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■252 / inTopicNo.1)  クロック・タワー
  
□投稿者/ まぁじ -(2002/10/28(Mon) 10:17:26)
    <まえがき>

    今回は、どちらかというとタロスとリッキーがメインです。
    ただ当初、タロスのおやじ心理が分からず、かなり四苦八苦しました。
    これは駄目かと思いきや、タロスをおやじではなく「男」として意識すると
    あれよ、あれよと、話が進みました。
    なるほど・・・タロスはおやじじゃないのねと、原作者の深い策略にはまって
    しまいました。
    対する例のお二人さんは、そこはかとなく、お楽しみしてもらってます。
    では修正しつつアップします。よろしければおつきあいくださいませ。

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■253 / inTopicNo.2)  Re[1]: クロック・タワー
□投稿者/ まぁじ -(2002/10/28(Mon) 10:18:01)
    「……む……う」
     船室のベッドに腰掛け、タロスは胸を押さえ脂汗を浮かべている。ここ数日不整脈が出ていた。しかしこんな痛みめいたものは、初めてである。
     全身の8割をサイボーグ化したとはいえ、主要な内臓は自前のままだ。齢52才、あちこちにガタが来たとしてもおかしくはない。なにせ過酷なクラッシャー生活。同期の仲間の多くは50代を境に引退し、アラミスで農耕民族として第二の人生を送っている。
     そういう年齢だった。
    「……ふう」
     ようやく痛みが引いていく。タロスは額の汗を拳で拭った。
    「……ったく冗談じゃねえ」
     そう己の身体に叱咤した。
     タロスはクラッシャーとして、まだまだ最前線に身を投じていたい。そしてジョウの補佐役という大任もある。かつてのチームリーダー、そして現クラッシャー評議会議長、ダンの一粒種を預かっているだけに。
     すでに特Aクラスの評価を受けたジョウではある。しかしまだ若い。その若さが功を奏することもあれば、仇となることも。ダンという凄腕クラッシャーが現場から退いて9年、ジョウがその後釜を埋められるまで、タロスには責任があるのだ。
     だがタロス自身、内心それはそう遠い日ではない気はしていた。
     すると船室にインターコムのチャイムが響いた。すぐに出る。アルフィンだった。
    「タロス、そろそろルベンスに降りるわ」
    「……お、グッドタイミングだ」
     わし座宙域、恒星タンザスの第六惑星、双生惑星ルベンス。ラ・ルベンス、レ・ルベンスと、二つの惑星で均衡が保たれている。ラ・ルベンスは、次のクライアントがいる惑星だ。
     惑星外縁に入った頃、タロスは胸の痛みを察し衛星軌道上まで、休憩に船室へと戻った。ジョウ達には明かしていない。野暮用と偽って、一人で痛みを癒していた。
     ベッドから立ち上がると、タロスは軽く上体のストレッチをする。胸の痛みは完全に消えた。この任務が終わったら、一度メディカルチェックを受けることも心に決める。
    「ねえ、何かあったの?」
     アルフィンが訊く。
     タロスが移動中に中座することは珍しいからだ。
    「いえね、バードに急ぎで送るメッセージがあったんで。うっかりしてたんでさあ。さんざ催促をくらってたんで、仕事前に片しとかねえと」
    「ああ、そういうこと」
    「じゃ、行きますかい」
    「待ってるわ」
     通信が切れた。
     そしてタロスはいつも通り、悠然とした歩調でブリッジへと向かう。

     大気圏を突入し、<ミネルバ>は降下しながら着陸地点を目指す。ラ・ルベンス最大の陸地にある、キャラウェイ・シティだ。普段は宇宙港へ降り立つものだが、今回はクライアント私有のエアポートへ直行。入国審査もそれでパスしている。
     なにせクライアントが銀河系十指に入る、パブフロード家。スコーラン家と同格の名門である。その当主直々からの依頼だった。
     しかも飛び込みでの依頼。クラッシャー評議会本部からの特令だった。
    「着いたらすぐ打ち合わせだ」
     ジョウが主操縦席から、副操縦席に移る際、タロスに伝える。
    「ちゃんとデータが集まったんでしょうかねえ」
     主操縦席に戻るや否や、タロスは皮肉ってみせた。
    「パブフロード家の緊急事態だからな。ぬかりはないだろう」
    「じゃねえと、こっちも動きに無駄が出る」
     大まかな依頼内容は本部から届いていた。人命救助。しかも20時間以内という制限つきだ。
     パブフロード家で一大事が発生。当主の孫に当たる12才の少年が重病を患った。体力面そして病原菌を消滅できる期間から算出し、もうすでに猶予は少ない。
     少年が患っている病名は、キューリック血死病と言った。血液が生成されなくなる病気。現在は、人工血液によって少年は生きながらえている。
     少年は当主の孫に当たるが、当主の子、つまり少年の父親は事故で他界している。よって少年には次期当主の座が準備されていた。二代続けて跡継ぎが危うくなる。安泰と言われ続けてきた名門パブフロード家は、ここ数年、危機に見舞われていることになる。
     発症したのはラ・ルベンス時間で4日前。突発性の病だった。過去の研究から治療薬はあるのだが、少年の場合、キューリック病原菌は進化を遂げていた。新たに治療薬をつくる必要がある。治療薬製造までの3時間を除き、許された猶予は20時間。その間に治療薬の素を入手しなければならない。
     病原菌を調査した結果、現時点で最も有効とされる素材がプロリスという物質。これはベラという昆虫が、樹液や花粉などの餌を元に、唾液で練り上げたもの。プロリスはベラの幼虫の栄養源でもあった。しかも雄雌どちらもプロリスを生成でき、雄はプラス性質、雌はマイナス性質を持つ。
     このブレンド具合によって、少年に最適な治療薬が生成される。だがプロリスは隔離されると、鮮度が3時間と持たない。薬の完成度を考えると、採取し迅速な運搬が最も大きな鍵となる。
     そして。
     ベラという昆虫はジョウ達は初めて耳にする。ギャラクティカ・ネットワークで検索をかけても、得意なアルフィンでさえなかなかヒットできずにいた。よほどの稀少昆虫であることだけは、判明したが。
    「ベラってさ、蜂みたいなもんをイメージするな、俺ら」
     動力コントロールのボックスシートで、リッキーが問いかける。
    「あたしは蟻の方がいいわ。だって、飛んでくるって考えただけで怖いもん」
    「クラッシャーが蟻退治かい? だっせえなあそれって」
    「なら蜂も同じでしょ」
     リッキーもアルフィンも、勝手な想像を膨らませている。昆虫というのがネックにあるらしい。予め覚悟を決める意味でも、二人にとっては必要な会話ではあった。
    「……それで。情報はヒットしたのか、アルフィン」
     ジョウの抑揚のない口調。これは暗に、つまらん無駄話は止めろ、ということだ。リッキーとアルフィンは顔を見合わせ、肩をそびやかす。
     そしてアルフィンはまた検索をかけた。つい指が滑りミスタイプをしたのだが、気づかなかった。だがそれが運を引き寄せる。
    「……あ!」
    「引いたか」
     ジョウは耳だけアルフィンに傾けた。
    「ひっかからなかった訳だわ。……正式名はレ・ベラ。この昆虫、レ・ルベンスだけに生息するみたい」
    「他の情報は」
    「いま送るわ」
     アルフィンはメインスクリーンを分割した画面に、ベラの情報を映し出した。
    「なんだあ?」
     その映像に、リッキーから頓狂な声が上がった。蛾を思わせる形を成し、羽には蛇の目玉のような模様がある。雄雌の2体が表示された。色は保護色に統一され、見て気持ちのいいものではない。
     スクリーンに文字が走り、タロスがそれを読み上げる。
    「全長50センチ、羽を広げると左右100センチ。その鱗粉を吸い込むと、3、4日高熱は出るものの、後遺症はなし……か。どのみち、モスラよりは小物ですぜ」
     そしてジョウも言を継ぐ。
    「一般公開データが随分と少ないな。……しかもぱっと見、雌雄の判別がつけにくい」
    「昆虫採集みたいだなあ、今回の仕事。俺らピリっと来ないや」
     リッキーが口を挟んだ。
    「よく言うわ。さっきまでちょっと怖がってたくせに」
     アルフィンは追い打ちをかけると、空間表示立体スクリーンに視線を移す。そしてパブフロード家の私有エアポートまで、あと僅かであることを報告した。


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■254 / inTopicNo.3)  Re[2]: クロック・タワー
□投稿者/ まぁじ -(2002/10/28(Mon) 10:18:40)
     水平型飛行の<ミネルバ>だが、宇宙港より狭い、私有エアポートである。VTOLのごとく垂直着陸で降り立った。するとすぐに、スーツ姿の男が一人駆け寄ってくる。角張った面もちで、誠実さが滲み出ていた。当主の筆頭秘書で、メサドゥと名乗った。
     メサドゥの案内により、クラッシャー4人はエアカーで、エアポート外れにあるクラブハウスに案内される。その一室に脚を踏み入れると、巨大スクリーンが掲げられた広間に出た。
    「待ちかねたぞ……クラッシャージョウ」
     背もたれが高い、豪華なチェアから老人がそろりと立ち上がった。恐らく90才は越えている。頭髪はなく、顎から腹部に届く白髭。深紅のマントのような服を纏っている。顔には深い皺と、老人性紫斑。当主のシニア・パブフロードであることは明らかだった。
    「挨拶は後回しだ。端的に情報を貰えるかい」
     ジョウは、高齢のシニア・パブフロードに手振りで着席を促した。メサドゥからチェアを勧められたが、4人は着席せず、立ったまま話を聞くことにする。
    「よかろう……。現在、繁殖が確認されているベラの巣は、ここだけじゃ」
     広間に暗幕が広がった。闇に包まれたかと思うと、スクリーンに光が投じられる。鬱そうと茂る森の中に、全く人の手が入っていない建物らしき映像が現れた。
    「時計塔……ですかい」
     タロスが探るような口調で呟く。
    「いかにも。……レ・ルベンスを人が住める星へと開拓する、その記念として最初に建てたものじゃ」
     レ・ルベンスの時が刻み始めることを、象徴しての建築物。中心に時計塔を挟み、両脇には横広がりの屋敷が連結している。時計塔はかなりの高さを誇っていた。木々よりも頂部が抜きんでている。
    「時計塔全体がベラの巣。そういうことか」
     ジョウは、シニア・パブフロードに確認する。
    「そうじゃ。但し、全てを漁れという訳ではない。学者の話では、プロリスは産卵室に集められておるそうじゃ」
    「だけどさ……」
     リッキーが会話に割り込む。
    「俺ら達を雇うってことは、ただの巣じゃないんだろ?」
     シニア・パブフロードの目が、ふっと和らいだ。リッキーは15才だが、小柄ゆえに12、3才にも見える。脳裏に、病院のベッドに縛り付けられた孫でも彷彿させたのだろうか。
     ジョウ達にはそう伝わった。
    「すでに、わしの部下達が採取に向かった。しかし生き帰った者は一人。手ぶらでな。ベラの妨害に遭い、今もまだ入院しておる」
     リッキーの表情が固まり、言葉が続かない。単なる昆虫採集という訳にはいかなそうだ。
     ジョウが会話を引き継ぐ。
    「クラッシャーに危険はつきもんだからな。百も承知さ。だが闇雲には動けない。なにせ時間が時間なんでね」
     ジョウは軽く肩をそびやかしてみせる。
    「産卵室、そして雌雄の見分け方も教えて欲しい」

     シニア・パブフロードは頷いた。
    「学者の話によると、恐らく産卵室は両脇の屋敷内。あまり高度がある場所には産卵できんそうでな。時計塔はありえんということだ。そして雌雄の見分け方は、プロリスの色じゃ。雄は暗緑色で、雌は黄金色と聞く」
    「……で、プロリスってのはどんな形状なんだ」
    「液状らしい。ゲル状の」
     ジョウは指先を顎に当て、ベラの情報を反芻する。
    「ベラの妨害の様子は」
    「……それは分からん」
    「分からない?」
    「生き残った者は意識不明のまま。そのうえ学者の研究では、ベラをとてもデリケートに扱った。ストレスは寿命を縮ませる要素だからのう。危険と思われる調査は回避しおった」
    「……情報が少し曖昧だな。出たとこ勝負、ってとこか」
     そしてシニア・パブフロードは、両肩をよりしょげ降ろして話を続ける。
    「こんな事態でなければ、誰とてベラには関わりたくなかろ。何の因果か、ベラがレ・ルベンスに寄生し、おかげで開拓も中断となった。一昔前は、ベラ退治で多くの犠牲を払ったものじゃ」
     床に落とされたシニア・パブフロードの視線は、回想された過去を見つめていた。
    「その時捕獲した雌雄の成虫を調査した。今の話はそのデータじゃ。だが生態は解明できても、根絶やしにする方法までは見つけられん。なにせ一対しか捕獲できんじゃった。殺すような真似もできん。繁殖も試みたが、孵化は失敗に終わった。やがて、研究も途絶えた。ベラの寿命が尽きてのう……」
     シニア・パブフロードの隣で、メサドゥは何度も大きく頷く。
    「手土産にひとつ……と言いたいが、ちょっと大きさが厄介だ」
     ジョウはさりげなく切り出す。全長50センチでは、小脇に抱えては邪魔だ。今回の任務はスピードが重要視される。できる限り、動きは身軽にしておきたい。
    「プロリスが最優先じゃ」
    「オッケイ」
     ジョウの頭脳が、作戦を立て始めた。いかに早くいかに確実に、プロリスを採取すればいいか。そこでひとつ断りを入れることにする。クラッシャーのやり方は、荒っぽさが前提にあるからだ。
    「ちなみに、時計塔は指定文化財かい?」
     ジョウの言葉に、シニア・パブフロードは即答しなかった。
     面倒な注文がつきそうな予感。
     4人はそれを嗅ぎ取っていた。
    「……条件をつけたい」
     やっぱりな。ジョウは胸の中で呟いた。しかしながら、どんなに困難な依頼であっても遂行しなければ。それがクラッシャーの使命である。
    「いいだろう」
     ジョウは両の腕を組んだ。
    「何の役にも立っておらん時計塔だが、わしの先代がレ・ルベンス開拓の誓いとして建てたものだ。この先いつ開拓できるか分からんが、誓いの証だけは代々引き継いでゆきたい。全壊は回避して欲しいのじゃ」
    「多少は?」
    「……多少であればな」
     多少の被害のとらえ方は、きっとジョウとシニア・パブフロードでは大きな誤差がある。ジョウとしては、かすり傷程度と解釈しておかなければならない。
    「他には」
     さらにジョウは促す。さっさと聞き入れて、次の行動に移りたいからだ。
    「……ベラの幼虫と卵だけは、生かしておきたい」
     その発言に、アルフィンが疑問を投げかける。
    「ベラは寄生虫なんでしょ? 一掃できなくても、減らせるチャンスよ」
     シニア・パブフロードは、苦虫を噛んだように顔を歪める。
    「寄生虫であることには変わらん。しかしじゃ、進化系キューリック血死病の治療薬の元になることが分かったからのう。孫以外に今後、発症例が出た場合も考慮せねば……」
    「確かに」
     ジョウは二三度、頷く。
    「条件はそれだけかい」
    「世話をかける……」
     シニア・パブフロードが、ようやくその頭を垂れた。名門の当主が、深々と。こうまでされるとは思わずジョウは内心慌てた。
    「いや、何もそこまでは……」
     それに依頼に細かな注文はよくあること。特別なことではない。
    「礼には及びませんぜ、シニア。どうか頭を上げてくだせえ」
     タロスの言葉に、ジョウも大いに頷いた。
     ようやくシニア・パブフロードが面もちを上げた。老い先がそう長くはない身の上で、心を痛める出来事に相次いで見舞われている。その力になれるのなら。
     一刻も早く現場に向かうべきだとジョウは判断する。
    「……じゃ、行くとするか」
     ジョウは背後に並ぶ3人に声をかける。タロス、アルフィン、リッキーが同時に頷いた。
     あまりにも呆気なく実行へと移す。
     その即断即決ぶりに、メサドゥが慌てて引き留める。
    「あ、あの、データは」
    「俺の船に送ってくれ。レ・ルベンスまで1時間はかかる。その間に作戦を立てる」
    「は、はあ……」
     シニア・パブフロードの部下が時計塔に乗り込む際、丸一日、作戦会議に要した。もちろん今ここでそんな猶予はないが、みっちり作戦を練っても生存者は一人。後がないのだ。一か八かでは困る。クラッシャーのやり方は、メサドゥには無謀に映った。
    「ぜひ、坊ちゃんの命を」
     念を押す意味で孫のことを持ち出した。
    「ああ、必ず」
     ジョウは短くそう言い切った。


