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■1519 / inTopicNo.1)  ハッピープリンセス
  
□投稿者/ 紫音 -(2007/06/18(Mon) 22:49:37)
    「うん。いい感じじゃない!」
    アルフィンはニッコリ微笑んだ。
    そのキラキラした碧眼には、正装した3人の姿が映っている。ベーシックなブラックフォーマルスーツを身にまとったチームメイト。
    微妙に困惑した感じの3人はお互いに目を合わせた。

    街の中心部にある超高級ホテルに入ったスーツのオーダーメード店。
    ちょっと付き合いなさい、と姫に言われ、連れてこられたのがこの店だった。
    格調高い店構え。普段は絶対に立ち寄らないと思われる。
    「何なんだよ。」
    ジョウがまず言った。
    いつも思うが、こういう服装は落ち着かない。
    「だって、この前の仕事で、みんなボロボロにしちゃったじゃない。フォーマルスーツ。」
    確かに間違いではない。
    クラッシュジャケットでは目立ちすぎることから、パーティに正装で参加して護衛を勤めた。
    案の定、奇襲を受け、彼らは応戦し、その結果、服装は見るも無残な状態だったのである。
    「だから、新しいの注文しといたの。丈とか大丈夫よね?」
    ざっと皆を見回し、店員が頷いたのも確認した。
    さすがに彼女の見立てと言えよう。素材もかなりいいものを使っている。サイズはもちろんしっかりと合わせてあるし、ベーシックな型ではあるが、
    白いシャツは襟など一部がそれぞれ異なっていた。そして赤いタイ。
    どんな正式行事だろうとパーティだろうと問題ない。
    「大丈夫といやぁ、大丈夫ですが・・」
    タロスも何と返そうかと思った。
    どうも気後れしてしまう。
    「もうっ!天下のクラッシャージョウのチームなんだから。これくらい持ってったっていいじゃない。
    もし、またこの前みたいな依頼が来たらどーすんのよ! あたし、嫌だからね、ダッサイチームだって言われちゃうの。」
    ここまで言われたら、逆らわないほうが身のためだと思う。
    下手なことを言って、気分を害されるほうが恐ろしい。
    リッキーは黙ったまま、店の鏡に映る自分を見た。
    (ふーん。いいもの着ると、それなりになるもんだなぁ)
    そんなことを思う。
    タロスやジョウと違って、ちょっと楽しんでる節があるのは彼らしい。

    「あ。そうそう。それからね。」
    さらにアルフィンが続けた。
    「まだ何かあるのか?」
    呆れたように大きく息を吐く。ジョウとしては、一刻でも早く、この服を脱ぎ捨てたかった。堅苦しくて仕方がない。
    しかし、彼女の言うことも一理ある。クライアントのランクが上がると、こういった服装が必要になることもあるのは否定できない。
    それに、自分で選ぶより、彼女の見立てのほうがいいとも思う。
    アルフィンは、店内のテーブルの上に小さな箱を3つ置いた。
    それを開け、それぞれに手渡す。
    「これって――」
    リッキーが目を丸くした。
    「カフス。ちょっと気に入ったのがあったから、買っちゃったの。プレゼントね。」
    軽くウィンクして微笑んだ。
    シンプルなデザインのカフスボタン。クラッシュジャケットのように、タロスにはブラック、ジョウにはダークブルー、リッキーにはダークグリーンのもの。
    アルフィンのこだわりが一目で分かった。
    「・・・・」
    再び3人が目を合わせた。

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■1520 / inTopicNo.2)  Re[1]: ハッピープリンセス
□投稿者/ 紫音 -(2007/06/18(Mon) 22:51:54)
    「それじゃあ、アルフィンのせっかくの計らいですから、このまま上で飯でも食いに行きますかねぇ?」
    タロスが言った。
    この超高級ホテルの最上階には、五ツ星の看板を掲げ、常に雑誌のランキングの上位に入るほどの店がある。
    もちろん、完全予約制だろうし、正装でしか立ち入ることが出来ない。
    「いいね!タロスもたまにはいいこと言うじゃん!」
    リッキーがパチンと指を鳴らした。
    タロスの言葉通りだと思う。これだけアルフィンが自分たちのためにやってくれたのだから、何かお返しがしたかった。
    照れくさいが、もう少しこの格好で、それなりの店に行くのもいいじゃないか。みんなで。たまには。
    「ダメよ。みんなはいいけど、私はこんな服装じゃ入れないわ。」
    正装の3人に比べ、ただ普通のワンピース。残念そうに首をかしげた。

