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■282 / inTopicNo.1)  demonstration
  
□投稿者/ めばる -(2002/11/09(Sat) 16:02:17)


    ★ごあいさつ★

    とうとうやっちゃいました。
    ものすごく恥ずかしいです。
    だけどせっかくだから…… 勇気振り絞って……
    ――――と馬鹿を承知で投稿しちゃいます。

    なんせ文章力なぞ欠片もございませんので皆様の目を煩わせる事となると
    思いますが、よければ読んで頂ければうれしいです。

引用投稿 削除キー/
■283 / inTopicNo.2)  Re[1]: demonstration
□投稿者/ めばる -(2002/11/09(Sat) 16:09:41)


     漆黒の宇宙を思わせる程の夜の暗闇。まるで宇宙空間に放り出された様な気分になる。リゾート地スターコーラル内のホテルを出たときは確かにそう思った。
     星が遠くで瞬いているのみで、エアカーのライトが付くまでは真っ暗闇に近かった。自然を重んじるこのリゾートはホテル内の光も外に漏れない様工夫されている。この星には月が無い。だからより暗く感じるのかもしれない。
     ジョウは急に約束を申し着けてきたクライアントに会うため一人リゾートからメインシティのデアトロスへ向かっていた。デアトロスまではハイウェイで100分。結構な時間だ。本当なら空から行った方が効率的なのだがジョウには時間があり余っていた。
     それ故に態々陸上での移動を選んだのだ。
     走り始めて30分程すると、デアトロスの明かりと思われる都市の光が遠くに浮かび上がってくる。こんな時間に好んでリゾート方面から走る車両などジョウのエアカーただ一台。孤独感を煽る。その為かあの明かりがなんだかとてもありがたく感じ、つい知らずにスピードが上がる。
     徐々に摩天楼の光に包まれて行くころになると、ハイウェイの道が極端にカーブが多くなって来た。ご丁寧にエアカーのコンピューターがオートパイロットに切り替える様に警告を与える。シティ内に入ればより道が複雑に入り乱れる。事故を起こさせない様に配慮がしてあるのだ。まあ、当たり前といえばそれまでだが。
     しかしジョウは眠気を覚ますには丁度よさそうだとほく叟笑み、更にアクセルを踏み込んだ。警告音がけたたましく鳴り響く。流石に五月蝿い。微かに舌打ちしてスピーカースイッチを切った。

     ふいにエアカーの左サイドに銀色のエアバイクが張り付いた。
     新型らしい。流線型の艶やかなボディ。
     決して遅くは無いスピードの中でライダーが腕を伸ばしコンコンとエアカーの窓を叩いた。
     ジョウは驚いてライダーを見入やる。女だ。スーツのラインから分かる。女がメットカバーを微かに上げて笑みを零していた。
     やけに紅い唇。なんとも艶かしい。ゾクリとする。
     手で何やら合図をしている。レースをしようと誘っている様だ。
     ジョウも笑った。
     こんな所でこんな誘いを受けるなんて。いいさ。シティ内一周だけ。まだ時間はある。
     そう思った。珍しく相手の誘いに乗った。



