| November 11
アルフィンはジョウの船室を訪れた。 インターコムでジョウを呼ぶ。 「あたし、今いいかな?」 「ああ、ちょっと散らかってるけど・・・」 声と同時にアルフィンの目の前のドアがスライドした。 船室に入ると、コンピュータの端末と書類が何枚か机の上に広がっていた。 「あ、ごめん。仕事中だったのね」 「アラミスに提出する報告書さ。記入漏れがないかチェックしてただけだから気にしなくていい」 広がった書類をばさばさと片付けながらジョウが言った。 「いつもながらチームリーダーも楽じゃないわね」 「面倒なことが多いからな。報告書やら何やら。チームリーダーっていえば聞こえ良いが、こうなると雑用係みたいなもんだぜ、まったく。まぁ今回の仕事はこれといって特筆することも無いし、楽なほうだけどな」 ジョウのチームは今日の午前中、輸送船の護衛の仕事を終えたばかりである。 だが、ジョウ達に休暇は無い。40時間後には既に次ぎの仕事が入っていた。<ミネルバ>の装備の点検と補充を半日で終え明日の明け方を待ってここを発つ、そして次の仕事先へと急行する予定となっている。 とはいえ、一つの仕事を終え次ぎの仕事までの移動時間はメンバーもほっと一息つける時間であった。
「で、何だい?」 「え?」 「何か用事があってここに来たんだろう?」 「あ、そうそう。あのね、これ渡そうと思って」 アルフィンはジョウの前に両手を差し出した。差し出された手には青い包装紙に銀のリボンで飾られた小ぶりの箱が載せられていた。 「少し遅くなっちゃったけど、おめでとう」 ジョウは何のことだか良くわからず、視線をアルフィンの顔と箱を行ったり来たりさせた。少なくとも3往復はしたであろう。視線を受けてアルフィンが呆れたように言った。 「ん、もう。プレゼントよ。自分の誕生日、忘れちゃったの?」 「・・・しっかり忘れてた」 「そんな事だろうと思ったわよ。ハイ」 そう言ってアルフィンはもういちど手を差し出した。 ジョウはぽりぽりと頭を掻きながら、青い箱を受け取った。 「ホントはね、ちゃんと8日に渡したかったんだけど、仕事中だったから・・・」 言いながらアルフィンはベットの端に腰を下ろした。 個々に割り振られた船室はそれほど広くない。ベットとソファーの両方を置くほどの余裕はないので、皆、普段はベットをソファー替りに使っていた。 ジョウは机をはさんで反対側のスツールに腰掛けた。 「開けても良いかい?」 「もちろん」 ジョウはがさごそとぎこちなくリボンを外した。そして包装紙を毟り取るように剥がした。 ―男の人って、どーしてこうなのかしら アルフィンは小さくため息をついた。 包装紙にもそれなりに気を遣い、ジョウの好きそうな青を選ぶのにずいぶん時間をかけたというのに。リボンだって、結び方はどうしようってあれやこれや失敗しながら結んできたのに。そんなことはお構いなし。せっかくの包装紙はびりびりに破かれ床に転がっていた。 「ルーメンじゃないか!」 しかし、ジョウの感嘆の声を聞いてアルフィンの不満はどこかへ消し飛んでしまった。 ジョウが箱の中から取り出したのは、サングラスだった。 老舗有名ブランド「ルーメン・アイウェア」の新作モデル。人類が地球に足をつけて生活していた時代から延々と続くブランドである。デザインが良く機能的そして軽くて丈夫なので多くのスポーツ選手が愛用していることで有名だった。 「前の休暇のとき傷がついたっていってたでしょ?」 アルフィンと違いあれこれ欲しいと言わないジョウのプレゼントは、毎年何にするか決めるのが一苦労だった。だが今年はあっさりと決った。休暇で訪れるリゾート惑星では欠かせないサングラスには、ジョウも少しは頓着するようで、なかなか良いものが無いとぼやいていたのをアルフィンはしっかりときいていた。そして銀河ネットワークのオンラインショップで2ヶ月も前から検索し準備をしていたものだった。 「どう?」 「ああ、気に入ったよ。ありがたく使わせてもらうぜ」 本当に気に入ったようで、ジョウは子供のようにサングラスをかけたりはずしたりしながら嬉しそうに答えた。
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