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■1064 / inTopicNo.1)  Three Days
  
□投稿者/ りんご -(2006/05/19(Fri) 23:39:57)
    「おい、大丈夫かジョウ」
    ローマノ教授が、俺の顔を覗きこんだ。
    何だかぼうっとして、目の焦点が合わない。俺は、何度か瞬きし、慌てて起き上がった。
    「一体何があったんだ?」
    ロマーノ教授が、そっと俺に手鏡を差し出した。
    訝しく思いながらも、それを受け取ろうと、手を出した。
    ふと、違和感を覚えた。なんだか、クラッシュジャケットが緩い。
    鏡を受け取り、自分の顔を映して愕然とした。
    声もでない!
    俺は、ロマーノ教授を見た。
    「そうじゃよ、ジョウ。おまえさんは、<チルドー>を飲んでしまったんじゃ・・・」
    申し訳なさそうに、教授が言った。
    <チルドー>だって!!体から、力が抜けた。

    俺達は、銀河連合生物化学アカデミーの研究論文発表会の会場である、惑星ジェイテスに来ていた。
    そして、俺を心配そうに見つめる人物が、今回の仕事の依頼人。プロフェッサー・ロマーノ。
    因みに、俺達は、ロマーノ教授と呼んでる。
    教授の年は62歳。白いもじゃもじゃ頭に、ひげも白く、黒ぶちの眼鏡をかけている。なんだかサンタクロースを連想させる風貌だ。
    俺は、初めて会ってすぐ、教授に好意を持った。瞳には少年ぽい好奇心が宿り、なんだか憎めない、そういう人だった。
    ロマーノ教授は、多くの研究機関を要する惑星アラガスで、細胞の老化を研究テーマにしている。
    そして、今回、大発見となる研究成果を携え、この惑星へとやってきた。
    その大発見とは、細胞を若返らせる効果をもつ、<チルドー>という秘薬だ。
    それは、実験の最中に、偶然生成された薬だった。

    実験用の年老いたネズミに、<チルドー>を服用させたところ、みるみる元気を取り戻し、細胞が青年期レベルまで回復したのだ。
    この、世紀の大発見に目をつけた、何物かが教授の周りをうろつき出した。
    身の危険を感じた教授は、アラミスのクラッシャー評議会に護衛の依頼をした。そして、それは俺のチームへと振り当てられた。
    俺達は、1週間に渡る研究論文発表会の間、ロマーノ教授の護衛を始めた。

    だが、仕事が始まってから、一騒動持ち上がった。
    仕事開始2日目。昨日の火曜日のことだ。教授が大事な実験データを忘れてきたと、騒ぎ出した。
    そいつは、研究論文発表で使う大切なデータだった。しかたなく、助手のひとり、ビリーが惑星アラガスに取りに戻ることになった。
    ロマーノ教授は、自分の安全より、データの安全が最重要だと言い張った。
    結局、タロスとリッキーが<ミネルバ>でついて行くことになった。アラガスから、ジェイテスまで往復4日。
    昨日出発したから、帰ってくるのは3日後、金曜日の朝だ。因みに、教授の発表は、金曜日の午後で、ぎりぎり間に合う計算だ。
    そして、ここに残った、俺とアルフィンで教授の護衛を続けている。

    それは、今朝の出来事だった。
    滞在している、ホテルの一室。教授の部屋で、スケジュールの打ち合わせをしている時だ。
    教授が俺達にと、アラガス産の栄養ドリンクを差し出した。
    これを飲めば、精力もりもり、今日もスカッと研究に励もう!と怪しい宣伝文が載っていた。
    それをみたアルフィンは、きっぱり拒絶した。だが、アルフィンに断られ、がっかりしている教授を不憫に思い、俺は一本もらった。
    俺は、それをグッと飲んだ。
    なんとも、苦い味が口に広がって、吐き出しそうになったが、我慢して飲み込んだ。そんな様子の俺に、教授は嬉しそうに笑っていた。

    「すまん、ジョウ。本当の栄養ドリンクとラベルを差し替えておいた<チルドー>と間違えてしまった。すまん、この通りだ」
    教授が、俺に深々と頭を下げた。
    謝られたって、もう遅い!俺は飲んじまった。世紀の秘薬、そう<チルドー>という、若返りの薬を!
    さっき鏡に映っていたのは、俺だ・・・そうガキの俺。年は、いいとこスクールに入りたてってとこだ。
    「どうしたら、元に戻る?何か薬があるのか?」
    勢い込んで俺は訊いた。
    「・・・残念ながら、それは無い」
    教授の言葉に、俺は真っ青になった。それを見た教授が慌てて言葉を継ぎ足した。
    「そんなに心配せんでも、大丈夫だジョウ。<チルドー>は、まだ未完成の薬。若返りの効果は一時的じゃ」
    「じゃあ、一生このままじゃないんだな?」
    「そうじゃ。少しは安心したかな?」
    「ああ」
    俺は、胸をなでおろした。こんな、ガキの姿じゃ、皆に会えやしない。
    会えないといえば、アルフィンは教授の用事で、銀河連合生物化学アカデミーが用意したインフォメーションセンターに、昨日発表された分の論文の
    コピーをもらいに行っている。

    「どれくらいで、元の姿に戻れるんだ?」
    「そうじゃな」教授は腕を組み、うーんと唸った。
    「人間に試したことがないから、はっきりとは言えんが・・・量からして、いいとこ3日というとこじゃな」
    「3日?」
    俺はショックを受けた。3日も、こんな姿をしてなきゃならないのか。
    「それはそうと、その格好をどうにかせんとな」
    そう言うと、教授は部屋に備え付けられたクローゼットを引っ掻き回し、なにやら紙袋を取り出した。
    「あったぞ。発表会が終わったら、孫に渡そうと思って買っておいたもんじゃ」
    俺は、その袋を受け取り、中身をみた。服が入っていた。
    教授に急かされ、俺はその服に着替えた。
    チェックのシャツに、ジーンズに青いスニーカー。
    「おっ、ぴったりじゃないか、良かった良かった」
    全然、よくない!俺は、心の中で叫んだ。

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■1065 / inTopicNo.2)  Re[1]: Three Days
□投稿者/ りんご -(2006/05/19(Fri) 23:41:08)
    「さて、これからのことじゃが、どうするね?もうすぐ、アルフィンが戻ってくる。このことを、話すかね?」
    うーん。俺は、しばらく考えこんだ。
    こんななりの俺じゃ、教授の護衛なんて満足に出来ない。かといって、アルフィン一人では、荷が重過ぎる。
    教授の身辺にちらつく怪しい影も気にかかる。
    そこで、俺は決めた。
    アルフィンには、この事を内緒にし、俺、クラッシャージョウは急な用件で、この星を離れたということにして、不審者の様子を探る。