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■255 / inTopicNo.4)  Re[3]: クロック・タワー
□投稿者/ まぁじ -(2002/10/28(Mon) 10:19:22)
     出力120パーセントで<ミネルバ>は、レ・ルベンスへ急行する。慣性中和機構のコントロールを越えた加速。強烈なGにより、4人の身体はシートに食い込む。
     しかしこの程度、ジョウやタロスにはさほど堪えない。アルフィンとリッキーは、些かきつそうではあっても。そして送られたデータをもとに、ジョウは作戦を立てた。
     時計塔の周りは適当な着陸場所がないため、最も近い荒れ地に<ミネルバ>を駐機。ガレオンで出る。そして武器は予め最小限を所持。破壊力のある手榴弾や小型バズーカはあえて持たない。アートフラッシュとタロスの左腕の機銃は、使い方にだけ気を配る。シニア・パブフロードから許可を得た“多少の被害”の範疇で済ませるために。
     潜入は2手に別れる。ジョウとアルフィン、タロスとリッキー。それぞれが両端にある屋敷から潜入。シニア・パブフロードの部下達の前例に習ってだ。潜入口は1階しかなかった。そして雌雄どちらのプロリスに遭遇するかは分からない。通信機で連絡を取ることで対処する。
     レ・ルベンス上空を飛行し、およそ10分。メインスクリーンが時計塔を捕捉した。
    「飛ばしても、せいぜい1時間を切るってとこですな」
     タロスはクロノメータに視線を落とし、往復時間を考慮する。
     ジョウは徐々に迫り来る時計塔に、視線を向けながら応えた。
    「採取後、2時間が限度か。あとは脱出のタイミングだな」
    「どっちかが遅れたら、折角のプロリスもぱあですぜ」
    「やってみるさ」
     ジョウは拳を握り、親指を立てた。
     <ミネルバ>が荒れ地に着陸すると、後部ハッチから地上装甲車ガレオンが即座に出動。最高速度でも10分とかからない計算だ。
    「準備できたわよ」
    「よし」
     ジョウの指示で、アルフィンは後部シートでクラッシュパックの荷造りをしていた。必要備品や弾薬とエネルギーチューブ、プロリス採取用の直径15センチほどの円柱型密封容器をふたつ。そして採取時の消毒スプレーを詰め込んだ。
     これをジョウとタロスが背負って行く。
     さらにアルフィンは各自に防ガスマスクを手渡した。ベラの鱗粉対策だ。いくら後遺症がないとはいえ、そつなく任務を遂行するためには万全を期す。
    「さてと……。残り時間18時間を切りやしたぜ」
     タロスの、コントロールレバーを握る手に力がこもった。

     ガレオンを出動させ、時計塔の正面に停車する。そして4人はマスクを被り、2手に別れて行動開始となった。
     ジョウとアルフィンは、時計塔の屋敷左方から潜入する。タロスとリッキーは右方だ。
     連結された屋敷の端まで走ると、距離にしておよそ300メートル。かなり横広がりな形状の建物。一切窓はなく、地上7階建てのビルに相当する高さだ。中心の時計塔はさらにその2倍はある。
     古ぼけた外壁に、草の蔓が血管のように細かく張り付いていた。だが一片だけ蔓が灼け落ち、戸口らしきものが剥き出しになっている。シニア・パブフロードの部下が潜入した形跡だ。
    「ここだな」
     ジョウは無反動ライフルを構え、アルフィンはレイガンと照明灯を手にする。2人はアイコンタクトを取ると、ジョウが脚で戸口を破り一気に飛び込む。扉は自動的に閉まった。
     中は意外にも明るい。
     ソーラーシステムが作動している証拠だ。発光パネルが灯っている。だが視界はとてつもなく悪い。まるで黄砂に巻き込まれたような錯覚さえ起こす。鱗粉の仕業だった。
     アルフィンは照明灯を消すと、ベルトのフックに掛けた。
    「きっと、この灯りがベラを引き寄せたのね」
    「辺りに何もないからな。不幸中の幸いさ。これで繁殖の拡散が防げたんだ」
    「けど……。ドアも窓もろくにないのに、どっから入ったのかしら」
    「外が餌場だとすると、大方こいつら専用の抜け道でもあるんだろ」
     ベラの餌は樹液と花粉。屋敷内に植物園がない限り、それは考えられた。
     そして黄色い霧の中を、ジョウはアルフィンの手を引きながら進む。これだけ鱗粉が立ちこめている。成虫が巣食っている場所だと睨んだ。産卵室であれば、もっと聖域なムードがあってもいい筈だ。
     すると。
     数歩も進まないうちに、アルフィンの金髪を風が煽った。何かが回り込んだ。
    「!」
     咄嗟に振り返る。すると目の前に大きな影が迫っていた。
    「きゃあ!」
     アルフィンが尻餅をつく。手が離れると同時に、ジョウはライフルを向けトリガーボタンを押す。連射弾が飛ぶ。ぶじゅ、と音を立てて影が砕けた。液がアルフィンの身体にほとばしる。そして被弾した影もどさりと落ちた。
    「いやあーん!」
    「アルフィン」
     ジョウが近寄った。アルフィンの上体に落ちたのは、やはりベラ。実体はかなり大きい。アルフィンの上体に、毛布のように覆い被さっている。羽にある蛇の目玉を思わせる模様が、こちらを睨みつけているようだ。
    「ああん! 早くどけてえ!」
     ジョウはベラを掴んだ。ずっしりと重い。昆虫というより、鳥類に近い感触だ。チタニウム繊維の手袋がずるりと滑り、ベラを投げ捨てても体液が糸を引く。
     生理的に受け付けない不気味さに満ちている。
    「大丈夫か」
    「いきなり髪がべとべとよお! やんなっちゃう」
     ジョウが手を引き、アルフィンを起こした。マスクのおかげで顔は守られたものの、透明の体液で頭からぐっしょりだ。
    「何とかも滴る、いい女って奴だ」
    「ちっとも嬉しくないわ」
     アルフィンはマスクの中で両の頬をふくらませた。
     そんな2人に向かって。
     音が迫る。
     強風に煽られる葉擦れのような音。だんだんと大きく膨らんでいく。
     ジョウはライフルを構え振り返った。その刹那。影の大群が衝突。まるでグローブで連打されたようだ。ジョウはまともにそれを食らい、床に仰向けに倒された。
    「伏せろ!」
     アルフィンがしゃがみ込む。ジョウは仰臥したまま、上部にライフルを乱射した。次々と影が墜ちていく。ジョウはすぐに体勢を立て直し、伏臥でライフルを構え直した。アルフィンも手当たり次第にレイガンを撃つ。
     ジョウとアルフィンは、影に囲まれていた。ベラの大群だ。
     きりがない。
     ジョウは影が現れた方角、つまり屋敷の奥を睨む。そこに向かって、アートフラッシュを投げ込む。原子火薬。瞬時に火球が弾け、ベラの密集地帯にあんぐりと穴が空いた。
    「アルフィン! 来い!」
     ジョウは立ち上がり、アルフィンの手を引いた。疾駆する。隙を埋めようと動くベラの群れ。その空洞に2人は飛び込んだ。そして振り返り様に、ジョウは再びアートフラッシュを投げつける。
     爆音と共に大群が散った。生き残った数匹のベラは、突然の攻撃にひるんだ様子。
     黄色かった視界が、黒い煙で充満した。その光景を振り切るように、2人は屋敷のさらに奥へと疾駆する。
     設計データによると、時計塔に向かう側に上階ルートがある。それを目指す。
    「ちっ!」
     ジョウが舌打ちした。行き止まりだ。階段すらない。
    「ジョウ、あれ!」
     アルフィンの腕が斜め上を指す。脇の壁の上部、天井から梯子が降りていた。しかし床まで届いていない。飛びつくしかなさそうだ。
     ジョウが助走し、ジャンプする。片手が梯子を掴んだ。
    「うわっ!」
     伸びた。梯子がシャッターのように、するりと降りた。勢い余ってジョウは床にひっくり返る。さらに天井の一辺がスライドし、墜ちてきた。何かが。
    「でっ!」
     ジョウの身体にどさりと墜ちた。
    「きゃっ!」
     アルフィンの短い悲鳴。ジョウは降ってきた物の下から這い出る。それを直視し、息を飲んだ。
     死体。作業服を着た男の。
     服の腕に入っている紋章から、パブフロード家の関係者だと分かった。2日前に潜入した、シニア・パブフロードの部下だと悟った。


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■256 / inTopicNo.5)  Re[4]: クロック・タワー
□投稿者/ まぁじ -(2002/10/28(Mon) 10:20:03)
    「おら、もう一丁っ!」
     タロスは強烈な拳でベラを叩き落とす。上体はベラの体液をもろに被り、ぬらぬらと光っている。とはいえ地道な攻撃は、的確で効率もいい。怪力の成せる業だ。
     屋敷右方からの潜入も、ジョウ達と同じくベラの猛襲に遭う。リッキーは無反動ライフルで応戦。じりじりと屋敷奥に進んでいた。
    「うわあたっ!」
     リッキーが何かにつまづき、転んだ。下敷きにしたものを、どんぐり眼が捕らえる。そして飛び上がった。
    「ひゃあああ!」
     咄嗟にタロスの足元にしがみつく。リッキーの様子に気づき、タロスは黄色い霧の中で下を見下ろす。死体だ。しかも3体。タロスも服の紋章から、パブフロードの部下であることを察知した。
    「随分と早え所でくたばってやがる」
     タロスは気づいてないが、ジョウ達の左方と比べ死体の出方が早い。つまりそれだけ、右方からの潜入がシビアなことを示す。
     死体に気取られ、一瞬タロスの集中が途切れた。
     すると一匹のベラが隙をつき、タロスの背後から襲いかかる。
    「ぐっ!」
     隆々と盛り上がった左肩に、がっぷりと食らいつかれた。クラッシュジャケットの特殊繊維すら貫通。しかし人工皮膚の下は、タロスの場合サーボーグだ。大したダメージではない。鷲づかみしベラを引きはがすと床に叩きつけた。
    「リッキー」
     足元にしがみついたリッキーが、顔上げた。
    「こっちはどうやら、雄が多いみてえだ」
    「ついてねえなあ……」
     リッキーはぼやいた。学者からのベラ生態データによると、見かけは雌雄つけにくいが、雄は強力な牙を隠し持っている。しかも性格は雌よりどう猛。そこでタロスは判断する。下手にリッキーが襲われでもしたら、後が厄介だ。
     なにせタロスの左肩は、こぶのような腫れが生じていた。しかし人工皮膚である。ダメージはなかった。リッキーだったらダメージは大きいだろう。
     すかさず強行突破に出る。
     左手首を回し、機銃を晒した。
    「これだけいりゃあ、百発百中だ」
     リッキーが両耳を押さえる。
     タロスは左腕を真っ直ぐベラの大群に向け、銃弾を放った。つんざくような射撃音。破裂音と共に体液が飛び散り、壁面がぼろぼろ剥がれるようにベラの群れが朽ちていく。
     数匹だけ残し、タロスの一掃攻撃が終わった。宙を浮いたベラは、身の危険を感じたのか、それ以上近づいては来ない様子だ。
    「さてと。……ここはどうやら産卵室じゃねえな。リッキー、上にいくぞ」
     タロスは左手を嵌め直し、顎をしゃくる。
    「はあ……」
     リッキーは先行きの不安から、溜息をついた。
     タロスは床に散らばったベラの残骸を、踏みつけながら奥に進む。2メートルを超える視界だ。黄色く霞んだ空間でも、天井部分の梯子が自然と目についた。
     梯子の下部を掴んだ。屋敷左方と同じく、するりと降りる。同時に天井の1メートル四方がスライドし、抜け穴が生まれた。
    「もたもたすんな!」
     リッキーが弾かれたようにタロスに近づく。するとステップとして出された右手に、ひょいと片足を掛けた。梯子に飛びつくと、するすると一気に昇っていく。小動物のような身軽さだ。
    「そのでかいだけの図体で、梯子をぶっ壊すなよ」
    「うっせえチビ! 辺りを警戒しろいっ!」
     リッキーは穴から降ろした首をすぼめると、言われた通りライフルを構えた。周囲を見渡す。