     その頃リゾートではリッキーが悲鳴を挙げていた。
     日焼けのし過ぎで、背中一面水ぶくれを作っている。
    「おまえの馬鹿は本物だな」
     介抱役になったタロスが呆れた声を漏らした。
    「なんでぇ!タロスが変なクリーム塗った繰るからこんな事になっちゃったんじゃないか!」
     半場泣き声でリッキーは訴えた。
    「お前が早く真っ黒になりてえって言うからしてやったのに」
     ニヤニヤ笑いながら、薬を塗りたくる。
    「ひでえ。俺ら死ぬとこだったんだぜ。医者が言ってたじゃないかぁ」
     このリゾートの日差しは本当に強かった。日焼け用クリームなど必要なかったのだ。
     知っていてタロスはリッキーに強力日焼けクリームを塗った。ヒリヒリさせる位のつもりだったが度が過ぎた。結局医者の面倒になるはめになってしまったのだ。
    「おてんとう様の下で爆睡するからだろう。」タロスは呆れている。
     確かに自分も悪いかもしれないが生身の人間がパラソルの下にも入らず直射日光下で寝る奴の方が悪いと思っている。
    「気がついたら日陰が無くなってたんだい!」
    「だから馬鹿だっていうんだ」
    「馬鹿馬鹿っていうなよ!」
    「うるせえ。このとんちきが。ジョウに言われなけりゃお前なんぞここに転がしたまま死なせとくところだぜ」わざと残念そうにタロスが言う。
    「ひでえよ。タロス……。マジに……」リッキーは本気で泣いていた。
     タロスは鼻でフンと笑い、ふと真面目な顔になった。窓に目をやり夜の帳が降りた空を眺めている。
    「でもよ。アルフィンは毎日何処に行ってるんだかな」
     ティッシュで鼻をかみながらリッキーが大きく頷く。
    「そうだよ。アルフィンさえ居れば、俺らこんな事にならなかったかも知れないのに…」
    「ド阿保う。どうしたら自分にいい方にそう物事が考えられるんだ?」
     リッキーの頭を軽くガツンと一発殴り付けてタロスは言い捨てた。
    「だってアルフィンだったら『パラソルから出てるわよ』とか言ってくれたかもしんないじゃないかぁ」
    「甘えんな。タコスケ……」
     タロスはアルフィンの行動を心配しているのだ。このリゾートについて3日。アルフィンはまだ一度も自分達とビーチに出た事もない。朝早くから一人でどこかに出掛けて夜遅く戻って来る。
     ジョウと喧嘩をした風でも無い。だからといってジョウが何か言う訳でも無い。
     休暇中チームがつるんでいなければならない訳はないのだ。個々好きな様に休暇を満喫すればいい。詮索は必要ない。
     だがジョウとて気にならないという訳はないはずだ。その証拠にジョウの機嫌は日を追う事に悪くなっている。そんな事はリッキーでも気づいている。
    「俺ら、アルフィンに聞いてみようかなぁ。兄貴の変わりにさ」
     タロスを伺いながらぼそっとリッキーが言った。ジロリと視線を落とされるが、その口元は右上がりに笑っている。
    「ほうっ。おめえもたまには気が利く事を言うじゃねえか」
    「たまには余計だい!」
    「だがな、お子様はこれからお熱を出す時間らしいぜ。さっきの医者が言ってただろう。ガキは役には立たねえんだ。いいからさっさと寝ちまえ!」
     タロスはひらひらと掌を泳がすようにしてリッキーを残し部屋から出て行った。
    「ちくしょう!!」ベッドの上でリッキーが怒鳴った。


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■284 / inTopicNo.3)  Re[2]: demonstration
□投稿者/ めばる -(2002/11/09(Sat) 16:13:42)
    新型のエアバイクとレンタルのエアカー。どうしてもハンディが出る。だがその位のハンディが必要だと最初ジョウは思っていた。
     最新型モデルとはいえ相手は女だ。こっちは生抜きのクラッシャー。エアカーが古くてもこっちには技がある。そう易々とは負けはしまい。
     しかしカーブの度にエアカーが妙に浮き上がりハンドルの自由を奪う。いやでもエアバイクとの距離が開く。ブレーキなど踏まなくとも、エアカーの制御装置が勝ってに作動してスピードが落ちる。
     本来なら制御装置などぶち壊して全てをマニュアルに切り替えたいところだが、たかがハイウェイ一周のレースの為にそんな熱くはなれない。
     否、実は少々熱くなってきていた。
     エアバイクのライダーの腕がジョウを唸らせ、エアカーのありがたい機能がジョウを焦らす。直線で距離を縮め右左に揺さぶりを掛けてもピッタリと前を走る。ジョウに一度も抜かさせない。
     もう一周終えてしまう。もどかしい。
     クロノメーターに目を遣る。
    「ちっ」
     思わずジョウが舌打ちをした。
     クライアントに会う時間だ。もう遊んではいられない。
     ハザードを出し相手に気づかせる。俺の負けか……そうジェスチャーする。軽く右手を掲げ振った。バイクもそれに答えると、あっという間に遠ざかって見えなくなって行った。
     ジョウはゆっくりと息を吐き、首の筋を伸ばした。
     暫くすると出口が見えてくる。ウインカーを出しハイウェイを抜け出た。


