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■1584 / inTopicNo.1)  姉弟A
  
□投稿者/ 紫音 -(2007/09/24(Mon) 20:57:32)
    「待ってよぉ!悪かったってば―!」
    後ろから走ってくる足音。
    それをわざと無視して、オイラはアーケードをまっすぐに歩いていた。
    けど。
    途中でペースを落した。
    だから、アルフィンが追いつく。金色の頭が横に並んだ。
    いつもと同じ、サラサラの髪。ちょっと横目で見て、再び前を向いた。
    少しして、何かに気づいたようにアルフィンはこっちを見る。
    「・・・・歩くペースも覚えちゃったのね。」
    少し不満そうに言った。でも、怒っているわけじゃない。アルフィンが怒ったら、とんでもないことになる。それはオイラが一番身にしみて分かってる。
    「そーいうつもりじゃないよ。」
    「結果としてそうなってるじゃない。」
    その通りだ。
    こうやって歩くとき、アルフィンの歩く速度にあわせてる自分がいる。もちろん、クラッシュジャケットのときと、私服でヒールのあるサンダルとか
    履いてるときとは違うけど。
    今日だって、ミュールを履いてるからそんなに足早には出来ない。
    「それはさぁ――」
    オイラは言いかけて、言葉を止めた。
    「それは何?」
    「別に。」
    兄貴がそうだったから――なんて言っちゃいけない気がした。
    真似をしようと思ったわけじゃない。
    けど、なんとなく、いつの間にか同じようにしてた。
    きっと未だにアルフィンは気づいてないんだろう。自分が腕を絡ませるから、兄貴がアルフィンの歩くペースになるんじゃなくって、
    そんなことしなくたって並んで歩いてくれることを。
    そしてそれは、意識して合わせてるとかじゃなくって、もう自然なことなんだって。
    それをいつも見てたオイラは、自然と相手の歩くペースってのを感じるようになっていたんだ。

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■1585 / inTopicNo.2)  Re[1]: 姉弟A
□投稿者/ 紫音 -(2007/09/24(Mon) 20:59:19)
    「あ。」
    いきなりアルフィンが立ち止まった。
    大きなウィンドウのある店の前。
    「リッキー!入るわよっ!」
    言うか言わないかの間に、もう店の扉を開けてる。
    また何か買うつもりなんだろう。
    まぁ、いつものことだからさ。いいんだけど。
    でも、兄貴とタロスが待ってると思うんだけど・・・・ なんて、口が裂けても言い出せない。
    仕方ないから、オイラも後を追って、店の中に足を踏み入れた。

    入ってから気が付いたけど、ここは男性用のセレクトショップだった。
    どうして女の人って、話して歩きながらもショーウィンドウはちゃんと見ていられるんだろう。
    「ねぇねぇ、これいいと思わない―?」
    アルフィンは、ネイビーブルーのシャツを前に掲げて見せた。白いボタンが洒落てる。
    色違いがウィンドウに飾られてたみたいだけど、アルフィンはこの色が気に入ったみたいだ。
    自分の体の前に合わせ、鏡を見る。
    そして首をかしげて微笑んだ。
    確かに。
    兄貴に似合うだろう。
    そう思った。
    「やだ・・キレイなひと。」
    後ろで声が聞こえた。店の店員なんだけど、独り言みたいだった。振り返ったオイラと目が合って、ちょっとだけ恥ずかしそうに目を伏せる。
    たぶん同じ歳くらいだと思う。同年代の女の人から見ても、アルフィンはキレイなんだぁ、なんて毎度のことながら思う。
    「ねぇ、リッキーってばぁ!」
    ああ。もう。
    すでに買う気満々のくせに、人の意見聞いたりする。
    でも、それはそれで、こーいうやりとりは楽しかったりもするんだ。なんだろう。
    「いーんじゃない?」
    「なによぉ、そのいい加減な言い方。」
    「だってさぁ。兄貴だったら、結構何でも着れちゃうじゃん。それに、アルフィン見立てだったら問題ないよ」
    これはいたって真面目な意見だった。本当にそう思ったから。
    ちょっと納得したようなアルフィンは、持っていたシャツを店員に預け、また店内をゆっくりと歩き始めた。
    まだ何か買う気なのかな。
    前からだけど、ほんとショッピング好きだよなぁ。
    でも、これは、アルフィンの気分転換になってることはみんな知ってる。
    ついでに言えば、みんな結構慣れてきた。
    慣れってオソロシイ。
    「ねぇ、これは―?」
    今度はTシャツを広げて見せた。赤くって、プリントされたデザインがカッコイイ。オイラが欲しいくらいだ。
    「いいと思うよ。」
    「何言ってんの。あんたによ。」
    「へ?」
    一瞬理解できなかった。
    「好きでしょ、リッキー、こーいうの。」
    アイスクリームみたいに、自分の好みは完全に把握されてる。それを痛感した。
    悔しいような、ちょっとくすぐったくて嬉しいような。
    「仲の良いご姉弟みたいですね。」
    さっきの店員がクスクス笑った。
    さすがにこの会話からは「恋人同士」とは言わない。
    いや、言われても困るんだけど。
    「えぇ―?やぁよぉ。こんな弟なんて。」
    真っ先にアルフィンが抗議する。
    こういう時は素早いんだもんなぁ。
    「それは、こっちの台詞だい。アルフィンが姉さんだったら、こっちの身がもたないよ。」
    「あによ。どーいう意味?」
    いろんな意味だよ。
    こんなに手のかかる姉さんなんて、真っ平ごめんだね。
    そう声を出さずに答えた。