     タロスはその巨体を引っかけながらも、穴からぎりぎり這い上がる。すると視界が変わっていた。黄砂のような鱗粉が消えている。がらんとしていた。大広間のようなスペース。そういう印象を受ける場所だった。
     2人は毒ガスマスクを外した。怪しい匂いめいたものも感じない。空気もクリアだ。
     マスクなしで行けそうだった。
     タロスは額に垂れてくるベラの体液を、腕でぬぐい取る。リッキーは袖口の通信機でジョウを呼び出した。
    「兄貴、そっちはどうだい」
     ノイズが入る。妨害電波設備は、この屋敷にはない筈なのに。
     しかし会話はとりあえず成立しそうだ。
    「……2階だ。成虫がわんさと……ぜ」
    「こっちは視界良好! 雄が多かったけど大したことないや。それと死体も発見」
    「……かった。こっちも1体……した。慎重に辺りを探って……れ」
    「問題なけりゃ、俺ら達さっさと上行っちゃうぜ」
    「……ッケイ」
     リッキーは通信を切る。
    「案外さ、こっちの方が楽勝だったりして」
    「おめえはほんっと、単細胞でいいやな」
     タロスは、呆れとも頼もしいともつかない、複雑な顔でにやけた。
     そしてリッキーの希望的観測は、叶った。
     2階は異常なし。そこから先は階段で楽に昇ることができた。3階、4階部分も同様。無駄に広いだけの空間ばかりだった。
     しかし上階へと進むごとに、タロスに新たな焦りが覗き出す。もしかすると、屋敷右方からの潜入は“はずれ”かもしれない。産卵室らしきものも発見できず、1階の状況だとベラの雄が多い。
     プロリスは雌雄どちらも生成できるが、幼虫の栄養源として踏まえると、産卵する雌が集まる場所に偏りそうなものだ。屋敷左方が“あたり”かもしれない。
     ジョウ達の進行が遅れている。まだ3階で立ち往生していた。つまりそれだけ、ベラ成虫の攻撃が厚く、産卵室がある可能性も高い。
     2手に別れるよりも、合流した方が得策か。
     そんな考えを頭に駆けめぐらせながら、リッキーと5階地点に着いた。
     すると。
    「……うっ」
     激痛がタロスを襲う。
     突然胸を押さえ、床にがつんと膝を着いた。
    「タロス!」
     リッキーがきびすを返し、うずくまる巨体に近寄った。丸まった背が、がたがたと震えている。床に突っ伏した顔から、瞬く間に脂汗が浮き出した。
    「ど、どうしたんだよっ!」
     リッキーは慌てる。
     おろおろとタロスの周りを飛び回り、何をどう対処したらいいのか分からない。そんなリッキーの片足を、タロスの左手がむんずと掴んだ。
     つんのめり、リッキーは転んだ。足首が異常に痛い。血流が止まりそうなほど、タロスの手が握り締めているからだ。その苦しみが、握力から充分に伝わってくる。
     横倒しになったまま、リッキーはすぐ袖口の通信機にスイッチを入れた。
     ジョウに連絡する。
    「……や、やめ……ろ……」
     くぐもるタロスの声が、それを制した。
    「だって、まずいじゃんか」
     リッキーは袖口を、口元に寄せる。
     だがタロスが渾身の力を振り絞り、リッキーの片足を引いた。
    「わあ!」
     振り回され、リッキーは呆気なくひっくり返った。
    「……じき……収まる……」
     必死の形相で、リッキーの行動を止めた。さすがにこうされると、リッキーとて胸の内が読める。大ごとにして、下手に足で惑いになりたくはない。そういう意味だ。タロスの全身から気迫が漂い、リッキーの肌を刺すように伝わってくる。
    「……わ、分かった。俺らもう余計なことはしない」
     するとタロスの握力が、ふっと緩んだ。リッキーの足首がようやく自由になる。
     少し痺れていた。
     だがリッキーはすぐに立ち上がり、タロスの大きな背を両手でさすり始める。
     この処置でいいのかどうか、分からない。しかし何もせず、ただじっと見守る訳にもいかなかった。
    「しっかりしろよ……タロス」
     口調からは、いつもの生意気なトーンが消えた。
     それを聞き、タロスは渋面ながらも口元にだけ笑いを浮かべた。


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■257 / inTopicNo.6)  Re[5]: クロック・タワー
□投稿者/ まぁじ -(2002/10/29(Tue) 10:59:39)
     ジョウとアルフィンは、後ろ伝いに階段を上がる。後から後からベラが追ってくるからだ。ライフルやレイガンで撃ち落としても、アートフラッシュで灼き尽くしても、収まらない。まるで増殖しているかのように。
     やっと4階に差し掛かる階段へと、辿り着いたばかりだ。
    「ちっ! またか……」
     ライフルの弾薬が切れた。アルフィンが援護し、ジョウは先に4階へと駆け上がる。クラッシュパックを開けると、最後の充填となった。
    「くそっ。ミスったな」
     手早くセットすると、ライフルを構え踊り場へ戻る。もうこれ以上、一発たりとも無駄撃ちはできない。
    「アルフィン!」
     その声に振り返ると、ジョウが手招きをしている。アルフィンは一旦攻撃を止め、一気に踊り場まで駆け上がった。するとジョウの手が、すかさずアルフィンの肩のアートフラッシュを引きちぎる。ジョウのアートフラッシュは使い切った。
     階下にいるベラの群れへと投げつける。
     爆破。
     ベラが粉々に砕け散った。
     狭い階段ゆえに、少し内壁も崩れてしまう。
    「こうなると、シニアの条件って厳しいわね」
    「もう契約しちまったからな」
     2人はマスク越しに短く会話をすると、4階の敷地を、方角で言えば左方の端に向かってまた逆行する。階段がジグザグに設置されているためだ。
     しかし確実に1階ごとを走破できる。2階、3階ともに、遭遇したのはベラの成虫だけ。屋敷左方からの潜入も、まだ産卵室らしき気配を確認していない。
     先頭を走りながら、ジョウは防ガスマスクを腕で拭う。ベラの体液を何度も浴び、どろりとした液体がマスクを汚している。視界が混濁しはじめた。
     細かいものがよく見えない。
     だからジョウは、足元の異変に気づかなかった。
    「うわっ!」
     何かに足元を掬われた。速度がつき、飛び込むように床に突っ込む。
     運悪く。その転倒をアルフィンも避けられなかった。
    「きゃっ!」
     2人は絡まるように転がった。そして実際に絡まってしまった。
     床上には白い、弾力のある糸が辺り一面に密集。糸同士が複雑に絡み合い、その中でジョウとアルフィンは抱き合うように閉じこめられた。
    「いやあん! 今度はなによお!」
     ジョウを下敷きにし、繭状になっていた。アルフィンがその中で抗う。
    「いててっ! あ、暴れるな!」
     もがけばもがくほど、糸の絡みが締まっていく。まるでゴムチューブに縛られているみたいだ。ジョウはアルフィンの腰に回った両腕に、ぐっと力を込めた。
    「落ち着けって!」
     その締めつけに、アルフィンははっと我に返る。
    「ご、ごめん……」
     ジョウの腕の中で、やっとアルフィンが大人しくなった。
    「……頼むからじっとしてくれ」
     ジョウはぼそりと呟く。
     繭状の中で、ジョウの脚の間にアルフィンの身体が挟まっていた。もがき暴れられると、急所に当たる。
    「ど、どうするジョウ」
     その状況が分かったのか、マスクの中でアルフィンの顔が上気する。しかし気を取り直す。恥ずかしがっている場合ではない。ベラの追撃が考えられた。
    「両手を動かせるか」
    「いけそうよ」
     丸まった状態でジョウに抱かれたおかげで、両手はアルフィンの胸元に収まっていた。
    「胸ポケットから電磁メスを抜いて、こいつを裂いちまえ」
    「やってみるわ」
     アルフィンはジョウを下敷きにしたまま、身体を丸めようとする。胸元に空間をつくるためだ。しかし白く絡まったものは、ゴムチューブのように強力な弾力性がある。身動きを許さない。それでもアルフィンは、必死で身体を引き起こす。せめて両肘を着けるくらいに。
    「……っつう……」
     ジョウがマスクの中で、眉間に皺を寄せた。
    「だ、大丈夫?」
     胸の二カ所が、集中的に圧迫された。アルフィンが両肘を着いた下だ。その体重、その力が、アルフィンの肘に凝縮し痛点を生む。肋骨の隙間に、肘がめり込んでいく。その痛みだった。
    「いいから……急げ……」
     アルフィンは頷くと、少し自由になった手元を動かす。ジョウの襟元から胸まで、クラッシュジャケット開けた。その中に右手を擦り入れる。ジョウはいつも、胸の内ポケットに電磁メスを入れている。
     身体にぴったりと密着するクラッシュジャケットの、狭い隙間に細い指が這う。非常事態なのだが、その動作がなんとなくアルフィンに照れをもたらした。
    「……妙な感じだわ」
     照れ隠しに、つい無駄口をこぼす。
    「い、一気にやってくれ……」
     内心ジョウも困惑していた。
     圧迫の痛みならまだしも、まさぐられるくすぐったい感触は堪える。しかもアルフィンの指は、自由が利かないのか、遠慮がちなのか、実にぎこちなくじわじわと胸肌を這う。その勿体ぶった動きが、別な意味でジョウを苦しめてもいた。
    「……あったわ!」
     アルフィンの指先が、電磁メスを引きずり出した。
     スイッチを入れ、すぐに繭の一端を切り裂く。すぱり、と紙を切るように。
     やっと2人は繭状から解放された。
     そしてジョウは、身体に絡まっていた物を手にした。白い糸状の物体。チタニウム繊維の手袋や、クラッシュジャケットには直接着かない。この糸同士が触れあうと、強力な粘着性を発揮するようだ。束ねると、紐が綱になるほど結束度が高い。そんな物体だった。
    「こいつは……」
    「それってもしかすると」
    「ああ、間違いなさそうだ」
     ベラの幼虫がいる地点に到達したようだ。となると、産卵室も近い。
     白い物体は、幼虫が吐く糸。これを我が身に巻きつけ、さなぎとなる。過去に捕獲されたベラの孵化は、失敗に終わっていた。しかしそれを解剖し、学者の推測を加味された調査データが出されていた。
     学者の推測は正しかった。そういうことだ。
     と同時に、ここにはベラの成虫が来ないことも意味する。孵化の調査の段階で、ベラは産卵を済ませると卵をかいがいしく面倒をみない。産卵室にプロリスを準備した後は、放任。幼虫は、生まれながらにして自活していくのだろうと調査データに記されていた。
     2人はすっかり汚れたマスクを、ようやく外した。新鮮な空気が、胸に広がる。
    「幼虫だから、ベラよりは楽かしら」
    「それはどうかな」
     油断は禁物だった。
     そしてジョウはクロノメータに視線を落とす。随分と無駄足を踏んでしまった。すでに16時間を切っている。
     床に落ちたライフルを手にすると、ジョウは通信機で連絡を試みた。
    「タロス!」
     通信機からは、さっきよりも強いノイズが響いた。
    「タロス! リッキー!」
     袖口を耳元に当てても聞こえない。
     かすかな声すらも遮断されていた。
    「何かあったのかしら」
     アルフィンが不安げに、両手を胸元に寄せる。
     ジョウは開け放たれたクラッシュジャケットの前を留めながら、厳しい表情を浮かべた。
    「一体、この妨害電波はなんだ……」
     シニア・パブフロードの話にも、受け取ったデータにも、この件は報告がなされていない。
    「どのみち先を急ごう」
     ジョウは白い糸が一面に散らばった奥地へと顎をしゃくる。
    「両方のプロリス、うまく採取できるかしら」
    「その前に、片方でも見つけないことにはな」
     ベラの幼虫の出方は分からない。しかも武器の弾薬も乏しい。状況としてはタロス達の方が、先行している筈だ。それが今や、ノイズしか聞こえてこない状況。
     あの2人のことだ、簡単にくたばりはしない。だからジョウは悟った。この無言の解答は、この先の出来事に関係している。
     気が、一層引き締まっていった。