     クライアントの依頼内容は小惑星の軌道修正。しかしこっちはその前に片付けなければ成らない先客が4件もあるのだ。
     なんだか気が乗らない。アラミスの斡旋。どうせ断れない。それが問題なのかもしれない。気が付けば生返事を繰り返していたようだ。
     クライアントの紳士が何かをいった。答えを求めている顔をしている。
    「えっ?っすみません。もう一度・・・」
     ジョウらしくない失態。慌てて気持ちを入れなおす。
     出された水を一気に飲み干した。
     仮契約を結び、明細データの入ったマイクロディスクを受け取ると、軽く挨拶を交わすし早々にジョウはその場を失礼した。
     エアカーを止めた地下駐車場へ足早に向かう。腕のクロノメーターを見た。また帰りに100分。ちょっと気が滅入るが仕方が無い。気が付くとエアカーの前に、いや正確にはボンネットに乗っている人影が目に入った。
    「あ・・・アルフィン?」思わず声を掛ける。
     アルフィンはエアカーのボンネットの上に両膝を抱えて寒そうに座っていた。声を掛けられて初めて気が付いたらしい。慌ててボンネットから降りてエアカーの脇に立ちなおす。
    「何やってんだ?」
     ジョウの声は以外に冷たい。言葉では言わないが明らかにアルフィンを非難している。夜遅くこんなところに、女一人でと。
    「ホテルに連絡したら、ジョウがここに居るってタロスが教えてくれたの」
     アルフィンはジョウの非難など気にしている様子はまったくない。
    「最終便に乗り遅れちゃって」寒そうに自分の体を抱くように両腕をさすって身を震わせた。
    「乗れよ」
     ジョウはエアカーのロックを解除し顎をしゃくった。
    「うん」
     うれしそうにうなずくと、アルフィンはエアカーの中に体を滑り込ませた。
     走り出す車の中、2人はまだ一言も口を利かない。アルフィンがたまにちらっとジョウを横目で見る。ジョウは無表情のままハンドルを握っている。
     普段ならアルフィンが辛抱しきれずになにか話し始めるところだ。だが、今回はこれも違った。気が付けば規則正しい寝息が聞こえ出したのだ。アルフィンは窓に頭を付けて気持ちよさそうに眠っていた。
     ジョウは腕を伸ばしアルフィンの頭をそっとシートに戻しリクライニングボタンを押す。アルフィンはまったく目を覚まさない。
     そんな顔をして眠られちゃ怒る気も無くなっちまう。少々呆れ顔でため息をつきながらジョウは心の中でつぶやいた。
     いつの間にか宇宙に放り出された様な漆黒の闇の中に戻っていた。だが往路に感じた冷たい虚無感はない。闇にやけに柔らかく包まれている感じがする。隣でアルフィンが寝ているせいか。ジョウは思わず苦笑した。
     何故か急にエアバイクの女性を思い出した。メットから覗いた口元、風を受けて見えた胸元の白い肌。艶かしい色気を感じた。
     慌ててジョウは妄想を振り払う様に首を横に激しく振った。いかん。どうしちまった。自分を問いただす。もう一度アルフィンを見た。なにか違和感がある。そして大きく息をついた。
     うちのじゃじゃ馬姫はまだまだ色気より可愛げなんだがな。心の中でそう呟いた。


     ホテルに着くとアルフィンを無理やり起こし部屋に向かう。リビングではタロスが待っていた。寝ぼけたアルフィンがそのまま自分の部屋へ向かおうとする。
    「アルフィン。タロスに謝ってから寝ろ。心配してたんだ」
     一言だけジョウはアルフィンを叱った。アルフィンも素直に詫びる。タロスはいいから寝ちまえとアルフィンを部屋へ促す。ごめんねと小さな声でもう一度詫びるとアルフィンは部屋へ消えていった。
     2人きりになるとジョウは簡単に報告をし、持ち込んだノート型マシンにマイクロディスクを入れデータを開く。タロスの目が素早くデータを読み取っている。
    「うーん」見終わった途端に少々怪訝そうな声をタロスが漏らした。
    「悪かぁないですがね」不満があるようだ。
    「現場に行けば、ちっとは面白くなるさ。」
     要するに面白そうな仕事じゃあないってことだ。
     ジョウはタロスをたしなめながら冷蔵庫から冷えた缶ビールを2本出し、一本をタロスに投げ渡した。
    「で、アルフィンはどこに居やした?」
    「何処って。エアカーの前に居たさ」
    「そうじゃなくて、その前でさぁ」
    「聞いてない……聞こうとした時は眠っていた」
    「はあ。」
    「まあいいさ。言いたくなれば自分で言うだろ」
    「そうですな」
     タロスもそれ以上は言わなかった。
     ジョウが良いのならそれで良い。

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■288 / inTopicNo.4)  Re[3]: demonstration
□投稿者/ めばる -(2002/11/11(Mon) 20:42:24)

