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■285 / inTopicNo.1)  Presents
  
□投稿者/ まめこ -(2002/11/11(Mon) 12:57:13)
    November 11

    アルフィンはジョウの船室を訪れた。
    インターコムでジョウを呼ぶ。
    「あたし、今いいかな?」
    「ああ、ちょっと散らかってるけど・・・」
    声と同時にアルフィンの目の前のドアがスライドした。
    船室に入ると、コンピュータの端末と書類が何枚か机の上に広がっていた。
    「あ、ごめん。仕事中だったのね」
    「アラミスに提出する報告書さ。記入漏れがないかチェックしてただけだから気にしなくていい」
    広がった書類をばさばさと片付けながらジョウが言った。
    「いつもながらチームリーダーも楽じゃないわね」
    「面倒なことが多いからな。報告書やら何やら。チームリーダーっていえば聞こえ良いが、こうなると雑用係みたいなもんだぜ、まったく。まぁ今回の仕事はこれといって特筆することも無いし、楽なほうだけどな」
    ジョウのチームは今日の午前中、輸送船の護衛の仕事を終えたばかりである。
    だが、ジョウ達に休暇は無い。40時間後には既に次ぎの仕事が入っていた。<ミネルバ>の装備の点検と補充を半日で終え明日の明け方を待ってここを発つ、そして次の仕事先へと急行する予定となっている。
    とはいえ、一つの仕事を終え次ぎの仕事までの移動時間はメンバーもほっと一息つける時間であった。

    「で、何だい?」
    「え?」
    「何か用事があってここに来たんだろう?」
    「あ、そうそう。あのね、これ渡そうと思って」
    アルフィンはジョウの前に両手を差し出した。差し出された手には青い包装紙に銀のリボンで飾られた小ぶりの箱が載せられていた。
    「少し遅くなっちゃったけど、おめでとう」
    ジョウは何のことだか良くわからず、視線をアルフィンの顔と箱を行ったり来たりさせた。少なくとも3往復はしたであろう。視線を受けてアルフィンが呆れたように言った。
    「ん、もう。プレゼントよ。自分の誕生日、忘れちゃったの?」
    「・・・しっかり忘れてた」
    「そんな事だろうと思ったわよ。ハイ」
    そう言ってアルフィンはもういちど手を差し出した。
    ジョウはぽりぽりと頭を掻きながら、青い箱を受け取った。
    「ホントはね、ちゃんと8日に渡したかったんだけど、仕事中だったから・・・」
    言いながらアルフィンはベットの端に腰を下ろした。
    個々に割り振られた船室はそれほど広くない。ベットとソファーの両方を置くほどの余裕はないので、皆、普段はベットをソファー替りに使っていた。
    ジョウは机をはさんで反対側のスツールに腰掛けた。
    「開けても良いかい?」
    「もちろん」
    ジョウはがさごそとぎこちなくリボンを外した。そして包装紙を毟り取るように剥がした。
    ―男の人って、どーしてこうなのかしら
    アルフィンは小さくため息をついた。
    包装紙にもそれなりに気を遣い、ジョウの好きそうな青を選ぶのにずいぶん時間をかけたというのに。リボンだって、結び方はどうしようってあれやこれや失敗しながら結んできたのに。そんなことはお構いなし。せっかくの包装紙はびりびりに破かれ床に転がっていた。
    「ルーメンじゃないか!」
    しかし、ジョウの感嘆の声を聞いてアルフィンの不満はどこかへ消し飛んでしまった。
    ジョウが箱の中から取り出したのは、サングラスだった。
    老舗有名ブランド「ルーメン・アイウェア」の新作モデル。人類が地球に足をつけて生活していた時代から延々と続くブランドである。デザインが良く機能的そして軽くて丈夫なので多くのスポーツ選手が愛用していることで有名だった。
    「前の休暇のとき傷がついたっていってたでしょ?」
    アルフィンと違いあれこれ欲しいと言わないジョウのプレゼントは、毎年何にするか決めるのが一苦労だった。だが今年はあっさりと決った。休暇で訪れるリゾート惑星では欠かせないサングラスには、ジョウも少しは頓着するようで、なかなか良いものが無いとぼやいていたのをアルフィンはしっかりときいていた。そして銀河ネットワークのオンラインショップで2ヶ月も前から検索し準備をしていたものだった。
    「どう?」
    「ああ、気に入ったよ。ありがたく使わせてもらうぜ」
    本当に気に入ったようで、ジョウは子供のようにサングラスをかけたりはずしたりしながら嬉しそうに答えた。
引用投稿 削除キー/
■286 / inTopicNo.2)  Re[1]: Presents
□投稿者/ まめこ -(2002/11/11(Mon) 12:57:51)
    「俺もアルフィンに渡すものがあるんだ」
    そう言いおもむろにジョウは立ちあがった。コントロールパネルを操作すると壁に設えてあるクローゼットの一部が開いた。クローゼットの引出しの中から、ジョウは赤いビロード張りの小さな箱を取り出した。
    一目でジュエリー用の箱とわかるそれをジョウはアルフィンに手渡した。
    「開けてごらん」
    何の説明もせず、ジョウはそう言った。
    少し戸惑いながらアルフィンがゆっくりと蓋をあけると、そこには指輪が入っていた。
    「二十歳の誕生日だったかな、親父から贈りつけられた。ま、親父からってよりお袋からなんだけどな」
    「お母さまから…?」
    アルフィンは小首を傾げた。
    「でもジョウのお母さまって」
    「物心つく前に死んでるよ」
    言いながらジョウはアルフィンの脇に座り、1通の手紙を手渡した。
    「これ、読んでみて」
    渡された封筒はかなり古いものであった。元は白かったのだろうが、少し黄ばんでしまっている。型押しでレースのような模様が浮き出ている、センスの良いものだった。
    アルフィンは自分宛ではない手紙を読むことに少し躊躇いを覚えたが、ジョウに促され封筒から便箋を取り出した。
    封筒と同じデザインの便箋には、セピア色の文字が並んでいた。
    その色からもかなりの年月が経っているのが窺がえた。

