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■201 / inTopicNo.1)  Fly into your dream
  
□投稿者/ まめこ -(2002/10/05(Sat) 07:14:12)
    <ごあいさつ>

    自分でも何やってるのかな〜?って思うのですが。。。
    皆様の作品を読んでいたら、どうしても自分も書きたくなってしまって。
    書き始めてしまいました。
    本当に、本当に初めての作品で、投稿しようか止めようか凄く悩みました。
    『恥ずかしい』と『せっかく書くのだから』を天秤にかけたら、後者が勝ってしまい、
    えーいい、ままよ。投稿してしまえ!ってことになりました。
    三十路すぎてからまさかこんな事になるなんて・・・って自分が一番びっくりしています。(歳ばらす必要はないですか?(笑;)
    読み辛い点、わかりにくい表現、うそ臭い設定etcありますけれど。
    読んで頂ければ幸いです。



引用投稿 削除キー/
■202 / inTopicNo.2)  Re[1]: Fly into your dream
□投稿者/ まめこ -(2002/10/05(Sat) 07:18:01)
    ぞく。
    背筋に悪寒が走る。
    やっぱりおかしい、とアルフィンは思った。
    昨日あたりからどうも体調が良くない。
    頭痛がするし体中がだるい。時々吐き気もする。
    でも、今は大事な仕事中、こんな事くらいで休んでなんかいられない。
    ―それでなくても、今日は朝からぼーっとしてるってジョウに怒られてるんだもん。しっかりしなきゃ!
    こめかみに手をあて何かを振り払うように頭を振る。
    そして「す〜、はぁ」と深呼吸を一つした。
    アルフィンは気を取り直してブリッジに向かった。

    チームの今回の仕事は宇宙船シーターの護衛だ。
    船の主は、引退して息子にその実権を譲り、隠居生活を送るために居所を移すという、老人。引退したとはいえ銀河系でも十指に入る名門財閥グーチ家の前当主である。
    狙われる理由にも、相手にも事欠かない。屈強な護衛が必要だった。
    目指す隠居先は、リディアの第3惑星サルデス。温暖で気候条件のよい星である。
    これといった産業はないが、銀河系で1、2を争う保養地として有名だ。
    グーチ老のように引退した富豪達が、余生を楽しむ隠居先として選ぶことも多い。
    ジョウたちが護衛する期間は約1ヶ月の予定だった。
    グーチ老は九十歳という高齢の為、あまり無理が出来ない。ワープ距離は短くなり、その間隔も置かなくてはならない。必然的に旅程はかなりゆっくりなものになった。
    「ベラサンテラ獣運んだときにくらべりゃあっという間さ」
    などとリッキーは言っていたが、さすがに3週間も経つと
    「あと5日もあるんだよなぁ。長いな〜」
    とぼやきが出てきていた。


    「ケホッ」
    リビングの所まで戻ってきたところで、アルフィンは咳き込んだ。
    「ケホッ、ケホッ」
    口の中にぬるっと生暖かいものが流れ出てきた。
    ―この味は・・・。
    アルフィンは口を押さえていた手を外し、恐る恐る開いて見た。
    ―やっぱり・・・
    アルフィンの掌には血がついていた。
    ―でも、なんで?病気?
    すっと頭から血の気が引いていく。
    ―ダメダメ。あと5日は頑張らなきゃ。病気になんてなってらんないの。皆の足を引っ張っちゃう。
    アルフィンはかぶりを振った。。
    契約期間はあと5日。ここまで順調にやってきた。サルデスはもう目の前。2、3度宇宙海賊に襲われたが一蹴した。グーチ老はすでにべた褒めで、また機会があれば契約すると毎日のように言ってきている。
    その後には久々の休暇が待っている。
    ―この仕事が終わったら、病院でゆっくり調べてもらおう。
    アルフィンは自分の掌を眺めながらそんなことを考え、ぼんやりとしていた。
    血を吐くということが、どいうことなのか良くわかっていなかった。
    思考回路が上手く働いていない、という感じだった。
    と、その時
    「アルフィン!何をしている。三百秒後にワープだぞ!早くブリッジに帰って来い!」
    船内インターホンからジョウの声が響いた。
    ―うわっ、ヤバイ。もうそんな時間なんだ。
    アルフィンは我に返った。

    「ごめんなさい」
    言いながらブリッジに駆け込む。
    「どこ行ってたんだ。」
    ジョウは振り向きもせずに言った。
    少し機嫌が悪い。声にトゲがある。
    ―何よぉ!ちょっとおトイレに行ってただけなのに。そんなに怒らなくてもいいじゃない。いーだ。
    アルフィンは心の中で歯をむき出して文句を言いながら、空間表示立体スクリーンのシートに飛び込んだ。
    急いでコンソールのキーを叩きワープの準備をする。
    「アルフィン、なんだか顔色が悪いけど、具合悪いの?」
    通路を挟んで隣の動力コントロールボックスに座るリッキーが訊いてきた。
    「え?」
    リッキーはこういうところには敏い。
    「昨日も咳き込んだりしてただろ?風邪でもひいたのかい?」
    「そんなことないわ。気のせいよ」
    アルフィンは努めて明るく言った。
    「なら、良いんだけど」
    まだ、少し心配気であったが、それ以上は訊いてこなかった。
引用投稿 削除キー/
■203 / inTopicNo.3)  Re[2]: Fly into your dream
□投稿者/ まめこ -(2002/10/05(Sat) 07:19:55)
    「ワープイン」
    タロスがスイッチをオンにする。
    星が流れる。
    ミネルバはワープ空間に突入した。

    ワープ空間に入ったとたんアルフィンは軽い眩暈を覚えた。クラッシャーになって直ぐの頃こそワープ酔いに悩まされたが、最近はもう慣れっこでこんな違和感を覚えたのは久しぶりだった。
    しかし、眩暈は収まるどころかどんどんひどくなっていった。吐気もしてきた。頭がくらくらしてワープカウントをとる事さえ、出来なくなってきた。
    ―ダメ。頭が割れそう・・・
    カウントがずれる。
    そして・・・アルフィンのカウントが途絶えた。

    ―なにやってんだ、今日のアルフィンは
    「アルフィン、カウントがずれてる・・・」
    怒気を含んだ声を発しながらジョウはアルフィンを振り返ろうとした、その時。
    「アルフィン!」
    リッキーの緊迫した声が響いた。
    ジョウはアルフィンが空間表示立体スクリーンに吸い込まれるようにゆっくりと崩れ落ちていくのを見た。スローモーションの画像を見ているようだった。
    ジョウは一瞬、何が起こったのかわからずに振り向いたままの格好で硬直していた。
    はっと我に返る。
    「アルフィン」
    あわててアルフィンに駆け寄った。
    アルフィンを抱きかかえるように起こし、頬を2、3度軽く叩く。
    反応が無い。意識を失っている。
    口の端から、赤いものが一筋つたっていた。血だ。
    倒れた時にコンソールデスクでどこかをぶつけたのかと思ったが、良く見ると掌にも血がついていた。
    ―ぶつけたんじゃない。血を吐いたんだ。
    「アルフィン!」
    ジョウはもう一度アルフィンの名前を呼んだ。
    体が熱い。凄い熱だ。単なるワープ酔いじゃない。
    ジョウはアルフィンを抱えてすっくと立ち上がった。
    動力コントロールボックスの後ろにいたドンゴに叫ぶ。
    「ドンゴ、アルフィンの変わりに入れ」
    ドンゴはLEDを点滅させながらキャタピラで空間表示立体スクリーンまで移動した。
    「タロス、ワープアウトをしたら、加速20パーセントでシーターの護衛を続けろ」
    「了解しやした」
    タロスが答える。
    「俺はアルフィンをメディカルルームへ運ぶ。何かあったら直ぐに呼んでくれ」
    リッキーは不安そうな目で、ジョウとアルフィンがブリッジから出て行くのを見送った。

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■205 / inTopicNo.4)  Re[3]: Fly into your dream
□投稿者/ まめこ -(2002/10/08(Tue) 22:04:40)
    ジョウはメディカルルームに入るとアルフィンをベッドに横たえた。
    クラッシュジャケットの上着を脱がせ、ベッドの横にあるコントロールパネルのキーを操作した。そしてベッド脇から先端が吸盤状になった細いチューブを引出しアルフィンの額や首筋、腕など数カ所に貼り付けていく。チューブを通して脈、脳波、血液などの簡単なチェックが出来るようになっている。アルフィンは吐血していた。単なるワープ酔いであれば嘔吐しても吐血することはまず無い。原因を調べる必要があった。
    一通りの操作を終えるとジョウはベッド脇の椅子に腰をおろした。
    アルフィンの目は堅く閉じられたままだ。顔にはうっすらと苦痛の色を浮かべている。
    ジョウは口の端に残っていた血のあとを、そっとぬぐった。
    たしかに今日のアルフィンは様子がおかしかった。ぼうっとしていることが多かった。
    シーターの護衛を初めて3週間、ここ1週間は襲撃も無かった。順調に航海を続けており、残りの日程も5日をきった。もうトラブルは起こらないだろうという気の緩みがアルフィンに生じたのだとジョウは思ったのだ。おおよそ、次の休暇の事でも考えているのではないか、と。しかし、そうではなかった。具合が悪いのを必死で隠していたのだろう。
    ジョウはそんなアルフィンに気付けなかった。気付かないどころか、気が緩んでいると思い込み、必要以上に声を荒げて叱咤した。
    「馬鹿か、俺は」
    吐き捨てるように言い、目の前に組んだ手に頭を打ち付けた。ジョウは自分を責めていた。アルフィンのこの苦しげな表情は自分のせいだと。体調の悪さに気付いたからといって何かしてやれたとも思えなかったが、それでもアルフィンの変化に気付けなかった自分が、許せなかった。