    そこへ、アルフィンが戻ってきた。
    「はい、教授。これが資料よ」
    「おお、すまんな、アルフィン」
    教授の後ろに控えていた俺に、アルフィンが気がついた。
    「あら、この子だあれ?」
    「えっと、お姉さん。これジョウから預かったよ」
    そう言って、俺は手紙を差し出した。
    これは、さっき、アルフィン宛に書いておいた手紙だ。教授から特別な依頼を受け、3日間ほど留守にする、とだけ書いておいた。
    「ジョウから?」
    アルフィンが、手紙を受け取って読んだ。
    「あら?」アルフィンが、顔をしかめた。
    わざとらしく、俺は訊いた。
    「なんて書いてあるの?」
    「アルフィン、愛してる。だって」
    俺は、驚いて大声をだした。
    「そんなこと、書かなかったぞ!」
    アルフィンが、じっと俺をみていた。
    しまった!
    「これ、あんたが書いたのね?ジョウは、どこなの?あたしに何も言わず、こんな手紙ひとつで、仕事を抜けるなんて変だわ!」
    アルフィンは腕を組んだ。
    「それに、あんた一体何者?」
    アルフィンの鋭い読みに、俺は後退さった。
    「その子はな、ジョウの親戚の子じゃよ!」
    助け舟を出そうと、教授が言った。
    ギロリ!俺は教授を睨んだ。余計なことは言ってくれるな。
    教授は、俺の視線を受け、あわてて自分の口を覆った。
    「親戚?じゃあ、あなたジョウの知り合いなの?」
    「う・・うん。甥っ子だよ」
    しかたなく、俺はそう答えた。

    だが、それを聞いてアルフィンの態度が一変した。
    「そうなのー、甥っ子なの。あたしは、アルフィンって言うの。よろしくね。そうだ、あなたお名前は?」
    へ?名前?俺はあせった。それは、考えてなかった。
    「えっと・・名前は・・ハ・・ハルって言うんだ」
    「そう。ハル、よろしくね」
    ふうー。俺はため息をついた。危なかった。因みに、ハルって言うのは、彼女のお父さん、ハルマン三世から失敬した。

    「で、あなたはどうしてここにいるの?」
    「そ・・それは・・・えっとね、ジョウのお父さんの具合が悪いんだ」
    するっと、嘘が口から飛び出した。
    「えっ?ジョウのお父さんが?」
    アルフィンが驚いたように、俺をみつめた。
    「うん。おじさんは、その事を言うなって言ったんだけど、心配した僕の父さんが、ジョウを迎えに来たんだ。ね、教授?」
    援軍を求めて、俺は教授に顔を向けた。

    「おおそうじゃった。ジョウは、わしが心配で行くのを渋っておったんじゃが、わしが行くよう、説得したんだ」
    教授は、見事なひげを撫で付けながら言った。
    「そうだったの・・・」
    「うん。急なことで、お姉さんに、きちんと説明できなくて、ジョウがごめんって言ってたよ」
    「それで、ジョウはいつ戻ってくるって言ってた?」
    「えっと、3日後かな?」
    「そう。でも、ハルあんたは、どうして一緒に帰らなかったの?」
    ギク!
    「おお。ハルはな、研究者になるのが夢なんじゃ。な、そう話してくれたよな?」
    教授が、俺に同意するよう、視線を送ってきた。
    「う、うん、そうなんだ。ここで、えらい科学者の先生の発表会があるんでしょ?僕、勉強しようと思って。だから、3日の間、ここでお世話になることに
    したんだ」
    そう言って、俺は笑ってみせた。

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■1066 / inTopicNo.3)  Re[2]: Three Days
□投稿者/ りんご -(2006/05/19(Fri) 23:42:41)
    俺は、アルフィンと一緒に、ホテルの中にある、ショッピングモールへとやってきた。
    このホテルは、三つのタワーから成り立っている。
    一つは、宿泊専用のステイタワー。もう一つは、大掛かりな会議やパーティ専用のインテリジェンスタワー。
    そして、俺達がやってきた、アミューズメントタワー。ここには、巨大ショッピングモールと映画館、それに飲食店が入っている。

    俺と、アルフィンの目的は買い物だ。
    3日間、この姿で過ごさなくちゃならない。着替えが必要だ。
    で、アルフィンが付き合ってくれることになった。
    この間、教授は自分の部屋から出ないことを俺達に誓った。

    アルフィンに選んでもらって、2着ほど服を買った。あと、下着もだ。
    アルフィンが、キャラクターがついた下着を差し出したときは、正直泣きたくなった。
    ひとしきり買い物を終え、お茶でもしようと歩き出したとたん、アイツと出くわした。

    「あら、ジェイクじゃないの」
    アルフィンが、声を掛けた。
    「こんなとこで何してる?ドジふんで、仕事ほされたのか?」
    「もう、違うわよ。仕事はちゃんとしてるわ。今は、ロマーノ教授に頼まれて、買い物の途中なの」
    「ふーん」
    こいつは、俺の幼馴染、クラッシャーケリーの弟のジェイク。
    身長は俺と同じ位。といっても、今の俺は小さくなったから、ものすごく大き見える。
    ケリーのチームも、今回の論文発表に参加する、プロフェッサー・チャンの身辺警護に当たっている。
    しかも、同じホテルに宿泊しているのだ。
    因みに、ケリーのチームは、弟のジェイクと妹のジェニーがメンバーだ。

    ジェイクが俺を指差した。
    「なんだ、これは?」
    「ああ、ジョウの親戚の子で、ハルっていうの。ちょっと、事情があって3日程、預かることになったのよ」
    「はあ?仕事の最中に子守だぁ?ジョウはどこにいるんだ?ロマーノのとこか?」
    呆れたように、ジェイクが言った。
    「ううん。ちょっと、込み入った件があって、ジョウはアラミスに戻ったの」
    「ジョウがアラミスに?仕事は、どうするんだ?おっさんとチビ助はいないんだろ?お前一人で、出来るのか?」
    「失礼ね。これでも、クラッシャーなのよ。一人でだって、ちゃんと出来ます」
    アルフィンは、腰に手を当て、きっぱりと言った。
    「そうだ、ケリーとジェニーはどうしたの?」
    「ああ、あいつらは、すぐ先のカフェで茶してる。俺は散歩だ」
    ジェイク達の依頼人は、3時間に一遍は、何かしら癇癪を起こし、ジェイク達を追いはらうのだ。
    しかし、それはジェイクがチャンにちょっかいを出すせいだと、俺はにらんでる。
    「わあ。あたし達も、お茶を飲もうと思っていたの。行きましょうハル」
    俺は、ぎくりとした。ケリーは、俺の幼馴染だ。ガキの頃の俺の顔を知ってる。

