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■1648 / inTopicNo.1)  KISSで溶け出す角砂糖
  
□投稿者/ とむ -(2007/12/25(Tue) 15:04:12)
    −−−−−−−サイアクだ。

    なにがサイアクかというと、もう一言では言い表せない程だ。
    世の中全てが間違ってる。
    この世の中は理解し難い程の不条理と理不尽と、ついでに馬鹿なクライアントが持ちかけてくるアホらしい仕事のせいで崩壊寸前。

    例えるならば。
    クリスマスだというのに、そんなことはお構いなしにどんどこ仕事を依頼してくるボケのクライアントとか、
    クリスマスだというのに、そんなことはお構いなしにどんどこ仕事を投げてくるアラミスのモウロクじじぃとか、
    クリスマスだというのに、そんなことはお構いなしにどんどこ仕事を請けてくる阿呆のチームリーダーとか、
    クリスマスだというのに、そんな阿呆に一言も意見も出来ず、セコセコと航路の確認なんかしちゃってる自分とか(大バカ!)、
    そんな人間ばっかりだ!!

    みんなみんな狂っているとしか考えられない。
    せっかく全員分のプレゼントも用意して、美味しい食事も準備して、さあ、あとは皆を部屋に迎えに行くだけだったと言うのに。

    −−−−−悪い、仕事が入った

    だと?!

    そんなチャラい台詞ひとつで今日一日の努力が水の泡だ!!!!

    わなわなと震える肩を抑えつつ、ガチャン、と持っていたトレーを荒っぽくシンクの上に乗せる。
    すぅ、と大きく息を吸い

    「…馬鹿やろーーーーーーーーーーーー!!!」

    とアルフィンは<ミネルバ>全体に響き渡るほどの大声で吼えた。



    はぁはぁと息を荒げシンクに突っ伏していると不意に、背後からコホ、と咳払いをしている気配がした。振り返ると、そこには真っ青なクラッシュジャケットを着込んだ<ミネルバ>の阿呆の隊長。
    彼は右手でその形のいい顎をさすりながら
    「その”馬鹿やろう”ってのは俺のことか?」
    と薄く笑う。
    「べ・つ・に」
    ツンとジョウから顔を背け、アルフィンはわざとがちゃがちゃと音を立てながらシンクにぶち込んだ食器を洗う。
    「荒っぽいねぇ」
    「あら、ごめんあそばせ」
    悪かったわね。
    どうせあたしは可愛くないわよ。
    そんなことをブチブチと言いながら、アルフィンはキッとジョウを睨みつけた。

    ジョウは苦笑をしながらアルフィンに言う。
    「…仕方ないだろ。ホーリーのおっさんだって断れなかったんだ」
    「あーそーですか。それはそれはお気の毒」
    どうせウキウキしてるくせに。
    未知の生物探索なんて、ジョウの冒険心をやたら煽る部類の仕事だと知っている。どーせ二つ返事でOKしたくせに、ホーリーのせいにするなんてこの卑怯者。
    そう言うと、ジョウは少しバツの悪そうな顔をして、まあそりゃそうなんだが、なんてしゃあしゃあと言ってのける。
    ホラみろ。
    その態度が、期待と好奇心で一杯になっているのがモロばれだ。
    アルフィンは一層心の中で地団駄を踏むしかない。

    あーーーーーーー、むかつく!

    ここいらがイライラの頂点だ。嫌味のひとつでも言ってやらなきゃ気がすまない。
    ホント、いい気なもんだこと。

    「そんなに仕事が好きなら、いっそのことホーリーと結婚でもしちゃえばいいのよ。この仕事バカ」
    「冗談はやめろ。俺はアルフィン以外の誰とも結婚する気なんざないからな」

    あーそう。そりゃよかったわね、と言いかけて、アルフィンは小さく瞬き。手先が台所用洗剤のシャボンで一杯のまま、ぽかんと口を開けてジョウを見る。


    ………え 、?


    ………今、なんと ? ?