    ふと顔をあげると船室の窓には通常空間の星空が広がっていた。ミネルバはワープアウトしていた。
    このまま意識を取り戻すまで傍にいてやりたかったが、そういうわけにもいかない。ジョウは重い腰をあげ、アルフィンの額にそっと口付けた。後ろ髪を引かれる思いを無理やり押さえ込み、メディカルルームを後にしてブリッジに向かった。

    「兄貴!」
    ブリッジに入るとリッキーが噛み付かんばかりの勢いでシートから飛び出してきた。
    「アルフィンは?」矢継ぎ早に訊いてくる。
    ジョウは首を横に振って、それに答えた。
    「まだ意識が戻っていない。メディカルチェックをかけてきたから、結果がでるまで待つしかないな」
    「そっか」がっくりと肩を落とす。そして
    「大丈夫かなぁ。兄貴は気付いてなかったみたいだけど、朝から随分具合悪そうだったもんなぁ」
    などとぶつぶつ言いながらシート戻って行った。
    その言葉を聞いたジョウの表情が一瞬、曇った。
    ―リッキーは気付いていたのか・・・
    胸がズキン、と痛む。
    タロスが「余計な事を言うな」という視線を向けたが、リッキーは全く気付いていないようであった。
    「シーターに何か変化は?」
    「あ、ああ、いえ、何も」
    リッキーを睨んでいたタロスは、急に話しをふられたので少しどもり気味になった。
    「ご覧の通り、静かなもんでさぁ」
    フロントウィンドウの上にあるメインスクリーンを指した。そこには白銀に輝く二百メートル級の外洋クルーザーが映し出されていた。
    「そうか」
    ジョウは言いながらシートについた。そして腕を組み、スクリーンに目をやった。ジョウの目にはシーターの優美な姿が映っていた。しかし、ジョウはその向こうの星空に、脳裏に焼きついている苦しげな表情をしたアルフィンの顔を見ていた。
    ―今は考えるな。
    と自分に言いきかせ、振り払うように頭を振った。
    そんなジョウをタロスは気遣わしげな目でみていたが、やがてスクリーンに目をもどした。
    リッキーも何も話さない。
    重苦しい空気がブリッジを満たしていた。
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■207 / inTopicNo.5)  Re[4]: Fly into your dream
□投稿者/ まめこ -(2002/10/09(Wed) 01:33:18)
    沈黙を破ったのは、ドンゴの甲高い声だった。
    「キャハ。めでぃかるちぇっくガ終ワッタヨウデス」
    ジョウ、タロス、リッキーが一斉に振り向いた。
    「うぃるす性ノ伝染病ニヨル、発熱ノ可能性ガ高イヨウデス」
    「ウィルス性の伝染病?」
    ドンゴの報告はあまりにも意外なものだった。ジョウは直ぐにその言葉が理解出来ず、思わず訊き返していた。
    「ハイ」
    ドンゴは続けた。
    「虫ヤ小動物ヲ媒体トシタ伝染病デハナイカト思ワレマス、キャハ」
    「?」
    三人は、信じられないといった風に顔を見合わせた。
    「間違いじゃないのかい?」
    リッキーが訊いた。
    「伝染病ニヨル発熱ノ可能性ハ98ぱーせんとトナッテイマス」
    「ほぼ、間違い無しってことか」
    ようやく飲み込めたのか、落着いた口調でタロスが言った。
    「でも、おかしいよ」
    リッキーはまだ得心がいかないようだ。
    「俺ら達ずーっとミネルバの中にいたんだぜ。どうやってそんな伝染病にかかるっていうんだよ?」
    ジョウ達はシーターの護衛を始めてから3週間、宇宙空間を航行している。もちろん外部との接触は通信のみで、虫や小動物と接触する機会はない。リッキーが訝しむのも無理は無かった。
    「伝染病ってのは大体潜伏期間ってのがあるからな」ジョウが答えた。
    「昨日今日かかった病気じゃないことが多い。タロス、ここ最近寄ったところで伝染病が流行ってるって話、きいたことあるか?」
    しばらく考えてからタロスは答えた。
    「特に無かったと思いますが」
    「俺も無い」
    「お手上げですな」
    二人は同時にため息をついた。
    すこしあって、ジョウが気を取り直して言った。
    「ここで俺達がどうこういっても埒があかない」
    「どうするんだい?」リッキーが訊いた。
    「アルフィンのデータをグレーブに送る」
    ジョウは言葉をついだ。
    「パスツール記念病院で調べてもらう」
    「それしかないですな」
    タロスが頷いた。

    標準時間、午後10時
    夕食後、ミーティングをすませた後はドンゴと当直1名を残し各自自室待機となる。今の当直はタロスが当っていた。
    ジョウは自室には帰らず、メディカルルームに来ていた。
    アルフィンの意識はまだ戻っていなかった。時折苦しそうなうめきを漏らすだけで、目はきつく閉じられたままだった。額にうっすらと汗を滲ませていた。ジョウはその汗をそっと拭った。触れた手からアルフィンの体温が伝わってきた。熱い。
    ここに来たからといって何が出来るわけでもない。出来るのはこうやって汗を拭ってやることぐらいだった。それは良くわかっていたが、ジョウはどうしてもアルフィンを一人にしておけなかった。傍にいてやりたかった。そして
    ―俺がいるから、大丈夫
    そう伝えたかった。
    グレーブからの返答はまだない。病名もまだわからない。実際のところ、大丈夫とは言いきれる状況ではないのだが、そう伝えればアルフィンの苦しみが和らぐような気がしたのだ。

    ふいにインターコムの呼出音が鳴った。スイッチをオンにすると直ぐにタロスの声がした。
    「ジョウ、グレーブから通信です」
    「わかった、すぐそっちへ行く」
    ジョウは一度アルフィンを振りかえり、メディカルルームを出た。
    途中、リッキーの船室を覗いたが姿がなかった。
    ブリッジに戻ると、リッキーはそこにいた。
    グレーブから連絡がはいったら自分も呼べとタロスに言っておいたのだろう。
    やはりアルフィンの事が気になってゆっくりとはしていられなかったようだ。

    「パスツール記念財団医科大学付属病院のケぺルです」
    ブリッジのメインスクリーンに映ったその人物はそう名乗った。
    色白、細面、眼鏡に白衣。いかにも研究肌といった風のドクターだった。
    「ご報告が遅くなって申し訳ございません」
    「いや、こちらこそ無理を言ってすまない」
    実際、ジョウはかなり強引にデータ解析をさせていた。
    「金はいくらでも払う、返答は夜中でもいつでもかまわないから、とにかく調べを急げ」と病院の事務員に迫った。「手続きがあるので、データの解析は明日以降になる」というお決まりのような答えを事務員は返してきた。病院側と口論になったが、ジョウは引かなかった。仕舞には副院長の名前を出し、彼に直接談判した。副院長とはあまり面識が無かったが、クリスの事件のとき名前を交わしていたのを覚えていた。とにかく使える手はすべて使ったという感があった。
    それを見ていたリッキーは
    ―ホントアルフィンの事となると見境ないよな、兄貴は。
    と不謹慎にも苦笑していた。

    「アルフィンさんの病名が特定されました」
    挨拶もそこそこに、ケペルは早速本題に入った。
    「ヴァルダ熱というのをご存知ですか?」
    「いや、初めて聞く」ジョウが答えた。
    「そうでしょう。ヴァルダ熱というのは発症例がとても少ない病気なのです。私は様々な伝染病の患者を診てきたのですが、ヴァルダ熱の感染者にあったことはありません」
    ―早々に本題に入った割にはもったいぶった言い方をしてくるやつだ
    とジョウは内心思ったが、顔にはださず訊いた。
    「そのヴァルダ熱ってのがアルフィンの病名なのか?」
    「そうです」
    ケペルは神妙な面持ちで頷いた。
    「今からデータをそちらに送ります。とりあえずそれをご覧になって下さい」
    「わかった」
    ジョウは頷き、データが送られてくるのを待った。
    しばらくしてデータが次々とスクリーンに映し出されていった。

    ―クラス4ウィルスB-F45型ウィルス熱
    ―通称ヴァルダ熱
    ―ジナの第10惑星ヴァルダの密林に生息する蚊を媒体として感染
    ―潜伏期間 4〜6週間(標準時間換算)
    ―初期症状 発熱、全身倦怠、嘔吐、頭痛、咽頭炎、せき等風邪によくにた症状が現れる
    ―重症例 吐血、下血、血尿、血圧降下、意識障害、腎障害、ショック、心不全をきたす
    ―治療法 回復期の患者の血清を注射する以外ないが極端に発症例がすくないため血清入手が非常に困難
    そして、最後の一文がスクリーンに映し出された。
    三人はその一文を凝視した。
    「ウソだろ?」
    リッキーが叫んだ。
    ―致死率 85%以上

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■215 / inTopicNo.6)  Re[5]: Fly into your dream
□投稿者/ まめこ -(2002/10/10(Thu) 23:32:22)
    しばらくの間、三人は口を開くことが出来なかった。
    ややあって、ようやくタロスがぼそりと言った。
    「タチの悪い風土病ってヤツですな」
    「なんだよ、これ」
    リッキーが泣きそうな声で言った。
    「ヴァルダってどこだよ。そんなとこ行ったこと無いじゃないか。なのになんでアルフィンがそこの蚊に刺されて病気になんだよ。なぁ、あんた、嘘だろ」
    「残念ながら・・・」ケペルは首を横に振った。
    「私達は何度もデータをチェックし直しましたが、結果は同じでした。しかし・・・」
    ケペルは顎に手を添え下を向き、黙って何か思案していた。
    「しかし?」ジョウが促した。
    「ええ、今そちらの彼が仰ったように、アルフィンさんがヴァルダに行ったことが無いとなると、話しは変わってきます。アルフィンさんは本当にヴァルダに行ったことはないのですね」
    ケペルはジョウに訊いた。
    「ああ。すくなくとも、ここ数年はないはずだ」
    アルフィンがクラッシャーになってから、ジョウ達はヴァルダに行ったことはない。それより以前、ピザンの王女時代にそんな辺境惑星の密林に行くなどとも到底思えない。
    「そうなると、感染経路を調べないとヴァルダ熱とは確定できません。これまでヴァルダ熱はヴァルダの中だけで発生していました。地元の人間でもめったに近づかないような奥地の密林にのみ生息する蚊を媒体にしていますので、感染者も少ない。局地的な伝染病でした。ヴァルダ外で発病したのはおそらく今回が初めてのケースではないかと。しかし、ヴァルダ熱と同じ型のウィルスが他にあるとも思えない・・・」ケペルは再び考え込んだ。
    「待ってくだせい・・・」タロスが口をはさんだ。
    「なんだ、タロス」
    「密林ってのがなにかこう、この辺に引っかかるんでさあ」
    親指と人差し指で額を押さえ、考え込んだ。
    「・・・・・・・・・・・・・」
    ふいにタロスが叫んだ。
    「ジョウ!あれだ、グレイム博士の温室ですぜ」