    「僕は、いいよ。お姉さんだけ、行ってきなよ」
    慌てて、俺は言った。
    「えー、でも?」
    「大丈夫、僕、このお兄さんと一緒に待ってるから。ね、お兄さん」
    ジェイクの袖をぎゅっと掴み、俺はとびっきりの笑顔を作った。
    「そう?じゃあ、ジェイク、悪いけどお願い。30分で戻るわ」
    ジェイクの返事は聞かず、アルフィンは歩き出した。

    俺とジェイクは、通路に設置されているベンチに腰を下ろした。
    何か話をしたほうがいいとわかっていても、言葉が出てこない。
    こいつは、意外と勘が鋭いから、下手なことはしゃべれない。
    会話の無いまま、俺達の前を、何組もの楽しそうな親子連れや、カップルが通り過ぎて行った。
    ふと、ジェイクが口を開いた。
    「おい。お前本当にジョウの甥っ子か?」
    「うん。そうだよ」俺は、顔を引きつらせながら答えた。
    「へー」
    だが、ジェイクの態度は、明らかに疑ってる。

    「お前、秘密守れるか?」
    「秘密?」
    俺は、意外な言葉に、きょとんとなった。
    「そうだ。ジョウに内緒に出来るか?」
    「うん、出来るよ」
    俺は、大きく頷いて見せた。

    「一月前、ジョウと俺のチームは、ハルストンの仕事で惑星ダコタに行った」
    知ってるさ。俺は、そこでひどい目に遭ったんだ・・・。
    「その時、俺とアルフィンは、ジャングルで遭難した」
    「うん」
    「アイツは、クルミンって催眠成分を含んだ花のせいで、気を失った」
    何が言いたいんだ?俺は、ジェイクの顔を見つめた。
    「その顔を、みてたら・・・」
    ジェイクが言葉を切って、黙り込んだ。

    「見てたら?」俺は、先を即した。
    「つい・・・キスしちまった」
    「なんだとぉ!!きさまー!」
    俺は、頭に血が昇った。立ち上がって、ジェイクの胸元を掴んだ。
    そんな俺に、ジェイクがボソッと言った。
    「やっぱりな・・・」
    しまった!奴に鎌を掛けられた。
    俺は自分の、愚かさを呪った。体が小さくなったせいで、冷静な対応ができないのか!
    俺は、ジェイクから手を離すと、すとんと座った。そして、憮然と正面を見据えた。
    「仕事馬鹿のジョウが、仕事を抜けてアラミスに戻るだぁ?間抜けな理由だぜ」
    ジェイクが鼻で笑った。
    「今回ジョウが警護しているのは、若返りの秘薬を発明したと、話題の先生だ。急に姿を消したジョウの代わりに、タイミングよく現れた甥っ子。
    これだけ、材料がそろえば、誰だって、わかるぜ。そうだろう、ジョウ?」
    俺は、腹を決めた。
    「そうだ、お前の言う通り。俺は、ジョウだ」

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■1067 / inTopicNo.4)  Re[3]: Three Days
□投稿者/ りんご -(2006/05/19(Fri) 23:43:41)
    ジェイクは、俺の体を見回し、呆れたように言った。
    「お前<デスエンジェル>といい、今回といい、劇薬を飲むのが趣味なのか?」
    「ほっとけ!」
    俺は、むっとした。誰が、そんなもの好き好んで飲むか!

    「で、元の体には、いつ戻れるんだ?」
    「・・3日程で戻れるらしい」
    「ふーん・・・仕事はどうすんだ?」」
    「このまま続行だ」
    「そうか」
    ジェイクが黙り込んだ。
    「そっちこそ、どうなんだ?チャン教授の護衛は?」
    「はん!あんなの、仕事のうちにもならん。ただの、付き添いみたいなもんだ。それより、ロマーノはどうした?怪しい奴の目星はついたのか?」
    「ああ。助手の、ライリーとデニス。このどっちかが教授の研究を狙っているようだ」
    そう言って、俺は二人の顔を思い出した。
    ライリーは、年は、36歳。ちょっと二枚目がかった優男だ。
    もう一人は、デニス。こっちは、ライリーより、少し若くて、33歳。何がそんなに、嫌なのか、始終しかめっ面している。
    二人は聴講のため、毎日、インテリジェンスタワーの、研究論文発表会の会場に行っている。

    突然、大音量で、コマーシャルソングがを響いてきた。
    ショッピングモールの壁に設置された、大きな広告用スクリーンだ。そこから、アーレン化粧品のCMが流れ出した。
    なんとなく、俺達はそれを眺めた。
    肉感的な女が、バッグから口紅を取りだし、唇に塗りたくっている。あまり品がいいとは言えない。

    「今回の研究論文発表会に、アーレン化粧品の奴らも来てるらしいぞ」
    ジェイクが俺に教えてくれた。
    「アーレンが?」
    「ああ。あそこは、最近ヒット商品がなくて、業績がガタ落ちなんだ」
    「詳しいな」
    正直驚いた。ジェイクが、化粧品メーカーの内情に詳しいなんて。
    「まあな、ケリーとジェニーの受け売りだ」
    そう言うと、ジェイクが俺に向き直った。
    「よかったら、ケリーをレンタルするぞ」
    「ケリーを?」
    「ああ。しかし、そうすると、おまえは、俺に貸しをふたつ作ることになるがな」
    にやっと、ジェイクが笑った。しかし、俺はすぐに返事をした。
    「気遣いは嬉しいが、断る」
    「ほう、ガキのくせに遠慮するのか?」
    「ガキだと?俺とお前は、いくつも違わないだろうが!」
    むっとして、言い返した。
    「十分ガキだろうが」
    ひょいっと、まるで猫の子を掴むみたいに、ジェイクが俺をつまみあげた。足が宙に浮いた。
    俺の顔が赤くなった。
    「何する、離せ」
    俺は、じたばたした。

    「どうしたの、ハル!」
    アルフィンの声がした。ジェイクが、ぱっと手を離したんで、俺は、床に落ちた。いてっ!
    「ちょっと、ジェイク。ハルのこといじめないでよ!」
    アルフィンがジェイクに抗議した。
    「いじめる?俺が?」
    ジェイクが、俺に顔を向けた。
    「そんなことないよ。僕達仲良く、お話していたんだよ。ね、ジェイクお兄さん」
    「そうだったかな・・・」呟くように、ジェイクが言った。
    俺は、ジェイクを睨みつけた。
    「そう?それなら、いいんだけど。ハル、そろそろ戻りましょう」
    「うん、そうしよう。じゃあね」
    そう言って、アルフィンの手を引っ張った。一刻も早く、この場を立ち去りたかった。

