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■244 / inTopicNo.1)  Deep
  
□投稿者/ ぴぃすけ -(2002/10/20(Sun) 12:28:52)
http://www5d.biglobe.ne.jp/~precious/marutto.htm
    ミネルバは、白い雲の合間を優雅に飛行していた。
    もっとも、そのクルーズもあと僅か。
    3分後には、トリアノン宇宙港へと降り立つ予定である。

    「う〜、わくわくするなぁ」

    メインビジョンを眺めながら、リッキーが弾んだ声を出した。

    「このチビ!降下準備の一つでもしてみろってんだ!ったく久々の休暇だからって、すっかり浮かれちまって。」

    操縦桿を握りながら、タロスが毒づく。
    だが、その口元には笑みがこぼれている。

    「珍しいわよね。ウェザーコントロールのされていない惑星だなんて。こんなにたくさんの雲、滅多に見ないわよね」

    アルフィンがジョウの背中に話しかける。

    「そうだな・・・」

    言葉少なく頷くと、すっと目を細める。
    不意に飛び込んできた、海の蒼が眩しかった。




    1時間後。
    奇跡のような速さで一切の手続きを終えた4人は、深紅のオープンカーでハイウェイを疾走していた。目指すは、豪華客船レイディ・クリスタル。トリアノン宇宙港から少し離れた場所に停泊しているその船は、たっぷり10日間かけて付近の島々を巡る。気が向いた乗客は島で降りて観光をしたり、何もせずにただただ美しい海を眺めたり、またはプールやカジノで遊ぶことも出来る。

    たっぷり時間をかけた、何にも増して優雅で贅沢な旅。

    「古典的(クラシカル)な船旅っていうのもいいものよ」

    面白くなさそうだ、という不満の表情を浮かべた3人を、アルフィンが必死に説得した。

    「ただひたすら、寝て、食べて、泳いで、遊ぶのよ」

    そこで3人は、ハタ、と気づいた。
    彼女の台詞に”買物”の2文字が無い。
    良く考えればわかることだ。
    場所は豪華といっても飽くまで客船の中だ。
    店があったとしても、その数には限りが有る。

    ジョウはもとより、荷物持ちの名目でいつも休暇の数日をアルフィンのショッピングにつきあわされて潰されるタロスとリッキーは、すぐに承知した。

    かくして。

    4人はこうして、ここにやって来た。

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■245 / inTopicNo.2)  Re[1]: Deep Blue
□投稿者/ ぴぃすけ -(2002/10/20(Sun) 12:31:01)
http://www5d.biglobe.ne.jp/~precious/marutto.htm
    「でもさ・・・アルフィン、どうして急に思い立ったんだよ?」
    「そういえばそうだな。なんで豪華客船なんだ?」

    リッキーとジョウの言葉にアルフィンはフフ、と微笑んだ。

    「ニュースパックで偶然取り上げていたの。そしたらなんだか、あ、いいなぁ、って思って」
    「ふぅん」

    鼻を鳴らしたリッキーは、急ブレーキでつんのめる。

    「ちょっ!バカタロス!!何すんだよ、イキナリ!」
    「ここで車を降りることになってるんだ。おめぇが降りたくないってんだったら別に構わねぇ。置いてくだけだが」
    「わーっ、わかりましたよっ。ったく・・・」

    4人はパーキングにレンタカーを停めると、タラップへと向かう。
    魅力的な笑顔を振り撒く女性乗務員を見て、アルフィンの表情が些か険しくなった。

    「ジョウ。あの女性(ひと)達に誘惑なんてされてみなさい。ただじゃおかないわよ」
    「何だよ、それ・・・」

    ジョウは憮然とした。
    別に女性乗務員とどうの、などとは思っていないし、誘惑されるつもりもないのに、そんなことを言われるなどとは心外だ。

    第一、どうしてそんなことまで指示されなくてはいけないのか。
    別に自分はアルフィンとつきあっているというわけでは・・・ない。
    そう・・・つきあっては・・・いない。
    だが、只のチーム員というわけでも、ない。
    なんとも中途半端な関係だった。