    約6週間前、ジョウ達はグレイム博士という少し変わった学者の仕事を受けていた。グレイム博士は惑星に自生する植物を研究していた。仕事の内容は、植物の輸送。温度、湿度など様々な管理が難しい植物の輸送だったので、運送会社からことごとく断られた。そこで彼は何を思ったかクラッシャーを雇った。博士曰く、今までの常識を逸した珍らしい植物ということだったが、たかだか木を1本運ぶのにクラッシャーを雇ったのだ。全く酔狂としか云い様が無かった。迷惑料を上乗せして輸送船をチャーターした方がよほど安上がりだ、とジョウ達は思ったが、口には出さなかった。仕事はあっけないほど簡単なものであった。襲撃の恐れも無ければ、荷物が爆発するわけでもないのである。リッキーなどはちょっとした旅行気分になっていた。何事も無く荷物を届けた後、博士は自慢の温室を見ていけと彼等に迫った。ジョウ、タロス、リッキーの三人は断ったが、アルフィンだけは「綺麗な花も咲いている」という言葉につられて温室に入っていった。しかし10分も経たないうちに、アルフィンは帰ってきた。
    「なによ、あれ!何が温室よ!あれじゃジャングルじゃない」
    凄い剣幕だった。やっぱり、とアルフィン意外の三人は思った。彼等は博士の研究がジャングルなどの熱帯系植物であろうということを、研究所の雰囲気から察知していたのだ。そんなものを見に行っても面白くも何とも無かった。

    「あ・・・」
    ジョウは思い出した。
    その時アルフィンは
    「虫には刺されちゃうし、もう最低!」
    そう言っていた。
    あの変わり者の博士がヴァルダの密林から植物を温室に持ち込んでいたのだ。その時に蚊も一緒に持ち込まれてしまったのだ。ジョウは急いでグレイム博士に連絡をとった。間違いは無かった。あの温室にはヴァルダの植物があった。博士は早速害虫駆除をする、と画面の向こうで喚いていたがジョウはそれを無視して一方的に通信を切った。

    「発病したのはいつですか?」ケペルが訊いた。
    「いつから熱があったのかは、分からない」ジョウが答える。
    「ただ、今朝から具合が悪そうだった」胸の奥がチクリと痛んだ。
    「患者の現在の様子は?」
    「今は寝てる。10時間ほど前から意識が無い」
    そう言うと、アルフィンの苦悶の表情がまた脳裏に浮かんできた。
    「ヴァルダ熱は発病してから6〜7日高熱が続きます。この間に血清が投与できれば致死率もぐんと下がります」
    「投与出来なかったら?」
    「7日目ごろから酷い出血が始まります。下血、血尿はもちろん鼻、耳などからも出血します。血圧が下がり、意識障害が起こってきます。そして失血によるショックや心不全を起こし、死亡します。そうなる前に治療が必要なのです」
    一呼吸置いて言葉を継いだ。
    「しかし、残念なことに血清が手元にありません。現在、血清はヴァルダにしかありません。しかも、ご存知のようにヴァルダは遠い。直ぐに取り寄せても1週間以上はかかります」
    「それじゃ、間に合わないじゃないか」リッキー喚いた。
    「方法はあります」ケペルはきっぱりと言った。
    「患者を冷凍すれば、病気の進行を遅らせることが出来ます」
    「そっか、その間に血清を取り寄せれば、アルフィンは助かるんだね」
    リッキーはポンと掌を叩き、明るく言った。
    「ただ・・・」反してケペルの声が暗いものになった。
    「血清を投与しても確実に助かるとはいえません。これまでの例からすると血清投与後でも致死率は50%を超えています」
    しん・・・・
    ブリッジに沈黙が走った。
    「とにかく、アルフィンさんをこちらに連れてきていただけませんか?出来るだけの手は尽くします」

    ケペルとの通信を終えたジョウはドンゴを呼んだ。
    「ナンデショウ?」
    「冷凍カプセルを用意しろ。アルフィンを冷凍する」
    「キャハ、了解シマシタ」
    ドンゴがキャタピラの音を響かせてブリッジを出ていった。
    ジョウは、ノロノロとシートから立ちあがり
    「後は頼んだ」と言い残し、ドンゴの後を追った。
    タロスはジョウを振り仰ぎ、何か声をかけようとしたが、その顔をみて掛ける言葉を失ってしまった。タロスは嘗てジョウのこんなに憔悴した顔を見たことが無かった。
    「アルフィン、どうなっちゃうのかな」
    ブリッジを出て行くジョウの背中を見ながらリッキーがぽつりと言った。
    「さぁてな」タロスが他人事のように言った。
    「なんだよ、その言い方!アルフィンが心配じゃないのかよ、このタコっ」
    「うるせぇ!俺らがここでどうこう言っても始まらねぇってことがわからねぇのか、クソガキ」
    タロスが吐き捨てるように言った。
    「なんだとぉ!」
    リッキーが拳を振り上げた。しかし直ぐに気が萎えた。肩まで上げた拳を力なく降ろし、はぁ、と盛大なため息をついた。

    「ジョウ」
    キッチンの前でジョウはアルフィンの声を聞いた。
    首をめぐらせるとキッチンの入り口からアルフィンがひょこっと顔を出していた。赤いクラッシュジャケットにかかった金髪がサラサラと音をたてて流れる。にっこりと笑った顔がジョウの目に眩しく映った。
    「アルフィン、気がついたのか?」ジョウはアルフィンに駆け寄ろうと踏み出した。その瞬間、ふっとアルフィンの姿が消えた。そこには誰もいなかった。ミネルバの駆動音が静かに響いた。突如、ジョウはもの凄い喪失感に襲われた。ジョウの中の何かが音をたてて崩れていった。
    「うおおおおおおおおお」
    唸り声をあげ、ジョウは通路の壁を力一杯殴った。何かにとり付かれたように何度も何度も殴った。拳が切れた。血が滲む。それでもかまわずジョウは殴リ続けた。
    どのくらいそうしていたのかジョウには分からなかった。次第に息が切れ、殴る力も衰えてきた。それでもジョウは殴る事を止めなかった。
    「ちくしょう・・・、ちくしょう、アルフィン・・・」
    そして、崩れ落ちるように床に膝をついた。

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■218 / inTopicNo.7)  Re[6]: Fly into your dream
□投稿者/ まめこ -(2002/10/15(Tue) 07:01:43)

    6日後、シーターの護衛を無事終えたジョウ達はサルデスの宇宙港にいた。
    仕事はまだ残っていた。契約金の受け渡し、アラミスへの報告書の提出等の残務処理、ミネルバのメンテナンスと備品の補充・・・。最低でもあと二日ほどサルデスに留まらなくてはならなかった。ジョウはチームを二手に分けた。タロスとリッキーがサルデスでの残務処理にあたり―本来ならばチームリーダーがすべき仕事であったが、今回はタロスがすべて引き受けると提案した―ジョウは事情を聞いたグーチ老が手配してくれたチャーター船でグレーブに向かう事になった。

    「なーんだよ、兄貴。そんなに暗い顔しちゃってさ」
    リッキーがぱしん、とジョウの背中を叩いた。
    「そんなんじゃアルフィンが目を覚ましたときに幻滅するぜ」
    「ほぉー、たまにはお前さんも良い事言うじゃねぇか」
    横からタロスが合いの手を入れる。
    「たまには、は余計だこのタコっ」
    タロスに一声吼えてからリッキーが言った。
    「ま、とにかく、こっちは俺らとこのうるさいおっさんがいれば大丈夫さ。だから安心してグレーブに行っていいぜ」
    「誰がおっさんだ、この寝しょんべんチビ!お前がどじ踏まなきゃ大丈夫さ、の間違いだろうが」タロスがごつん、とリッキーの頭頂部に拳骨を入れた。
    「痛ってえなぁ、ちったぁ手加減しろよ!クソ馬鹿力」
    ―また、始めやがった
    ジョウは苦笑した。
    普段なら煩わしく腹立たしい二人のやりとりであったが、今日はそんな二人をみるのがなんだか嬉しかった。いつも通りに喧嘩し合い、彼等なりに励ましてくれているのだ。
    ―しかし、そう長くは相手もしていられない
    「じゃ、後は頼んだ」
    取っ組み合いを始めそうな二人にそう言い、踵を返し、ジョウはさっさとチャーター船にむけて歩き始めた。
    「あ、あぁ。気ィ付けて」
    「俺らたちも、すぐに行くからさ」
    ジョウは振り向かずに軽く腕をあげて、それに答えた。

    「行っちゃった」リッキーが呟くように言った。
    「俺達もボヤボヤしてられねぇ。さっさと済ませて、ジョウに合流するぜ」
    と、言うが早いかタロスはミネルバに向かって走り出していた。
    「あいよっ!」
    リッキーもその後を追った。