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■1586 / inTopicNo.3)  Re[2]: 姉弟A
□投稿者/ 紫音 -(2007/09/24(Mon) 21:04:44)
    アルフィンが<ミネルバ>に密航してから数年。
    もちろん、もともとキレイだったけど、なんか最近、ほんと驚くときがある。こんなにキレイな人だったんだって。
    俗に言う、『大人っぽくなってきた』って感じなのかな。
    それともオイラの目が変わったのかな。
    その辺は良く分からない。
    確かに、みんな年を取るんだから、ずっと同じってわけにはいかないんだろう。自分だってこれだけ背が伸びたし。
    オイラが見上げて見ていたはずの蒼い瞳は、年月と共に同じ目線になって、それからこっちが見上げられるようになった。
    まぁ、当然のことながら、じゃじゃ馬なところは変わってないけど。
    たまにパワーアップしてるんじゃないかと思うときもあるけどさ。逆に、言葉に出さずに、笑顔で全てをまるく収めてしまうことなんかもある。
    それって結構すごい。
    タロスが言ってたことがある。
    『少女』も『女』になるってことですなぁ。 って。
    それを聞いた兄貴は、笑ってた。タロスも、そういうこと言うんだな、とか返して。
    もちろん普段はそんなこと言わないだろう。
    珍しく男3人で飲んでて、そんな話になったんだ。
    酔ってるわけじゃないけど、アルコールの勢いは無視できない・・・・と思う。


    以前、仕事で出会ったルポライターがいた。
    いや、ホントはルポライターじゃなかったんだけど。兄貴より1つか2つ年上くらいで、結構いい男だった。
    最初あったときは、なんか人生投げてるみたいな感じで嫌な奴かと思ってたんだ。
    仕事の間いろいろあって、そいつは昔、心に負った深い傷を徐々に癒していった・・・んだと思う。
    そしてそれを助けたのは、間違いなくアルフィンで。
    仕事が終わったとき、どう見ても、そいつはアルフィンを好きになってたと思う。もちろん、アルフィンはそんなこと気づいてないだろうけど、
    オイラたちにはよく分かった。
    「あーいう男を惹き付けるってのは、『いい女』になってきたってことですぜ。」
    と、グラスを空にしながらタロスは言った。
    兄貴の反応を見るかのようにちらりと横を見る。そうでなくとも、兄貴は不満そうな顔をしている。
    なんでタロスってばそう炊きつけるようなこと言うんだろ。
    こーいうとき、オイラは口を挟んじゃいけない。『大人』の会話に入っちゃいけない。・・・・こういうときだけ、大人と子供を使い分ける術を、オイラは知った。

引用投稿 削除キー/
■1587 / inTopicNo.4)  Re[3]: 姉弟A
□投稿者/ 紫音 -(2007/09/24(Mon) 21:11:44)
    ゴンっ!!
    いきなり頭を叩かれた。
    「ってぇぇ・・」
    頭を抱えてしゃがみこむ。
    「なに、ぼーっとしてんのよ。もう行くわよ。」
    真上でいつもの声がした。
    “ぼーっと”ってのはヒドイよな。そう、いつもオイラの扱いはヒドイ。
    「んだよぉ・・相変わらず暴力的だなぁ。」
    そのまま上を見上げた。
    こうやってあの蒼い瞳を見上げるのは久しぶりかも。
    すでに、買い物は終わったみたいだ。両手に紙袋を二つずつさげてる。
    いつの間にそんなに買ったんだろ。
    立ち上がって、オイラはその紙袋を手に取った。
    「!?」
    アルフィンが驚いたようにキョトンとしている。
    「何だよ?」
    「ん?・・・ちょっとびっくり。」
    「だから何が?」
    「何も言わないで、荷物持ってくれちゃうのって、男の人みたいじゃない。」
    「あのさぁ!」
    思わず声が大きくなった。まったく――。
    「きゃんっ!ごめん、ごめんっ!」
    楽しそうにアルフィンは笑って、店を飛び出していった。
    軽やかに金髪がなびく。
    その後姿を見送って、オイラはわずかに肩をすくめた。さっきの店員と目が合って、お互いに笑顔を返す。
    「素敵なお姉さん≠ナすね。」
    「そう思う?」
    「はい!」
    屈託ない笑顔。
    「・・・そうだね。」
    納得したオイラは、その姉さんを追って店を出た。
    通りの向こうで大きく手を振る『姉さん』の姿。すぐに見つけられる。たぶん、これからもずーっと・・・・アルフィンがお婆ちゃんになって、
    オイラがお爺さんになっても、こうやっているんだろうな。
    なんとなく、そんなことを思った。



    そして気が付いた。
    やばい。あれから何分経ったんだろう。
    兄貴とタロス・・・・待ってるだろうなぁぁ・・・
    ゾクリと背筋が寒くなった。
    ああ、神様。
    こんな姉さんを持ったオイラにどうかお慈悲を。


fin.
引用投稿 削除キー/



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