    「なぁ、アルフィン」

    言ってからジョウはハッとした。
    自分は何を言おうとしたのだろう。

    「なぁに?」

    振り向いたアルフィンは笑顔だった。
    さらさらの長い髪が風に靡く。
    それを押さえる腕の白さに、ジョウはドキリとする。

    「いや・・・あの」
    「あっ」

    急にアルフィンが大声を上げた。
    視線の先には、誰よりも丁寧にお辞儀をしている制服姿の男が居た。

    帽子と胸のバッジとワッペンで格がわかる。
    船長(キャプテン)だ。

    「ルーク!!」

    踊りだすように、アルフィンが走り出す。
    名前を呼ばれた男が、びっくりして顔を上げる。

    そして、アルフィンの姿をみとめ、瞳を大きく見開いた。

    「アルフィン・・・!」

    蒼の瞳。
    海よりも深い色が、きらきらと輝いた。

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■247 / inTopicNo.3)  Re[2]: Deep Blue
□投稿者/ ぴぃすけ -(2002/10/21(Mon) 23:29:47)
http://www5d.biglobe.ne.jp/~precious/marutto.htm
    「何だったんだ、アレ」

    リッキーはソファに身体を投げ出すと、ぽつり、と呟いた。
    先ほどの光景が頭をよぎる。

    アルフィンは、我を忘れて船長に駆け寄るやいなや、抱きついた。
    柔らかく身体を離され、己の状況に気づき真っ赤になり、何度も詫びた。
    リッキーも、タロスも、そしてジョウも、呆然とその状況を見ていた。

    「さぁな。厄介なことにならなければいいが・・・」

    タロスは他人事のように肩をすくめた。



    「あら、あんたたち、何をやってるの」

    早速着替えたアルフィンが、奥の部屋からやってきた。
    4人の泊まる部屋はSクラスのスウィートルームである。
    リビングが一つに部屋が4つ。
    独立性を保ちつつ、リビングで集まることもできるように、各部屋にはドアが二つあった。どうやらアルフィンは、二人がいつまでもリビングでうだうだしているに違いないと考え、やってきたらしい。

    「何・・・って、くつろいでいるんだよ。まだ乗船して1時間経ってないんだよ?」

    面倒くさそうに答えながらも、リッキーはアルフィンの姿に素早く目を走らせた。


    急ごしらえでアップにした髪は、かえって後れ毛が良い雰囲気だ。
    唇はリップで艶やかだが、紅潮した頬は可憐で、そのアンバランスな取り合わせが魅力的である。ほっそりとした肩を出したドレス姿は、さすがに元王女だけに様になっている。

    「ふぅ〜・・・なんか調子狂うよなぁ」
    「なぁに?何か言った?」
    「あっ、いや、その、おいら着替えてくるよ!」
    「もう、早くしてよ。あと30分で晩餐会が始まるんだから」
    「ば、晩餐会・・・気が重い・・・」
    「リッキー!」
    「はいはいはいはい」

    慌ててリッキーは自室へと向かう。
    いつの間にやら、タロスはちゃっかり消えている。
    と、斜向かいの部屋から、憮然とした表情のジョウが出てくるのが見えた。

    目が合う。

    「・・・堅苦しいのは苦手だ。」

    苦笑している。
    それはそうだろう。アルフィンもいつもだったら、面倒な晩餐会など適当に流して、気ままに自分たちで楽しもう、と言うはずだ。なのに、さっきのアルフィンときたら、どう見ても浮かれていた。

    「初日の晩餐会って主催はさっきのアノ船長だよね・・・だからあんなにはしゃいでたのかなぁ、アルフィン・・・」

    言いかけてリッキーはハッとする。

    「あ、あっ、兄貴、その格好、良く似合っているよ、オイラも急いで着替えなくちゃっ」

    すごすごとリッキーが自室に逃げ込む。
    ジョウの目は笑っていなかった。


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■248 / inTopicNo.4)  Re[3]: Deep Blue
□投稿者/ ぴぃすけ -(2002/10/22(Tue) 10:25:27)
http://www5d.biglobe.ne.jp/~precious/marutto.htm
    案内されたテーブルは、最高の位置にあった。
    当然だ。
    4人は最高級ルームの客である。

    給仕の態度も一段と恭しいのは気のせいか。
    もっとも彼らの正体がクラッシャーだと知ったら、腰を抜かして驚くに違いない。
    まだまだクラッシャーのイメージは、宇宙のエリートではなく、ならず者と思っている者が多いからだ。

    はた、とオーケストラの生演奏が止む。
    灯りが一段と明るくなった。

    「・・・それでは、ここで、船長のルーク・カプウォスキーからご挨拶をさせていただきます」

    ジョウは、アルフィンをちらりと見た。
    微笑みを浮かべながら、アルフィンは登場したばかりの人物に視線を注いでいた。

    (・・・・・・)