     真夜中。咽喉が渇く目が覚めたアルフィンはミネラルウォーターを取りに部屋を出てリビングにある冷蔵庫を覗いていた。
     そこで妙な声がリッキーの部屋から漏れているのに気づく。
     そっとドアを開けて覗いた。やっぱりリッキーが苦しそうに唸っていた。ベッドに近づきリッキーの額に手を当てる。熱がある。それもかなり熱い。アルフィンは自分の出来ることを素早く始めた。
     フロントに連絡して氷や氷嚢代わりになるビニール袋等を運ばせ、その氷を袋に詰めてタオルでカバーしリッキーの首の下や脇などに入れてやる。そうすれば熱をより効率良く下げてくれる。実はこのテクはジョウがグレーブのパスツール記念病院に入院した際覚えたものだ。3ヶ月もただ見舞いを繰り返していた訳ではない。ちゃんとジョウの介護もしていた。
     アルフィンは魘されているリッキーの汗を拭いてやった。
     そばに薬が置いてあるに目が入る。医者にかかった様だ。となれば心配はない。リッキーを起こし解熱剤を飲ます事にする。
    「リッキー。起きて……リッキー?」
    「う…ぅん?」
     魘されている位だから眠りは浅い。リッキーは寝ぼけながらも直ぐに目を開けた。
    「あ…れ?アルフィン?」
    「そうよ。大丈夫?」
     にっこりと優しく微笑みながらアルフィンはリッキーの顔を覗きこんだ。
    「ど・どうしたの……?」
     リッキーはアルフィンの顔があまりに間近にあるので少々慌てる。
    「どうしたのって。私が聞きたいわ」
     困った顔もまた綺麗なんだとリッキー要らない解釈をたてる。まだ寝ぼけているのだ。
    「熱でうなされてたのよ」
    「魘され…。ああ、俺ら背中が痛くってサ」
     自分の置かれた状況をやっと思い出したらしい。リッキーは照れながら自分がこうなった経緯をアルフィンに話した。
    「ばっかねぇ。ここのビーチはまともに日光浴をするところじゃないのよ。初日に言われたでしょ」
     アルフィンは目を丸くして呆れながらリッキーの話を聞いていた。
    「みんな俺らを馬鹿馬鹿っていいやがる」
    「だって、馬鹿だもの」クスクス笑いながらアルフィンはとどめをいれる。
    「ひでえよ」
    「とにかく、これ解熱剤と痛み止めだと思うわ。飲みなさい」
     はいと薬と水の入ったコップをリッキーに手渡す。コップにはストローが刺さっていた。
     寝ながらでも飲みやすい様にと気を使ってくれている。アルフィンの優しさがリッキーには物凄く嬉しかった。なんだか目頭が熱くなる。熱のせいで気持ちが緩んでるのかもしれない。
    「なに泣いてるの?」
     慌ててアルフィンが言った。ちょっと動揺している。
    「俺ら、なんか凄く感動しちゃって・・・。お袋とかってこんな感じなのかなぁなんて」
     鼻をぐずらせてリッキーは照れながら言った。ごしごしと目を擦る。
    「失礼ね、私はそんな歳じゃないわよ」
     わざと怒ったように語尾を上げる。
    「もっもちろんだよ。いや俺らって家族なんか知らないからさ。その・・・」
    「分かってるわ」
     今夜のアルフィンは頗る優しい。いつもこんなだったらなとリッキーは思う。
    「あのさ。ちょっと聞いてもいいかな」
     今なら何を聞いても怒られないかもとリッキーは思いきって切り出した。
    「ここに来てからアルフィンは一体何処に毎日行ってるのさ?」
     アルフィンはちょっと目を細めてもの有りげにニヤっと品悪く笑った。
    「あら。気になる?」
     リッキーは大きく何度もう頷いた。今度はうふふっとアルフィンは笑う。
    「なんか凄く気になる」
    「どうしようかな。まだ言いたくないのよねぇ」
    「そんなぁ。ちょっとだけは?」
    「う〜ん。そうねぇ。」
     考えていそうな素振りは見せているが、なんだかはぐらかそうとしている様にも見える。
    「誰にも言わないって約束するからさ」
     ここまでじらされると何としても聞きたくなる。リッキーも必死に粘った。
    「絶対よ。」唇に人差し指をあてて内緒のポーズをする。
     アルフィンがリッキーの耳元に顔を近づけてきた。サラサラと長い金髪がリッキーの顔にかかる。良い匂いだ。
    とてもドキドキする。一瞬息が止まった。
    「×××××××××××××。」
    「えっ?」
    「うふっ」
     リッキーの大きな目が更に丸く大きく開いた。
     やけに楽しそうにアルフィンは笑う。
    「なんで?どうして?何の為?」 分からないとリッキーは被り振る。
    「いいじゃない。そんなのぉ。だから言いたくないって言ったのに。」
     そのリッキーの反応にアルフィンはあきらかに臍を曲げた。
     愛らしい唇が少しだけ尖っている。
    「もう寝なさい」
     機嫌を損ねたアルフィンそう言い放ちさっさと部屋から出ていった。
     どうしよう。これは内緒にすべきことなのだろうか。
     リッキーは「うーむ」と唸りながら、氷嚢代わりの袋を額に押し当てた。