    更に2日後、ジョウはようやくグレーブに降り立ち、入国手続きもそこそこにパスツール記念財団医科大学付属病院へ向かった。
    早速アルフィンの治療が始められた。解凍作業が行われ、血清が投与された。治療が一段落ついたところで、ジョウはケペルに呼び出されアルフィンの病室に入った。病室にはレースのカーテン越しに淡い光が差し込んでいた。その光に照らし出されるアルフィンの姿をジョウは呆然と見つめた。頬はこけ、眼窩は落ちくぼみ、色を無くした肌は死人のそれに近かった。体から伸びる何本ものチューブが痛々しかった。
    「現在出来うる処置はすべてしました」
    ケペルが簡単に処置内容を告げた。
    「あとは血清が効いてくれるかどうかなのですが、こればかりは我々の手ではなんとも。しばらくは様子をみるしかありません」
    そう言い残し、ケペルは部屋を後にした。

    「アルフィン・・・」
    一人部屋に残されたジョウは、アルフィンの頬に手をやった。頬にかかる髪の毛をそっと払う。自慢の金髪もその輝きを失っていた。
    ミネルバのキッチンで見たあの幻。あれから何度もジョウはその幻をみていた。ミネルバのそこかしこに、アルフィンがふと現れては消える。その度にジョウを襲う喪失感は耐えがたいものであった。
    ジョウは憔悴しきっていた。アルフィン倒れてから、ジョウは熟睡することが出来なかった。ジョウはクラッシャーだ。並の人間とは鍛え方が違う。密林でサバイバル生活をしても、数日でこんなに憔悴する事はないだろう。しかし、あの幻と、このままアルフィンを失ってしまうのではないかという恐怖心が、ジョウを睡魔から遠ざけ、生気を奪いとっていった。肉体よりも精神が悲鳴を上げていた。


    「ごほっ」
    不意にアルフィンが咳き込んだ。続けて2、3度咳き込み赤い塊を吐いた。ジョウは慌てて駆け寄り頭を横に向ける。枕に真紅の花弁のような血が滲んだ。
    ジョウはベッド脇に取り付けられているナースコールを押した。
    「どうしました?」すぐに返事が返ってきた。
    「アルフィンがまた血を吐いた」
    「分かりました、直ぐに向かいます」
    ほどなくして、廊下をパタパタと走る音がした。ドアが開き医療器具を乗せたワゴンを押しながらナースが二人入ってきた。テキパキと治療の準備を始める。ケペルがやって来てナースに指示をとばす。にわかに騒然となった病室にジョウの居場所は無く、仕方なく廊下に出た。

    ジョウは廊下に設えられたスツールに腰を下ろした。体が重い。手足が鉛のようだった。
    アルフィンが入院してから二日が経った。意識はまだ戻らず、昏睡状態が続いている。日に何度かああやって吐血する。ジョウは指をくわえて見ている事しか出来ず、何もしてやれない。そのもどかしさが、更にジョウを痛みつける。
    「クラッシャージョウ?」
    ふいにジョウは声をかけられた。首を廻らすと2、3メートル先に貴婦人という形容がぴったりの四十代後半とおぼしき美しい女性が立っていた。背後には黒っぽいスーツを着た、いかにもシークレットサービスといった風の男を3人従えていた。
    「ご無沙汰しております」
    貴婦人はジョウに向かって軽く頭を下げた。
    「あ、あなたは…」
    ジョウは驚きのあまり無意識に腰を上げていた。
    ジョウはその女性を知っていた。その女性はピザン王妃、エリアナだった。

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■246 / inTopicNo.8)  Re[7]: Fly into your dream
□投稿者/ まめこ -(2002/10/21(Mon) 12:11:34)
    「なぜ、ここに?」
    ジョウはその言葉を口にするのが精一杯だった。タロスが連絡を入れたのか・・・、否。病院側がピザンに知らせたのか、否、そんなことはありえない・・・一瞬のうちにジョウの頭の中でいくつもの仮説が立てられそして否定されていった。答えを見出せないまま立ち尽くすジョウに、王妃はいともあっさりと答えた。
    「アルフィンからの連絡が無かったからです」
    意外な答えにジョウは要領がつかめず、まだ呆然としていた。そんなジョウを尻目に王妃は淡々と話し始めた。
    「あの娘(こ)がピザン出る時、一つだけ約束をしたんです。国王とわたくしの誕生日には必ず連絡を入れると。あの娘は律儀に毎年連絡をくれましたわ。けれど、5日前の今年の王の誕生日にはその連絡がありませんでした」
    王妃は一旦言葉を切り、アルフィンの病室のドアをどこか遠くを見るような目で見つめた。
    「こんなことは初めてでしたので、心配になって少し調べましたの。そうしたら、直ぐに連絡が無かった原因がわかりました。あの娘が病気になったこと、こちらの病院で治療を受けるようになったこと。もちろん、どんな状態にあるかということも・・・」
    そう言って目を伏せた。
    「そうだったんですか」
    ジョウはようやく平静を取り戻した。
    「それにしても、随分早く・・・」
    ピザンからグレーブまで、クラッシャーの船ならいざしらず、旅客用の船ならばゆうに3日はかかる距離だ。5日間というのはアルフィンの所在を確かめ、王妃がここまでやってくるには短すぎる時間に思われた。
    「これでもあの娘の父親は一国の王ですのよ」
    ジョウに向き直りながらきっぱりと王妃は言った。
    「この位のことは半日もあれば調べがつきます。わたくしとしては1日でも早くこちらに来たかったのですが、わたくしにも公人としての立場がるものですから、いろいろ調整している間にこんなに遅くなってしまったのです」
    王妃の話しはもっともなものであった。逃げ隠れしているわけでもない元王女の行方を調べるのは容易なことであったであろう。

    「それで、あの娘の容態は・・・」
    そう王妃が切り出した時、背後でドアがスライドする音がした。治療を終えたケペルとナースがアルフィンの病室から出てきた。
    ジョウは王妃との話しを中断した。
    「アルフィンは?」
    「大丈夫です。今は落着いています。・・・ところでこちらは?」
    ケペルがジョウの後ろに立つ王妃に気付いて訊いた。
    「アルフィンの母でございます」その質問には王妃が答えた。
    「そうでしたか、私が担当医のケペルです」
    二人は短く挨拶を交わした。ケペルはアルフィンの容態を王妃に説明しながらアルフィンの病室に再び入っっていった。ケペルの話を聞きながら病室に入った王妃はアルフィンの姿を認めると、ケペルの話もそこそこにアルフィンの横たわるベットへ小走りに近づいた。
    「あぁ、アルフィン」
    王妃はアルフィンの枕元に立ち、アルフィンのこけた頬を両手で優しく包み込み、はらはらと涙を落とした。その姿は先ほどまでの毅然とした王妃のそれではなく、娘を気遣う一人の母の姿だった。
    ジョウはかける言葉も無く、ただその後姿をじっと見つめていた。ジョウの憔悴しきった顔に、新たな苦渋の色が広がっていた。

    翌日、アルフィンの容態が急変した。出血が止まらなくなった。吐血だけでなく全身から出血をし始めた。目、鼻、口の端などの皮膚の弱いところが爛れたように赤くなり血を滲ませていた。紙のように白くなった顔にその赤が毒々しく映っていた。美しく可憐なアルフィンの姿はどこにも無かった。午後、残務処理を終え急ぎグレーブに到着したタロスとリッキーはあまりに凄惨なアルフィンの姿に言葉を失った。
    その日病室の空気は重く、誰一人必要以上の言葉を発しなかった。
    そして夕刻。
    太陽が西に傾きはじめた頃、誰もが聞きたくなかった一言をケペルが放った。
    「おそらく今晩が峠になります」
    ぐらり、と王妃の体が揺れた。そしてゆっくりとその場に崩れ落ちてゆく。膝が床に触れる一瞬前、シークレットサービスのひとりがかろうじて受けとめた。
    「ごめんなさい」
    そう言いながら王妃は額に手をあて、小さくかぶりを振った。そしてSSを杖替りに立ちあがろうとした。しかし、上手くいかなかった。再びSSの腕の中に崩れ落ちた。顔は血の気を失い、細い肩が小刻みに震えていた。
    立場がそうさせるのか、王妃はこれまで気丈に振舞っていた。数年ぶりに再会した愛娘が直視に耐えないほど痛ましい姿で生死の境をさ迷う姿を見守ってきた。病が治ると思えばこそ、崩れてしまいそうになる自分の心を必死に鼓舞して耐えてきた。しかし、その望みが断たれようとしているのだ。支えるものを失った王妃の精神力は限界にきていた。

    王妃はケペルが用意した別の病室で休んでいた。
    落着いた頃を見計らい、ジョウは王妃を訪ねた。インターホンで病室内の王妃を呼ぶ。
    「はい」
    短い返事はシークレットサービスのものであった。
    「クラッシャージョウです。少しお話をしたいのですが、よろしいですか?」
    少しの間をおいて、プシュッという空気音とともにドアが左右に開いた。
    「どうぞ」
    王妃は壁際に設えられた簡易ベットに浅く腰掛けていた。ジョウが来たということで急に起き上がったのであろう。腕にはまだ点滴用のチューブが繋がれている。点滴と精神安定剤のおかげで幾分落着いたように見えるが、まだ顔色は悪く疲労が色濃く残っていた。
    王妃はシークレットサービスの男達に目で退室を促した。彼等は二人を残して退室することに難色を示したが、再度王妃に促され言葉に従った。
    ジョウは3人が一礼をし退出するのを見届けてから王妃に向き直った。
    「あの、アルフィンが、お嬢さんがこんなことになってしまって、本当に、本当に申し訳ありません。こんなことになっちまったのも、すべてチームリーダーの俺の責任です」
    一気にそう言って深深と頭を下げた。
    正直ジョウは何を言って良いのか分からないままこの部屋に来ていた。けれど、アルフィンの前で泣き崩れる王妃の姿を見たとき、言わなくてはならないと、貴方の大切な娘―アルフィンを守れなかったことを謝らなくては、と強く思い、それを伝えにきたのだった。
    「そんな、それはあなたが謝ることではないわ」
    ジョウの突然の謝罪に王妃は少し驚いた風に答えた。
    「しかし、俺が温室に行くのを止めていればこんな事には・・・」
    「それは今更どうこう言っても栓の無い話でしょう?」
    「・・・」
    言葉に詰まる。後悔の言葉を並べ、謝罪したからと言ってどうなるものでもないと言う事はジョウにも良く分かっていた。それでもアルフィンを自分に託した王妃に対して、ジョウは謝らなくてはならないと思っていた。

