| 雪待貝の海岸を後にして、深夜、随分遅くなってホテルに戻り、 もうタロスもリッキーも当然眠っている時間なので起こさないように、そっと。 くすくすと、楽しげに忍び笑いを洩らしながら、薄暗いスウィートルームの中を、二人は歩いた。
アルフィンのベッドルームの前に来ると、小さな灯りの下で、二人はどちらからともなく、もう先程から何度目なのかも分からないキスをした。 繰り返し、繰り返し、深く、時には啄む様に。 アルフィンがちょっと身を引こうとすると、ジョウは唇を重ねたまま、逃がすまいと彼女の腕を掴んでぐいと引き寄せる。 そんなことを、随分長い間続けて。 アルフィンは、ぴったりとジョウの背中に絡ませていた自分の腕を解くと、 「おやすみ、ジョウ」 と言った。
これ以上ないほどの、幸せそうな、満面の、笑顔で。 輝いていると言えばこういう表情かと、ジョウは思った。 この顔を彼女にもたらしたのは自分なのだと、誇らしくもあり。 どうしようもなく愛しくもあり。 だから、言った。
「…おやすみ、アルフィン」
そう言うジョウの前で、最後まで扉の隙間から華やいだ笑顔を覗かせながら、名残惜しそうに。 しかし、確実に、扉は閉まった。
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