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■1624 / inTopicNo.1)  写真の力
  
□投稿者/ 紫音 -(2007/12/03(Mon) 22:38:46)
    それは、一本の衛星通信から始まった。


    『ちょっと、なんなのよ、あんた!』
    画面が切り替わるなり現れたのは、まぎれもなくクラッシャールーだった。
    スクリーンいっぱいにその顔が広がるほど身を乗り出しているのだろう。
    <ミネルバ>のリビングでこれを受けた4人は、誰も回答が出来ずにただ彼女を見つめていた。
    「・・何が?」
    彼女からの通信だというだけで、眉がつり上がる。アルフィンは低い声で答えた。
    ルーとて、いつもの甘い声ではない。チームリーダーにかけてくるときとは全く違う声。
    そして視線はまっすぐに<ミネルバ>の航法士を見据えていた。
    『何がじゃないわよ、何よ、これは!?』
    ルーは、スクリーンに一冊の雑誌を広げて見せた。
    「ああ、それ?」
    『ああ、それ? じゃないわよっ! いよいよクラッシャー辞める気になったわけ?』
    「!!」
    タロスとリッキーがギョッとして、チームリーダーを見る。ジョウはわずかに肩をすくめた。
    「残念ね、ちょっと頼まれたのよ。」
    そこまで言って、アルフィンは少し面白そうな表情を見せる。腕を組んで、その体の向きを変え、わずかに目を細めた。
    「・・・ふーん・・クラッシャールーともあろう者が、わ・ざ・わ・ざ、聞きにきたわけ?」
    『ば、ばっかじゃないっ!?違うったら!』
    慌ててルーは、声を荒げた。
    彼女が広げた雑誌は、若い女性が良く見るファッション雑誌。それも多くの星で一番の売上を誇るもの。
    カジュアルなものから、フォーマルなドレスまで。流行の最先端をいくものだった。ここに載るデザイナーの衣装は、多くの女性がチェックする。
    もちろん、ルーとてその読者の一人だった。
    いつものように最新号をチェックしていた彼女は、数ページめくったところで顔色を変え、わなわなと肩を震わせ、<ミネルバ>に通信を開いたのである。
    「ま。仕方ないわね。あんたじゃ、テリー・ヤンのモデルにはならないもの。」
    アルフィンはわざとらしく肩にかかった髪を振り払った。
    『な、なぁんですってぇ!』
    はじまった・・と3人は無言で目を合わせた。
    これから何時間続くのか。
    皆がこのリビングから上手く抜け出す口実を考え始めていた。


    この通信から23時間前。
    一通のメールが届いた。差出人はテリー・ヤン。
    ジョウは<ミネルバ>の自室でそれを開けた。


    『やあ、ジョウ。元気か?』
    画面に映るテリー・ヤンは、にっこり微笑んだ。
    赤毛にグレーの瞳。もうすぐ33歳になる彼は、自分のオフィスからこのメールを送っているようだった。
    背後にはいくつものデザイン画が所狭しと張られており、彼がデザイナーであることを示している。
    『今日、例の雑誌が発売されたんだ。評判良くってね。まだ数時間だってのに、電話が鳴りっぱなしだよ。』
    困ったように頭を掻く。
    予想してたことだろ、と思ったジョウは苦笑した。
    『君らのことだから、どうせ宇宙にいて見てくれてないんだろ? まずは、見てくれよ、俺の作品。』
    テリーは片目を閉じて、画面を切り替えた。
    「!!」
    映ったのは2枚の写真。
    流れるような金髪に、その瞳と同じ色のドレス姿の女性。
    その碧眼を魅せるためにか、モデルとしては化粧は薄いほうだろう。白い肌をイヤラしくないくらい程度に出したシンプルなドレス。
    一般の人たちもちょっとしたパーティに使えるものだが、おそらくセレブたちの目に止まるだろう。
    涼しげに凛と立つ姿と、花束を持ち少女のように微笑む姿。好対照の2枚であるが、思わず息を呑む。
    とてもクラッシャーとは思えない。
    『言葉が出ないくらい綺麗だろ?』
    再びテリーが画面に映り、思わずジョウは「ああ。」と返事をしていた。
    『ずっと姫にこのドレスを着て欲しかったんだ。そのためにデザインして、作り上げたものだったしな。感謝してるよ。』