    ジョウはシャンパンをぐいっと飲み干した。
    船長の挨拶中に、しかもこの類の酒を一気のみするなど、言語道断だ。
    それを知った上での、暴挙である。

    ”ちょっと”

    気づいたアルフィンが、小声で鋭く制した。
    視線も冷たい。

    ジョウの気分は、最悪だった。


引用投稿 削除キー/
■249 / inTopicNo.5)  Re[4]: Deep Blue
□投稿者/ ぴぃすけ -(2002/10/22(Tue) 23:37:00)
http://www5d.biglobe.ne.jp/~precious/marutto.htm
    ひとしきり船長の挨拶が終わった後、食事が始まった。
    これから先は、立食スタイルも増えるが、今日のところは着席だ。
    船長がテーブルを回り、乗客一人一人に挨拶をする為である。

    「皆様、お食事のお味はいかがですか」

    柔らかな微笑みを浮かべながら、ルークは近づいてきた。

    「お、美味しくいただいてます・・・」

    妙な汗をかきながら、リッキーがひきつった笑顔で応えた。
    タロスは”いけるぜ”という表情を見せ、ジョウは無言のままだ。
    アルフィンはと言えば、何かを話しあぐねている。

    「・・・あの、ルーク・・・」
    「久しぶりだね、アルフィン」

    客に対してではなく、旧友に見せるような暖かい表情をルークが見せた。

    「本当に・・・何年ぶりかしら」
    「もう・・・10年になるかな。良く私だとわかったね」
    「当たり前だわ。忘れるわけないじゃない」

    タロスとリッキーはそっと目配せした。
    何か、嫌な予感がする。
    いつもはいがみあっているが、コンビネーションは最高の二人である。
    考えていることはおそらく同じだ。

    ジョウの様子をそっと窺う。
    無表情だ。何を考えているのか、探ることは難しい。


    「あ、みんなに言っておかないとね」

    アルフィンの弾んだ声がした。

    「ルークはピザン出身なの。国王候補の一人でもあったのよ。だけど或る日突然、ピザンを出て行くって言うからびっくりしたわ。」
    「ああ、あの時は陛下を始め、皆さんに迷惑をかけてしまって・・・申し訳なかった。でも僕にはどうしてもやりたいことがあってね」
    「海洋学の研究ね。でもそれがどうして豪華客船の船長なんてやっているの?」
    「うん・・・まぁ・・・その、いろいろあってね」

    ルークの歯切れはいまいち悪い。

    「・・・そう。でも、ま、いいわ。とりあえず乾杯しましょう。再会を祝して」

    アルフィンがグラスを持ち上げて、言う。
    ルークに再び笑顔が戻った。

    「・・・アルフィン。あまり飲み過ぎないようにね。君には悪酔いの素質がある。いつだったか、覚えているかい?小さい頃、ジュースと間違えて飲んでしまった果実酒にしたたかに酔って、宮殿の建物の一部を壊したことがあっただろう?」
    「やっ・・・何言うのよっ」

    真っ赤になったアルフィンがルークに抗議する。
    ジョウはふと、ピザンの事件の時に、宮殿の壁の一部が壊れていたことを思い出した。
    あれは・・・

    あの時、アルフィンが理由を言いたがらなかったのは、もしかして・・・


    ジョウは益々もやもやとした気分になった。

引用投稿 削除キー/
■279 / inTopicNo.6)  Re[5]: Deep Blue
□投稿者/ ぴぃすけ -(2002/11/04(Mon) 19:49:33)
http://www5d.biglobe.ne.jp/~precious/marutto.htm
    「・・・はぁ・・・さすがだね。国王候補かぁ・・・納得だ」

    ルークが挨拶を終えて去っていったのを見届けると、リッキーは溜息をついた。
    どこぞの誰かは、その選考試験に早々に落ちたらしいが、あのルークという男は、最終候補にまで残ったらしい。数十に渡る各種審査を通っただけのことはある。
    柔らかさも持ちながら、不思議と人を惹き付けるような強いカリスマ性も感じさせる。
    一国と比べるべくもないが、それでもこの船という一つのコミュニティのトップに君臨するに相応しい人物のように見受けられた。