    「なんだ。意外に元気そうだな。朝飯は食べられるか?」
     朝になるとジョウがリッキーの部屋に入ってきた。
     コーヒーの良い香りが漂う。その香りに誘発されるようにリッキーはベッドから起きあがった。
    「あ…兄貴…」 照れくさそうに笑う。
    「ルームサービスを持ってきた」
    優しい。リッキーは朝から鼻の奥がジーンとする。
    「な…なんだよ。気持ち悪い」
    潤んだ目で見つめられジョウは思わずたじろいだ。
    「兄貴もアルフィンもあんまり優しくしてくれるからさぁ。俺らマジ感動しちゃって……」
     リッキーが慌てて良い訳をするがジョウはまだ顔をしかめている。
     しかめた顔のまま食事の乗ったトレーをグイと渡す。そして踵を返して足早に部屋を出て行く。
    「まっ待ってよ!兄貴っ!」
     ジョウの背に慌てて声をかける。だが無情にもジョウはドアの外へ消えていった。
     昨晩の事を伝えようと思ったのに……。
     なんでえ!そんな機嫌悪くなることないじゃないか!
     ぽつんと取り残されてリッキーは一人呟いた。



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■301 / inTopicNo.5)  Re[4]: demonstration
□投稿者/ めばる -(2002/11/13(Wed) 18:59:08)

     ジョウは朝食を食べ終わると早々にホテルを抜け出した。
     一人でまたエアカーに乗り込み、今日は宇宙港を目指す。
     昨日から何故かモヤモヤと心が騒ぐ。どうしてもじっとして要られなかった。
     <ミネルバ>に着くとすぐにリビングにはいり、どっかりとソファーに腰をおろした。
    「………」
     両腕と組んだまま眉間に皺を寄せジョウは待った。3分位経った頃、ドンゴが騒々しくキャタピラの音をさせて入ってくる。
    「遅いな」
     身動きせずドンゴを睨みつける。
    「キャハ・・?ドカシマシタ?」
     ドンゴはランプを激しく点滅させている。
    「何をしていた?」更にジョウはドンゴを睨みつけた。
     シューンと空気の抜ける様な音がする。ドンゴの機能が一瞬にして全て停止した。
    「ワザとらしい……」
     ドンゴにとってチームリーダーの命令は絶対である。だからリーダーの質問にも絶対条件で答える。だが今なんらかのプログラムによってリーダーを上回る権限が施行されている。そのプログラムがドンゴを黙らせた。機能を停止するというやり方で……。
    「分かったよ」
     ジョウは半ば諦めたか呆れたように首を横に振り、ゆっくりと立ち上がった。
     リビングを出て格納庫に向かう。格納庫は明かりが消えている為に真っ暗だった。
    「ぷっっ」
     ついにジョウが吹き出した。
     どこまでもワザとらしい。やりすぎだ。非常灯まで消えていれば誰でも異変に気づく。
     ライトのスイッチをいれた。ゆっくりと明かりが戻ってくる。
     そこにはジョウの考えたとおりの光景があった。


    「やっぱりな…。もう出てきたらどうだい?」
     ジョウはまだ笑っている。
     ガレオンの影からアルフィンがひょっこり現れた。顔をほのかに赤らめて唇を尖らせている。
     そのままジョウの前までやってくる。だが拗ねている様子ではない。碧目が笑っている。
    「ドンゴが言ったの?それともリッキー?」
    「いや。誰にも聞いてないぜ」
    「じゃあ、どうして分かったの?」
     小首を小さく傾け上目遣いでジョウを見る。ジョウはまた笑った。
     アルフィンはうーんと腕を組んで少し考えている。
    「ドンゴが停まっちまった。早く直したい」
    「あららら…それは困ったわね。何か質問しちゃったの?」
    「当たり前だろ。頼みたい事もあるんだ」
    「ふふっ。ジョウには秘密にしておきたい事があったのよ」
     なんだか妙に嬉しそうに体を摺り寄せながらアルフィンがある方向に指をさした。<ファイター>の翼に見慣れないシートが被せてある。
    「なんだ。俺には秘密なんだろう?」
     ジョウは意地悪そうに目を細めてアルフィンを睨む。
    「もういいわ。ちょっと驚かしてやろうと思ってただけ」
     アルフィンの声は更に猫なで声になり、その体を捩じらせている。ジョウは<ファイター>の羽根に掛かったシートを一気に引き剥がした。
     羽根の下から流線型の艶やかな銀色を放つエアバイクが現れる。

引用投稿 削除キー/
■302 / inTopicNo.6)  Re[5]: demonstration
□投稿者/ めばる -(2002/11/13(Wed) 19:01:50)