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■258 / inTopicNo.7)  Re[6]: クロック・タワー
□投稿者/ まぁじ -(2002/10/29(Tue) 11:00:33)
     タロスの胸の痛みは、30分程で引いた。
     引いてしまうと、普段通りに振る舞える。しかしタロスの脳裏には、不安がさらに広がっていた。ラ・ルベンスに降下する前より、痛みが強く、長引いたからだ。
     齢のせいなのか。潜伏していた病のせいなのか。しかも今は任務の渦中である。何があっても、遅れの元凶になってはならない。
     だが、ふと。過ぎってしまう。
     これがクラッシャー人生の潮時なのだろうかと。ダンも事故で脚を失い、最前線で活躍できるだけの肉体を失った。己の限界を知ること。それが引退の引き金だった。
     その瞬間が自分にも訪れたのだろうかと、タロスの脳裏をかすめた。
     自分が任務中に命を落とすのは自業自得であり、場合によっては本望でもある。だがその余波で、ジョウ達をも巻き込む訳にはいかない。特に今の状況でいえば、リッキーが一番被害を被るのが目に見えていた。
     持ちこたえてくれ。
     タロスは胸の中で、己を奮い立たせる。無意識のうちに右手が胸ぐらを掴んでいた。わずか15才、クラッシャー歴3年のリッキー。この若い芽を摘んでしまう真似は、ベテランとして何よりも許され難い。ダンと共にこの稼業を叩き上げてきた、先駆者の使命としても。
    「タロス!」
     前を行くリッキーが振り返った。
    「怪しい気配がする。俺らの援護を頼むぜ」
    「この俺に、ガキのケツを追わせろってのか」
    「あーんまり見るなよ。穴が空いちまうからさ!」
     そうリッキーは戯けてみせた。
     だがその脳裏に、はっきりと残像が映し出される。苦しみ、巨体を縮み込ませたタロスの姿。これまで何度も危機的状況に遭遇した。だがその度に、タロスの不屈の精神力を見せつけられてきた。殺しても死なない。死ぬことすらありえない。リッキーはずっと、そんな目でタロスを見てきた。
     だから驚いた。衝撃的だった。あんなに小さく、そして弱々しいタロスを初めて目の当たりにして。不安と心配が、胸を酷くざわつかせる。
     本当はさっきからずっと、心臓が暴走したように鼓動している。背には、やけに冷たい汗がだくだくと流れていた。けれどもリッキーは、いつも通りに飄々と構えた。いや、意識しているだけに、普段以上に生意気さを醸し出しているかもしれない。
     そうでもしなければ、立って、歩くことすらできない。
     身体の異変を、タロスはリッキーに言葉として告げなかった。しかしもう充分すぎるほど、リッキーには分かっている。
     タロスをカバーしなければ。
     そしてこの任務を、必ずやり遂げる。
     この大任の指揮を、小柄な体躯でしっかり背負うことを密かに決意していた。
    「俺らの足、ひっぱんなよ」
     それだけ言い残すと、リッキーは6階への階段を駆け上がった。
    「けっ! その台詞は100年早えんだよ」
     強がりな発言に、タロスは噛みついて見せた。

     リッキーが躍り出た場所は、今までの室内構造と全く違っていた。1階から5階までは、間仕切りもなく、だだっ広いだけの空間。しかしここには、いきなり壁があった。右手に長い廊下のような通路があり、等間隔でドアが設置されている。初めて部屋らしき空間に突き当たった。
     リッキーは一番手前のドアに駆け寄った。
     ライフルを構え、一息入れる。
     この先に何かがある。浅くともクラッシャーとしての経験と勘が、それを警告していた。
    「俺らだって、やるときゃやるんだ」
     そうやって自分自身に渇を入れた。
     ノブに手を伸ばし、意を決して部屋の中に飛び込んだ。
     床に伏せる。
     瞬きもせずに、ライフルの銃口を向けた。
     その背後でタロスが、腰にかけていたレイガンを構え援護に立つ。
    「……あれ?」
     どんぐり眼が、せわしく瞬いた。
     部屋は部屋だが、がらんどうだった。
    「ちぇっ! 勿体ぶりやがって」
     拍子抜けしたせいで、リッキーは毒づきながら立ち上がった。その視界に、さらに部屋の奥にもドアが設けられていることを捕らえる。造りからして、隣の部屋に繋がっているようだった。
    「……なるほどねえ。単なる時計塔って訳じゃねえのか」
     タロスがずいと部屋に入ってきた。リッキーがそれを見上げて訊く。
    「どういう意味さ」
    「ここはよ、開拓の誓いを立てる意味もひとつはある。が、同時に拠点にするつもりだったんだろうさ」
    「なんで分かるんだい」
    「恐らく1階から5階は作業員の雑魚寝場所で、6階から現場監督のプライベートルーム。ま、会議室ってのもあるかもしれねえがな。そういう造りだな、こいつは」
    「となると、かなりの人手を収容できるんだ」
    「そんだけ開拓に本気だった、ってこった」
    「……そっか。となると、ベラってとんでもなく邪魔者なんだ」
    「けどそのおかげでよ、シニアの孫は助かる。地獄で仏ってやつじゃねえか」
     2人は、部屋の奥へと歩を進めた。
     そしてタロスの頭は、次の手だてを考えていた。6階まで辿り着いたというのに、産卵室らしき雰囲気がない。やはり屋敷右方は“はずれ”。早い段階でそれを決断した方が良さそうだ、と。
     きっとジョウ達の方が手こずっている。4人で集結し、さっさと採取して時計塔を立ち去る。その方が格段に効率がよく思えてきた。
     何せまたいつ、胸の発作が起こるか分からない。
     だが、その焦りが。
     タロスの慎重かつ冷静な判断力を、僅かに狂わせる。
     武器を構えてはいたものの、奥のドアを不用意に開けてしまった。眼前に映し出された光景。タロスとリッキーは凍りついた。
     むわり、と黄色い霧が立ちこめている。
     つまりリッキーの、浅くともクラッシャーの経験と勘の方が、この危機を敏感に嗅ぎ取っていた。


引用投稿 削除キー/
■259 / inTopicNo.8)  Re[7]: クロック・タワー
□投稿者/ まぁじ -(2002/10/29(Tue) 11:01:30)
    「リッキー! 吸うんじゃねえ!」
     防ガスマスクはすでに捨てている。リッキーは慌てて、インナーのタートルネックを引き上げた。伸縮性の高い特殊繊維は、リッキーの小さな顔の下部をぴたりと覆う。しかもタートルネックの部分は、呼吸ができる仕様になっている。
     緊急事態の時の、簡易マスクだ。しかし気密性、防毒性は、防ガスマスクよりは低い。
     タロスは一旦ドアを閉じると、肺いっぱいに空気を吸い込んだ。タロスの場合、あらかじめ体内に空気を溜め込むことができる。その気になれば、3時間近く息を止めていることも可能だ。
     ドアの向こうの光景。
     1階よりも、さらに濃い鱗粉が舞っていた。しかしタロスの視覚は捕らえていた。空中で、何十匹といるベラが、つがいとなり下肢を繋がらせている光景。つまりここはベラ達の交尾の場だった。
     そしてタロスの脳裏に浮かび上がる、学者からのベラ生態データ。ベラの雄のプロリスは、幼虫の餌以外にも使用目的があった。
     雌に交尾を求める際に、引き替えとして雄は自分のプロリスを分け与える。つまり思わぬところで、採取の瞬間が訪れたことを意味する。
     タロスは背中からクラッシュパックを下ろすと、リッキーに消毒スプレーと、密封容器を手渡した。鱗粉の危険性、雄の凶暴性を踏まえれば、防塵性の低いリッキーでは応戦しにくい。
     だからタロスが先頭を切る。
     手当たり次第捕まえて、すかさず採取する。うまくいけば、雌雄両方のプロリスを採取できるチャンスに恵まれた。
     タロスはドアノブに再び手を掛けると、リッキーに向かって拳から親指を出し、それを下に向けた。ここで待機しろ。そのサインだった。
    「やだよ!」
     間髪開けず、リッキーがタロスの足にしがみつく。
    「俺らも行く!」
     一旦溜め込んだ息を、タロスは全て吐き出した。そしてすかさず怒鳴りつける。
    「そんなんじゃ邪魔でしょうがねえや!」
    「吸ったって熱が出るくらいだろ! へっちゃらさ、そんくらい」
    「看病するのが面倒くせえってんだ」
    「いらねえやい! 俺らだって好きでクラッシャーやってんだ! 一番おいしい所、黙ってみてられっかよ!」
    「ったく……。後先考えねえ、トンチキ野郎だ」
    「なに言ってやがんでい! 勘の鈍っちまった老いぼれの癖に」
     タロスもリッキーも、互いに一歩も譲らない。
     そしてリッキーのどんぐり眼が、タロスの顔を凝視する。鋭いくらいに真剣に、熱を帯びたまなざしをしていた。タロスの意識もつい引き寄せられる。
     いい目をしやがる。
     思わずタロスは、そんなことを胸の中で呟いた。
     ずっと共にしてきた日々。リッキーのどんぐり眼は大きいばかりで、どこか頼りなくもあった。大きいばかりで、編み目も大きいザルと等しい。しかし今、タロスを射抜かんばかりの眼光からは、クラッシャーとしての度胸と意地が放たれていた。
     いつの間にか。
     そういう目をする少年へと育っていた。
     タロスの胸にこれまで感じたことのない、震えるような衝動が突き上げた。
     ジョウだけではなかった。自分が育ててきたものは。あまりにも幼い風貌から、いつまでも手が掛かる子供だと思っていた。有り得ないことだが、ずっとこのまま、ちょこまかとしたリッキーでいるのではないかと。
     けれども、そうではなかった。
     タロスが真剣に向き合わなかった所で、リッキーは着々と、クラッシャーとしての階段を上り続けていた。この顔から、子供特有のあやふやさが抜けたとき。リッキーもジョウと同じく、一人前へと成長するのだろう。
     タロスの目に、そんな何年も先のことが不思議と見えた気がした。

    「……ねえぞ」
    「え?」
     リッキーはタロスの足元から離れた。
    「あんだよ、はっきり喋ろよタロス! 入れ歯にガタでもきてんのかよっ!」
    「……面倒を起こしたら承知しねえぞ」
     タロスはどすの利いた声で静かに言い放った。
     だがその言葉の意味に、リッキーの表情がみるみる晴れた。毒はあるが、タロスが自分を同格に扱ってくれている言葉でもあった。
    「あったり前だろ! 俺らを誰だと思ってるんだい」
     リッキーは拳に親指を立て、タロスに突きつけた。
    「じゃ、行くぜ」
    「あいよ!」
     そしてタロスは再び、胸いっぱいに空気を吸い込んだ。ドアノブに手を掛け、一旦リッキーとアイコンタクトを取ると、すぐに飛び込んだ。
     黄色一色の空間に、タロスの黒い巨体が紛れ込む。その背後にはリッキーが。
     ベラはその異変を察した。しかし下肢を繋がらせた状態を、すぐには切り離せずにいた。タロスの両手が、一対のつがいに伸びる。
     がっと掴んだ。ちょろいもんだ。捕獲の手応えをタロスは確かに感じた。
     その瞬間。
     奇怪な音が室内に響き渡った。
    「くぅぅ!」
     リッキーが思わず屈み込む。
     まるでガラスを掻くような、神経に障る高い音。きいきいと、空気を切り裂くように響き渡る。生理的に受け付けない不気味な音響が、2人の侵入者を丸め込む。
     ベラの秘技だった。
     攻撃ができない状態で危険を察した際、奇怪な音波を発して敵を攻撃する。極限のストレス状態で放たれる最後の手段だ。
     学者のデータにはこの事実は明かされていない。なにせベラを極限状態に陥れることを、恐れていたからだ。
     タロスの手からベラが放たれた。2匹はすかさず逃げまどう。
    「ぬうっ…………」
     額に血管が浮かび始めた。
     脳神経に直接、針を捻じ込むような痛み、痺れ。両手で頭を抱え込み、巨体がぐらりと崩れた。畜生め。こんな話は聞いてねえ。タロスは激しい頭痛に襲われながら、背後のリッキーに気を回す。
     密封容器と消毒スプレーを足元に落とし、両耳を抑えながら必死の形相で耐えていた。
     一旦出直す。
     それも過ぎった。しかし身体全体を起こせるほど、足に力が入らない。音が意識に割り込み、錯綜さえも邪魔する。タロスは手首の通信機にスイッチを入れた。先に知らせなければ。これをまともにくらってはジョウ達も危うい。
     ぶるぶると震える指が、通信機のスイッチを入れた。
     しかし駄目だった。
     ノイズしか聞こえてこない。

     リッキーがついに四つん這いになった。その挙動から、まだ辛うじて意識は保っているのが分かる。だがそれも時間の問題。タロスは通信を諦め、奥歯を食いしばり再び立ち上がった。
     その姿は不死身の巨神を彷彿とさせる。
     左腕の機銃を抜き出した。群がるベラの壁を、半分だけ犠牲にすることにした。
     すっと腕を伸ばした刹那、弾丸が火花を散らした。
     意識が薄れそうになる。その中での攻撃。時折、弾丸が内装をえぐった。必死に弾道をコントロールし、極力ベラの群に弾丸を叩き込んだ。
     1/4を始末したところで。
     突然、機銃が止んだ。タロスはぎくりとする。弾丸はまだ残っているというのに。
     故障。
     あの音波のせいか、タロスの体調不良のせいか。いずれにせよ機銃は沈黙した。使えねえ。タロスは毒づきながらも、すぐに次の手に出る。腰からレイガンを抜くと、闇雲に打ち始めた。機銃と違い、照準精度が問われる。しかしそんなことに集中できる余裕もなかった。
     すると。床につっぷしていたリッキーが起きあがる。すかさずライフルで追撃に出た。
     ぎりぎりに追いつめられた所からの逆襲。それが優劣を転じた。ベラの奇怪な音が薄れ始める。タロス達の決死の攻撃が、風向きをこちら側に変えた。
     まだ頭の芯ががんがんと痛む。
     だがリッキーもそれに構っていられない。
     ややあって。
     ベラの数が半減する。
     それを見越したタロスが、室内の隅に固まるベラの群に歩を進めた。その手がぐうんと伸びる。一匹を素手で捕獲。裏返すと、口腔と思われる部分からどろりと液体が漏れていた。暗緑色の液体。雄のプロリスだ。
     リッキーがそばに駆けより、密封容器を開けた。同時にクロノメータの、ストップウォッチを作動させる。
     この瞬間から3時間まで。タイムアタック開始だ。
     タロスがベラの胴体を握ると、口腔が開く。牙が見えた。そのまま密封容器の縁に、噛ませるように押しつけた。容器の内壁に、暗緑色の液体が伝っていく。
     しかし僅かしか摂取できない。
     この密封容器いっぱいにまで、プロリスは必要だ。
    「思ったより、手間がかかりそうだね」
     リッキーがつい言葉を漏らした。タロスは親指を、つぐんだままの口元で横一文字に引く。口にチャックだ。そのサインである。リッキーにはなるべく話させない方がいい。そう無言で警告した。
     そんな2人の頭上に。
     形勢を立て直したベラの群が舞い始めた。