    「アルフィン!」
    ジェイクが呼び止めた。指を、ちょいちょいと動かし、こっちにくるよう合図した。
    アルフィンがジェイクの所に戻った。すると、何やら、ジェイクがアルフィンに喋っている。
    アルフィンは、大きく頷いて、俺をみた。
    ドキン!俺の心臓が跳ねた。何を話したんだ?
    ジェイクが俺の顔をみて、にやっと笑った。

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■1068 / inTopicNo.5)  Re[4]: Three Days
□投稿者/ りんご -(2006/05/19(Fri) 23:45:15)
    俺とアルフィンは、ステイタワーに戻ってきた。
    そして、教授の部屋がある48階に戻るため、エレベーターに乗りこんだ。
    「ねえねえ、アルフィンお姉さん。さっき、あのお兄さんと何を話してたの?」
    「ああ。たいしたことじゃないのよ。ジェイクったらね、小さな男の子が一人で3日も過ごすんだから、身の回りに気を配ってやれって」
    「へー」
    あのジェイクが、そんな殊勝なことを言うなんて、ちょっと意外だった。

    エレベータが48階に着いた。
    俺たちは、教授の部屋のインターホンを押し、戻ってきた事を伝えた。
    部屋のロックが解除され、俺たちは部屋に入った。
    「あら?お客様なの?」
    アルフィンが眉間に皺を寄せた。
    俺達が留守の間、外出しない、来客は部屋の中に入れないと約束していたのに、部屋には見知らぬ男女がいたのだ。

    「おお、お帰り二人とも。こちらは、アーレン化粧品社長のマーゴットさんと、秘書のメルマンさんだ」
    応接セットに腰掛けている二人を、紹介してくれた。
    「こんにちは」
    厚化粧の取り澄ました女が、俺達に挨拶してきた。50歳は過ぎているだろうが、真っ赤で派手なデザインのスーツを着ている。
    秘書のメルマンも、同じくらいの年だ。眼鏡をかけていて、髪が薄い。顔には、お愛想笑が張り付いている。

    「教授、先ほどもお願いした通り、是非<チルドー>をわが社にお譲りください。値段は、教授のお好きなだけ差し上げますわ」
    高飛車な口調で、マーゴットが言った。
    「社長もこう申しております。わが社なら、<チルドー>を更に開発し、全銀河系の女性達に永遠の若さをプレゼントできます」
    メルマンが猫なで声をだした。
    しかし、教授はかぶりを振った。
    「どこでそんな、馬鹿な話を聞いたか知らんが、わしは<チルドー>なんて物は知らんよ。だから、何度頼まれても、首は縦にふれんのじゃ」
    教授の言葉に、マーゴットが唇を噛んだ。
    「わかりましたわ。教授がそう、おっしゃるなら、また日を改めて、伺うことにしますわ。行きますよ、メルマン」
    「はい、社長」
    そう言うと、二人は部屋を出て行った。

    ドアが閉まると、教授はどっと疲れたように、椅子の背にもたれかかった。

    「だめじゃない、教授。知らない人を部屋に入れたりしたら」
    俺は、やんわりと注意した
    「ほんと、ハルの言うとおりだわ。これからは、注意してくださいね」
    アルフィンも腰に手をあて、軽く教授を睨んだ。

    「おお、すまん、すまん。あの二人しつこくて、つい部屋に入れてしまったんじゃ」
    教授は苦笑いしながら、答えた。

    「でも、なんであの人達<チルドー>のこと、知ってるの?」俺が訊いた。
    「え?どうしてハルが<チルドー>の事を知ってるの?」
    俺は、ぎくりとした。
    「あ・・そ・・それは、ジョウから聞いたんだよ」
    「ジョウから?」
    「うん。ロマーノ教授が発見した、<チルドー>っていう、すごい薬があるから、絶対さわっちゃいけないって」
    「そうだったの」
    なんとか、アルフィンが納得してくれた。
    ふうー。疲れるぜ、まったく。
    今後の展開を思うと、俺は頭が痛くなった。

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■1069 / inTopicNo.6)  Re[5]: Three Days
□投稿者/ りんご -(2006/05/19(Fri) 23:46:32)
    夜になった。
    俺は、今夜からアルフィンの部屋で寝ることになった。
    本当なら、ジョウが使っていた部屋があるのだが、アルフィンの手前、その部屋を使うと固持することが出来ず、相部屋となった。
    部屋は、いたってごく普通のツインルーム。二つのベッドに、テーブルと二組の椅子とテレビ。
    部屋に入ると、アルフィンが気をきかせて、アニメをつけてくれた。
    それは、子供達に人気の<勇者ラインガーザ>という、巨大ロボットが出てくる番組だ。
    俺はとりあえず、子供らしくそれを鑑賞した。
    番組のラストでは、<ラインガーザ>が巨大な剣で、敵のロボットを切り捨てた。

    「さあ、そろそろハルはお風呂に入りなさい。もうすぐ、寝る時間でしょ?」アルフィンが言った。
    時計をみた。まだ、8時だ。俺は、顔をひくつかせながらも、アルフィンの言うとおり、バスルームに向かった。
    服を脱いで、シャワールームに入った。
    ここの、バスルームは、バスタブとシャワールームがそれぞれ独立している。
    俺は、まずシャワーを浴びようと、ガラス張りのシャワールームに入って、水流調節ダイヤルを回した。

    サーッと、湯が流れ始め、シャワールームに湯気が立ち込め始めた。
    俺は、シャワーヘッドに手を伸ばした。
    だが・・・
    あれ?すごく、高い所にあって取れない。
    なんで、あんなに高い所にあるんだ?俺は、思わずむっとした。
    そして、現実にうちのめされる。そうだ、俺は、小さくなっちまった。だから、手が届かないのだと。
    くそ!俺は、むきになって飛び上がった。
    何度も、手を伸ばした。
    あと、もうちょい・・・・あと2センチ・・・という所で、シャワーヘッドが俺に手渡された。

    やった!俺は満足して、シャワーを浴び始めた。
    ん?手渡し?
    ばっと、振りむいた。
    そこには、アルフィンが立っていた。もちろん、この場にふさわしい格好。裸だ!
    「!!!!」
    俺は、壁にべったりと張り付いた。
    「な・・・な・・・な・・・なん・・」言葉が出てこない!
    「ほらぁ。ハルの身長じゃあ、シャワーヘッドも取れないでしょう。だから、お姉さんが一緒に入ってあげるね」
    そう言って、アルフィンがにっこり笑った。
    俺は、目を開けないようにしながら、言った。
    「だ・・・大丈夫、一人で平気さ!」
    「子供なんだから、遠慮しなくていいのよ」
    そう言うと、アルフィンが俺の頭を洗い出した。
    俺の頭が泡だらけになった。
    アルフィンが身をかがめて、俺の顔をみた。
    「ハルって、ジョウの甥っ子だけあって、なんだか、似てるわぁ」
    アルフィンの青い瞳に見つめられて、どきどきする。