    テリー・ヤン。
    デザイナー兼カメラマン。
    10代から30代までの女性に絶大なる人気を得ており、自分のデザインしたものは、必ず自分で撮影する。そのこだわりは半端ではなかった。
    若い頃にカメラマンのアシスタントも行っていたらしく、その腕も上級のものである。
    その彼に、ジョウとアルフィンは2ヶ月前に出会った。
    昼下がりのオープンカフェにいた二人。
    この惑星での出会いは全くの偶然に過ぎない。しかし、この偶然をテリーは待ち望んでいたのである。
    服飾の勉強をしながらも、カメラマンのアシスタントを勤めていた12年前。
    テリーは、ピザンに降り立ったことがあり、王家とも面識があった。


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■1625 / inTopicNo.2)  Re[1]: 写真の力
□投稿者/ 紫音 -(2007/12/03(Mon) 22:48:57)
    「カメラマンになりたいの?デザイナーになりたいの?」
    まだ10歳にも満たない王女は、その碧眼を輝かせて聞いた。
    広間では、王家の写真を撮影中だが、幼い王女は休憩中で、アシスタントのテリーとおしゃべりをしていた。
    淡いピンクのドレスを身にまとっているが、撮影スタッフの間を動き回り、最終的にこの場所に落ちついている。
    「デザイナーですよ。でも、自分の作品は自分で撮りたいと思ってます。」
    この王女はなんてストレートに聞くのだろうと思った。だからこそ、自分も正直に答えた。
    たぶん、誰にもこんなこと言ってないと思う。自分が何を目指しているか。
    一流カメラマンの下でアシスタントを務めて、早3年。デザインの勉強は、5年の間ずっと続けてきた。
    「そう。だから、今はカメラの勉強なのね。」
    納得したような王女は、上を向いて少し考えたようだった。
    見事な金髪に、誰もが惹きこまれる碧眼。この王女は、あと数年すれば、どびきりの美少女になるだろう。そうテリーは思った。
    彼の想像力が、数年後を作り上げる。
    「あの・・・」
    「なぁに?」
    碧眼がまっすぐに向けられ、幼い王女にすらドキリとさせられた。
    「何年か先・・・自分がちゃんとした作品を作れるようになったら、俺の作ったドレスを着て頂けますか?」
    我ながら、恐れ多いことを言っていると思う。
    相手は幼いといえども、一国の王女だというのに。
    しかし、このとき、既にテリーの頭の中には、成長したピザンの王女とそれに似合うはずのドレスがイメージされていた。
    だから、言わずにはいられなかったのである。
    「いいわよ!楽しみに待ってるわ。」
    幼いアルフィンは、そう言ったのだった。




    「ちょっといいですか?」
    二人がいるテーブルに歩み寄った男性は、大きめのボストンバックを足元に置いた。
    「良くない・・って言ったら?」
    不満そうに答えたアルフィンは、顔をあげて相手の顔を見た瞬間、一瞬だけ表情を変えた。
    ジョウが見る限り、その男性は30代で、赤毛にグレーの瞳の感じの良い男性だった。
    昼下がりのオープンカフェ。そこに彼らはいる。
    せっかくのデートの最中に邪魔が入るなど、普段のアルフィンならば、この後冷たい言葉が並ぶはずだった。
    しかし、男性のほうが先に口を開く。
    「お久しぶりです。プリンセス。」
    仰々しく頭を下げる。
    「プリンセスは止めてよ。すっかりガサツなクラッシャーよ。」
    肩をすくめ、アルフィンは楽しそうに言った。
    お互いに、自分のことを覚えてくれていたと思っているのだろう。十年以上経った互いの姿を眩しそうに見つめる。
    「存じてますよ。私も驚かされましたから。」
    デザイナーとしてすっかり名を馳せた頃、テリーの耳にも、ピザンの王女がクラッシャーに実を転じたニュースが届いた。
    絶句したのは言うまでもない。
    あの天使のような少女が、クラッシャーだと?あり得ない!と思った。
    そして、ピザンに怒った事件、その星を救ったクラッシャーについてのニュースを読み漁ったものである。
    しかし、一緒のテーブルにいるジョウを見た途端、あのプリンセスの行動が分かったような気がしていた。
    これが、あの『クラッシャージョウ』か・・・そんな風に思う。
    「テリー・ヤンと言います。よろしく。」
    テリーはジョウを向いてニッコリ微笑んだ。