     「ドルロイに頼んだの。特注品よ。っといっても試作品なんだけど……」
     へぇ。と感心した声をもらしてジョウはしげしげとエアバイクを見る。
     ドルロイ製か……どうりで……。心の中で納得する。
     誘導・追尾やらいろんな最新装置がコンパクトについているらしい。昨日もその機能をフル活用したという。
     どうやら操縦技術(テクニック)ではなくバイクのメカニズム(?)に昨晩はしてやられた。 アルフィンに負けたのではなかっただけ救いである。
    「休暇に合わせて送って貰ったの。こっそり運び込めると思って。」
     運び込んだ後、メカニックメンテナンスデータをドンゴにダウンロードしたらしい。ドンゴを黙らせるプログラムはその中が組み込んであるようだ。
    「誕生日プレゼントなの…ほら今日誕生日でしょ?ジョウの……。気に入って貰えるかな?」
     ぽつりとアルフィンが言った。
     思わず振りかえった。アルフィンが恥ずかしそうに微笑んでいる。
     ジョウは言葉に詰まった。物凄い高価なプレゼントだ。気に入らない筈が無い。
     しかし特注?試作品…? どうやってオーダーしたというのか全く分からない。
     困惑したジョウの顔がアルフィンの心を少し傷つける。
    「やっぱり相談したほうがよかったよね……」
    「い…いや!凄くうれしいよ。ただあんまり唐突だったもんだから……」
     慌ててジョウがフォローする。
     渋い顔をしてアルフィンはジョウを睨みつける。本当なの?と疑いの目をして。
    「しかし。すごいバイクだな」
     アルフィンの機嫌を損ねたら一大事だ。こんな時は誉めるのが一番である。
    「でしょ。ほんとに凄いのよ」
     すぐにご機嫌は修正された様だ。ジョウは安堵の胸をおろす
     アルフィンはこのバイク購入経緯を話したくてしょうがない。彼女にしてみれば機嫌など損ねている場合ではないのだ。
    「この前<ミネルバ>のメンテナンスでドルロイにドック入りしたでしょ。あの時にね−−−」
     半年前、メインエンジン付替えの為にドルロイに降りた。その時にこのエアバイクに出会ったらしい。
    ドックの片隅でまだ組立て途中だったバイクにアルフィンは目を奪われた。今までバイクに興味を持った事もなかったが、何故か物凄く心惹かれた。是が非でも手に入れたい。これこそ世界にひとつしかない最高の贈り物。ジョウだって絶対気に入る。
     エンジニア達は最初こそ相手にもしてくれなかったが、アルフィンの情熱(?)におされ徐々に彼女のペースに填まっていく。趣味の枠で作っている物をこれ程の美少女が欲しがる。その最上級のお願い顔をされて否とする男はいないであろう。
     アルフィンの話を聞きながらジョウは場面を想像しつつ幾分眉を顰めた。
     素直に喜んでいいのか分からなくなる。 複雑な心境。

    「金は?」
    「やーね。プレゼントだって言ってるじゃない」
    「そうもいかない。物が物だ」
    「払ったわよ。ちゃんとね」
     相場通りに払ったとは思えない。いや相場自体彼女に分かるのだろうか。分かっちゃいないに違いない。
    「ジョウにあげるんだって言ったら凄く負けてくれたの。凄いわねぇ。ほんとに……」
     何が凄いのか……。さらにジョウは眉間を顰めた。
    「ジョウのファンだって言ってたわよ。なんでも先代はジョウのお父様に世話になってたとか。でもあたしのことも気に入ったって言ってたわ」
    「う゛ー」頭が痛くなりそうだ。とうとうジョウは手を額に当てた。
    「メカニック系の事はとにかく、バイクに乗れないと試運転も出来ないでしょ。それでバイク用の訓練ソフトを何本か入手して夜な夜な学習したのよ」
     機械の事にてんで疎いアルフィンはドンゴにそれらを一任する事で、こちらは解決させたらしい。
     固まったままのジョウを見ながらアルフィンは話し続ける。
     学習と言っても睡眠学習含だっただろうが、ビギナー編からレーサー編まで色々と……。
     勉強熱心さはきっとその天性の負けず嫌いから来ている。やるからには究極を目指したい。中途半端は大嫌い。それがアルフィンの性格だ。
     そんな性格でもなければ、とてもお姫様からクラッシャーなどに変身出来る筈も無い。
    「で、到着して一応この星にあったスクールに行ったわ。そしたらなんだか妙な自信がついちゃって。ついジョウの前でデモンストレーションをしたくなっちゃったの」
     バイクのお披露目、いやバイクに乗るアルフィンのお披露目なのか。その両方というのが妥当だろう。
     完璧な変装だと思ってたのにとしみじみ言う。
    「なんで解っちゃったのかなぁ」
     ちらりとジョウを見る。ジョウは苦笑いを浮かべていた。

