| 宇宙船は、もう長い事は持ちそうになかった。 ひっきりなしに小爆発を繰り返し、炎を噴き出している。持って、あと10分。 「兄貴急げよ!!巻き込まれるぞ!!」 通信機から、リッキーの叫びが聞こえた。 「わかってる。あと一人だ」 ジョウの声は、落ち着いていた。
緊急の要請で、宇宙船事故の救助に向かった。エンジントラブルで爆発した客船の中には、意外にも割に多くの生存者がいた。緊急脱出カプセルの中に既に多数が入っていたし、そうでない人々も緊急脱出設備に近いところに固まっていたので、救助は順調に進んだ。 最後のカプセルを出そうとしたとき、客の一人が必死の形相で何かを叫んでいた。 「あの人がいない!我々を誘導してくれた、君くらいの年の男性だ!眼鏡の人!みんなを助けてくれたあの人!!」 ジョウは最後のカプセルを出した後、船内をもう一度チェックして回った。ちらりとクロノメーターを見る。もう、やばいかもしれない。 生体反応はなかった。 もう、駄目か。そう思って引き返そうとしたとき。 視界の隅に、倒れている銀色の宇宙服が見えた。 「!」 急いで向かう。 すると、そこに、確かに眼鏡の男性が、いた。 しかし、これは。 「おい、大丈夫か!助けに来たぞ!」 呼びかけると、うっすらと目が開いた。まだ、辛うじて生きている。 が。 「…う…」 男性は、苦痛の声を上げるばかりだった。 男性の両足は、隔壁に押しつぶされて、もう、無かった。 それでも。 「行くぞ、痛いが我慢しろよ」 ジョウはその男性の両腕を持ち、引きずりあげた。 隔壁でまだ薄い空気が残っているが、ここもいつ爆発するか分からない。空気が無くなれば、切断された宇宙服ではこの男性の命はすぐに終わる。 背中におぶった男性は、弱弱しく苦痛の声を上げ続けている。 ジョウは急いでファイターまで男性を運ぶと、すぐに予備の宇宙服を血だらけの男性に着せた。 エンジンをオン。 最大出力で離脱。
背後で閃光が光った。 宇宙船が爆発した。その光だった。
「すぐそこに病院船が来ている。大丈夫、助かるさ。俺も左足は無い。ロボットだ。あんたと同じ、隔壁に切られた。だから、あんたも助かる」 励ます言葉は、男性の目を開けさせた。 「…君は…クラッシャー…か…」 「ああ」 「名前…を…」 「クラッシャージョウだ」 「クラッシャー…ジョウ…」 男性は、少し驚いたようだった。 「君が…!」 こういう反応は珍しくない。宇宙一有名なクラッシャーなのだから、素人でも知っている人間は知っている。ジョウは、その反応を気にも留めなかった。 「…妻と…子供を…」 「女性と子供は先に脱出している。安心しろ」 「…妻と…子供たちを…頼む…」 「クラッシャーにそんな事頼んでる暇があったら、生きることを考えろ。絶対に生き延びて、自分の手でかみさんと子供をもう一回抱け」 「君に…頼んだよ…ジョウ…」 「もう着くぞ」 ファイターは事故宙域に来ていた病院船に入った。既に担架とスタッフが用意されていて、男性はすぐにオペ室に運ばれていく。 見届けて、これで今回の仕事は終わり。 ジョウはファイターに乗り込むと、エンジンをオンにした。 漆黒の宇宙へと、飛び出す。 彼にはもう、次の仕事が待っていた。
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