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■260 / inTopicNo.9)  Re[8]: クロック・タワー
□投稿者/ まぁじ -(2002/10/29(Tue) 11:02:16)
    「ここで力尽きたのか……」
     ジョウとアルフィンはようやく5階に辿り着いた。天井から床まで、蜘蛛の巣のように敷き詰められた白い糸。その床に、こんもりとした白い山が見えた。ざっと数えて6つ。
     最初にそれを発見したのは4階の奥地だった。そのひとつを電磁メスで裂くと、作業服姿の屍が現れた。4階では2体。シニア・パブフロードの部下、総勢20名がこの屋敷に潜入したと聞いている。右方と左方、それぞれ10名ずつ潜入し、生存者が一人だとして。
     左方部隊は、5階で全滅した可能性が高まった。
    「この糸に毒性があるのかしら……」
     自分達も絡まっただけに、アルフィンに不安が過ぎった。
    「いや、死体が先だな。糸を下敷きにしていなかった。後から降りかかったと見る方が妥当だ」
     ジョウの脳裏に、検証した死体の光景が浮かんだ。
    「さて、ここからだ」
     ジョウはアルフィンに振り返ると、気を締めさせる意味で頷いた。ライフルを構える手に、自然と力がこもる。
     2人は白い糸を払いながら、さらに歩を進めた。どんどん糸の層が厚ぼったくなっていく。すでにロープのように、太く絡まった部分もあった。
     近い。
     産卵室の存在を、ジョウは嗅ぎ取った。
     左右に払う腕が怠くなっていく。それだけ糸のカーテンが重みを増している証拠だった。ジョウが大きく掻いた先に、白い洞窟のような空間が現れた。歩数から察すれば、まだ敷地の1/3までしか進んでいない。
     ジョウが先に足を踏み入れる。ぼこぼことした、膨らみのある壁面。先端が丸く、左右そして天井までを覆い尽くしている。ジョウはその一つの隆起に、電磁ナイフを刺し、裂いた。中が露わになる。
    「……さなぎだ」
     濡れた羽をくしゃくしゃに畳み込んだ、成長途中のベラが現れた。
    「ジョウ!」
     背後でアルフィンの緊迫した声が跳ねる。振り返ると、前方を指さしていた。
    「下の方……何か動いてるわ」
     ジョウは再び前方へと目を凝らす。そしてさらに歩を進めた。白い糸で密集した床の上を、ぴくぴくと近づいて来るものがある。
     白い。目測の大きさは全長30センチ。ミミズのような背をして、ぜん動運動で進むようだ。
     一目で幼虫と分かった。全部で5匹いた。
     ジョウはクラッシュパックを降ろすと、採取用の一式をアルフィンに持たせる。そして備品のひとつである筒状の機器を出した。それをライフルの先端に装着し、ライフルの弾薬を抜いた。
     シリコニウム弾。とり餅のような粘着物質を、弾丸のように発射できる。殺傷能力はない。だが対象物を凝固させる威力はある。
     ライフルの弾薬はいざという時のためにとっておく。
     そして幼虫がジョウまであと1メートル。特に攻撃的な様子は伺えない。単にさなぎとなる場を求めて現れたようにも思えた。
     下手に先手を打たない方がいいかもしれない。大人しくやり過ごせることができるなら、それに越したことがないからだ。

    「成虫が不気味な分、幼虫が可愛く見えるわね」
     背後でアルフィンが呑気なコメントを漏らす。
    「気を抜くな」
     ジョウが振り返り様に、アルフィンを叱咤する。
     その隙に。
    「ジョウ!」
     アルフィンの声色に緊迫感が走った。ジョウの身体が先に反応する。眼前より高々と、幼虫が続々とジャンプした。
    「……くっ」
     身体を引き、接触寸前の一匹に向けトリガーボタンを押す。透明の液が塊で飛ぶ。頭部に命中。花火のように透明の液が広がると、幼虫を丸め込み、床に落下させた。
     ジョウは下手に身を翻せない。転がって糸に絡まるのはご免だった。
     しかも残り4匹は、まるでスカッシュのボールのように、壁面を跳ねる。縦横矛盾にジョウへ体当たりをかけてきた。
     ジョウはライフルを逆手に持ち変える。狙うより、これではじき飛ばした方が早い。
    「このっ!」
     横に振りきった。一匹が跳ね返される。裏返しになったまま動かない。
     残り3匹。
     いける。そうジョウが勝機を掴んだ瞬間。
     奇怪な音が脳天を貫いた。
    「ああっ!」
     アルフィンがその場にうずくまった。
     ガラスを掻くような、きいきいと生理的に受け付けない音。ジョウも身体を屈め、両耳を覆った。
    「うっ……ぐ……」
     ベラの成虫が放った秘技。成虫ほど攻撃能力が高くないゆえ、幼虫にもその能力は備わっていた。
     がくり、と体勢が崩れた。たまらずジョウも床に片膝を着く。
     その頭上に、跳ね返り続ける幼虫が襲いかかる。殺気は感じた。だがジョウは動けずにいる。
     ずん、と衝撃が上体にのしかかった。


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■261 / inTopicNo.10)  Re[9]: クロック・タワー
□投稿者/ まぁじ -(2002/10/29(Tue) 11:02:57)
    「あっ……つ!」
     ジョウの頭の上で声がした。アルフィンの苦悶の声だ。ずるりとジョウを伝うように倒れる。かすれる視界に見えたもの。アルフィンの右肩に、ベラの幼虫が食らいついている。
     アルフィンが身を呈し、咄嗟にジョウをかばった。
    「野郎……!」
     ジョウは素手で幼虫を掴む。それを一気に引きはがした。赤いクラッシュジャケットが裂ける。雄だ。幼虫でも雄は牙を有していた。
     ジョウは渾身の力でそれを放り投げると、すかさずライフルを構える。割れんばかりの頭痛を圧し、ぐらつく狙いを定める。トリガーボタンを押した。
     被弾。
     さらにボールのように弾む幼虫に狙いを変える。ジョウは先読みする。立て続けにトリガーボタンを押した。
     予想外の反撃。幼虫は瞬く間に、シリコニウムに包まれ沈黙した。
     奇怪な音が、すっと消えた。
     抗った力がジョウの身体からも抜ける。
    「……は」
     片手を床に着き、強くかぶりを降った。気力を振り絞り、横倒れのアルフィンに姿勢を向ける。
    「アルフィン!」
     右肩を押さえたまま、アルフィンはゆっくりと碧眼を開けた。
    「だ……大丈夫」
     蒼白な顔色、額にはうっすらと汗が浮かんでいた。ジョウは裂けたクラッシュジャケットに手を当てる。
     動きが止まった。腫れ上がっている。
     細いアルフィンの肩に、こぶのような隆起ができていた。
    「行けるわ……まだ」
    「動くな」
     ジョウは床に散らばった白い糸をかき集める。両手でぎゅっと握り締めた。すると手頃な太さの帯になる。万が一幼虫の毒素があった場合、身体に回ってはことだ。
     アルフィンを起こし、床に座らせた。その身体を胸で支える格好で、ジョウは肩の付け根を縛り上げる。少しでも毒素を広げない為に。
    「どんな感じだ」
    「し……痺れて、熱いわ……」
     自分がいながら、アルフィンに負傷をさせた。
     その不甲斐なさにジョウは己に苛立っていた。
    「すまない、アルフィン。俺が……」
     アルフィンは首を横に振った。
    「……当然のことでしょ」
     弱々しい笑顔を浮かべならがも、気丈に言い放った。
     ジョウは床に散らばった密封容器とスプレーを、再びクラッシュパックに戻し、背負う。ライフルを右手で掴むと、左腕でアルフィンの身体を担ぎ上げた。
     くの字にジョウの肩に乗せられる。
    「あ、歩けるわ」
     ジョウの動きが鈍る。この先まだ、どんな反撃があるか分からない。アルフィンは脚をばたつかせて抗った。
    「当然のことだろ」
     ジョウは同じ言葉を返してやった。

     アルフィンを担いだまま、ジョウはさらに奥へと進む。ぼこぼことした白い壁面のトンネルは、延々に続くかと思われた。
     だがジョウの視線の先に、新たな光景が現れた。
     壁面の色が白一色から、茶褐色へと変わる。その境目が迫って来る。そして微かな空気の流れに乗って届く、ざらついた音。
     ジョウの神経がぴんと張りつめた。
    「アルフィン」
     ジョウは肩からアルフィンを降ろした。そして壁面の色が変わる境目に、背をもたれかけさせる。アルフィンの顔色はまだ戻らない。逆に痛みの感じ方が変わってきた様子だ。時折、くっと渋面をつくる。
    「ここで待ってろ」
     ジョウはアルフィンの腰に掛かったレイガンを抜いてやると、膝に乗せた。
     本当は不安なのだが、アルフィンは黙って頷いた。自分は今やお荷物だ。ジョウの足枷にしかならない。
    「……気をつけてね」
    「ああ、すぐに戻るさ」
     ジョウは敢えて余裕の笑みを見せた。
     そしてアルフィンに背を向けて、ライフルを構えたまま前進する。床に散らばった、白い糸の絨毯も途切れた。さっきまでのトンネルが、白い綿のような光景だとすれば、茶褐色のトンネルはごつごつとした岩場のよう。
     見た目は悪いが、聖域を思わせる雰囲気がある。秘密の洞穴。そういう感覚だ。
     そしてそのまま奥へと、1、2分歩いた。
     ジョウは壁面の物質を探るため、岩肌のような茶褐色の素材に顔を近づける。
    「……大当たりだな」
     これは壁ではない。かさぶたのような被いだ。中からさっき感じた、ざらついた音がする。何かが蠢いている。
     恐らく、孵化したての幼虫。
     そして音がしない部分もあった。そこは多分まだ卵のままで、目覚めの時を待っているのだろう。
     ジョウは音がしない壁面を、電磁ナイフでえぐる。ぐるりと、時計回りにナイフを動かした。
     ごつごつとした壁面が、蓋のように外れる。
     中には、拳大の白い卵。その下部に、ベッドのように敷かれ、溜まったもの。
     黄金色に輝く液状物質。
     雌のプロリスだった。
     すぐにクラッシュパックから消毒スプレーを出す。右手に吹き付け、ジョウはその液体に差し入れた。とろりと、指の隙間からこぼれていく。蜂蜜を連想させた。
     ジョウは左手首の通信機に、舌でスイッチを入れる。タロスに報告するためだ。
     しかしまだノイズが邪魔をする。
    「駄目か……」
     こんなに長時間音信不通とは。さすがにジョウも不安が過ぎる。まさか、あり得ないことだが。タロスとリッキーが、ベラの猛襲に撃沈されてしまったのか。
    「信じてるぜ、二人とも」
     ジョウはよからぬ不安を振り払うよう、気を取り直すことに集中する。
     そしてスイッチを再度入れ直す。今度はアルフィンに知らせる。こちらは難なく通じた。
    「……あったの?」
    「ああ、すぐに戻るからな」
    「……うん」
    「アルフィン?」
     息づかいがおかしい。幼虫の毒でも回りだしたのだろうか。
     ジョウに焦りの色が濃くなる。
    「いいか、くたばんなよ」
    「……ええ」
     そして早々にジョウは通信を切った。同時に、クロノメータのストップウォッチを作動させる。ここからタイムアタックだ。一刻も早く採取してここを脱出する。


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■262 / inTopicNo.11)  Re[10]: クロック・タワー
□投稿者/ まぁじ -(2002/10/30(Wed) 10:40:23)
    「タロス!」
     黄砂のような空間で、リッキーが腕を大きく振り上げる。こっちだ。その合図だ。タロスは追っ手のベラを拳で一撃。すかさずリッキーが開いたドアへと転がり込んだ。
     最後の部屋だった。鱗粉は立ちこめていなかった。
    「ぐはあ」
     タロスはようやく息を吐く。もう1時間は呼吸を止めていた。その状況下でベラとの格闘。動くと酸素の消費量はぐっと増える。限界ぎりぎりだった。
     リッキーもタートルネックを元に巻き戻す。2人はついに、一列に連なった部屋を突破した。リッキーの小脇には、暗緑色を満たした密封容器がある。ひとつは空だ。
     ベラを一匹ずつ捕獲し、僅かなプロリスを採取する。実に手間の掛かる作業だった。しかもベラの攻撃をかわしながらである。
     そして途中にいくつもの死体を確認する。確か7体。合計10人が犠牲となっていた。タロスはここでの先発隊全滅を知る。
     そして両方のプロリスを採取したくとも、断念した。二兎追う者は一兎も得ず。確実に採取できる手段を選択した。タロスが捕まえると、ほとんどが雄だった。攻撃的な性質を剥き出しにして、迫ってきたのがほとんど雄だった。
     だからタロスとリッキーは、雄のプロリスに的を絞る。
     ジョウとアルフィンが雌、あわよくば両方を確保してくれていれば万全だ。
     リッキーはタロスからクラッシュパックを降ろさせると、中に密封容器を納めた。ほっと安堵した瞬間でもあった。
    「タロス、さっさとずらかろうぜ」
     ようやく不気味な館から退散できる。リッキーの顔も自然とほころんだ。
     しかし。
     目の前でタロスは胸を押さえ、片腕を床に着いた。
    「発作かい?」
     タロスは渋面ながらも、にやりと笑った。脂汗が浮いている。呼吸を止めたことが、身体への負担を増やしたようだった。
    「いや、まだ小せえ。……どうやら持ちそうだ」
    「少し休もうか」
    「馬鹿言っちゃいけねえや。……最初のプロリスを摂取してから1時間は過ぎてる」
     リッキーがクロノメータに視線を移した。いや、もう残り時間1時間を切った。ラ・ルベンスに戻る時間を考慮すると、脱出が先決だ。
     タロスは両足にぐっと力を込める。重い。自分の身体とは思えないほどの重圧感。些か足元をふらつかせながら、タロスは立ち上がってみせた。
    「確か、この奥に行くと時計塔に出るんだよな」
     リッキーの頭には、時計塔と屋敷の大まかな見取り図がインプットされている。一刻も早い脱出。アートフラッシュ、もしくはタロスの機銃があればすぐに叶っただろう。屋敷の一部を破壊してでも。シニア・パブフロードの許容範囲でもある。
     しかし武器は尽きた。これでは1階へ降りることもできない。きっと新手がまた部屋中に溢れているだろう。
     ベラの総攻撃で弾薬を使い果たしてしまった。タロスの機銃も、今やただのガラクタにしか過ぎない。そして壁を体当たりできるほどの体力もなかった。
     立っているのがやっとなのだ。
     走れるかどうかも怪しかった。
    「……これ以上、ベラに構ってる時間もねえ。取りあえず巣くってる所から離れりゃあ、ちったあマシな逃げ道もあるだろよ」
    「よっしゃ! 行けるかい」
    「けっ! 誰に物を言ってやがる」
     タロスは強がった。リッキーはそれを知りつつも、あえてタロスに無理をさせた。脱出したらたっぷり休養させてやる。そんな思いを胸に秘めて。

