アルフィンにそっくりだが別人に違いない。


    そこに追い討ちをかけるかのように、絶叫に近いナレーターの言葉が重なった。
    「ピザンの元王女だ!」
    観客席からどよめきが聞こえてくる。
    それと同時に、アルフィンの顔がアップになった。まるで天使が微笑んだような笑みだった。
    この、愛らしい子悪魔的な微笑みに負け、娘の我がままをいつも叶えてしまっていた自分。
    そしてこの無敵の微笑みに完敗し、ついに彼女を宇宙に手放したのは1年前のことだったか。
    目の前が真っ暗になり、ハルマンV世は3Dモニタの電源をオフにした。
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■1044 / inTopicNo.3)  Re[2]: Our precious princess
□投稿者/ ヒロコ -(2006/05/09(Tue) 11:54:55)
    「お前は知っていたのか?アルフィンが、こ、このような…」
    先ほどまで顔面蒼白だったハルマンV世だったが、今は激昂で真っ赤になっていた。
    どうやら怒りで言葉が続かないらしい。

    アルフィンがクラッシャーになって以来、両親の元にはほとんどコンタクトはない。
    そのことについては、ハルマンV世も妻のエリアナも理解しているつもりだった。
    クラッシャーになることを許した以上、娘には苦しくても辛くても、投げ出さず初志を貫徹して
    プロとしてのクラッシャーの道を歩んで欲しかった。
    だから、ピザンに残っている自分たちの身を案じてもらうことなどは露ほどにも望まなかった。
    便りが無いのは元気な証拠。
    事故が起きれば、否が応でも報告がくるはずだ。
    毎晩の就寝前、ハルマンV世が娘の無事に感謝していることをエリアナは知っている。


    確かにこれは「無事な証拠」をきっちり証明する良い映像だ。
    しかもクラッシャーの道をしっかり歩んでいる確かな証拠。
    だが、自分が知りたいと望んでいたものとは対極の位置にある「証拠」だった。
    「あまりにも酷すぎる…。このような水着で…これがクラッシャーの仕事の一環だと言うのか?
    だとしたら、アルフィンには即刻ピザンに戻るように命じろ。私は、このような破廉恥を
    許した覚えはない。」
    怒りで声が震えていた。
    「落ち着いて下さい、あなた。」
    妻のエリアナは落ち着いて夫を諭す。
    今は何も投影していない3Dモニタを指差し、彼は続けた。
    「お前は何故、そんなに落ち着いていられるのか?あの映像を見たか?見たならば、そんな態度は
    とれないはずだ。アルフィンは…アルフィンは…あのような娘ではなかった…」
    ハルマンV世は、両手で顔を覆い、ガックリとソファに崩れ落ちた。
    まるでこの世の終焉を迎えたかのように。

    「ええ、見ましたよ。それも最後まで。」
    エリアナは微笑んだ。だが、その笑みには、微量の寂しさも混ざっていた。
    「アルフィンは私たちが思っていた以上に、クラッシャーとしての道をしっかり歩んでいるよう
    ですね。確かに親として、あの水着姿は目も当てられないものですが、それでもあの娘の全身から
    出ている生き生きとした輝きに気付きましたでしょう?あんなに堂々しているあの娘を見たことは
    ありません。きっとそれも、この1年であの娘が成長した部分の一つなのでしょう。」


    エリアナは自身の想いを言葉にしながら、それはまるで自分に言い聞かせているようでもあった。
    「充実している人生を送っている、そう実感しましたわ。私たちのそばにいないのは、とても
    寂しいことですけれど、でも、あの映像を見て、私はアルフィンから元気をもらいました。
    そして、心の底から本当に安堵しました。あの娘は大丈夫ですね、私たちがいなくても。」
    ハルマンV世は少し顔を上げて、妻の顔を見た。
    「確かにそうかもしれない。だが…」
    エリアナは彼の隣にきて、そっとハルマンV世の背中を撫でた。
    「見守ってやりましょう、あなた。あの娘ももう17です。」
    言い終えると、エリアナはおもむろに立ち上がり部屋から出て行こうとした。
    お紅茶でも淹れて参ります。見たくないかもしれませんが、どうぞコンテストを最後まで
    ご覧になって下さい。あなたもきっと理解されることでしょう。
    ハルマンV世は、ひとり部屋に残された。


    しばらくの間、彼は彫像のように微動だにしなかった。
    が、深いため息をつき、それがまるで合図だったかのように丸めた背中をまっすぐに伸ばした。
    彼は意を決して3Dモニタをオンにして、録画の再生を始めた。
    映像は、先ほど彼がストップさせたところから始まった。


    アルフィンの姿は既にモニタ上から消え、新しい出場者の紹介に入っていた。
    ルーとかいうコンテスタントらしい。刺激的なコスチュームが、彼女の肢体の肉感を更に高めていた。
    堂々たるイオノクラフトの操作とポージングである。どうやら彼女が最後の出場者のようだ。
    自身の紹介ナレーションが流れると同時に艶然と微笑むルー。
    が、瞬時に笑顔が消えたと思ったら、猛スピードで舞台上から消え去った。
    何があったのか?
    ハルマンV世は目をすっと細めた。