    「でしょ、でしょ」

    自分のことを褒められたかのように、アルフィンははしゃぐ。
    こんなアルフィンを見るのは、3人にとっても初めてだった。

    「積もる話もあるだろう。もし良かったら、もう少し話してきたらどうだ?」

    ジョウがまるで気にしていないかのように、さりげなく言った。
    アルフィンはにこやかにそれを否定する。

    「あら、だめよ。船長(キャプテン)は忙しいもの。一定のゲストにかまけていちゃいけないのよ」
    「その割には随分時間をたっぷりかけていたように見えたが?」

    ジョウは皮肉めいた笑みを浮かべながら、右手を挙げて給仕を呼んだ。

    「・・・何よ、それ」
    「すまない。ブランデーを頼む」

    顔色を変えたアルフィンを無視して、ジョウは飲み物を注文する。

    「ちょっと・・・ジョウ!」
    「なんだ」

    面倒臭そうに顔をしかめるジョウに、アルフィンは挑戦するかのごとく、つんと顎を突き出す。

    「・・・ひょっとして、ヤキモチやいてるの?」
    「誰が」

    (た、タロス・・・おいら・・・怖い・・・)
    (リッキー・・・いいな・・・さりげなく・・・さりげなくここを出るんだ・・・)

    「あっ、ト、トイレ行きたくなっちゃったなっ」

    素っ頓狂な声をあげ、リッキーがぎくしゃくと立った。

    「でも、トイレ、どこだっけ・・・た、タロス知ってる?」
    「確か向こうに・・・仕方ないな・・・案内してやろう」
    「恩にきるぜっ」

    二人はあたふたと扉の向こうに消えていく。
    テーブルに残された二人を振り向こうともせずに。

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■280 / inTopicNo.7)  Re[6]: Deep Blue
□投稿者/ ぴぃすけ -(2002/11/04(Mon) 19:50:03)
http://www5d.biglobe.ne.jp/~precious/marutto.htm
    「・・・ジョウ?ジョウってば」
    「美味いな、これ・・・」

    ジョウはフォークを口に運んだ。
    嘘ではない。
    オードブルですら、このクオリティ。
    さすがに豪華客船のディナーだけのことはある。
    ついでに、ワインも流し込む。
    キンキンに冷えた白だ。
    しかも上質。
    だが、ゆっくりと味わう気はしなかった。
    心の奥底のもやもやを消すかのごとく、ジョウは一気に3杯、流し込んだ。

    一方。
    アルフィンはアルフィンで、思うところがあった。
    ジョウのこの態度の真意・・・それによっては、彼女の積年の思いが報われるかもしれないのだ。食い下がらねば、女が廃る。何としてでもジョウの気持ちを確かめたい、そんな娘らしい欲望がむくむくと頭をもたげた。

    先ほどのルークの忠告もどこへやら、グラスを掴むと、やおらあおる。
    白い喉がごくり、と鳴る。
    ジョウほどではないにしろ、その場には相応しからぬ飲み方ではない。
    だが生まれ育ちの良さは、そんな仕草すら優雅に見せてしまう。

    それがまた、ジョウには気に入らなかった。



    アルフィンの白い肌がほんわりと桜色に染まった。
    景気付けの一杯に勇気を得て、彼女は口を開いた。

    「ジョウ・・・ねぇ、ルークと私のことなんだけど・・・もし気にしているのだったら」
    「関係ない」
    「え?」
    「アルフィンが誰のことを好きだろうが、誰とつきあおうが、俺には一切関係ないから」

    ジョウはキッパリと言い切った。
    アルフィンの顔色がみるみる変わる。
    淡く火照った肌の温度も、急激に下がる。

    「関係ないって・・・・・・ちょっと・・・」
    「あ、まったくないわけじゃないか。チームだし。チームリーダーとしては、チーム員の私生活には関与しすぎてはいけないが、無視するわけにも・・・」
    「・・・なによ、それ」

    アルフィンの声が、ぐっと低くなった。
    普段のジョウであれば、彼女をここまで怒らせることは無い。

    だが、自分でも良くわからない焦燥感と、急激なアルコールの摂取。
    豪華客船というクラッシャーの自分には似つかわしくない場所とその雰囲気。
    様々な要因があわさり、ぐるぐると彼の思考回路を掻き乱す。

    「あのルークって男、俺からみてもいい奴そうだぜ?容姿端麗、おまけに国王候補になるほどの才覚の持ち主なんだろ?それにアルフィンに接する態度も良識ある大人って気がする。アルフィンもあの男を随分と慕っているようだし・・・そうだな、結構お似合いとも言えるのか・・・」
    「ジョウ!」

    アルフィンは立ち上がった。
    唇がふるふると震えていた。

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