    しばらくの沈黙の後、ジョウが低く掠れた声で言った。
    「・・・アルフィンがクラッシャーにならなかったらこんな事にはなっていなかった。あの時直ぐにでも彼女をピザンに返していれば良かった。そうすれば彼女はこんなに苦しむ事はなかったんだ」
    この数日ジョウの頭の中を駆け巡っていた思いが口をついて出た。それは自分でも知らないほど心の奥底に眠っているアルフィンへの想いであった。アルフィンがその体を危険に晒すたびにジョウの心の表面に踊り出てくる想い。彼女を大切に想い、彼女の幸福せを願うがゆえに今のすべてを否定する。王女のままでいれば、クラッシャーにならなければ、彼女は幸福だったのではと。
    「ジョウ、王もわたくしも一度もそのように思ったことはございません。それにアルフィンが自分で選んだ道です、その結果の苦しみならばあの娘の本望だと思いますわ」
    王妃は優しく諭すように言った。
    しかしその言葉はジョウの耳には届いていないようであった。独り言のように続ける。
    「俺がアルフィンの未来を奪った。このまま死んでしまうなんてことになったら、俺は・・・」
    「あなたはアルフィンがもう助からないとお思いですの?」
    突然、王妃が声を荒げジョウの言葉を遮った。柳眉があがり、わなわなと肩を震わせている。
    「あの娘はそんな弱い娘にではございませんわ。あんな病気などには負けません。かならず元気になります。少なくともわたくしはそう信じています。それなのにジョウ、貴方は貴方を信じて病と戦っているあの娘が助からないと、そうお思いですの?」
    一気に捲立てた。アルフィンと同じ深い碧の瞳は今にも零れ落ちそうなほど涙で潤んでいた。ジョウは王妃の剣幕に圧倒されただ呆然と断ち尽くしていた。
    王妃はしばらくの間、ジョウを睨むように見ていたが、やがて目頭を軽く押さえ、涙を拭った。
    「クラッシャージョウ」
    王妃がジョウをまっすぐ見据え名を呼んだ。
    ジョウは面を上げ王妃の顔を窺がい見たが心労のため青白くなった顔に表情はなく、何を言おうとしているのかは読み取れなかった。
    王妃はさっきまでの剣幕とは打って変わり、吐き捨てるように言った。
    「ピザンを救ってくれた時のあなたはどこにいったのです。たかが部下一人が病気になったくらいでなんですか。情けない。貴方はそんなに弱いひとだったのですか?天下のクラッシャージョウが聞いてあきれますわ」
    辛辣な言葉にジョウは戸惑いの視線を王妃に向けた。
    王妃はかまわず続ける。
    「貴方だったから、わたくし達は娘を手放し、あの娘はすべてを捨ててついていったのですよ」
    そして一呼吸おき、言った。
    「クラッシャージョウ、そんな貴方にあの娘を、アルフィンをお任せする事はできませんわ。あの娘の病気が治ったら、わたくしがピザンに連れて帰ります」
    衝撃的な言葉であった。鈍器で殴られたかのようにジョウの頭の中がわんわんとなり眩暈のような感覚を覚えた。何かを言おうと口を開くが、何も出てこない。馬鹿みたいに口をぱくぱくさせるしかできなかった。

    「ご用件はそれだけかしら?」
    立ち尽くすジョウを尻目に王妃は冷たく言った。
    「でしたら、お帰りになってください。わたくしは気分がすぐれませんのでもう少し休ませていただきます」
    ぴしゃりと言い放ちベット際のインターホンで廊下にいるシークレットサービスを呼び出した。
    「ジョウがお帰りになります」
    話が一方的に打ちきられた。シークレットサービス達が病室に入ってきた。ひとりが入り口に立ち、ジョウの退室を促す。
    ジョウはといえば、まだ何かを言いたげな視線を王妃に向けていたが、王妃の冷たい光を湛えた碧眼に一蹴された。そして、結局何も言えないままに病室を出ていった。

    ジョウが廊下に出ると直ぐに背中でドアが閉る音がした。
    「2度と顔を見せないで」といわれているような、冷たい音だった。
    「王妃…」
    ドアの前で、ジョウはうなだれた。暫くの間、家の外に放り出された子供のような目で閉まったドアを見つめていた。
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■270 / inTopicNo.9)  Re[8]: Fly into your dream
□投稿者/ まめこ -(2002/10/31(Thu) 23:30:38)
    ジョウは雨の降り出す音を聞いた。
    ウェザーコントロールされているグレーブでは、降雨時間は決って真夜中に設定されている。これから明け方まで、雨は降り続ける。
    なにかに誘われるようにジョウはふらりと表に出た。途端、顔に体に冷たい雨が当る。結構な雨量が設定されているのだろう、ジョウの体はあっという間にずぶ濡れになった。

    雨に打たれながら、ジョウは王妃の言葉を思い出していた。
    ―あなたはアルフィンがもう助からないとお思いですの?
    ―かならず元気になります
    ―貴方はそんなに弱いひとだったのですか
    ―そんな貴方にあの娘を、アルフィンをお任せする事はできませんわ
    ―わたくしがピザンに連れて帰ります
    何を言われても反論できなかった。確かに王妃の剣幕に圧倒されて言葉が出なかった。だが、それよりも言い返す余地が全くなかった。あまりにも的確に言い当てられ、ジョウはぐうの音もでなかった。

    ジョウは今までになく、自分という人間が嫌になった。深い自己嫌悪に陥った。
    ―情けねぇ
     いつから俺はこんなに弱い人間になっちまったんだろうな
    嫌だった、アルフィンを失うのだけは絶対に嫌だった。理屈ではない、ジョウの精神(こころ)が肉体(からだ)がそう叫んでいた。その叫びが己の弱さとなりいくつもの幻を見せた。そしてその後の喪失感と恐怖に弄ばれた。
    ―惚れた弱みか・・・
    口に出して伝えたことは無いが、アルフィンを大切に想う気持に嘘偽りは無い。それを否定する気も無い。
    今回の事だけではなく、アルフィンのことになると制御がきかなくなることがある。見境が無くなり無茶をすることが多い。頭ではわかっていても止められないのだ。
    ―惚れた弱み、それも結構
    だが、アルフィンのためになると、無理がきく。駄目だと思ってもなにか別の力が自分を奮い立たせる。ジョウにはそれが良くわかっていた。弱さは反面、力の源にもなることを。
    ―惚れた女一人守れないで、一人前のクラッシャーといえるか
     ・・・屁理屈だな、これは。
    自分の考えにジョウは苦笑した。
    クラッシャーに危険はつき物である。アルフィンがクラッシャーでいる限りまたいつ命が危険に晒されるとも分からない。無論、守ってやれると言いきれないことはジョウ自信が一番良く分かっていた。だが守りたい、自分の力が及ぶ限りは命を賭してでも守ってやると心に誓った。
    ジョウの瞳に、ずっと隠れていた本来の強い光が戻ってきた
    ―それにアルフィンもクラッシャーだ。もうピザンの王女じゃない
     アルフィンはあんな病気には負けない。今も必死で戦っている
     俺が惚れた女だ。俺が信じて待てないでどうする
     強くなれ、ジョウ
    雨がすべてを洗い流してくれたようだった。ジョウはぐっと拳を握った。体中に新たな力が沸いてくる。表情にはもう曇りはなく、本来の精悍なクラッシャーの顔になっていた。
    ―さぁ、アルフィンのもとに戻ろう

    踵を返し入り口に向かう。2、3歩歩いたところでなにか思い出したように振りかえり、王妃の部屋の窓を探した。
    ―感謝します、王妃
    王妃の言葉で長い長いトンネルから抜け出ることが出来たのだ。
    ―あれはパフォーマンスだったんだろうな
    わざと声を荒げ、叱咤し、ジョウを奮い立たせようとしてくれていた。今更だがようやくそう思い至った。
    強い、とジョウは思う。母の愛を知らないジョウにとってはじめてみた母性の強さだった。王妃のそんな強い愛に護られてきたアルフィンを託されたのだ。
    ―あんな俺には任せられないよな
    さっきまでの自分を思い返しジョウは自嘲の笑みをうかべた。だが、もう今は違う。胸を張って任せてくれ、と言える。

    ジョウは少し視線を上げ、アルフィンの部屋の窓を見た。
    ―?
    おかしい、とジョウは思った。アルフィンの部屋がなにやら明るく見えたのだ。消灯時間はとっくに過ぎている。今は間接照明の小さな灯りしかしかつけられていないはずだ。なのに部屋が明るいということは・・・
    ジョウの背中に冷たいものが走った。
    「まさか、アルフィン・・・」
    ジョウは慌てて病院の中に戻った。床がジョウにの体から滴り落ちる雨で濡れたが、かまわず全力疾走した。アルフィンの病室は8階、だがエレベーターホールが遠い。ジョウは迷わず非常用の階段室に飛び込み一気に駆け上がった。
    ―今、諦めないと誓ったばかりなのに
    気が焦って上手く足が運べない。ジョウは何度も転びそうになりながらも駆けた。息があがる。
    廊下に踊り出た。廊下は不自然なほどに静まり返っていた。休まずジョウはアルフィンの病室まで駆け抜けた。病室の前にタロス、リッキーの姿が見えた。スツールに二人並んで腰掛けている。声をかけようとしたが二人とも熟睡していた。ジョウは二人に声をかけるのを止め、アルフィンの病室に入った。
    病室の中にはアルフィンが寝ているだけで、他には誰もいなかった。ジョウはほっと息をついた。容態が急変したわけではなかったようだ。

