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■1264 / inTopicNo.1)  サンキュウ(Jさんお誕生日SS)
  
□投稿者/ とむ -(2006/11/06(Mon) 22:44:12)
      本日の天気予報→曇り。降水確率30%。最高気温9℃、最低気温3℃。
                 北よりの風風速5メートル。


    −−−−という訳で。



    曇りだ。

    見渡す限りグレイの雲に覆われた空、そして鉛色の海。
    どこまで眺めていても自分の周りにはグレイッシュな景色のみ。

    なんでも、今日は今年一番の冷え込みになるそうで、当然のようにこの海岸には俺達以外人っ子ひとり見当たらない。ふと見上げれば、グレイの雲で蓋をされた空には、一羽のカモメが点のように飛んでいて哀愁を誘うことこの上ない。



    「ドライブに行こうよ!」



    いつもながら唐突なアルフィンの提案で(このクソ寒いのに)オープンのエアカー(!)をレンタルし(なぜか)海沿いのハイウェイを約1時間ドライブした。
    自分としては短くはあるものの久しぶりの休暇だし、ここにはアルフィンが好きそうなショッピングモールもないし、好きなだけダラけて惰眠を貪れると思っていたのに、いつも通りというかいつも以上にハイテンションなアルフィンに無理やり叩き起こされあれよあれよと言っている間にこうなった。

    (いつもながら・・)
    「俺は今日は寝ていたい」の一言が言えない自分が死ぬほど情けない。

    波打ち際ではアルフィンが、白いダウンのジャケットにウサギの毛でできた耳当てをして、その小さな鼻の頭をほんのり赤くしながら波と戯れつつ歓声を上げている。

    (今年一番の寒さになるって太鼓判を押されている日によくやるよ)

    俺はレザージャケットのポケットから、先ほど買った缶コーヒーを取り出してプルトップを外す。そして冷えた両手をコーヒー缶で温めながら一口、温かい琥珀色の液体を口に含んだ。

    「ジョーウ!ねえ、こっちに来て遊ぼうよ」
    アルフィンが波と追いかけっこをしながら声をかけてきた。
    「勘弁しろよ。5日だけの休暇だぞ。こんなクソ寒い中、海で遊んで風邪なんかひいたら最悪だ」
    「大丈夫だってば。AAAのクラッシャーがそんなやわなことでどーする!」
    「いーや俺は辞退する。ご免蒙る。断じて不参加」

    アルフィンは一瞬その可愛らしい口をへの字に曲げ

    「・・・はー・・・。親父くさいったらありゃしないわねー、まったく」

    とか何とかブチブチ言いながら、諦めたようにゆっくりとこちらに向かって歩き出す。
    しばらく波打ち際で走り回っていたせいか、その頬はうっすらピンク色に染まり甘いにおいを放っている花のように可憐だ。

    「ほら」
    目の前に到着したアルフィンに、ジャケットのポケットに入っていたもう一つの缶コーヒーを渡す。
    「ありがと」
    と、言いながらアルフィンはそれを受け取った。

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■1265 / inTopicNo.2)  Re[1]: サンキュウ(Jさんお誕生日SS)
□投稿者/ とむ -(2006/11/06(Mon) 23:03:04)
    ・・・ザザァ、と打ち寄せてくる波の音を聞きながら、俺達は熱いコーヒーを飲んだ。


    「あのね」
    「うん?」
    「ここはウェザーコントロールをしていない星で、そろそろ秋も深まってきたころなのです」
    「分かってる」
    「寒いなんて当たり前でしょ?」
    「分かってる」
    「秋は涼しいし冬は寒い。春は暖かいし夏はギラギラ暑いのよ」
    「当たり前」
    「そう。当たり前。今日が曇りなのも、ジョウの寝起きが悪いのも、こんなクソ寒い中、海で遊んだら風邪をひくってのもね」
    「はあ?」
    「分からない?」
    「さっぱり」