     リッキーを先陣に。
     2人は屋敷から連結する、時計塔へと潜入する。時計塔の内壁を這うように、螺旋階段が設置されていた。手摺りや段差に、蔦のような植物が絡まっている。下を見下ろすと、一面の緑だった。
     生命力のある植物がどこからか潜り込み、不気味な時計塔の中に緑の楽園を作り上げた。黄色い霧がそこかしこに塊をつくる。ベラが群がっている様子だった。
     餌場であることは一見で分かる。
    「大人しく飯でも食ってろよ」
     リッキーは眼下に群がるベラに舌を出した。
    「このスカタン! さっさと上がりやがれ……」
     タロスがリッキーの尻を叩く。痛ってえな。そんな表情だけを向けると、リッキーは素早い脚の運びで階段を上った。一方タロスは、踏みしめるように歩を進める。
     己の身体が恨めしい。
     刻々と過ぎていく時間。いくらリッキーが先陣を切っても、タロスを待つことで遅れが生じる。しかしあと45分はある。タロスのペースでも、そこまで時間を使い切ることはない。
     まだセーフだった。
     やがてタロスは時計塔の上層部に設置された、機械が剥き出しの地点を通過する。ソーラーシステムから供給される電力で、大時計は稼動し続けていた。金属と金属がこすれる音、高く低く、そして時折がつんとした衝撃音。
     一見して複雑かつ精巧な造り。様々な部品がさび付くことなく、動く。レ・ルベンスが、人間を受け入れる大地として生まれ変われる日まで。
     この時計塔は主の訪れを待つように、タロスにはそう息づいて見えた。
     機械じかけの地点を抜ければ、あとは頭頂部まで僅かだ。まるで一山歩き続けたような疲労感がタロスにのしかかる。息が上がり、両肩でふうふうと呼吸をする。速度は遅くとも、昇るという運動は体力を根こそぎ奪う。
    「失望させねえでくれよ……」
     タロスは大きな手を胸に当て、叱咤ではなく、自分を励ました。
     もう一秒たりとも時間を無駄にはできない。気力を振り絞り、弱った臓器をも奮い立たせる。タロスに残された力を全て注ぎ込むように、強く、強く、願った。
     クラッシャーとして生きて、こんな恥さらしな真似は初めてだった。若い頃の失敗はいい。それが経験にもなる。しかしベテランは違う。あらゆる経験・戦術・手段を用いて、針の穴ほどの可能性に賭けることが問われる。
     成功か失敗か。この二択しかない。そこまで能力を研ぎ澄まし、熟練させていることを意味する。だからこそ今の体たらくは、タロスにとって屈辱でしかない。自身のコンディションを見落としていた。身体ひとつさえあれば成り立つクラッシャーの世界で、致命的なミスを犯した。
     これではただの老人と同じである。
    「タロスー!」
     頭上からリッキーの声が響いた。かぶりを上げる。
    「なんか妙なドアがあるぜ!」
    「開けて妙なもん、引っ張り出すんじゃねえぞ」
    「りょうかーい!」
     脱出口か。タロスはその両足に、さらに力を込めた。


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■263 / inTopicNo.12)  Re[11]: クロック・タワー
□投稿者/ まぁじ -(2002/10/30(Wed) 10:41:21)
     リッキーが待つ頭頂部に、ようやくタロスが追いついた。そしてタロスが屈み込んでようやく通れる、小さなドアをくぐり抜ける。2人が立っているのは、空間の縁取り部分。その先には、床がない。骨組みだけだ。まるで平均台を格子状に組み合わせただけの、足場。
     下には螺旋階段の途中で見た、時計塔の動力部分。複雑な歯車や部品が、ぎいぎいと音を立てて動いていた。
     その骨組みの上には、2メートルほどの柱が何本も立っている。まるでバースデーケーキに蝋燭を立てたような。一定の間隔を空けて設置されていた。
    「タロス、あの奥って」
     およそ50メートル先に、突き当たりの壁がある。その下部に、丸いドアのようなものがあった。小さい。リッキーなら余裕だろうが。
     タロスの脳裏に、屋敷全体の見取り図が浮かぶ。
    「違げえねえ。……時計塔の文字盤に出るドアだ」
     メンテナンスあるいは時計の針を調整するために、外の文字盤に出られる抜け穴だった。リッキーはクロノメータに目を移す。
    「あと30分。もう楽勝だね」
     そしてまたリッキーが先陣を切ろうとした。格子状の柱を伝って進もうと。
    「待ちやがれ!」
     タロスの太い腕がリッキーの肩を引く。
    「何しやがんでい! 下が丸見えだからって怖じ気づいたのかよ!」
     タロスが親指を立てて、天井を指す。
     陽光が降り注いでいた。だがリッキーにはその意味が分からない。
     するとタロスはクラッシュパックを降ろし、中に入っていた空の密封容器を取り出す。そしておもむろに、前方へと投げた。
     ぱあん、と容器が瞬時に砕け散る。リッキーのどんぐり眼が大きく見開いた。
    「な、なんだあ……」
    「ソーラーシステムの羽が、高速でプロペラみてえに回ってんだよ。あの立ってる柱の周りでな」
     言われてリッキーは目を凝らす。
     何も見えない。風も感じない。風切り音すら聞こえない。ソーラーシステムに負荷を生じさせない、高性能な仕組みだった。抵抗が無ければ、稼動による機器類の金属疲労も最小限に抑えられる。半永久的な使用を目的とした設備だった。

    「だからおめえは甘いってんだ。どんな状況でも、周囲の観察を欠かしちゃいけねえ」
    「う、うん……」
     リッキーは素直に応じ、ごくりと固唾を飲んだ。迂闊に踏み出していたら。ソーラーの羽の威力で、挽肉にされていた。
     その隣で。タロスは思案した。
     この状況下では、外への最短ルートはここしかない。武器は一切ない。そして、時間ももうなかった。
     契約不履行だけは、クラッシャーの誇りに賭けても回避しなくてはならない。
     するとタロスは無言のままクラッシュパックを降ろした。
    「リッキー」
     名を呼び、ベルトを調節してリッキーの背に回した。
    「おめえはこれを持って脱出しろ。必ずな……」
    「ええっ?」
     タロスの言葉の意味が分からない。だがリッキーは、促されるままクラッシュパックを背負わされた。そして巨体を見上げる。
     タロスは通信機で最後の連絡を試みる。
     スイッチを入れると、幸運なことにノイズが晴れていた。振り返れば、さっきまでの妨害電波はきっと、ベラのあの奇怪な音波のせいだと察した。
    「ジョウ」
    「……タロスか」
     通信機から、安堵とも喜びともとれるジョウの声が跳ねた。
    「今、何処ですかい」
    「さっきガレオンに戻ったばかりだ。ちょいと派手に、外壁をぶち破っちまったがな」
     とはいえ、ジョウはシリコニウム弾で外側から補修をしておいた。自分達の強行が、ベラをこの時計塔から漏れさせたとなっては失態に過ぎない。
    「アルフィンがベラの幼虫にやられた。今ドンゴに治療の調査をかけさせてる」
    「そうですかい。大したことにならなきゃいいですが」
    「だから一刻も早く戻りたい。そっちは今何処だ」
     タロスはちらりと、足元にいるリッキーに視線を移す。その双眸から放たれる光が、やけに優しい。リッキーには何となく、嫌な予感が走る。
    「時計塔の文字盤から脱出しやす。降りるルートを確保してくだせえ」
    「分かった」
    「それと……」
     タロスは一旦言を切る。
     何がタロスに去来したのか。唇を噛みしめ、一瞬、重い空気が漂った。
    「ジョウ。……あんたと仕事ができて、あたしゃ本望ですぜ」
    「どういう意味だ」
     通信機のジョウの声色が訝しんだ。
    「これからリッキーを脱出させやす。後は、頼みましたぜ」
    「おい! タロス! おまえ……」
     一方的にタロスは通信を切った。ジョウから返信が来ないよう、電源そのものをオフにする。だがリッキーの通信機から返信が来た。
     応答に出ようとすると、タロスの手がそっとそれを制した。
    「……なんだよタロス。……一体何考えてんだよ」
     リッキーの大きく見開かれた瞳が、瞬きを忘れてタロスを凝視する。その視線を真正面で受け止め、タロスは口端を少しだけ上げた。
    「このソーラーを止める方法は、ひとつしかねえや」
     そしてようやく、にやりと顔全体で笑って見せた。
     だがリッキーにはそれが酷く恐ろしく映る。
    「いいかリッキー。クラッシャーてのはな、どんな困難をも乗り越えてこそ一人前になれる」
    「なんで今、そんな妙な話を持ち出すんだよ……」
     とてつもなく嫌な予感。
     リッキーにとって今まで感じたことのない、鳥肌が尖っていく恐怖だった。
    「達者でやれよ」
     それだけ言うと、タロスはわずかな床の部分から動き出す。
     そして自ら骨組みに腰を掛けると、柱を掴んで身体を投げ出した。そして巨体がぶらりと揺れる。
     宙吊りになったからだ。
    「タ、タロス! 何すんだよ!」
    「おめえはそこで待ってな!」
     タロスの身体は、柱を掴んだ両手だけが支えている。脚元に広がっているのは、時計塔の剥き出しとなった動力部分だ。
     タロスの決意。
     我が身を最期の武器として、時計塔の動力部分を破壊する。
     その強行に出た。
     機銃も使えない。このソーラーシステムを破壊するだけの体力も残されていない。そして任務中という最も緊迫した時であっても、抑えることのできなかった胸の痛み。
     これが限界。クラッシャーとしての限界。そう観念した。
     ならばアラミスで安心しきった第二の人生を送るよりも、この難関をクラッシャーらしく突破する方が自分らしい。この稼業に捧げた人生だ。と、タロスは沸き上がる達成感に身震いすら起こす。
     何も悔いることはない。
     些か自分の予測よりも、早く訪れた限界ではあった。しかしガンビーノのように、覚悟を決められる間もなく人生を閉ざされた者もいる。
     それに比べれば。
     覚悟を決められるだけでも、自分は幸せだ。
     タロスの胸を、ある感情がいっぱいに満たしていく。それは後を継ぐクラッシャー達への、期待とエールだった。


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■264 / inTopicNo.13)  Re[12]: クロック・タワー
□投稿者/ まぁじ -(2002/10/30(Wed) 10:42:12)
     リッキーの制止を振り切るように。柱を掴んだタロスの両手が、するすると進んで行った。中心まで行かない所で、骨組みが一旦区切られたため、先が途絶えた。そこでタロスの両手が止まった。
     リッキーはその光景をがくがくと震えながら見ていた。
     タロスがやろうとすること。それがもう充分に分かったからだ。
    「やめてくれよ! タロス! 格好わるいぜ!」
     涙が滂沱のことく溢れ出した。タロスの考えが鮮明に伝わったせいで。
     タロスがいなくなる。
     タロスが自害を選ぶ。
     これを止められるのは自分だけだというのに。脚がすくんで一歩も進めない。
    「大馬鹿野郎」
     タロスの返事が、柱の下から返ってきた。
    「俺らは、死ぬんじゃねえぜ。任務を全うする。……それだけだ」
     すると。
     ふっ、とタロスの両手が柱から離れた。
    「タロス!」
     リッキーはその場で立つ力を失った。
    「タロスー!!」
     あらん限りの声を発した。
    「タロスの馬鹿野郎ー!」
     リッキーの耳朶に。
     ぐしゃりという音が響いた。そしてぎいぎいと、何かがプレスされる音が響く。
    「うわあああっ!」
     両耳を押さえ、リッキーは身体を暴れさせた。錯乱する。想像するだけで吐き気がする。タロスの肉体が、無惨にもあの歯車に巻き込まれていく光景。
     リッキーは四つん這いになったまま、身体を震わせた。

     そして。
     ソーラーの羽から音が漏れ始める。加速がどんどん緩んだせいで、自然現象的な抵抗が空気中に生まれたからだ。ひゅんひゅんと音がペースダウンしていく。
     やがて、永遠に回ると思われたプロペラが、力尽きたように止まる。時計塔の動力部分が死んだ証拠だった。
     そして同時に、タロスの判断が正しかったことを意味する。
    「うっ……うう……ひっく……うう」
     リッキーは泣き伏した。
     脳裏にタロスの姿が浮かび上がる。あの傷だらけのフランケンシュタインのような顔で、何度怒られただろうか。小さなことをネタに、何度タロスとレクリエーションを繰り返しただろうか。そしていざとなると、誰よりも自分をカバーしてくれた。
     リッキーの耳には今でも聞こえる。
     だからおめえは役立たずなんだよ。
     数え切れないほど浴びせられた、タロスの罵倒。酷く懐かしい響きがこもっている。
     そして、本当にそうだと、小柄な身体をより震わせた。
     何時間も時が流れた気がした。
     しかし実際にはまだ数分しか経過していない。ようやく、袖口の通信機から、ずっと鳴りやまない呼び出し音に意識が向いた。
     顔をびしょ濡れにし、両目を真っ赤に腫らしたリッキーは、力無くスイッチを入れる。
    「リッキー!」
     ジョウの声だ。切迫している。
    「何が起こった! タロスは!」
     うっ、と嗚咽がまたこみ上げた。言葉にならない。タロスを失った哀しみが、リッキーをすっかり萎縮させている。
    「リッキー!」
     すると、そのジョウの声の裏から。またタロスの声が空耳のごとく届いた。
     おめえそれでもクラッシャーかよ。
     あのどすの利いた声だった。
    「くう……」
     リッキーはぎりと奥歯を噛みしめた。
     そして両腕に力を入れ、ショックに打ちひしがれた肢体を引き起こす。だが膝ががくがくと笑う。リッキーはそれを拳で殴りつけ、自分に鞭を打った。
    「タロ……ス……」
     よろよろと立ち上がる。
     ここで自分が費えては、任務の失敗はおろか、タロスは無駄死にとなる。ピザンでもそうだった。ガンビーノの死を気力に変えて、不可能を可能へと転じさせた。
     いま、それをやらなければならないのは。
     リッキー。
     小柄なクラッシャーの双肩に、重くのしかかっていた。