    くる。俺は、アルフィンを直視しないよう、背を向けた。
    「ね・・ねえ、お姉さん・・・どうして、シャワーヘッドが取れないってわかったの?」
    「ああ」アルフィンが、くすっと笑った。
    「ショッピングモールで会ったお兄さんがね、アドバイスしてくれたのよ。ハルの身長じゃあ、シャワー浴びるのも一苦労だから、手伝ってやれって」
    あんの野郎ーーーーーー!!!
    俺は、拳を握り締めた。
    次の瞬間、「流すわよ」と、アルフィンが大量の湯を俺に浴びせた。

    その後、俺はシャワールームを、速攻飛び出した。
    湯気のおかげで、お互いの体がそれほど、はっきり見えなかったのが、唯一の救いだった。
    俺は、子供用のパジャマに着替えた。
    冷蔵庫をあけ、缶ビールに手が伸びかけたが、隣のミネラルウォーターを取り出した。
    湯上りの体に、冷たい水。すごく健康的な組み合わせだ。

    「美味しい?」風呂を出てきた、アルフィンが俺に声を掛けた。
    返事をしようとして、アルフィンを見た俺は、思わずむせた。
    アルフィンは、バスタオル一枚を巻きつけた姿だったのだ。
    「大丈夫、ハル?」
    アルフィンが背中をさすってくれた。
    「う・・うん」俺は、赤くなりながら答えた。

    「あたしは、教授の所に行ってくるから、ハルは寝てなさいよ」
    クラッシュジャケットを着込んだ、アルフィンが言った。
    「うん。お休みなさい」
    「お休みなさい」
    そう言って、アルフィンは部屋を出て行った。

    はあー。心臓に悪い。
    俺は、ベッドに大の字になった。
    しかし、あと2日はこのままだ。なんとか、乗り切るしかない。
    教授の周りをうろつき出した、アーレン化粧品の奴らも気にかかる。
    色んなことを考えていたら、瞼が重くなってきた。
    ふぁー、あくびが出た。
    体が小さくなったせいで、体力も落ちているのか?
    俺は、自問した。しかし、答えは出なかった。
    答えが出る前、俺は夢の世界の住人になった。

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■1070 / inTopicNo.7)  Re[6]: Three Days
□投稿者/ りんご -(2006/05/19(Fri) 23:47:34)
    俺が小さくなって2日目。
    今日もいつものように、アルフィンは、インフォメーションセンターに論文のコピーをとりに行く。
    銀河連合生物化学アカデミーの研究論文発表会は、インテリジェンスタワーで行われる。
    そこに設けられた、インフォメーションセンターは、56階にあった。研究発表の会場は、その奥だ。
    俺も、ちょっと用事があったので、またまた教授には、部屋にこもってもらい、アルフィンと一緒にやってきた。

    「じゃあ、ハル。あたしは、資料をもらってくるから、ここで待ってて」
    アルフィンは、近くのウエィティングルームを指差した。
    「いってらっしゃい」俺は、アルフィンに手を振った。
    アルフィンは、ごったがえすインフォメーションセンターへ歩いていった。
    俺は、ガラスで覆われたその部屋には入らず立っていた。
    しばらくして、そいつはやってきた。手には、論文の資料が入っているのだろう、厚い封筒を持っている。
    「おっ、くそガキ。朝から仕事か」
    ジェイクだ。俺は、ギロリと奴を睨んだ。
    「どうした、お礼でも言いにきたのか?」
    「するか!」
    顔が赤くなってるのが、自分でもわかった。

    「ちょっと、こっちに来い」
    ジェイクが、ウエィティングルームに俺を誘った。俺達は、他の人達から離れた、隅っこを陣取って、椅子に腰をおろした。
    「さっきそこで、アーレンの社長とロマーノの助手が話していたぞ」
    「本当か?ライリーかデニスか?」俺は目を光らせた。
    「デニスだ」ジェイクが答えた。
    あの、しかめっ面デニスと高慢ちきなマーゴットか・・・

    「あの女。相当なやり手らしいぞ」ジェイクが言った。
    「マーゴットが?」
    「ああ。ライバル社の吸収合併を繰り返して、会社を大きくしたらしい。しかし、今は赤字経営に陥って、経営基盤の建て直しに躍起だそうだ」
    「そうか・・・貴重な情報、参考になった」
    ジェイクが眉をひそめた。といっても、相変わらずのボサボサ頭なので、そう感じただけだ。
    「おい、参考になったじゃなくて、『お兄さんありがとうございました』の間違いじゃないのか?」
    「・・・・」俺は、横を向いて知らん振りした。
    「礼儀を知らん奴だな。叔父さんのジョウは何を教えてんだ」
    楽しそう言うジェイクに、切れた。
    「いい加減にしろ!昨日の事といい、そんなにおちょくって、楽しいのか!」
    思わず、立ち上がって怒鳴った。
    ウエィティングルームで、くつろいでいた人達の視線が一斉に集中した。
    俺は、赤くなって、ドシーンと腰を下ろした。

    「興奮するのは、ガキの証拠だぞ」
    そう、捨て台詞を残して、ジェイクは席を立った。
    部屋を出て行く後姿を見て思った。
    相変わらず、嫌な奴だ!

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■1071 / inTopicNo.8)  Re[7]: Three Days
□投稿者/ りんご -(2006/05/19(Fri) 23:48:47)
    俺が小さくなって3日目。
    大したことも起きず、明日はいよいよ、教授の発表の順番がやってくる。
    それに合わせて、明日の朝<ミネルバ>が到着する。
    俺の体も、明日の朝がタイムリミット・・・のはず。
    戻ってくれ!俺は、心から祈った。

    ホテルのレストランで、昼食をとっている時だ、俺達のテーブルにアーレン化粧品のマーゴットとメルマンがやってきた。
    マーゴットの今日の服は、ショッピングピンクだ。
    二入は、教授に断りもせず、空いてる席に腰を下ろした。
    「教授、いよいよ明日は、あなたの発表の番ですわね」
    「ああ、そうじゃよ」
    教授は、不快感をあらわにしながら、返事をした。

    アルフィンも俺も、二人に対して友好的な雰囲気は出せない。

    「どうでしょう、考え直して頂けましたか?」
    探るような目つきで、マーゴットが言った。
    「考え直すも何も、わしは知らんのじゃ」
    「そんなことをおっしゃらず、是非わが社と独占契約をお願いいたします」
    メルマンが、揉み手をしながら言った。
    「困った人達じゃな、知らんと言ったら、知らんのじゃ!」
    いつも温厚な教授が、たまりかねて大声を上げた。
    「わしらは、食事中じゃ。悪いが、席を外してくれ」
    「・・・・そうですか。わかりましたわ」
    マーゴットが、憎しみにも似た、激しい視線を教授に向けた。