    しかし、部屋の中の様子がおかしかった。部屋の照明は落とされているのにアルフィンの寝るベットの周りだけがが青白い光につつまれている。ジョウは目をしばたかせた。
    ―なんだ、あの光は?
    ジョウはいぶかしみながら、足音をたてないようにアルフィンに近づいた。
    アルフィンの額からちょうど30センチくらいのところがぼうっと白く光っている。光源はない。そのあたりの空間が光っているといった感じだった。とても不思議な光景だった。しかし、恐怖心はわかなかった。ジョウはゆっくりと光に手を翳してみた。温かい、優しい光がジョウの腕を包む。光はだんだんと大きくなりジョウの体全体を包み込んだ。ジョウの視界いっぱいに光が広がり、なにも見えなくなった。
    そして、だしぬけに体が浮くような感覚に襲われた。そのままゆっくりと上へ上へと引き上げられていく。手足の自由は効いていたがジョウは何が何だかわからずに、されるがままになっていた。暫くして、浮遊感がなくなり足が地に着いた感覚があった。
    「ここは、どこだ・・・?」
    一面の白の世界。360度見渡す限りの白だった。いや、違う。白の中に僅かに黄金に光るものがあった。目を凝らしてみると、それは人のようだった。金の髪。
    「アルフィン!」
    それはまぎれもなくアルフィンだった。白い服を纏い、ジョウとは反対の方へ向かって進んでいた。ジョウは慌てて後を追った。
    後を追いながら何度も名前を呼ぶが、アルフィンは気付かない。振り向きもせず歩みを進めていた。
    「アルフィン」
    あと、数メートルというところまで来てようやくアルフィンは振り向いた。
    「ジョウ」
    すこし驚いたように振り向き、ジョウの名前をよんだ。目が虚ろだった。
    「あぁ、やっと気付いた」
    少し様子が違うと思ったが、とりあえず気付いてくれた事にジョウはほっと胸をなでおろす。そしてアルフィンに手を伸ばした。
    「さぁ、帰ろう。アルフィン」
    なぜだか分からないが、帰ろうという言葉が口をついて出た。
    しかしアルフィンはその手を取らない。
    「みんなが呼んでるの。あたしはそこに行かなきゃいけないの」
    そして再び反対の方向へ向かって歩き始める。
    「そこって何処だよ」
    行き場を失った手が宙を泳いだ。断られるなどと思っていなかったせいか、焦りで声が荒くなった。
    「わからない。でも、行かなきゃいけないの」
    「俺の傍にいるよりもそこに行きたいのか?」
    アルフィンはビクンと弾かれたように体を振るわせ、そしてゆっくりとジョウに向き直った。だが、なにも言わない。ただジョウを見つめていた。
    「俺の傍は嫌か?」
    アルフィンはふるふる、と小さく頭を横に振った。虚ろだった瞳に僅かだが光りが戻ったように見えた。
    「お願いだ、俺の傍にいてくれ」
    そしてもう1度アルフィンに手を差し出した。
    アルフィンは「そこ」を振りかえり、少し困ったような視線を向けた。やがて、ジョウに視線を戻し
    「・・・うん」
    微かな声でそう言い、俯いた。そして1歩踏み出し、ジョウの手をとった。
    ジョウはアルフィンの手を握り、力一杯引き寄せた。アルフィンの体がジョウの胸の中に飛び込んでくる。
    「もう、離さない」
    その体を抱きしめようと腕に力をこめた。だが、その時、再びアルフィンの姿が消えた。

    ジョウは、雨にうたれ中庭に立っていた。
    アルフィンはいない。消えてしまった。
    しかし、これまで何度となく見た幻とはなにかが違っていた。確かにジョウはアルフィンを抱きしめた。その感覚が腕に未だ残っている。そしてなにより、あの気が狂うような喪失感が無い。何故だかは自分でも良く分からなかった。
    暫く呆然としていたジョウだったが、ハッとして、頭上を振り仰ぎアルフィンの病室を探した。光が消えていた。見えるのは間接照明のかすかな灯りだけだった。

    ジョウが病院内に入るとすぐに、どこからともなく清掃用ロボットが近づいてきた。
    「コンナニ濡レタママデ入館サレテハ困リマス。体ヲ拭イテクダサイ」
    振りかえるとジョウの通ったあとには水溜りが出来ていた。
    体を拭くものが無いと答えると、LEDをチカチカと点滅させながらボディ側面から白いタオルを取り出しジョウに突き出した。抗議しているらしい。どうやらジョウは清掃直後に入ってきて水溜りを作ったようである。
    ジョウは適当に体を拭き、タオルをロボットに返した。
    今度は階段を使わず、エレベーターで8階まで昇った。
    エレベーターを降り、アルフィンの病室へ向かう。病室の前にはタロスとリッキーがいた。
    「あ、兄貴、どこへ行ってたんだい?」
    リッキーがジョウの姿を目ざとく見つけた。
    「あぁ、ちょっとな」
    ジョウは言葉を濁す。
    「アルフィンは?」
    「今のところ、変わりはありません。眠りつづけたままです・・・」
    タロスが首を横に振りながら答えた。
    「・・・もう直ぐ目を覚ますさ」
    ジョウが意味深な言葉を口にした。
    「?」
    タロスとリッキーは言葉の真意がつかめず、首をかしげた。
    そんな二人には言葉を継がずジョウはアルフィンの病室に入っていった。
    むろん、アルフィンを包む不思議な光はもう無かった。
    ジョウは枕もとの椅子に腰を下ろし、壊れ物に触るようにそっとアルフィンの白く細い手を握った。
    「アルフィン」
    ジョウが優しく名前を呼んだ。
    少しの間をおいて、それに答えるかのようにアルフィンの瞼が微かに震えた。
    そして、アルフィンが目を覚ます。
    長い睫がいかにも重たいといったふうに、ゆっくりと瞼があがり深く美しい碧の瞳を覗かせた。直ぐに瞼は閉じられ、そしてもう1度ゆっくり開く。
    未だ焦点が定まっていない。視線が宙を泳いでいる。
    「アルフィン」
    アルフィンは声を掛けられ少し驚いたように、ゆっくりと声の主を探す。やがて瞳が傍らに座るジョウの姿を捉えた。

    「すげぇ、ホントに目を覚ましちまった」
    「兄貴、魔法を使ったみたいだ」
    ジョウに続いて病室に入ってきていたタロスとリッキーが驚きの声をあげた。

    「ジョウ・・・」
    アルフィンは掠れた声でジョウを呼んだ。傍らに座るジョウにしか聞こえないほどの、微かな声だった。けれど、ジョウにはそれで十分だった。数日間、恋焦がれた、幻ではないアルフィンの肉声。
    「アルフィン」
    ジョウはアルフィンの手を自分の頬に寄せた。そしてその手に何度も口付けた。

    「おい、いくぞ」
    「あわわ」
    タロスがリッキーの首根っこを捕まえ引きずるようにして病室を出ていった。
    ―今は俺達が出る幕じゃねぇ
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■271 / inTopicNo.10)  Re[9]: Fly into your dream
□投稿者/ まめこ -(2002/10/31(Thu) 23:36:16)
    「奇跡です。まさに奇跡としか言いようがありません」
    ケペルが興奮気味に言った。
    アルフィンが目を覚ましてから5日後のことである。アルフィンとの面会の前にジョウ達は彼女の病状について説明を受けていた。
    ジョウ達は後日知ったことであったが、グレイム博士と博士の研究所員が十数名、ヴァルダ熱で死亡していた。アルフィンの血清が移送されたが、すでに手遅れだった。研究所の職員3分の2の人間がヴァルダ熱にかかり、回復したのはわずかに2名。致死率は90%にものぼった。それを知っていたケペルであっただけに、興奮は人一倍であった。
    意識が戻ってから、アルフィンは見る見るうちに回復していった。嘘のように熱が下がり、出血が止まった。3日後には喉の炎症がおさまり、口から食事をとることが出来るようになった。
    そして、5日後の今日、ようやくジョウ達は面会が可能となった。
    特に面会謝絶にする必要も無かったのだが、意識の戻ったアルフィンが誰にも会いたくない、中でもジョウには絶対に会いたくないと言って頑なに面会を断った。アルフィンは出血によってあちこち爛れた顔をジョウに見られたくなかったのだ。
    ようやく意識の戻ったアルフィンに面会を断られ、ジョウは憤慨した。ジョウにしてみれば意識が戻るまでずっと傍にいたのだから、アルフィンが今更何を言うのかわからなかったのだが
    「兄貴は女心ってのがわかってないなぁ〜」
    とリッキーに諭され、しぶしぶ了承した。

    ジョウ達が病室に入ると、先客がいた。エリアナ王妃がアルフィンと談笑していた。
    一瞬ジョウの背中に緊張が走った。
    アルフィンの意識が戻ってから、王妃はあまり病院に顔を出さなくなった。ピザン王妃としての仕事がたてこんでいたらしい。逗留先のホテルで仕事におわれているという話だった。ジョウ達も面会が出来ず、日に1度様子を訊きに病院に来る程度だったので出会う機会が無かった。ジョウが王妃と会うのはあの夜以来であった。
    そんな忙しい王妃が今日は朝からアルフィンの元に居たらしい。いよいよ連れ戻しにきたのでは、とジョウは焦った。
    「元気そうじゃん、アルフィン」
    立ち止まったジョウの背中から顔を覗かせてリッキーが言った。
    「そう?」
    アルフィンが笑顔で答える。
    「アルフィンが面会OKにしてくれてホント助かったよ」
    ジョウの背中から前にでて、少し距離をとりながらリッキーが言った。
    「兄貴、毎日大変だったんだぜ。
    せっかく意識が戻ったのにアルフィンに会えないって、ずーっと機嫌悪くってさ」
    「ばっ」
    馬鹿野郎なに言ってんだ、と言いたかったが上手く口が回らない。瞬間湯沸機のように一瞬でジョウの頭から湯気が出た。
    ジョウはリッキーを黙らせようと手を伸ばしたが、リッキーはもう手の届くところには居なかった。
    「あっしも、もう・・・」
    珍しくタロスがリッキーに加勢した。両手を広げて顔の前で横に振り、勘弁してくれといったジェスチャーをした。目が笑っている。ジョウは茹でタコのように赤くなりながら二人を恨んだ。
    「ごめんなさい。でも・・・ちょっと嬉しいな」
    アルフィンが頬を桜色に染めながら言った。最後のほうは声が小さくなりごにょごにょとしか聞こえなかったが。
    「うー」
    ジョウは唸るしかなかった。