    映像が急に会場全景に切り替わった。
    出場者も観客も何が起こったかよく理解していない状況がこちらにも伝わる。
    アルフィンがいるはずの舞台上手に目を凝らす。ズームアウトされたせいで、彼女を認識するのが
    難しい。それでも、彼女の輝く金の髪はよく目立つ。映像の端で、機動隊員と格闘しているのが
    見て取れた。細かな動きは遠すぎてよく分からないが、確かに彼女はテロを阻止しようと
    戦っていた。テロリストたちの正体は、会場の警備にあたっていた本物の警官隊だったと聞き及んでいる。
    観客席でも、何か動きがあったようだ。
    時折、舞台と観客席の間から閃光がチラチラ見え隠れした。
    ───銃撃戦。
    ハルマンV世は思わず目をつぶる。なんてことだ。娘がこんな戦場にいるなんて…
    先ほど、アルフィンの水着姿を見た時に流れた汗とは別種の汗がじんわりと滲み出た。
    ───どうぞ、娘をお守り下さい。
    これは録画だ。既に戦いの帰趨は知れているのだが、彼は本気で神に祈った。
    映像が会場の全景に切り替わったことで、アルフィンの仔細が見て取れない。
    娘の白兵戦を間近で見るのは、父親として手足をもがれるような苦痛が伴う。
    映像の視点が切り替わり、彼は心底有難いと感じた。
    これはフィクションでも夢でもない。紛れもない現実だ。
    自分はなんという世界に愛娘を放り込んでしまったのだろう。
    耐えられない。娘が危険に晒されている様を黙って見ていられる親がどこにいる。
    連れ戻そう、アルフィンを。ピザンに連れ戻して、あの頃と同じように、妻と娘と一緒に
    穏やかな日々を再び過ごすのだ。
    ハルマンV世は、ぎりりと奥歯を噛み締め、その目は揺らぎのない決意の色に染まっていた。


    すると、会場右手の壁に異変が起きた。壁が壊れ、轟音と共に何かが突き出していた。
    ビーム条の閃光が会場を焼く。同時に、青年の、硬質な声が地上甲装車のスピーカーを経由して
    部屋の中の空気を震わせた。
    ハルマンV世がはっとする。この声は。


    「諦めろ。テロリストは、すべてロックオンした。もう逃れられない。武装解除して、降伏しろ」


    ハルマンV世は、ゆっくりとソファのバックレストに身を埋めた。
    全身の力が抜けて、無意識に腕や足を投げ出していた。
    そうだ、この声だ。忘れる訳がない。
    全てを射抜く漆黒の瞳。意思の強さが見て取れる精悍な顔立ち。長身で均整の取れた体躯。
    困難を目の前にしても決して諦めることのない、強靭で不屈の精神を宿す青年。
    この青年が、我が国ピザンを崩壊の寸前から救い出し、反乱者を倒し、平和を取り戻してくれたのだ。
    そして、娘はこの青年に心を盗まれ、私の元から去っていった。
    そうだった。忘れていた。
    娘は、あのクラッシャージョウのチームの一員なのだ。。
    彼に全幅の信頼を寄せているからこそ、娘を彼の元へと送り出せたのだ。
    そしてアルフィンは彼に心を寄せている。娘が見初めた男だ。祖国の恩人を、娘が心から慕う男を
    信じずにして何を信じればよいのだろう。
    彼ならば、愛する娘の身に何が起ころうとも全身全霊をかけて彼女を守り抜いてくれるだろう。


    頑張っているな、アルフィン。
    すぐには会えぬ愛娘の顔を瞼の裏に浮かべ、彼は静かに微笑した。
    思い切りやるといい。自分が納得いくまで、やり抜くといい。


    気付くと映像は「調整中」という文字の点滅に変わっていた。
    どうやら、放送局サイドもようやく事態の異常に気付いたらしい。
    放送を中断、調整中の文字に差し替えた。
    点滅する文字をボンヤリ見つめながら、ハルマンV世は思った。
    全く、女親というものは肝が据わっているな。あれを動揺せずに最後まで見ていられたとは。
    妻が紅茶を準備していることを思い出し、口の端だけで苦笑しながら彼はソファから立ち上がった。


    しかしアルフィン、あの水着はやはりどうかと思うのだがね。
    首を小さく左右に振りながら、彼は妻の元へと向かった。

    <了>
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■1045 / inTopicNo.4)  Re[3]: Our precious princess
□投稿者/ ヒロコ -(2006/05/09(Tue) 12:02:32)
    お目汚し、大変失礼致しました。

    アルフィン嬢が出場したコンテストが銀河中に生中継されていたことで
    「両親が予告なくコレを見たら泣くだろうなぁ…」と思ったのがきっかけです。
    父親の悲嘆オンリーですので、色気も萌えもなくて申し訳ありません。

    お読み下さってありがとうございました。<m(__)m>
fin.
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