    二人がいなくなると、申し訳なさそうに、教授が言った。
    「食事が台無しじゃな。すまん」
    「教授のせいじゃないわ。気にしないで」アルフィンが慰めた。
    このまま、引き下がればいいが・・・
    マーゴットの目を思い出して、俺は背筋がひんやりした。

    夜がやってきた。
    俺とアルフィンが、部屋に戻った時、ベッドサイドの電話が鳴った。助手のライリーからだった。
    話を終え、受話器を置いたアルフィンが俺に言った。
    「あたし、これから出かけてくる。ハルは寝ててちょうだい」
    そう言って、部屋を出ようとするアルフィンに、俺は慌てて声を掛けた。
    「どうしての?何かあったの?」
    「教授がいなくなったらしいの。ちょっと、ライリーの所に行って来る」
    「ええ?待って、僕も行くよ」
    「いいえ。これは、大人の仕事だから、ハルはおとなしくしてて頂戴」
    アルフィンは俺ににきつく言い渡すと、さっさと部屋を出て行った。

    もちろん、大人しくしていられるわけが無い。
    俺は、ロマーノ教授の部屋に向かった。まずは、安否の確認だ。
    部屋のインターホンを押すと、中から教授の声がした。
    俺は、ほっとして、部屋の中に入れてもらった。

    「どうした、ジョウ。何か用事かな?」
    「ライリーから、教授がいなくなったって電話が掛かってきたんだ」
    「ライリーが?変じゃな。わしは、ずっと部屋にいて、どこにもでかけておらんぞ」
    それを聞いて、俺の顔色が変わった。
    「何だって!」
    その時、電話の着信を知らせる電子音が鳴り響いた。
    俺と教授は顔を見合わせた。

    俺が頷くと、教授は受話器を取った。
    「もしもし、ロマーノじゃが。・・・・・なんだって!」
    教授の顔が真っ青になった。
    「・・・わかった。これから、そっちに行こう」
    教授が電話を切った。

    「どうした?誰からだったんだ?」
    俺は、胸騒ぎを抑えつつ訊いた。

    「マーゴットからじゃ」
    「マーゴット?」
    「ああ。アルフィンを預かっているから、<チルドー>を持って、研究発表会場に来いとな」

    やられた!
    ライリーの電話は、アルフィンをおびき出すための偽の電話だ。
    デニスを疑っていたんで、つい油断した。
    「どうしたら、いいんじゃ、ジョウ」
    教授がおろおろしながら、言った。
    「アルフィンを助け出す。その上で、アーレンの奴らを捕まえるんだ!」
    俺の言葉に、教授が無言で頷いた。

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■1072 / inTopicNo.9)  Re[8]: Three Days
□投稿者/ りんご -(2006/05/19(Fri) 23:49:53)
    俺と教授は、インテリジェンスタワーの会場にやってきた。
    正面に舞台が見えた。収容人数、二千人の大きな会場だ。だが、今は、静まり返っている。
    中に入ると、俺は、さっと椅子の陰に身を隠した。
    「おーい、わしだ。ロマーノだ。アルフィンはどこだ?」
    会場に、教授の声がこだまする。教授は<チルドー>を入れた、黒い鞄を持っている。
    教授は、ゆっくりと正面の舞台に向かって歩き出した。
    そして、俺も、教授から離れないように、移動を始めた。

    「例の物は、お持ちいただけました?」
    舞台の下手から、マーゴットが姿を現した。
    その後ろには、縄で縛られたアルフィンとメルマンがいる。
    「渡しちゃ駄目よ、教授!」アルフィンが叫んだ。
    「おだまり!」マーゴットがアルフィンをにらみつけた。

    「さあ、こちらへ」
    マーゴットが自分の側へ来るよう手で指し示した。
    教授は、ゆっくり歩き出した。
    その様子に、マーゴットが舌なめずりしている。
    きっと、<チルドー>がもたらす、利益を計算しているのだろう。
    俺は、奴らから死角になるよう位置をキープしながら、前進する。

    と、その時、俺の体が後ろに引っ張られた。
    床に設置してある、照明か音響の出っ張った機材に、俺のズボンのポケットが、引っかかったのだ。
    まごごしていられない。俺は、強引に前進した。
    その時、びりっと、音がしたが、気にしなかった。
    教授とマーゴットの距離は、あと5メートル。
    チャンスは一度。教授が、鞄を渡すときに、俺が飛び出す。

    俺は、持って来たレイガンを取り出して、身構えた。
    あと3メートル。
    カチャ。俺の頭に、銃口が突きつけられた。
    「クラッシャーの真似ごとかい、坊や?」
    パッと、顔を上げると、そこにはライリーが立っていた。

    「残念だったな」
    ライリーは、俺の手からレイガンを奪うと、床に投げた。そして、俺を羽交い絞めにした。
    「ハル!」アルフィンと教授が、同時に叫んだ。
    「ハルは関係ないのよ。離してあげて!」アルフィンが、マーゴットに言った。

    「それは、教授次第だわね」
    面白い余興だとばかりに、マーゴットが笑い出した。
    教授は、舞台に上がると、観念したように、持ってきた鞄を差し出した。
    マーゴットは頬を紅潮させ、それを受け取ろうと、手を伸ばした。
    その時、メルマンの手を振り解いたアルフィンが、マーゴットに体当たりした。

    「あうっ」短い悲鳴をあげ、マーゴットがつんのめった。
    「逃げて!」アルフィンが叫んだ。
    がぶり、俺はライリーの手に噛み付いた。
    「うわっ」びっくりした、ライリーが手を離した。
    俺は、素早くライリーの銃をもぎ取った。

    「そこまでだよ、坊よ」
    勝ち誇ったような声が響いた。
    マーゴットが、アルフィンの額に銃を突きつけている。
    教授も、メルマンに捕まってしまった。
    くそう!俺は唇を噛んだ。
    「さあ、それを離して頂戴」
    俺は、銃を放り投げた。
    「さて、どうやって料理してやろうかしら」
    マーゴットの目に残忍な色が浮かんだ。
    メルマンとライリーの二人も、ニヤニヤしている。

    「こんなことして、ただで済むとおもってんの!」
    アルフィンが、マーゴットを睨んだ。
    「まったく威勢のいい、お嬢ちゃんだこと・・・・済むんじゃなくて、済ませるのよ」
    そう言って、マーゴットが笑った。