引用投稿 削除キー/
■303 / inTopicNo.7)  Re[6]: demonstration
□投稿者/ めばる -(2002/11/13(Wed) 19:02:57)

     実のところジョウとて本当は自信が無かった。だから確かめる為<ミネルバ>に来たのだ。
     しかし、アルフィンのはしゃぎぶりを見ると今更それは言いずらい。
     昨日アルフィンがタロスに連絡を入れた場所がまず一つ目のキーワードだった。ちょうどあの時タロスは持ち込んだノート型マシンで<ミネルバ>のメインコンピューターと接続をしていた。お陰でアルフィンが<ミネルバ>に乗っている事が分かった。リゾートで共に過さないで<ミネルバ>に居る……。何故だか知りたくもなる。
     次のキーワードはエアカーの中で眠ってしまったアルフィン。シートに戻してやった時に微かにオイルの焼けた匂いがした。バイク特有の……。如何してだか確かめたくもなる。
     まさかと思った。
     あの女性とアルフィンが同一人物とは考え難かった。第一バイクの操縦がアルフィンには出来ないと思っていたし、何よりもっと大人の女性に思えた。
     男を誘う様な妖艶さをアルフィンがあれほど持ち合わせているなどと考えた事もなかった。
     今もそんな風にはどうしても見えない。女の色気というよりは……。でも元来その美貌で意図も簡単に男の虜にしているのは間違いない。ただ気がついてないのだ。アルフィン自身が。己にどれ程魅力があるのかを。
     そしてこれ程彼女に魅了されている自分が居ることをジョウ自身も気づかなかった。
     以前タロスが言っていた。女は魔性だと。 本当にそうなのかもしれない。これからも幾度となく惑わされ、悩まされるのだろか…。
     思い出した様にジョウはアルフィンをまじまじと見る。自分のモヤモヤを作った原因。彼女は知ってか知らずか、ただニコニコと微笑んでいる。
    「そんなに見ないでよ」
     照れくさそうにそう言った。

    「どう?乗ってみる?」
    「もちろん」
    「うん。」
    「ドンゴに仕事を頼んだら、エアバイクをもう一台借りてツーリングに行こう」
    「うん」
    「今日は負けないからな」
     うふふっとアルフィンが笑った。
    「賭けてもいいぜ」
     ジョウも笑った。
    「だけど…あのツナギは無しでだ」
    「なんで?せっかく作ったのにもったいないわ」
     アルフィンはジョウ見つめる。懇願のポーズだ。だがジョウは首を横に振った。だめだと。
     諦めて小走りにバイクへ駆け寄ろうとするアルフィンの腕をジョウはつかんだ。ふいに捕まれてアルフィンは小さな悲鳴を上げた。
    そのまま抱き寄せる。
    「お礼を言わなくちゃな」
    「やだ。いいわよ」
    「昨日、俺を誘ったお礼も…」
    「……!!…!」
     ふいのキスだった。アルフィンはビックリしてその碧眼をめい一杯開いている。口だけがパクパクと動くが言葉にはならない。
    「まんまと引っかかったからな。アルフィンの誘いに」
    「…?」
    「俺の他は誰も惑わさないよう封印しておきたい……」
     もう一度唇が重なった。
    「どう?」
    「ど…どうってっ……」
     すっかり舞い上がって声が裏返ってしまう。頭の先から足の先まできっと真っ赤に染まっているに違いない。アルフィンはあまりの恥ずかしさの為にうつむいてしまった。
    「封印できそうか?」
    ジョウの問いにアルフィンはただ微かに頷いた。


引用投稿 削除キー/
■304 / inTopicNo.8)  Re[7]: demonstration
□投稿者/ めばる -(2002/11/13(Wed) 19:04:08)