    だが、ここでめげていてはいけない。ジョウにはまず言わなくてはならない事があった。
    「そんなことはどうだって良いんだ」
    自分に言い聞かせるように言い、王妃に向き直った。
    「王妃、アルフィンはミネルバに連れて帰ります」
    きっぱりとジョウは言った。
    「ジョウ・・・?」
    ジョウの突然の告白にアルフィンが訳がわからないといった風にジョウを見た。タロスもリッキーも要領を得られず顔を見合わせた。
    王妃はジョウの視線と言葉をしっかりと受けとめた。
    「ええ、そうしてください」
    あまりにもあっさりと了承され、ジョウは些か拍子抜けした。
    まだぽかんとしている一同を尻目に微笑みながら王妃は言った。
    「ピザンでは手におえませんから」

    「この娘はお転婆で我侭で気が強くて、おまけに言い出したらきかないでしょう?」
    母親とはいえ無茶苦茶な言い様である。ジョウ、タロスは苦笑いするしかなかった。
    「うはっ。当ってら」
    リッキーは思わず口走った。口走ってから、しまったと思い恐る恐るアルフィンを振りかえった。
    アルフィンは耳まで真っ赤にして、俯いていた。リッキーの言葉は耳に届いていなかったようだ。リッキーはほっと胸をなでおろした。
    「そんな、お母さまったら、そこまで言わなくったって」
    アルフィンは口を尖らせ小さな声で王妃に抗議した。
    くすり、と笑いながら王妃は続けた。
    「でもね、そんなところが若い頃のわたくしそっくりだって、お父さまは言うのよ」
    「?」
    「アルフィン、本当にあなたはわたくしそっくりよ。性格もやる事も・・・
    まったく嫌になるくらいにね」
    王妃の瞳がいたずらっぽく光った。
    「わたくしもね、お父さまのところへ無理やり押しかけて結婚したようなものなの」
    「!!」
    アルフィンも初めて訊く両親のなれ初めであった。今の二人の関係からは想像もできない事だった。偉大な父と陰から支える良妻賢母を絵に書いたような母、理想の夫婦像。アルフィンは二人をそんな風に見ていた。王妃の告白にアルフィンは口を塞ぐことが出来ずにぽかんとしていた。

    「なぜお父さまが、目に入れても痛くないと言うほど可愛がっていたあなたを、二つ返事でジョウのところへやったと思います?」
    「あたしがハンスト起こして部屋に篭城したうえに、バルコニーから飛び降りて死んじゃうって言ったからじゃないの・・・?」
    この台詞にジョウ、タロス、リッキーの3人が一斉にアルフィンを見た。
    なんの咎めも無くクラッシャーになる事を認められたとは思ってもいなかったが、そこまでの強行手段に出ていたとは思ってもいなかった。
    3人の視線を浴びてアルフィンは肩をすくめた。
    「別に大したことじゃないでしょ?」
    3人は大いにコケた。
    「たしかにそれが直接的な理由ではあったわ。でもね、お父さまはあなたがあまりにもわたくしに似ていたから、止めても無駄だってお思いになったのよ。どうせここで反対しても、あなたは必ずジョウのところへ行ってしまうって。だったら反対してあなたに逃げられるより理解のある良い父親としてあなたを送り出すほうを選んだのよ」
    1度言葉を区切り、笑顔で辛辣な一言を付け加えた。
    「究極のカッコつけで究極の親ばかでしょう?」
    ジョウは頭を抱えた。どうやらアルフィンが母親似というのは間違いの無い事らしい
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■274 / inTopicNo.11)  Re[12]: (削除)
□投稿者/ まめこ -(2002/11/01(Fri) 01:00:03)
    「わたくしはこれでピザンに帰ります。これ以上皆に迷惑をかけられませんから」
    王妃はピザンに帰国することをアルフィンに告げた。
    アルフィンは少しさびしそうな顔をしたが、引き留めることはしなかった。誰よりも王妃の立場を知っているのは彼女であった。
    「アルフィン、なにがあってもジョウの手を離してはいけませんよ・・・」
    最後に王妃はアルフィンの耳元でそう言い、病室を後にした。
    ジョウが王妃を見送るために一緒に出て行こうとした。
    「あー、駄目駄目」
    そんなジョウの前にリッキーが立ち塞がった。
    「見送りは俺らたちが行ってくるから、兄貴はアルフィンの看病、看病」
    「そういう訳にはいかんだろ」
    憮然としてジョウが言う。
    「あら、そういう方がわたくしは嬉しいですわ」
    ジョウ達のやりとりをしっかり聞いていた王妃がにっこりと微笑みながら言った。
    ジョウにはその笑顔が悪魔の微笑みに見えた。
    「じゃ、そーゆーことで」
    「ごゆっくり〜」
    タロスとリッキーは手をひらひらと振り、ニタニタと笑いながら二人並んで王妃の後に続いた。
    「タロス!リッキー!」
    ジョウの叫び声が虚しく廊下にこだました。
    「あいつら、帰ってきたら締め上げてやる」
    そう言いながらアルフィンの方を振り向いた。
    アルフィンは皆が出ていったドア見つめたままだった。コバルトの瞳が潤みを帯びキラキラと光ってる。
    綺麗だ、とジョウは思った。回復したとはいえまだまだ顔色は悪く頬もこけている。爛れのあとも僅かだが残っていた。だがそんなことはまったく気にならなかった。
    怒っていたことなどすっかり忘れて、少しの間ジョウはアルフィンに見惚れた。
    「さみしいか?」
    「・・・うん。少しね」
    そう言い、アルフィンは俯いた。ブランケットの上に置かれた手にポトリと涙がおちた。僅かに肩を震わせてアルフィンは泣いた。ジョウはアルフィンのベットの端に腰を下ろし、包み込むようにその細い肩を抱いた。そしてそっと背中をなぜてやった。アルフィンは少し身をよじらせジョウの胸に顔を押し付けるようにして、静かに涙を流した。

    「ジョウ・・・ひとつ、訊いていい?」
    ひとしきり泣いた後、ジョウの胸に顔をうずめたままアルフィンが訊いた。
    「さっきお母さまになんであたしをミネルバに連れて帰るって言ったの?」
    「あぁ。あれか」
    ジョウは言葉を濁した。そして、諦めたように盛大なため息を一つついてから、ぶっきらぼうに言った。
    「王妃にこっぴどく叱られたんだよ」
    「叱られた?」
    アルフィンは意外な答えに驚きパッと顔をジョウの胸から離した。
    ジョウは照れて頭を掻きながらあの日の王妃とのやりとりをアルフィンに話した。
    「そっか、そんなことがあったんだ。お母さま、怒ると恐いでしょう?」
    「・・・かなり、おっかない」
    二人は声をあげて笑った。
    ジョウはこんなに笑うのはずいぶん久しぶりだということに気付いた。
    そして、笑うのを止めてアルフィンをじっと見つめた。
    「なあに?」
    アルフィンが訊いた。僅かに首を傾げる。
    その何気ない仕草がまた愛らしく、ジョウは少しどぎまぎする。
    「あ、いや。元気になって良かったなって」
    ―本当に良かった
    ジョウはそう思っていた。意識を失っていた時も意識を取り戻してからも、実際こうやって面と向かうまでは、実感が沸かなかった。意識が戻った直後こそ二言三言は言葉を交わしたが、喉の炎症が酷くアルフィンは口を開く度に吐血した。タロスは気を遣ってくれたが、あの時はまともに会話が出来る状況ではなかった。そして、アルフィンからの面会謝絶の申し入れ。今日やっとそれが解け、声を聞くのも久しぶりという状況であった。
    ジョウは笑顔のアルフィンをみて、じわじわと湧き上がってくる喜びをかみしめていた。

    「あたしが元気になったのはジョウのお陰よ」
    真顔でアルフィンが言った。
    「どういうことだい?俺は何もしちゃいない」
    「ううん、ジョウはあたしをここへ連れて帰ってくれた、だから今あたしがこうやってここにいることが出来るの」
    そう言って、アルフィンは少し遠い目をした。
    「あたし、夢をみていたの。どこまでも続く白い世界の夢をずっと・・・
    はじめは私一人だったの。でもそのうちに知ってる人が次々現われて私に声をかけてくれたの。ここへおいでって。みんな待ってるよって」
    「知ってる人?」
    「お祖父さま、お祖母さま、お庭番のトム・・・」
    アルフィンはジョウの知らない名前を幾つかか挙げた。
    「それから、ガンビーノ、ソニア、コワルスキー大佐、ブロディ、プロフェッサーイトウ、ほかにもたくさんいたような気がするわ
    そうそう、ウーラもいたわ。ちょっと恐い顔してたけど」
    肩をすくめ、クスっと笑う。
    「アルフィン、それは・・・」
    ジョウは愕然とした。
    「ええ、そう。みんな死んでいる人達だった」
    硬い声でアルフィンは言った。