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■1073 / inTopicNo.10)  Re[9]: Three Days
□投稿者/ りんご -(2006/05/19(Fri) 23:51:13)
    「あんた達のやってることは、犯罪なのよ!そんな会社の化粧品なんて、誰も買わないわよ!」
    その言葉に、マーゴットが眉をひそめた。
    「わからない、お壌ちゃんだこと。いいかい、よくお聞き。人間は、生まれ出た瞬間から、年を取り老いるんだよ」
    「当たり前じゃないの!」
    何を馬鹿なことを・・・アルフィンの顔には、そうかいてある。

    「お嬢ちゃんは、まだ若いから、わからないだろうけどね。いいかい、あんたのこの綺麗な顔も、年を取れば、深い皺が刻まれていくんだよ。
    想像してごらんな、自分が、よぼよぼのおばあちゃんになった姿を。あんたの恋人は、そんな、あんたでも、好きでいてくれると思うかい?」
    マーゴットの言葉に、アルフィンが、はっとした表情を浮かべた。
    きっと、自分の年を取った姿を想像してるんだ。

    「でも、この<チルドー>があれば、そんな悩みを解決できる。いつまでも、美しいままでいられるんだよ」
    まるで、魔法の言葉を唱えるように、マーゴットが囁いた。
    「いつまでも、美しいまま・・・」アルフィンが繰り返した。

    何、奴の甘言に惑わされてるんだ、アルフィン!俺は、叫んだ。
    「そんなの、真に受けちゃ駄目だよ!」
    「ハル・・」びっくりしたように、アルフィンが俺を見た。
    「ジョウは・・・ジョウなら、そんなことないよ。アルフィンお姉さんが、年をとっておばあちゃんになっても、気持ちは変わらないよ!」
    これは、俺の本心だ。ちょっと頬が熱くなった。

    「そうよね・・・うん。ありがとう、ハル」
    アルフィンの瞳に強い光が戻ってきた。アルフィンは、マーゴットをキッと、睨んだ。
    「ちょっと、おばさん!」
    「お・・おばさん・・・」その言葉に、マーゴットが顔をひきつらせた。
    「あんたは、年を取ったら、ジョウが、あたしを好きでいるかわからないって言ったけど・・・あたしには、わかるわ。ジョウは、表面の美しさになんかに
    惑わせられる人じゃない!それに、いつまでも、若くて綺麗なままより、ジョウと二人、色んな思い出を重ねて、一緒に年を取って、かわいいおばちゃんに
    なるほうがいいわ。そして、その時、顔一杯に皺があるとしたら、それはあたしの勲章よ。堂々と皆にみせてやるわよ!」

    この言葉に、思わず教授とメルマンが拍手を送った。
    「何をやってるの、メルマン!」マーゴットが噛み付いた。
    慌てて、メルマンは教授を押さえつけた。

    いい啖呵だったぜ、アルフィン。俺は心の中で、そう賛辞を送った。

    「そんな馬鹿な女には、<チルドー>はいらないわね。さっさと、死んでもらいましょうか」
    見下した態度のマーゴットに、アルフィンがつばを吐いた。
    マーゴットは、ゆっくり自分の頬をぬぐった。
    そして、いきなり銃身でアルフィンの頭を殴りつけた。

    「アルフィン!」俺は叫んだ。
    アルフィンは、マーゴットの足元に倒れこんだ。
    「ふん。気絶するなんて、クラッシャーもたいしたことないわね」
    そう言うと、マーゴットがアルフィンを蹴飛ばした。
    「きっさまー」俺は、怒りで体が震えた。

    「さあ、仲良くあの世にいってもらいましょうか。まずは、あなたからよ、坊や」
    マーゴットが、俺に狙いを定めた。
    くそ!
    マーゴットの指が、引き金にかかった。
    その時!
    「あう!」悲鳴と共に、マーゴットの手から、銃が落ちた。
    マーゴットは、肩から血を流している。
    「な・・・なんだ?」
    突然のことに、メルマンとライリーが慌てだした。

    俺は、床に落ちている、レイガンへ目をやった。
    「うわあー!」今度は、俺の横でライリーが吹っ飛んだ。
    ライリーも肩を撃たれて、床に転がった。痛みにのた打ち回っている。
    メルマンは、ぶるぶる震え出した。
    チャンスとみた、教授がメルマンに掴みかかったが、あっさりかわされ、メルマンに突き飛ばされた。
    教授は、壁にぶつかって沈黙した。

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■1074 / inTopicNo.11)  Re[10]: Three Days
□投稿者/ りんご -(2006/05/19(Fri) 23:52:29)
    俺は、そのすきに、レイガン目指して飛び出した。
    だが、その前にメルマンに捕まった。奴は、俺の顔にレイガンを押し付けた。

    「だ・・誰だ?出て来い!」メルマンが金切り声をあげた。
    会場に、その声がこだまする。
    「出てこないと・・・この坊主の命はないぞ」

    「・・・それは、困るな」
    舞台上手から、男が姿を現した。
    ジェイクだ!無反動ライフルを構えている。

    「なんだ、貴様は?こいつらの仲間か!」
    突然現れたクラッシャーに、メルマンが目を剥いた。
    「仲間?・・・それは、違うな。そいつの保護者だ」
    「保護者?」メルマンが上ずった声で聞き返した。
    「こいつの命が、惜しかったらその銃を床に置け!」
    「銃を置くだぁ?」
    「そうだ。早くしろ!」
    「やだね」
    「な、なんだと!こいつがどうなってもいいのか!」
    メルマンが、俺の顔にぐりぐりと、レイガンを押し付けた。
    「好きにしろ」ジェイクが言い放った。

    「なんだと?おまえ、こいつの仲間のくせに見殺しにするのか!」
    てっきり、泣きついてくると思ったのに、違う反応が返ってきたので、メルマンはうろたえた出した。
    「そいつは、しぶといから、殺しても死なん」きっぱりと、ジェイクが言った。
    言ってくれるぜ・・・俺は内心、そう愚痴った。

    「これは玩具じゃない。本物のレイガンなんだぞ!」
    メルマンがレイガンを高く掲げた。
    その瞬間、ジェイクの銃が火を噴いて、レイガンをはじきとばした。
    俺は、メルマンの腕を振りほどくと、横に飛び退った。

    「うっ・・・うっ・・・」メルマンの顔が真っ青になった。、
    「どうした、おっさん。銃が重くて、持ってられなくなったのか?」
    ジェイクが、メルマンの足元に銃を乱射した。
    「うわ!はっ!」
    変な掛け声と共に、メルマンが銃弾をよける。それは、まるでへたくそなタップダンスを見ているようだった。

    そして、最後に一発。メルマンの頬を、ジェイクの弾丸が掠めた。
    「ひ!」メルマンの顔から、音をたてて血の気が引いていく。
    「どうする、まだやるか?」
    へなへなへな・・・と、メルマンが床に座り込んだ。どうやら、腰が抜けたようだ。