    慌しく人が行き来する。
    それを部屋の隅で、ジョウは黙って見つめていた。
    こんな場所を見ることなどない。
    街のはずれの洋館。
    そこにテリー・ヤンの撮影スタッフが揃っていた。
    室内のインテリアをチェックする人、明かりの状態を確認する人。皆が忙しそうに動き回る。
    「・・ったく、急に呼び出しなんて――」
    「まぁ、いつものことだしね。」
    「でも、あのドレスを拝めるなら、大歓迎だね。」
    「確かに。」
    そんな声が聞こえる。
    テリーはこのスタッフを30分でかき集め、この洋館を借り切った。それは、有名デザイナーだからこそ可能なことだろう。
    もちろん、テリー・ヤンというデザイナーをジョウは知るはずはなかった。
    ここに来るまでに、エアカーの中でアルフィンに説明を受けたのである。
    そのデザイナーは、2時間だけ自分に時間を下さいと言った。
    数年前の約束を果たしたいと。
    そして、彼らはその要請を受け、ここにいた。



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■1626 / inTopicNo.3)  Re[2]: 写真の力
□投稿者/ 紫音 -(2007/12/03(Mon) 22:53:21)
    「何見てるの?」
    背後の扉がそっと開いたのは分かっていた。入室してきたのがアルフィンであることも。
    「ただの撮影なのに、こんなにスタッフがいるもんなんだな。」
    感心したようでもある。
    「もうっ!あったり前じゃない!」
    自分の前にすっと割り込んだ姿を見て、ジョウの目が大きく見開かれた。
    先ほどまでのカジュアルな服装ではない。
    確かに分かってはいたが、その姿に声が出なかった。
    透き通るような蒼色のドレス。
    大きく肩が開いているが、不思議とそれほどいやらしさは感じない。
    銀色の刺繍とビーズをふんだんに使っており、シンプルなラインは高級感を漂わせていた。
    いくら高級ファッションに疎いジョウといえども、このドレスの価値はすぐに察することが出来る。
    ほぉっと周りの撮影スタッフのため息が聞こえた。
    そこで我に返る。
    「どう?似合う?」
    アルフィンは無邪気に首をかしげ、手を広げて見せた。
    「え・・」
    「なによぉ。テリー・ヤンのドレスなんだからぁ。ちょっとくらい褒めてよね。」
    面白くなさそうにくるりと背を向けたアルフィンは、撮影のため部屋の中央に足を進めた。
    後姿でさえ、皆の視線を集める。
    褒めろってったて、そんな暇さえないじゃないか・・・思わずジョウは苦笑した。


    撮影は順調に行われていた。さすがに元ピザンの王女ともなれば、撮影慣れしているのだろう。
    カメラを持つテリー・ヤンのグレーの瞳が輝いているのが分かる。
    そしてモデルの表情がくるくる変わるのを、ジョウは不思議そうに見ていた。
    「あの娘、誰? どこのモデル?」
    「テリーの知り合いだろ?モデルじゃないと思うぜ。」
    「なにそれ?それじゃ一般人?」
    スタッフたちの声は耳に入る。
    「メークもほとんどなしよ。あれ。」
    「うっそぉぉ。」
    「・・俺、どっかで見たことある・・あの娘・・」
    「どこでだよ!?」
    何人かの声が重なった。
    「さっき、テリーが“姫”って呼んでたけど――」
    「・・っていうか、あのドレスだろ?テリーが絶対どのモデルにも着せなかったやつ。」
    「そう・・私も始めて見た・・・・すっごく素敵・・」
    その噂のドレスのデザイン画が出来上がったのは、10年ほど前。
    そして、実際にテリーがこれを縫い始めたのは5年ほど前。
    誰の手も借りず、ただ自分で縫い上げた。
    彼のスタッフたちは、このドレスの価値を十分過ぎるほど知っている。
    人形ではなく、実際に人がこれを身につけたのを初めて見るのである。
    そして、このドレスが、あの金髪の女性のために作られたものだということさえ、感じ取っていた。