    「……兄貴!」
     リッキーはついに、タロスが託した意志を己の力に変えてみせた。大きいだけかと思われた双眸に、熱い決意がみなぎっている。そして右の拳で、頬を伝った涙を拭い去った。
    「事情は後で話す! とにかく俺らを拾っとくれ!」
    「オッケイ」
     通信を切ると、リッキーは大きく深呼吸をする。この柱から脚を滑らせたら、全てが水の泡。とはいえ慎重に渡っては、時間が勿体ない。
     だから一気に突っ切る。自分の身軽な身体能力を信じ、そしてタロスの加護を信じて。
     リッキーは敢えてもう脚元を見なかった。
     数メートル下の光景にもしタロスの姿をかけらでも見つけたなら。確実に自分を見失う。それが分かっているだけに、振り切るしかなかった。
    「俺らのくそ度胸ってやつ……。見てろよ、タロス」
     独り言のように言い放つと、リッキーはその場を力強く蹴った。


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■265 / inTopicNo.14)  Re[13]: クロック・タワー
□投稿者/ まぁじ -(2002/10/30(Wed) 10:43:00)
     ガレオンから、ジョウが飛び出す。手近な巨木をよじ登ると、無反動ライフルを時計塔の文字盤に定めた。すかさず文字盤の下方に向け、トリガーボタンを押す。
     先端が飛ぶ。
     それに次いで、細いロープも弧を描き放出された。強力な粘着質の先端が、照準通りに文字盤の一点に吸着する。そしてジョウは、ロープの先を巨木の枝に縛り付けた。これを伝って滑り降りて来る際、減速を計算しながら。少したるみを持たせてロープを結びつけた。
     再びかぶりを上げると。
     文字盤の7の文字の下に。リッキーの姿が丸い穴から現れた。小柄ゆえ、この高度では非常に小さく見える。しかし影はそれだけだった。タロスの大きな影がない。
     ずっとジョウを責め立てている不安感が、爆発的に広がった。
     何かがあったのだ。
     タロスの身に。
     しかしジョウは唇を噛みしめ、敢えてリッキーに問いつめなかった。この高度を、つたないロープで下りてくるだけでも状況的にはシビアだ。下手に動揺させてはいけない。
     ジョウは嫌な胸騒ぎを必死に堪え、まずはリッキー救出を急ぐ。
    「リッキー! いいぞ!」
     通信機で号令をかけた。
     するとリッキーは両手でロープを掴み、さらに片膝を掛けて弾みをつけた。レンジャー部隊のごとく、一気に急降下するつもりだ。
     ジョウは、ごくりと固唾を飲む。<ミネルバ>に戻る時間を考慮すると、ジョウ達のプロリスは、採取から1時間半が経過していた。だがリッキー達の状況はまだ分からない。産卵室には、明らかに雄が少なかった。獰猛な正確ゆえ、攻撃に率先して出てきたせいか。密封容器の半分も満たせなかった。
     だが雌のプロリスはフルタンクだ。
     もしリッキー達が雌のプロリスを重点的に採取していたら、再び仕切直しだ。しかし今は最悪の事態は考えない。ジョウは、タロスとリッキー達の働きに賭けた。
     そしてリッキーは、たった1本のロープに全てを委ね滑り出す。
    「よし!」
     絶好の体勢で降りてきた。ジョウはすぐに通信機でドンゴを呼ぶ。
    「キャハハ。オ呼ビデショウカ」
    「<ミネルバ>の発進準備を整えろ! 戻ったらぶっちぎる!」
    「了解シマシタ。キャハッ」
     連絡が終わると同時に。
     高速で滑り落ちて来たリッキーが、地上わずか2メートルの所でぱっと身体を離す。ひらりと見事に着地した。
     ジョウもすかさず巨木から降りると、リッキーに駆け寄った。訊きたいことが山ほどある。プロリスはもちろん、タロスのことも。
     だがリッキーが先に怒鳴った。
    「兄貴! こっちは採取から2時間を切った。急いで戻ろう!」
     タロスがそう言ったのか。それを切り出そうにも、リッキーが先にガレオンへと走った。ジョウもすぐに追う。話は後か。タロスは何らかの理由で、脱出を断念したのだろう。ならば先に用事を済ませて回収すればいい。タロスならば、この邪気な時計塔でも生き延びられると踏んだ。
     ジョウはそう判断した。
     まさか自害を選んだとは。想像すらしていなかった。
     3人のクラッシャーを乗せて、ガレオンが猛発進する。地表を掻き上げ、瞬く間に転身して去った。

     ガレオンは、エンジン全開で<ミネルバ>に接近する。<ミネルバ>はすでに、垂直離陸状態で待機。後方のハッチが大きく開け放たれたまま、地上十数メートルをホバリングしていた。
     ガレオンのノズルから閃光が光った。地上装甲車がふわりと宙に浮く。荒っぽくも確実に、後部ハッチから格納庫へと叩きつけた。
     キャタピラがエッジ音を激しく立て、やや半回転して停車した。上部が開く。リッキーが二つのクラッシュパックを手にして飛び出した。ジョウは意識を失ったアルフィンを引きずりだし、横抱きにして運び出す。
     疾駆する足音がブリッジに響いた。帰還をキャッチしたドンゴは、動力コントロールのボックスシートに移動する。
     ブリッジのドアが開いた。
     リッキー、そしてジョウとアルフィンが飛び込む。
     ジョウはアルフィンを空間表示立体スクリーンのシートに座らせ、シートベルトを止めた。リッキーは副操縦積に就くや否や、ドンゴに報告する。
    「ドンゴ! カウント50!」
    「キャハ。了解」
     卵を横倒しにしたような頭部のレンズに、タイムカウンターが表記された。残り時間50分を意味する。
     ジョウが主操縦席に就く。そして一気にパワーレバーを引いた。
     <ミネルバ>のジェットノズルが咆哮を上げる。森林をなぎ倒して、急発進した。<ミネルバ>の船首が、天に向く。重力に抗い、船体が悲鳴を上げるほどの急加速である。
    「出力140パーセントまで上げる!」
    「オ……オッケイ」
     強烈なGに押し潰されながらも、リッキーは応えた。
     ジョウとて内臓がおかしくなりそうだった。

     レ・ラベンスの衛星軌道上に出た。
     出力160パーセントまで上げ、隣のラ・ルベンスを一路目指す。すでに慣性中和機構のコントロールは全く利いていない。骨をも砕きそうな圧力を、ジョウは筋肉で弾き飛ばす。
     一方。いつもならば意識が途切れるリッキーだが、今はその精神力で持ちこたえている。ジョウはパブフロードの私有エアポート管制室に連絡を取ると、薬学スタッフを緊急要請した。
     鮮度を保護する処理を一刻も早く行えれば、ぎりぎりセーフの状況である。
     あとはひたすらGに耐え、無事ラ・ルベンスへと降り立つだけとなった。
    「……リ、リッキー」
     声を発すると、肺がぎしりと軋む。
     だがジョウはこのわずかな時間を、もう持て余せずにいた。
    「……どうした、タロスは」
     するとリッキーが顔を、ジョウの側に向ける。
     Gの苦しみなのか、もっと別の理由なのか。表情が壊れそうに歪んでいた。
    「あ……兄貴ぃ……」
     堪えてきたものが、ついに溢れ出す。リッキーのどんぐり眼から、ぼろぼろと涙がこぼれた。ジョウもそれには驚きを隠せなかった。動悸が速くなる。
     振り払ってきた、嫌な予感。それが的中しそうだった。
    「……お、俺らを……脱出させるために……タロスは」
     そこで言葉を詰まらせた。
     身体がしゃくり上げを要求する。しかしGがそれを抑えつけ、身体をより硬直させた。リッキーはただ拳を目元にあて、嗚咽を漏らす。
    「……いい」
     ジョウは短く応えた。
    「……言わなくても、分かった」
     そして奥歯をぎりと噛んだ。
     死んだ。
     タロスが殉職した。
     ジョウもそれを理解した。状況は分からずとも、その結論だけでもう充分だった。ジョウにも熱い感情がこみ上げてくる。
     自分がチームリーダとなってから。ガンビーノに次いで、タロスまで失うとは。それはつまり、チームリーダーとしての資質が問われる。作戦が甘かった。事態を見誤った。
     ジョウを責め続ける言葉が脳裏を駆けめぐる。
     だがその耳朶に、檄が飛んだ。
     ジョウ。あんたは仲間を一人失ったくらいで、冷静さを欠いちまうんですかい。
     タロスの叱咤だった。
    「……分かってるぜ……タロス」
     感傷に浸っている場合ではない。まずはこの任務を全うすることが先決だ。
     だからジョウは、タロスの幻想を掻き消した。
     今は積み荷を運び届けることだけに集中する。そう自分に言い聞かせる。
     しかし、ジョウの頬に。
     一筋の涙が無情にも伝う。だがそれすらもジョウは、痛いくらいに拳を擦り、消し去ってやった。


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■266 / inTopicNo.15)  Re[14]: クロック・タワー
□投稿者/ まぁじ -(2002/10/30(Wed) 10:44:22)
     それから約14時間後。
     レ・ルベンスの上空に、一隻の小型外洋宇宙船が飛んでいる。船体には流星マーク、そして垂直尾翼には“J”の文字。<ミネルバ>だった。
     人命救助という名の、プロリス採取は無事任務を終えた。パブフロード家から言い渡されていた所要時間よりも早く戻ったこと。そして雌雄のプロリスを確実に運搬したこと。シニア・パブフロードを筆頭に、一族を歓喜させた。
     そして、作り出された治療薬によって、瀕死の状態だった少年の容態は小康状態へと落ち着きを取り戻す。もちろんまだ治療は続く。しかし緊迫した非常事態を振り切ることはできた。
     名門パブフロード家からの惜しみない感謝と栄誉が、クラッシャー達に与えられた。
     しかし心は晴れることがない。
     タロスの殉職について、あえてジョウは伏せた。高齢のシニア・パブフロードへの配慮である。自分の孫を救うために、尊い命がまた失われたと知ったら。すでに敬虔な部下を失い、失意の底にいたシニア・パブフロードである。余計な心労を与えたくもない。
     そしてクラッシャーが任務中に命を落とす。
     この稼業に身を投じることで背負う、宿命でもあったからだ。
     少年の容態の確認、アルフィンの傷の処置、契約終了の諸手続など。一通り終えてから、ジョウ達は再びレ・ルベンスへと降り立つことに決めた。
     アルフィンの体力回復を待ってから、リッキーがこれまでの経緯をひとつも漏らすことなく報告した。隠してきた体調不良のことも。意識を取り戻して事態を知ったアルフィンは、酷く泣いた。誰かを責めることも、当てつけることもできない感情の波を、ただジョウの胸にぶつけるだけだった。
     そして3人はひとつの結論を出した。
     レ・ルベンスで、タロスの弔いをしようと。
     リッキーの説明からすれば、その肉体を回収し、宇宙葬を執り行える状況ではなかった。きっと諸々の機器に巻き込まれ、粉々にされていることが想像できたからである。

     やがて。
     3人それぞれの想いを乗せて、<ミネルバ>が時計塔の付近にまで近づいた。
     主操縦席でジョウが、静かにその船体を着陸させる。潜入の際に利用した空き地にである。
     ブリッジはずっと重苦しい空気に満たされていた。
     タロスがいない<ミネルバ>は、とてつもなく広く感じる。2メートルを越える巨漢のせいだけではない。存在そのものが大きすぎて、いないという事実を余計に露呈させたからだ。
     タロスがいなくなると、<ミネルバ>の空気には締まりが欠けた気がした。最年長となるジョウでさえ、まだ若干の19才。銀河系随一を誇るクラッシャーチームというムードは、タロスの渋味のある存在が、若さと円熟さをうまく調和させていただけに。
     惜しい逸材を、ジョウのチームは失った。
     そして3人は<ミネルバ>を降りた。
     徒歩で時計塔へと向かう。ガレオンでも10分は要する道のりだが、様々な思いを抱きつつ踏みしめて向かいたい。
     ジョウ達全員、共通した気持ちだった。
     30分以上、しかし1時間はかからない頃。鬱蒼と茂る森林を抜け、時計塔が目の前に現れた。文字盤の針は、止まったままである。それが皮肉にも、タロスの死亡時刻を指し示すこととなった。
    「……う」
     ジョウの隣で、アルフィンがまた嗚咽を漏らす。震える細い肩を、ジョウは優しく抱いてやった。リッキーは必死に歯を食いしばり、涙を堪える。しかしどんぐり眼には、今にも溢れそうなほどの涙が溜まっていた。
     ジョウは暫く時計塔を眺めると、ゆっくりとかぶりを垂らす。胸の中一杯に、タロスの名を呼んだ。アルフィンの肩に乗せた指に、力がこもっていく。
    「……最高のクラッシャーだったぜ……タロス」
     そう言葉にして、ぐっと喉を詰まらせた。
     ジョウの鼻の奥がつんと滲みてくる。
     視界に広がる地面が、みるみるうちに水面のごとくゆらりと歪み始めた。瞬きをし、不意打ちで溢れてきた涙を落とす。
     これを最後にする。ジョウはそう心に決めた。
     いつまでも弱々しく泣いている訳にはいかない。これでは逆にタロスを心配させるばかりだ。チームリーダーとして、補佐役もなくして、独り立ちをしなければならない。そのためにも、もう涙は見せられないと決意した。
    「タロス……」
     リッキーもぐいと拳で顔を拭う。
     タロスから分け与えられたたくさんのものを、しっかりと受け継いでいかなければ。そしてリッキーの胸中に深く刻み込まれた、タロスのクラッシャーとしての生き様。恥じぬよう、自分も早く一人前にならなければいけない。
     そうやって。
     男達はそれぞれにひとつの結論を、時計塔の奥で眠るタロスに誓った。
     しかしアルフィンだけはまだどうしても、気持ちを整理できる余力を持てずにいた。
     するとリッキーは、さらに時計塔へと歩を進め、近づいた。
    「タロスー!」
     聞こえる筈もないというのに、腹の底から大声を発した。
    「喧嘩相手がいないからって、寂しがんなよな! 老人同士、ガンビーノと仲良くやれよ!」
     タロスに捧げる、リッキーらしい最後の皮肉。
     生意気な言葉。
     だがそれは、タロスにとって最高の賛辞になる。そう3人は思った。