    「あのぉ・・・」
    遠慮がちに店員が口を挟んだ。
    「いかがでしょう。ドレスをお隣の店でお買い求めになるというのは・・」
    確かに、この店の隣には婦人用のドレスのオーダーメードの店がある。
    とにかく、この高級ホテルには何でも揃っているのだった。
    「ってことでしたら――」
    「それじゃ――」
    「だったら――」
    3人の声が重なった。
    「オイラ、ショーウィンドウにある赤いヤツがいいなっ!」
    リッキーだけ一気に言い放った。
    おそらく同じことを言いたかったのだろう。ジョウとタロスが言葉を止めた。
    店の前を通りかかった時、皆が思ったのである。
    そのショーウィンドウに飾られた見事な真紅のドレス。
    『アルフィンに似合うだろうな。』と。

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■1521 / inTopicNo.3)  Re[2]: ハッピープリンセス
□投稿者/ 紫音 -(2007/06/18(Mon) 22:56:32)
    彼らの予想通り、更衣室から出てきた<ミネルバ>の航法士の姿は、こういった姿の女性を見慣れているはずの店員までもが
    ため息をつくほどのものであった。
    「ほんと、お姫様だねぇ、アルフィン・・」
    リッキーが呟く。
    クラッシュジャケットよりも深い赤。彼女のために作られたようなドレス。
    こういう時に、彼女が一国の王女であったことを彼らは思い出す。
    「ありがと。」
    微笑んだアルフィンは、自分の姿を店内の大きな鏡に映して、立ち方を変え、後ろ姿もチェックした。
    「うーん・・」
    少し首をかしげ、悩んだ彼女を皆が黙って見つめている。
    そして、ざっと店内を見回し、棚にあった銀色の髪飾りを手に取った。
    「これも頂くわ。」
    言い放つと同時に、あっという間に艶やかな金色の髪をねじり上げ、その髪飾り一つで留め上げる。
    髪型を変えただけで、雰囲気が一転した。
    大人びたような。
    そして色気も漂う。
    これで、それなりの化粧をしようものなら・・・・
    困ったようにジョウは人差し指でこめかみを掻いた。
    その姿を見たタロスはわずかに口元を緩ませる。

    「・・・」
    感心したような初老の店員は、一旦店の奥に姿を消し、再び小さなケースを手に現れた。
    「これもお使いください。」
    「!!」
    碧眼が驚きに見開いた。
    開かれた小箱には、光り輝くダイヤのネックレスとイヤリング。
    普通買える金額のものではない。それは一目で分かった。
    「残念ながら、プレゼントというわけにはいきませんが・・」
    「でも――」
    「上の店で、宣伝していただく・・ってことでいかがでしょう?」
    初老の紳士は楽しそうに片目を閉じた。
    きっと、階上のレストランに現れた金髪の美少女は、皆の注目を浴びるだろう。
    身にまとうドレスと宝石が、1階の店のものであると知れれば、この店としてもこれほどウマイ話はない。
    高級な宝石を無償で貸し出す代わりに、さりげなく店の宣伝を依頼したいというわけだった。
    「オッケー。取引成立ね。」
    アルフィンも片目を閉じる。

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■1522 / inTopicNo.4)  Re[3]: ハッピープリンセス
□投稿者/ 紫音 -(2007/06/18(Mon) 22:58:12)
    こうして見事な姫君が完成した。

    「それじゃ、行きますか。お姫様。」
    少し照れたようなチームリーダーは、手を差し出した。
    すでに気を利かせた店員が、レストランの予約は入れてくれている。
    「あたし、幸せもんね。」
    嬉しそうにアルフィンはそこに自分の手を重ねる。
    「ん?」
    「こんな素敵なナイト3人にエスコートされるなんて。」
    ぐるりと周りにいる仲間たちを見回した。
    いつものクラッシュジャケット姿はもちろんだが、たまにはこういった姿の彼らも素敵だと思う。
    タロスが嬉しそうに目を細めた。
    Vサインを掲げるリッキー。

    そう。本当に幸せモンだわ。あたしって。

    アルフィンは改めてそう思った。

fin.
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