    俺は肩を竦め、目の前のグレイの海に再び視線を戻す。アルフィンは呆れたように頭を左右に振って一つ小さなため息を零した。

    不意に。

    左手がほっと温まる。
    そして、そのままきゅっと細い指が俺の指に絡まってくる。
    俺はと言えば、そっとその掌を握り返し、やはり黙って海を見ていた。

    「・・あたしは、寒いのって好きなの」
    「・・・・」
    「なんだか、自分がローソクになったみたいに思うのよね」
    「・・へえ」
    「周りの空気が冷たい分、自分のあったかくてシアワセな気分が体から溢れて来るように感じるの」
    「・・・・」
    「秋とか冬とか、キーンと凍りそうな空気の中にいる時の方が、夏の暑いときよりシアワセを感じやすいと思わない?」
    「・・・・」
    「分かる?」
    「・・なんとなく」
    「じゃあ、今あたしがシアワセだってことも?」
    「・・うすうすはな」
    うっすらと顔が上気しているのを自覚しつつ、俺はアルフィンと指を絡ませている手に力を込めた。
    すると、アルフィンは綻ぶように愛らしい笑顔を俺に向けて
    「ジョウ?」
    「ん?」
    「じゃあ、シアワセをお裾分けしてあげる」
    と言った。

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■1266 / inTopicNo.3)  Re[2]: サンキュウ(Jさんお誕生日SS)
□投稿者/ とむ -(2006/11/06(Mon) 23:47:15)
    ・・・・は?

    と思った瞬間、横にいるアルフィンの顔が俺の目のすぐ前に近づき、ほんの少し開かれた濡れた唇が、俺の唇に、触れた。


    (−−−−−−−−−−−−−−−、!!!)


    その瞬間、俺の頭の中にはザア、という波の音だけが張り付き、世界は、風や音や色は、一瞬で俺の周りから消失した。
    ただアルフィンの唇の触れた場所だけが熱を持ち、次第にその熱が体中にじわじわと広がっていった。
    固まったまま動けない俺を、少しいたずらっぽく眺めながらアルフィンは言う。


    「ジョウ、お誕生日おめでとう」

    「・・・やったな」



    俺は、アルフィンとつないだ手とは反対側の手で口元を覆いながら呟いた。



    ああ、そうか。
    アルフィンが言っていたたくさんの当たり前。
    世界には晴れの日もあれば曇りの日もある。雨の日もあれば嵐の日も。
    このデカイ海も広い空もいつもそこにあって。
    毎日毎日、新しい日がめぐってきてもそこには昨日と同じ日が続くだけだったり。
    日常は。
    そこで暮らす人々の、たくさんの当たり前が積み重なった中に存在する。この星には四季があるように、ある星ではそれがない。でもそこで暮らす人々にはそれが当たり前で、そんな中に嬉しいことや辛いことがバラバラと散らばっている。それが生活だ。
    そして、きっと稀に。ごくごく稀にではあるが、そんな日常が「シアワセ」なんだと思い知る日がやってくるのだ。



    「・・まいったな」
    「ジョウったら、誕生日のことすっかり忘れてたでしょう」
    「ご明察」
    「ちゃんと、バースディパーティのお料理も用意してるからね」

    得意気に話すアルフィンを俺は左手でぎゅっと胸元に引き寄せる。

    愛しい。

    2年前にミネルバに密航してクラッシャーになったアルフィン。今では当たり前になった彼女に存在に俺は胡坐をかいていたのかもしれない。ずっと俺を追いかけてきてくれた彼女。いつもその時の精一杯で、アルフィンはチームに食らい付いてきた。俺は、いつの間にかそんなアルフィンが傍にいて当たり前だと思っていた。でも、それもこれもアルフィンが元王女という身分をかなぐり捨てて俺の元へ飛び込んできてくれた結果だった。俺だけの日常ではそんなことは起こりえない。彼女の、俺には想像もできない行動力が、俺の日常の中にアルフィンを呼び寄せてくれた。
    俺はそれを思い知る。


    アルフィンの小さな金色の頭が、俺の胸の中で小さく動いた。
    「ほんとうだな」
    「うん?」
    「寒い時の方が、くっついた時にシアワセだって思うかも」
    「でしょ?」
    「暑い時はウザイだけだ」
    「コラ」
    「アルフィン」
    「はい?」
    「サンキュウ」


    今度は俺から、アルフィンに小さく啄ばむようなキスを。




    当たり前の毎日に、今の君がいてくれること。君の傍に俺が存在できること。
    その日常に感謝する。



    君に王位継承の適正がなくてほんとうによかった。





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■1267 / inTopicNo.4)  Re[3]: サンキュウ(Jさんお誕生日SS)
□投稿者/ とむ -(2006/11/06(Mon) 23:57:01)
    JさんAさん、成立の日。
fin.
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