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■267 / inTopicNo.16)  Re[15]: クロック・タワー
□投稿者/ まぁじ -(2002/10/31(Thu) 11:35:25)
     冗談じゃねえや。
     そんな空耳さえも、3人に共通して耳朶を打った。タロスなら応えたであろう、馴染みの台詞を。
     これはタロスに気持ちが届いたことを意味する。誰もがそれを信じ、疑いすらしなかった。
     しかし。
    「……このスットコドッコイ。おめえの目玉は、やっぱり節穴だらけだな」
     なぜか空耳が続いた。
     3人の表情が呆気にとられる。言葉を交わさずとも、この異変を感じ取っていることを悟った。
     違う。
     空耳ではない。
     すると時計塔の麓にある草場から、ゆらりと人影が現れた。3人は目を見開いたまま微動だにしない。
    「ゆ……」
     リッキーがかろうじて声を絞り出す。
    「幽霊かよお……朝っぱらから」
     のっそりと現れた人影。それはタロスそのものだった。左腕の機銃がひしゃげ、もげてはいるが。しっかりと二本の脚が大地を踏みしめている。
    「やれやれ……、まったドルロイに特注しねえとな」
     そして傷だらけの凄貌を向けると、にやりと笑った。
     タロスだ。
     生きていた。

    「タ……タ……」
     リッキーは驚きのあまり、顎ががくがくと震える。
    「……おいおいリッキー。まさか、ちびってんじゃねえのか?」
     そして余裕たっぷりに、皮肉混じりの笑みを見せる。
     ジョウ、アルフィン、リッキーの表情がみるみるうちに陽が指した。3人は、わっとタロスに駆け寄り、そして強く抱きついた。
    「タロス!」
    「んもお! 不死身なんだから!」
    「うわああああん!」
     タロスは3人にしがみつかれ、照れ臭そうにする。もともと血の気のない蒼白な顔色に、うっすらと赤みが射した。
    「……まったくねえ。これがクラッシャーのすることですかい」
     そう皮肉ってみせた。

     時計塔の中で、タロスは武器も怪力も尽きていた。
     しかし、運だけは尽きていなかった。
     確かにタロスは、時計塔の頭頂部からその身を投げた。動力部分の巨大な歯車に、横倒しになったため左腕が真っ先に犠牲となった。
     しかし、そこで歯車が停止した。
     いきなり132キロの巨体、しかも8割がサイボーグ化された鉄の塊が墜ちてきたのである。これではひとたまりもない。
     時計塔の動力は、精巧さは追求したものの、衝撃への耐久性をそれほど重要視していなかったのかもしれない。そもそも、天から鉄の塊が墜ちてくるようなハプニングすら、設計の予測を越えていた。
     ソーラーシステムが完全に沈黙した。
     そして巡ってきた幸運期はさらに続く。
     電力供給が失われ、光を失った時計塔は漆黒の闇に包まれる。と同時に、発光パネルから放出されていたほのかな暖気も消えた。するとベラの成虫の活動に異変が起こった。活動そのものを停止したのである。
     学者のベラ生態データになかった情報が、さらにひとつ。ベラには、冬眠というメカニズムが組み込まれていた。つまり温度環境が一転したことで、ベラは冬眠の時期と勘違いしたのだった。
     だからタロスは、ベラの猛威を浴びることなく脱出を試みることができた。
     時折、胸の痛みに苛まれながらも。左腕の機銃だけを犠牲にすることで、潜入した屋敷右方のドアから抜け出すことに成功した。
     休み休みの行動だったゆえに、少しばかり時間を浪費してしまう。丁度ジョウ達が、ラ・ルベンスからレ・ルベンスへと、再び向かった頃に外に出られた。
     機銃を失ったことで、袖口の通信機も破壊されてしまう。だからタロスはしばし途方に暮れていた。どうやって連絡をとったらいいものかと。
     けれども分かってはいた。きっとジョウ達は再び、この地に舞い戻ってくると。クルーの信頼関係、そしてひとつになった思いがあれば。
     通信機などなくとも、通じ合うことはできていた。

     レ・ルベンスを4人のクラッシャーが去った後。
     向かった先は、グレーブのパスツール記念病院だった。かつてジョウが、殺人結社《クリムゾン・ナイツ》との戦いで重傷を負った時に、運び込まれた病院である。アラミスがスポンサードをしている関係で、負傷したクラッシャーの多くはここに収容される。
     真っ白な病室に、病院着を纏ったタロスがベッドにいた。ピローを背もたれにし、傍らには簡易チェアに腰を下ろしたジョウがいる。
     リッキーとアルフィンは、呑気に売店へと出向いていた。
    「シニアの孫が、あと10日もすれば退院だそうだ」
    「おお、そりゃ良かったですな」
    「それと時計塔のことなんだが……」
    「やっぱり契約違反……ですかい?」
     タロスはばつの悪そうな顔で、ジョウを覗き込む。そして頭の後ろを、大きな手で掻いた。
     パブフロード家としては意味合いの重い時計塔だというのに、破壊し、止めてしまった。全壊はせずとも、これはこれで問題ではある。
     シニア・パブフロード家との契約違反。その言葉が、タロスはずっと引っ掛かっていた。
     だがジョウは口元に笑いを浮かべた。
    「いや、却って好都合だったみたいだぜ。なにせベラが冬眠しちまったからな。すべて回収して、調査用と治療薬用にと、それぞれ保護管轄下で管理するそうだ」
    「……ってこたあ、一掃できたってことですかい」
    「ああ。お手柄だったと、シニア直々からタロスに伝えてくれと言われたさ」
    「そうですかい」
     タロスはほっと胸を撫で下ろす。
     そして言を続けた。
    「最後の仕事でヘマしちまったら、後味悪いですからなあ。これで安心して引退できますぜ」
     タロスの表情とは逆に。
     ジョウは困惑する。拳を顎に当て、静かに切り出した。
    「……固いのか。その決意は」
     タロスはジョウから目線を外すと、少し離れた窓際に視線を投じる。
     その横顔は満足とも、老人のものとも、ジョウの瞳に映った。
    「こんな老いぼれがいるだけ、ジョウの脚をひっぱりやす」
    「しかし、ガンビーノよりも時期早々だ」
    「あたしに飯炊きをしろってんですかい? へっ、そりゃ無理ってもんでしょうよ」
    「そういう意味じゃないんだが」
     ジョウはしつこく粘った。
     タロスの働きが例え減退したとしても、<ミネルバ>に引き留めておきたい。精神的な存在感の大きさだけでも、まだ手放したくはなかった。
    「ま、おやっさんよりも長く、クラッシャーを続けられただけでも本望ですぜ。それにジョウ、あんたもそろそろ補佐役がなくてもいい頃だ」
    「それは買いかぶりすぎじゃないのか。俺はまだ……」
    「いいえ……」
     タロスはかぶりを振った。
    「確かに、あっしもまだ不安な部分はあります。けどジョウ、あんたなら自分の脚で一人前になれると見込んだ。半端な降り方ですがね、おやっさんもあたしを免じてくれると思いますぜ」
    「そういうことなら、俺の心配はいい。確かに、タロスの言うとおりかもしれないしな。甘えを捨てる意味でも。……ただ、俺は同じクラッシャーとして、現役を退くことの覚悟が知りたい」
    「覚悟もなにも……」
     タロスはぼそりと呟いた。
     その返答からジョウは察した。タロスの気持ちはまだ現役のままだ。気配からでもう分かる。ただ、身体が言うことを利かないのだ。それだけに、よほど己を恨めしく思っているのだろう。
     だがらそれ以上、タロスから言葉は返ってこなかった。


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■268 / inTopicNo.17)  Re[16]: クロック・タワー
□投稿者/ まぁじ -(2002/10/31(Thu) 11:36:18)
     やがて病室に賑やかな面子が戻ってきた。リッキーとアルフィンである。両手にスナック菓子やドリンクを抱えての登場だ。
    「しけてんだぜえ。ジャンクフードは駄目ってさあ、こんなしょぼいもんしか置いてないでやんの」
    「仕方ないわよ。病院なんですもの」
     二人の他愛ない会話が、固い病室の空気を和ませた。
     タロスとジョウはここで、深刻な話を切り上げた。
    「……しけた所で、すまなかったね」
     品のいいテノールが、ドアに立ち尽くしたリッキーの背後から響く。
    「わわっ!」
     リッキーは慌てて病室に飛び込んだ。
     そしてジョウとは反対側の、タロスの脇に逃げ込む。
    「気分はどうですか、ミスタ・タロス」
     タロスの主治医である、ドクター・レイズニーだった。中肉中背でメガネをかけ、温和な顔つきをしている。
    「へへっ、どうも。のんびりと余生を過ごさせてもらってやす」
    「余生とは……。つい数日前まで、大活躍されたクラッシャーの言葉とは思えませんね」
     ジョウは簡易チェアから立ち上がり、あくまでも引退を翻すことのないタロスに肩をそびやかした。アルフィンもそんなジョウの仕草に、頑固よね、と言いたげな表情で返す。
     
    「さて、ミスタ・タロス。あなたの検査結果が出ました」
    「へ、へい……」
     引退への覚悟は決めた。
     しかし改めてそれを受け入れる宣告を、これから聞くのである。タロスは無意識のうちに、下肢に掛けられたブランケットを握り締めていた。
     ジョウ、アルフィン、リッキーもその場に立ち尽くしたまま、ドクター・レイズナーの言葉に神経を集中させる。
    「先に質問なんですが」
    「へい」
    「あなたが最後に、サイボーグ部分のメンテを行ったのはいつですか?」
     言われて、タロスの両手からブランケットが外れた。
     いつだったか。首を捻らせた。
     そして難しい顔つきのまま、両の腕をおもむろに組む。
    「記憶にないくらい昔、という意味ですか?」
    「……面目ねえ」
    「いけませんね。きちんと定期点検をしなければ」
     ジョウは、レイズナーの笑みから何かを察した。
     だが確認せずとも、レイズナーの口が先に解答を明かした。
    「比較的小さな部品なんですがね。胸の部分にある部品です。それが金属疲労を起こして、ショートしかけていました」
    「ショート?」
     タロスが繰り返す。
    「ええ。それが胸の痛みの原因です。他の機器の電気系統に、狂いを生じさせてました。機銃が途中から機能しなくなったのも、どうやらそのせいです。最近このパスツールにもサイボーグ専門医が来ましてね、簡単な手術で良さそうですが」
    「それじゃあ……」
     ジョウの口から、驚きと喜びが混じった声色が発せられた。

    「メンテを怠った結果です。それ以外の臓器に関しては、まったく問題ありません。健康体そのものですよ。体力検査を詳しくすれば、そうですね……」
     レイズナーは勿体ぶるかのように一拍開けると、言葉を続けた。
    「40代ほどの内臓年齢です。まだまだ、現役として充分な体力をお持ちだ」
     そういわれて。
     タロスは一瞬、惚けた表情を見せる。
    「あんだよ! 心配させやがってさあ!」
     リッキーが飛び上がらんばかりに喜んだ。そしてタロスの肩に、小さな拳でパンチをお見舞いした。もちろん、タロスにはダメージでも何でもない。
    「ほ……本当ですかい、ドクター」
    「ええ。私が保証します」
     すると。
     みるみるうちにタロスの顔が上気した。
     両の拳を胸元に寄せると、ぶるぶると全身をわななかせる。
    「畜生め……。脅かしやがって……」
     そんなタロスの浮かれ具合を、アルフィンがぴしゃりと制する。
    「何言ってるのよ! 結局タロスが自己管理を怠ったからでしょ。まったくもう、余計な心配をさせられたもんだわ! こっちの身にもなってよ!」
     まさに的を得た忠告。
     タロスは反射的にしょげかえり、そして頭を掻いた。
    「へえ、面目ねえ……」
     だがその表情は、嬉しげでもあった。
    「それでだな、タロス」
     ジョウの言葉に、タロスは敏感に反応した。
    「左腕はドルロイに倍額の500万クレジットを弾んで特注したが、やはり一ヶ月はかかるそうだ」
    「普通、数ヶ月かかるもんですぜ。一ヶ月たあ、随分無理を言わせましたなあ」
    「てことでよ、これは命令だ。70時間以内に復活してもらい、一ヶ月間は片腕のままだ。でなけりゃ、次の任務に間に合わないんでね」
     その命令に。
     タロスは、にやりと笑みを返した。
    「そりゃ殺生ですなあ……」
     包帯でつったままの、使えない左腕をさすりながらタロスは笑みを返す。
    「70時間は長すぎますぜ、ジョウ。……身体がなまっちまう」
     そして生気をみなぎらせた双眸を、ジョウに返してやった。



    <END>
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■269 / inTopicNo.18)  Re[17]: クロック・タワー
□投稿者/ まぁじ -(2002/10/31(Thu) 11:39:53)
    <あとがき>

    のぉぉぉぉぉ!
    読み返してみたら、とあるタロスの台詞の箇所が、リッキー口調になってますぅ(涙)。
    ・・・よくよく考えてみたら、リッキーの台詞でも、老人→×、年寄り→○、
    ですねえ(^^;)。

    ま、よろしいでしょうか。所詮、素人が書いているものですし。
    しかしワタクシ自身も、しばらく虫モノから離れたいものですわ(笑)。


fin.
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