     ホテルではすっかり元気を取り戻したリッキーがソファーで寝転びながら口にスナックを頬張りテレビをぼんやり眺めていた。
    「なんだっ?こりゃあ?!」
     タロスの頓狂な声にギョッと振りかえる。タロスが大きな顔をへばりつけるようにノートマシンを覗きこんでいる。
    「なんだよ。うっさいなぁ。又ビックリエッチサイトでも見つけたのかよ」
     その姿をからかう様にそう言った。
    「たこ。おめえと一緒にすんな」
    「なんだよ。それじゃあ?」
     ちぇっと小さく愚痴りながらタロスの座っているデスクまでやってくる。
    ノート型マシンを覗いた。
    「ほえ?」リッキーの目がタロスの3倍位の大きさに見開いた。
    「ほらみろ。驚くだろう」
    ニヤニヤとタロスが笑うがその笑いは大きく引きつっている。
    「なに?これ?」
    「それは、俺がさっき言ったまんまだ」
    「ああそう。じゃあ、『なんでしょうか、この請求額は?』でどう?」
    「そうそう。それだ」
     ウンウンとタロスが両の腕を組んで頷く。
     二人が見つめているもの。ノートマシンのLCDモニターに映し出されているメッセージ。
     ドルロイからの請求書……。受取人が『<ミネルバ>乗務員の皆様へ』となっている。
     内容を開ける。『クラッシャージョウ誕生日祝い品  一式』。リッキーには嫌な予感が脳裏に走った。
    「なんだ? この誕生日祝い品ってのは…」
    「うん…」
    「えれぇ、高額(たけえ)ぞ」
    「う…うん…」
    「何を買ったんだ?アルフィンは…一体……?」
    「う……ん…」
    「うん、うんって他に言う事はねえのか!このぼけっ!」
     タロスがとうとう怒り出した。リッキーのあやふやな返事が気に食わない。
     だがリッキーは困っていた。これは昨日のアルフィンが言ってた件に関わっている。きっと違いない。だけど約束しちゃったんだ。アルフィンと。タロスに言っていいものかどうか……。
    「なんか訊いてんだろう!」
     タロスの剣幕にリッキーは折れた。約束なんて言っていられない。殺されかねない…このままでは。
    「ちょっとだけだよ。ちょっとしか訊いちゃないんだ。俺らだって」
    「おう!」鼻息荒くタロスが肩をそびやかした。リッキーは反対に肩を縮めて小さな体を更に小さくしている。
    「バイクスクールに行ってるって。そう言ってた」
    「バイクだぁ?」
    「だからバイクを買ったんじゃないかなって俺ら思う……」
     俯いて口篭った。語尾がどんどん小さくなって最後は聞き取れない程小さい。
    「スクールに通ってるなんていうからさ不思議に思ってたんだよな。だってバイクなんて運転する必要ないじゃない。<ミネルバ>に乗っけてないんだしさ。それを内緒にしとけって言うんだぜ」
    「バイクねえ…」
     ふむと鼻をらなす。少し渋い顔をして首を捻らせた。
     アルフィンがジョウの誕生日プレゼントを買いたいと相談に来たのは確か半年位前だった。
    『たまにはババーンと凄い物をプレゼントしたいと思わない?』
     そんな風に切り出された。
    『良いものを見つけたのよ。凄く役立つと思うし。絶対喜ぶわ』
     物凄いハイテンションでアルフィンが語ってタロスはただハイハイと訊いていただけだった。プレゼントだなんだかんだってのは、男のタロスには全く疎い。任せるに限る。
    『皆で割り勘にして』
     好きにしろって云った様な気がする。
     云ったかもしれないが……。
    「高額(たか)過ぎるだろう。こりゃあ……」
     請求額のゼロの桁を指で折ってみる。400万クレジット。リッキーは更に÷3をした。
    「俺らの小遣いで払えるかな?」
    「まず無理だな……無給で働け」
    「そんなあ……何とかしてくれよぉ」
     がっくりと項垂れ泣き言を言い始める。
    「ジョウに相談しとくぜ。リッキーが破産したってな」
     タロスはにやりと意地悪そうに笑う。タロスには払えない額ではないがそれでも高い。額を知ったらジョウはどう思うだろうか。リッキーはとにかくやっぱり相談しといたほうが良さそうだ。そう心の中で呟いた。

     夜久しぶりに4人そろっての会食となり当然ジョウの誕生日会を催した。アルフィンがプレゼントしたエアバイクの話をタロス達にまた詳しく語り、今日一日ジョウとそのバイクでどんな風に走ったかをも雄弁に語った。
     へしょまげているリッキーを余所にアルフィンは終始上機嫌であった。むろんジョウも。


    「やっぱりな」
     後日、休暇を明けて<ミネルバ>に戻った後タロスは例の件をこっそりジョウに伝えた。バイクの代金をチームの口座から払いたいという相談を。
    「申し訳ねえ。プレゼントだっていうのに」
     しかしジョウの返事があんまりあっさりしていたので少々戸惑った。
    「タロスが謝ることはないだろう。俺もその方がいい」
     気を使わないで済むからとそう言った。そして続けてこうも言った。
    「もっと良いものを貰ったよ」
     と……。



    end


fin.
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