引用投稿 削除キー/
■1649 / inTopicNo.2)  Re[1]: KISSで溶け出す角砂糖
□投稿者/ とむ -(2007/12/25(Tue) 15:28:05)
    「アルフィン」
    「  、は ?」
    「口。開けっ放し」

    は、と我に返ってアルフィンはすかさず口を閉じる。しかし相変わらずそれ以外の身体は微動だにできず、首から上だけがのろのろと動く様はまるで壊れたブリキのオモチャのように滑稽で。さらに、なんとも甘く痺れたような頭では何をしゃべっていいかも分からず、泳ぐ視線を無理やりジョウに向けて問いかけた。


    「え、 と。ジョウ?」
    「なに」
    「ええと、 いま。今ね、なんだかプ、プロポー…ズ、の、ようなモノが聞こえたんだ、けど、」
    「よかった。それ以外に聞こえるなら流石の俺もお手上げだ。俺は人間の言葉しかしゃべれない」
    「あの?」
    「返事は」
    「へ、へん…」
    何を言っているのだ、このオトコは。
    「返 事 だ 」

    真剣な眼差しで真っ直ぐに自分を見つめる視線に眩暈を起こしそうだ。
    ぱくぱくと口を開くものの言葉にならず、我ながら自分がどのような顔をしているかも想像できない。
    ああ!どうか、溺れた魚みたいな顔じゃありませんように。
    胸の中で十字を切りながら、アルフィンはただただその場に立ち尽くす。
    一方、ジョウはしばらくそんな金魚のような恋人を見ていたが、やがてうっすら不敵な笑みを口の端に乗せ、なるほど、と呟いた。
    「…な、なるほど?」
    ジョウは、なるほどなるほどと頷きながら納得しきり。
    そして、
    「そうか。最初に言っちまう方が、かなり有利ってことだな。気分的に」
    と、妙に合点がいったという素振りでこちらを見た。

    は?

    「いつもアルフィンに言われっぱなしで、こっちはオタオタし通しだったんだが、なるほど自分が先に言っちまった方が案外恥ずかしくないもんなんだな。こーいうことは」
    「ちょ、ちょっと。ジョウ」

    なんだこれは。
    この余裕綽々のオトコは一体誰だ。
    しかし悲しいかな、自分は完全に全身金縛りにあったようにピクリと動くことすらままならない。
    そんなアルフィンを尻目に、ジョウはニヤリと笑いながらゆるりとこちらに近づいて、ちゅ、とその額に唇を落とす。そして親指でその唇をぬぐいながら
    「まあ、返事は仕事の後で、ってことにしてやるよ」
    と笑い、アルフィンの絹糸のような金髪を柔らかく梳いた。
    そして、真顔に戻ったと思うとあと一時間誤に打ち合わせに入るから絶対遅れるな、と釘をさしゆっくりとキッチンから出て行った。

引用投稿 削除キー/
■1650 / inTopicNo.3)  Re[2]: KISSで溶け出す角砂糖
□投稿者/ とむ -(2007/12/25(Tue) 15:38:36)
    しばらく無言のままジョウの後を見送っていたアルフィンは、不意に電池が切れたようにその場にしゃがみこんだ。

    顔が熱い。
    心臓が早鐘のように鳴っている。

    なのに思うことと言ったら、

    ナンダ、アノオトコノカチホコッタカオハ!

    ということだった。


    くそぅ。
    このあたしが負けるなんて。
    あのジョウにしてやられるなんて思いもしなかった。
    ジョウに触れられた額が熱くて、そして身体はそれ以上に熱をもってふわふわしている。
    よりにもよって仕事の前に。
    よりにもよってクリスマスのその日に。
    こんなことを仕掛けてくるとは思いもしなかった。

    アルフィンは真っ赤に火照った顔を両手で挟み込み、蹲りながら呻き声を洩らした。
    「…しゃい」
    みてらっしゃい。
    絶対にこのお返しをしてやるから。
    絶対に負けやしないわよ。
    あなたをびっくりさせて、おろおろさせて、そしてとびきり喜ばせてあげる。

    アルフィンは両手の指の隙間から、嬉しさで滲んだ碧眼を覗かせて油断すると緩んでしまう頬を噛み締めた。


    「負けるもんですか!!」



    そして手早くシンクの中の食器を片付けると部屋に戻ってクラッシュジャケットをクローゼットの中から取り出した。



    見 て や が れ ! !








    −−−−−−かくして今日も銀河系のミューズは戦場に向かう。







                                           HAPPY MERRY CHRISTMAS












                                                                                    「KISSで溶け出す角砂糖」
fin.
引用投稿 削除キー/



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