    俺は、落ちていたレイガンを拾った。
    ジェイクは、銃を降ろすと、舞台を降りて、俺の側にやってきた。
    「おい、くそガキ。これで、貸しが二つになったな」
    そう言って、ジェイクがにやりと笑った。
    「いや、一つだ」
    俺は、ジェイクに向けて、レイガンを放った。
    鮮やかなレーザーが、ジェイクの頬を紙一重で通り過ぎ、舞台で銃を構えていたマーゴットの肩を射抜いた。
    「ぎゃー」反対の肩も撃たれた衝撃で、マーゴットがひっくり返った。
    それを見て、ジェイクが肩をすくめた。
    「ガキに助けられるとはな・・・」

    「ガキじゃない。俺は、クラッシャージョウだ!」
    ふん。なめんなよ。
    俺は、鼻息も荒く、倒れているアルフィンに向かって歩き出した。
    ジェイクの横を通り過ぎたとき、突然、ジェイクが笑い出した。
    「なんだ?どうしたんだ?」

    ジェイクは、俺の問いには答えない、腹を抱えて笑っている。
    「どうしたんだ一体?」
    まったく意味がわからない。
    「ジョ・・ジョウ」笑いながら、ジェイクが口を開いた。
    「おまえ・・・ケツが破れてるぞ」

    「!!」
    俺は、体を捻って自分の尻を見た。
    ズボンが、すっぱり切れて、下着が顔を覗かせている。
    そこには、<勇者ラインガーザ>が剣を構えていた。アルフィンが、ショッピングモールで買ってくれた、キャラクターパンツだ。
    「笑うなー!!」
    俺は、真っ赤になって怒鳴った。
    だが、ジェイクの笑い声はいつまでも止まなかった。

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■1075 / inTopicNo.12)  Re[11]: Three Days
□投稿者/ りんご -(2006/05/19(Fri) 23:54:50)
    次の日の朝。
    運命の女神は俺を見放さなかった。
    俺は、元の体に戻っていた。
    データを持って、タロスとリッキーが、もうすぐホテルに到着する。
    だが、それは用無しになってしまった。
    教授が、論文発表を断念したのだ。
    教授の部屋で、俺達はソファに座って話をしていた。

    「本当にいいの、教授?」
    アルフィンが、訊いた。
    「ああ・・・これで、いいんじゃよ。人は年を取って、老いていく。これは、自然の摂理じゃ。無理やり、若さに取りすがっても、それは幸せなことじゃない」
    「教授・・・」
    「それを教えてくれたのは、アルフィン。あんたじゃよ」
    教授が、おどけてアルフィンにウィンクした。

    「そうじゃ、アルフィン。すまんが、仕事を頼まれてやってくれんか」
    「はい、はい。資料をもらってくるのね」
    立ち上がろうとしたアルフィンを、教授が制した。

    「今日は、わしが行って来るから、ハルに・・、じゃなくて、ジョウにおいしいお茶でも入れてやってくれ」
    そう言うと、教授は部屋を出て行った。

    俺とアルフィン二人きりになった。
    「悪かったな、アルフィン。3日間、留守にして」
    俺は、今日の朝早くに、戻ってきた事になっている。
    「ううん。それより、お父さんの具合はどうだったの?」
    「え?あー・・・うん。もう、すっかり、いいみたいだ」
    「病気だったの?」
    「いや・・・えっと・・・ぎっくり腰だ」
    「ぎっくり腰?」
    びっくりしたようにアルフィンが言った。
    「ああ。親父も、恥ずかしいみたいで、内緒にして欲しいようなんだが・・・・」
    「わかった。今回のことは、誰にも言わない。あたしとジョウの秘密ね」
    嬉しそうに、アルフィンが言った。
    俺は、罪悪感を覚えながらも、内心胸をなでおろした。

    「でも、ハルも冷たいわね。お別れも言わないで、行っちゃうなんて・・・」
    恨めしそうに、アルフィンが言った。
    「すまん・・・ハルの父親の仕事の都合が早まったんだ」
    俺は、そうアルフィンに言い訳した。
    「でも、ハルがよろしくって言ってた。アルフィンには、とっても世話になったからって」
    その言葉に、アルフィンが嬉しそうな表情になった。
    「また、会えるかしら?」
    その質問に、俺はドキリとした。
    「そうだな・・・」
    その時、ジョウの通信機にジェイクから連絡が入った。
    「インフォメーションセンターの近くで、ロマーノが迷子になってる。保護しといてやるから、受け取りに来い」
    二人は、顔を見合わせ笑った。そして、依頼人を迎えに行くため、部屋を後にした。

    インフォメーションセンター側、ウエィテングコーナーのソファに、教授とジェイクが座っていた。
    「おお、すまん。ジョウ、アルフィン。うっかり、迷ってしまってな」
    そう言って、豪快に教授が笑い出した。

    俺とアルフィンも、ソファに座った。
    「もう、びっくりさせないでよ、教授」
    アルフィンが軽く教授を睨んだ。
    それを見て、ジェイクが言った。
    「おい、アルフィン。お前、目じりに皺が出来てるぞ!」
    「えええーー!!」
    アルフィンが悲鳴をあげた。
    「ちょ・・ちょっと、化粧室で見てくる」
    慌てた様子で、駆け出した。

    俺は、あっけに取られて、それを見ていた。
    「なんだよ・・・皺が出来ても、気にならないんじゃなかったのか?」
    とぼけた調子で、ジェイクが言った。
    こいつ、アルフィンをひっかけたな。
    ジェイクの嘘を間に受け、走っていくアルフィンに、俺は思わず笑い出した。
    つられて教授とジェイクも笑い出した。
    ウエィティングコーナーに、俺達の笑い声が響いた。


    <END>

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■1076 / inTopicNo.13)  Re[12]: Three Days
□投稿者/ りんご -(2006/05/19(Fri) 23:58:07)
    <あとがき>

    最後まで、お読み頂き、ありがとうございます。

    今回は、コナ○君チックのお話を書きたくて、書いちゃいました〜♪
    Jさんファンには、お叱りを受けそうですね・・・・キャラパンはまずいかな?とも、思ったんですが
    子供の下着って、そういうの多いじゃないですか(笑)

    この話を読んで、画面の向こうで、くすりとしていただけたら、幸いです。
    力不足だから、無理かな(汗)

    本当は、小さくなったジョウに、アルフィンの切ない恋心を聞いてもらおうと思ったんですけどね。
    終わってみれば、あれれ?コメディでした。スミマセン。

    では、また近いうちにお目に掛かれますように。

                                                      りんご   

fin.
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