| (1)
朝、部屋で目を覚ますといつもそこは白い世界だった。
それらはあたしが生まれてから16年間もの長い間、当たり前にそこにあった。部屋の家具−−−−−ベッドやドレッサーやソファやテーブルは、全て白に統一されたピザン最高級の装飾が施された調度品。天蓋付きのベッドには天井から吊るされた真っ白なレースが幾重にも美しく襞を作り、ベッド横のテラスに通じる扉は晴れてさえいればいつも大きく外側に開け放たれていた。花の刺繍の入ったアイボリー色のカーテンは、いつも波のように風に揺れて眩しい白く薄い膜を作っていた。
国の催事に出席する時は、必ず白かピンクのドレスを着せられた。美しい刺繍がされたシルクのそれはあたしの肌に良くなじみ心地よかった。
毎日毎日顔を合わせるのは身の回りの世話係とお父様が選んだ家庭教師達。たまにスクールに通うことはあったけれども、あたしが王女だからって周りはいつも気を遣っていた。あたしが本当に話したいことは話せなかったし、誰もあたしに本当のことは話してくれなかった。あたしにかけられる言葉は「とても美しい」とか「見事な金髪ですね」とかどうでもいい上っ面の褒め言葉ばかり。あたし自身について発せられた言葉なんて一つもない。そんな字面だけの言葉に心が動くはずもなく、あたしの心はいつも平坦だった。
タイクツ ツマラナイ サビシイ ・・・・
でも、仕方ないと思ってた。 これが普通だと思ってた。 コレがあたし。ピザン王女のあたし。この単調な日々があたしの当たり前であたしの全て。いくら孤独でも窮屈な日々に苛苛してても、誰も本当のあたしを見てくれてはいないとしても、この毎日があたしの世界。このどこまでも白く霞のかかった道を、あたしはずっと一人で歩いていくのだとそう思ってた。
−−−−−−−−そう。
ずっとそう思っていたの。
あの日。 ガラモスがクーデターを起こしたあの日。 それまで真っ白だった世界が、突然無理やり真っ黒に蹂躙されていったあの日。 もうお終いだと心の底から絶望するしかなかった悪夢のようなあの日。 たった一人でエマージェンシー・カプセルでピザンを逃げ出すしかなかったあの日までは。
|