    モデルの視線がわずかに泳ぐ。
    それを見たテリーは、カメラを下ろし、何事かと思って後ろを振り返った。そして笑顔を見せる。そういうことか、と。
    視線の先には、彼のスタッフたちがジョウを囲んで質問攻めにしているところだった。
    「おいおい、モデルの気が散るだろ。そこで雑談は禁止だ。」
    「!!」
    思わずアルフィンが顔を赤らめた。
    女性スタッフが、ひたすらジョウに声をかけていたのが見えたのである。
    まったく・・・油断も隙もないわ、と思っていた矢先。カメラのレンズ越しに、テリーにバレたに違いない。
    「だって、テリー・・」
    スタッフの一人が口を尖らせた。
    「だってじゃない。」
    テリーがぴしゃりと言った。
    「10分休憩だ。庭に出るぞ。花を用意しろ。」
    「花?」
    「そうだ。10分でかき集めろ。」
    スタッフが一斉に動き出す。テリーが何をするのか、何を求めているか、それをすぐに察するのだった。
    休憩になったのをいいことに、アルフィンが真っ先にジョウの元にやってきた。
    「なによ、人が働いてるときに、楽しそうに雑談なんて。」
    ぷうっと頬を膨らませる。
    せっかくのドレスが台無しの表情である。
    しかし、これくらいのことなら愛らしい表情で終わる。
    本当にアルフィンが怒ったらとんでもないことになる。髪が逆立ち、眉が釣り上がり、手に負えない。
    「雑談っていうか・・・もっぱらアルフィンの話題だったんだぜ。」
    「どーだか。」
    「ほんとだって。ミス・ギャラクシーコンテストを見てた奴がいたんだ。だから質問攻めだった。」
    これは決して嘘ではなかった。
    あの金髪の女性は何者なんだと。幸か不幸か、コンテスト出場者であることは覚えていたらしいが、彼女の素性についてのは覚えていないらしい。スタッフは連れであるジョウへ話しかけ、次々に質問が飛んだ。それにしどろもどろで答える。
    いや、正確にはほとんど答えられていない。なんせ、元ピザンの王女で、今はクラッシャーなどと簡単には言い辛い。
    「ふうぅん。」
    まだ疑っているような瞳。
    「・・あ・・」
    そこで、アルフィンは何かに気づいたように声をあげた。
    「あのコンテストを見てたって?」
    「あ、ああ・・」
    「ほんとに?」
    「たしかそう言ってたが・・」
    「じゃあ、あたしとルーのどっちが優勝にふさわしいかって――」
    「おいおい。」
    呆れた。思わず口を挟んだ。
    「冗談よ、冗談。」
    ペロリと舌を出したアルフィンは、わずかに肩をすくめた。

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■1627 / inTopicNo.4)  Re[3]: 写真の力
□投稿者/ 紫音 -(2007/12/03(Mon) 22:57:19)
    『そういや』
    画面の中のテリーが言った。
    『この前、誕生日だったんだって? プレゼント・・ってのも変だが、特別にサービスだ。我ながらイイ出来だと思う。後でじっくり見てくれよ。』
    何やら楽しそうでもある。
    『写真ってのはな、自分の姿を見ることが出来る。鏡とは違う姿をな。それで分かることってのがあるんだよ、ジョウ。』
    一体、このデザイナーは何が言いたいのだろう。さっぱり分からない。
    これがメールで良かったと思う。通信であれば、おそらく自分は相手に言葉を返せないのではないか。
    『それじゃ、また会おう。いつか。姫によろしくな。』
    そう言って、テリー・ヤンの画像は切れた。


    メッセージは終わったが、テリーの言葉通り、さらに添付されたファイルがある。
    ジョウは黙ってそれを開いた。
    「!?」
    一枚の写真。
    あの洋館での撮影の合間であることは分かった。いつの間に撮ったのだろう。
    向き合う二人の姿。
    蒼色のドレスを身にまとい、自分の前に立つアルフィン。
    いつもの角度で自分を見上げ、合わされた手の平は口元にあり、微笑んでいる。
    そう。彼女はいつもこの笑顔を自分に向ける。

    そして。
    俺は――。

    こんな表情をしているのか?彼女の前では?
    自然と顔が赤くなった。
    思わずファイルを閉じる。
    しかし。
    「・・・」
    もう一度それを開いた。確認するかのように。


    確かに、テリーの言うことは正しい。
    自分がこんな表情(かお)をしているなんて思ってもみなかった。

    この一枚は、アルフィンには見せないでおこう。
    俺だけの秘密にしておく。
    テリー・ヤンが自分にくれたバースデイプレゼントなのだから。


fin.
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