| 標準時間の21時。 ミネルバのリビングテーブルに白い便箋が一枚。便箋の四隅には小さいピンクの花が散ったデザインが施されている。そのピンクの花の上にシルバーの花器をかたどったペーパーホルダーがちょこんと鎮座する。白い便箋にはピンクのサインペンで書かれた文字。几帳面で丁寧に書かれたその文字は、もうメンバーには見慣れたものだ。 便箋の横にはピンク・グリーン・ブルー・ブラックのサインペンが4本、きちんと整列させられて置かれていた。
『みなさん、ご存知の通りあさっては久しぶりの物資補充の日です。このところ貧しい食卓が続いておりましたが、それも明日でひとまず終了です。おめでとう。 予算の許す限り、新鮮な食材をゲットすべく当艦のシェフがメニューを厳選し決定いたしますので、明日の午前中までに食べたいメニューを3つまで提出のこと。未提出の場合は希望なき者として扱い、次回の買出しまでの間のメニューへの苦情は一切受け付けないのでそのつもりで。よろしく。 A 』
標準時間の21時30分。 本日の当直の任を終えた赤毛の少年は、グリーンのペンを人差し指の上でまわしながら考える。左手にはフリーザーから出したばかりのオレンジジュース。しばらく頭を掻きながら白い便箋を眺めていた彼は、一口オレンジジュースを体に流し込みペンのキャップを外す。
『俺らは基本的に何でもOK。というかレトルトじゃなかったらなんでも食う。でも強いて言うなら@カレーAハンバーグ(チーズがのったやつ)Bオムライス(卵トロトロで) 3つまで出せるんだよね?じゃコレで。あと久々にお菓子も食べたいけど、新作のお菓子に挑戦する場合は俺らで味見をするのは勘弁して。 R 』
標準時間の1時30分。 これから当直の為にブリッジに向かう途中、彼はコーヒーを飲みにリビングへ立ち寄った。食器棚から自分のカップを取り出し保温してあったサーバーのキリマンジャロを注ぐ。カップを左手に持ち替えて、リビングテーブルに近寄り便箋を見る。無造作に転がっていたグリーンのペンを元の位置に戻しつつ一考。コーヒーを一口すすった後、ブルーのペンを取りメモを走らせる。
『リッキーと同じく基本的には任せる。アルフィンの作る飯は何でもうまいしな。いつも手間をかけてくれて感謝。仕事が立て込んでいるときは無理するなよ。あと、新作を作るときには自分で味見をした方がいいと思うぞ。いろいろと。 @ビーフカレーAパスタBなんか魚料理 そういえばブルーマウンテンの豆が残り少ないようだ。 J 』
標準時間の1時40分。 当直を終了し自室に戻る途中にリビングに立ち寄った。彼はリビングのソファに放り出してあったギャラクティカルチャンネルの番組表を取り上げゆっくりとテーブルに向かう。腰に手を当てて置いてあるメモに目を通しその巨体には不似合いな優しい笑みを顔に浮かべた。その大きな手できちんと並んでいる4本のペンの中からブラックを選んでメモをする。
『毎回毎回助かるぜ。仕事の後の一杯が最近では特に楽しみだ。ワインに合うつまみがあれば疲れも吹っ飛ぶ。特に希望はないのでメニューはアンタにお任せだ。11月は何かと物入りだろうから(笑)金はそっちにまわしな。 T 』
そしてブラックのサインペンにキャップをはめ元の位置に戻した後、番組表をくるっと手の中でまわすと彼はリビングを出て行った。
標準時間の5時30分。 赤いクラッシュジャケットを身にまとった彼女がリビングへ入る。 テーブルにあった便箋を手に取り、その小さな顎に右手を添えながら内容を確認する。そして、コーヒーサーバーにあった残りもののコーヒーをシンクに流しサーバーを洗う。食器棚の3番目の段からブルーマウンテンの袋を出して残量を確認する。確かにあと2日分というところだと思う。買出しのリストに加えることとする。 その同じ棚からモカの豆の袋を出しサーバーにセットする。 彼女は、リビングテーブルに腰掛けながらコーヒーが入るのを待ちつつ向こう2週間のメニューをたて始めた。
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