    「でも、あのときは全然恐いとか変だとか思わなかったの。あぁ懐かしい人達が私を呼んでる、皆のところに行かなきゃって思ったの。不思議よね」
    「そこっていうのは、そのみんなのところだったんだな」
    ジョウがぽつりと呟くように言った。
    「ジョウ」
    アルフィンの碧眼が驚きで大きく見開かれた。
    「あれは、やっぱり本物のあなただったのね」
    ジョウが頷く。
    摩訶不思議、こんな非現実的な話は普段のジョウにはまったく受け入れられない事だった。しかしジョウは実際にそれを体験していた。アルフィンと夢を共有した、というよりはアルフィンの夢の中にジョウが入り込んでいた。ジョウはあの時アルフィンを抱きしめた。そしてアルフィンはジョウに抱きしめられた。二人にとってそれは紛れも無い<事実>であった。おそらく誰に話しても笑い話にされるだけだろう。だが、そんな事はどうでも良かった。アルフィンがここにいる、それだけが事実だった。
    「ありがとう、ジョウ」
    「礼を言われる事じゃない。俺が傍に居て欲しかったんだ」
    再びジョウはアルフィンの体を抱き寄せた。
    「もう、離さない」
    抱く腕に力をこめる。だが、もうアルフィンは消えたりしない。
    アルフィンの温もりが腕や胸からじわじわとジョウに伝わってきた。アルフィンの生きている証だった。それを確かめるように抱きしめた。
    不意にジョウの胸になにか熱いものが込み上げてきた。

    ジョウの規則正しい鼓動がアルフィンの耳朶を打つ。心地よい響きだった。
    ジョウの腕の中でアルフィンは生きている喜びをかみしめていた。
    ポツ、とアルフィンの頬に何かが当たりそのまま滑り落ちて消えた。
    ―?
    アルフィンが閉じていた目をゆっくりとあけると、一粒の雫が降ってくるのが目に入った。雫はもう1度アルフィンの頬に落ちて滑る。
    アルフィンは体を動かさないように視線だけを上にむけた。そうするとかろうじてジョウの顎が見える。その顎の先が光っていた。一筋の涙がジョウの頬を伝い、顎先で雫となってアルフィンの頬に落ちた。
    ジョウはアルフィンの髪に顔を埋め、声を押し殺し泣いていた。
    アルフィンは何も言わずジョウの背中に腕を回した。そしてさっき自分がしてもらったように優しくその背中をなぜた。
    背中をゆっくりと上下するアルフィンの掌から伝わってくる優しい温かさがジョウの涙腺をさらに刺激した。
    「アルフィン、君を失うのが恐かった」
    やがて涙で掠れた声でジョウが言った。
    「あんな思いをするのは2度とご免だ。アルフィンが苦しむ姿ももう見たくない。だから、これからは俺が守っ」
    「ストップ」
    アルフィンは体を起こし、ジョウの唇に人差し指を押し当てて言葉を遮った。
    「あたし、守られるだけのお姫様なんて、やなの」
    アルフィンの碧眼が強い光を湛え、真っ直ぐジョウに向けられた。
    「あたしはクラッシャーとして一緒に生きていきたいの。
    まだまだ半人前でお荷物だってこと分かってる。
    でも、自分の身は自分で守るわ。
    だから守ってやるなんて言わないで。お願い」
    ジョウはこの言葉に心底驚いた。まさか、アルフィンの口からこんな台詞が出てくるとは思ってもいなかった。
    目の前のアルフィンはもうピザンの王女じゃない、立派なクラッシャーだった。
    嬉しいような寂しいような複雑な思いがジョウの心の中に渦巻いた。部下の成長を知ったチームリーダーとしての嬉しさと、惚れた女に差し伸べた手をはねられた男の寂しさとが入り混じりジョウはちょっとしたパニック状態に陥った。
    少し考え、ジョウはその胸の内を正直にアルフィンに伝えた。
    「アルフィンはもう一人前のクラッシャーだ。半人前なんかじゃない」
    「本当?」
    「本当さ。チームリーダーの俺が言ってるんだぜ、間違い無い」
    アルフィンの顔がパッと明るくなる。
    「だけど、一つだけ」
    アルフィンの両の肩に手を置き、力を込めた。
    「俺がアルフィンを守りたいんだ。だからそんな風に」
    だがまたしても、ジョウは心の内を最後まで伝えることが出来なかった。再びアルフィンがジョウの言葉を遮ったから。自分の唇で。
    「わかった。もう言わないわ。・・・だからジョウも言わないで」
    大胆な態度と言葉とは裏腹にアルフィンの顔は耳の後ろまで真っ赤になっていた。
    ジョウはといえば突然のアルフィンの攻撃に思考回路が停止し硬直していた。ただ体温だけがものすごいスピードで上がっていく。そして熱を逃すかのように口をぱくぱくさせていた。
    「いつか、もっともっと腕を磨いて、私がジョウを守ってあげるわ」
    そんなジョウにはお構いなくアルフィンは追い討ちをかけるように言い、ウィンクした。
    撃沈。
    ジョウの完敗だった。

引用投稿 削除キー/
■275 / inTopicNo.12)  Re[13]: (削除)
□投稿者/ まめこ -(2002/11/01(Fri) 01:00:51)
    ポーン
    インターホンの呼出音が鳴った。
    「回診の時間です」
    絶妙のタイミングでジョウに助けが入った。
    「じゃ、俺はそろそろ行くとするか」
    「えー、もう帰っちゃうの?」
    案の定アルフィンが不満を口にした。
    「急に長い時間人に会うと疲れるだろう?せっかくここまで元気になったのに、それじゃ退院が延びちまう」
    「はーい」
    ぷくっと頬を膨らませながらもアルフィンは了承した。アルフィンにとって退院が延びるということだけは絶対に避けたい事だった。
    ドアがスライドしケペルとナースが入って来た。
    「じゃあな、また明日」
    アルフィンに短く言い、ジョウは立ちあがった。
    「なるべく早くきてね」
    アルフィンが小さい声で催促した。ジョウはアルフィンの頭の上に手を置き、子供にするようにぽんぽんと軽くたたいた。
    ケペルに軽く会釈をしてジョウはドアに向かった。
    ドアの手前で1度を振り返ると、アルフィンが小さく手を振っていた。
    ジョウは親指を立ててそれに答えた。
    ―お転婆で我侭で気が強くて
    ジョウの脳裏に王妃の言葉が浮かんだ。
    「おまけに言い出したらきかない、か」
    ジョウは一人ごちた。
    ―だけど、そこがまた可愛い・・・んだろうな

    病室をでると廊下のスツールにタロスとリッキーが座っていた。
    二人とも口の端が僅かに上がり、目じりがだらしなく緩んでいる。ジョウの赤い顔をみてなにごとか想像しているようだった。
    目が合った。
    ジョウは気恥ずかしさから思わず目をそらしてしまった。なんとなくばつが悪い。
    だがそこでふとジョウは自分が怒っていたことを思い出した。
    急激に体温が下がり、顔色が平常のそれへ戻る。
    目が据わり、スッと細くなった。
    「さっきはずいぶんとシャレたマネをしてくれたじゃねぇか」
    ゆっくりと視線を二人に戻し、上から冷たく言い放った。
    へらへらと笑っていた二人の顔から一瞬で笑みが消え、冷え固まった。
    「ヤベェ、本気だぜ」
    「ちょっと調子に乗りすぎた、かな・・・」
    「そのようだ」
    「なにごちゃごちゃ言ってる」
    パン、と右の拳を左の掌にジョウは打ちつけた。ジョウが戦闘態勢に入った。
    「なぁ、タロス。こーゆーときは」
    「逃げるが勝ちだ!ずらかるぞリッキー」
    「ほいきた」
    二人同時に立ちあがりくるっと背を向け、脱兎のごとく走り出した。
    こういうときの二人のコンビネーションは絶妙だ。ジョウは1歩出遅れた。
    「おい、待て。コラッ廊下を走るなッ!」
    ジョウが叫びながら後を追う。
    「そーゆー兄貴だって走ってるじゃないか」
    走りながらリッキーが返す。
    「うるさい」
    3人はどたどたと病院内を走った。遠くの方でナースが怒り叫んでいるのが聞こえたが、無視した。
    病院の正面玄関を出たところでジョウはリッキーに飛びかかった。
    「こんちくしょう」
    下半身めがけてタックルした。リッキーは堪らずバランスを崩し倒れる。だがタダでは転ばない。しっかりタロスの左足を掴んでいた。タロスは二人分の重さで左足を引っ張られた。さすがのタロスもこれには耐えられずもんどりうった。
    3人はもつれ合うようにゴロゴロと転んだ。
    回転が止まった。誰からともなく笑いが漏れた。大爆笑になる。
    周囲の白い目が3人に向けられたが、気にせずに笑った。

    「さあ、ミネルバに帰るぞ」
    笑いが収まると、ジョウはタロスとリッキーにそう言いさっさと駐車場に向かって歩き始めた。
    その後ろ姿を見ながらタロスとリッキーは同じことを考えていた。
    ―いつものジョウじゃない
    普段ならジョウはあんなおふざけなどしない。リッキーとタロスを諌めることはあっても参加はしない。どこか変だ。二人は顔を見合わせた。
    「なんか、あったな」
    「なんか、あったよ。絶対」
    ニタリ、と二人の顔がまた歪んだ。
    だが、もうジョウに絡んだりはしなかった。
    「ま、とにかくアルフィンも元気になったし、チームリーダーもご機嫌だし」
    「一件落着てぇことだな」

    「おい、なにしてる。早くしろ」
    先に行くジョウが立ち止まり、タロスとリッキーを振り返り叫んでいた。
    「さ、いくぞ」
    タロスがリッキーの背中を叩き走り出した。リッキーもあとに続く。
    二人は直ぐにジョウに追いつき、そして三人は歩き始めた。
    クラッシャージョウチームが本来の姿に戻りつつあった。

    <おしまい>

引用投稿 削除キー/
■276 / inTopicNo.13)  Re[14]: (削除)
□投稿者/ まめこ -(2002/11/01(Fri) 01:17:01)
    なんだか最後のほうでいっぱい間違えてしまいました(滝汗)
    削除だらけで読みにくくてスミマセン。

    なんとか終わる事が出来ました。
    最後の最後までJさん情けなさ男のままですけど。
    あ、石投げないで下さい。。。

    >最後までお付き合いいただいた方
    本当にありがとうございました。


fin.
引用投稿 削除キー/



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