    親愛なる息子、ジョウへ

    二十歳の誕生日おめでとう。
    二十歳のあなたはどんなひとになっているのかしら?
    産まれたばかりのあなたをみていても全然想像できないわ。

    私の人生で一番の幸せはダンに出会ったこと
    そして、ジョウ、貴方をを授かったこと。
    とても素晴らしいことだったわ。
    二人の素敵な男性に出会えた私はとっても幸福せ者ね。

    この手紙があなたの手元に届いているのならば
    きっと私はこのまま死んでいくのでしょう。
    何もしてあげられなくてごめんなさい。
    だからというわけではないのだけれど
    二十歳になったあなたへ
    古い言い方かもしれないけれど、大人の仲間入りをしたジョウへ
    私と・・・ダンからプレゼント。
    いつの日か、あなたに大切な女性が現われたなら
    これを渡してもらえると嬉しいわ。
    私とダンからのささやかなお祝いの印として。

    ダンが私にしてくれたように
    あなたもあなたの大切なひとを幸せにしてあげてね。

    あなたとあなたの大切なひとの幸せを祈っています。
       
                    母より

    手紙を読み終え、顔を上げるとジョウと目が合った。
    「お袋が死ぬ間際に書いたものだそうだ。遺言みたいなものかな」
    そう言うジョウの眼差しは少し寂しそうだった。
    「それを書くときはもうずいぶん衰弱していて、ペンを持つのがやっとだったってヴィッキーが言ってた」
    紙にペンで手紙を書く、今や忘れかけられている手段で言葉を遺したユリアの想いにアルフィンの胸は締めつけられた。ビデオレターやメールというデジタル化されたもので無く最後の力を振り絞って書いた直筆の手紙。殴り書きのようにもみえる荒い字、まとまりの無い文面、さらには涙でインクが滲んでいてとても読みにくかったけれど、努めて明るい言葉で書かれた手紙からは、ユリアの想いが痛いほどに伝わってきた。
    「素晴らしいお母さまね…」
    そう言ってアルフィンは指輪の入った小箱に視線を落とした。
    少し華奢なホワイトゴールドのリングの上に美しくカッティングされたエメラルドがあしらわれた指輪は、けっしてゴージャスではなく可憐という形容がしっくりくる。けれど、しっかりと自己主張している碧の宝石。きっとこの指輪のような女性だったのね。アルフィンは今は亡きジョウの母、ユリアに思いを馳せた。

    「それ、やるよ」
    不意にジョウが言った。
    「君が俺の大切な女性だから、君にもらって欲しい」
    照れているのかジョウの口調は些かぶっきらぼうなものになっていた。
    アルフィンは何の返答も口にしない。ただ黙ってジョウの顔を見ていた。
    けれど、その美しい蒼の瞳がなにも語らぬ口よりも雄弁にアルフィンの心を語っていた。
    大きく見開かれ、驚きと喜びとが入り混じったような、潤んだ瞳。
    「気に入らないか?」
    意地悪くジョウは訊いた。
    アルフィンは、左右に大きく首を振った。そして俯き、胸元に指輪を抱きしめて、ジョウに聞えるか聞えないかの小さな声で、でもしっかりと
    「すごく、すごく嬉しい」
    そう言った。
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■287 / inTopicNo.3)  Re[2]: Presents
□投稿者/ まめこ -(2002/11/11(Mon) 12:58:15)
    「もう一つ付け加えるとだな」
    咳払いを一つして、意を決したようにジョウが言った。心なしか顔が赤くなっている。
    「その指輪、親父がお袋と結婚する時に渡したものらしいんだ」
    ジョウの視線があらぬ方向を向く。
    「つまり、そういう意味で、君にも受けとって欲しいんだ」
    アルフィンが顔を上げた。
    その蒼い瞳いっぱいに涙を溜めながら、目を見開いている。
    今にも零れ落ちそうなほどに涙を溜めた瞳に見つめられ、ジョウはうろたえた。
    「あ、あの、今すぐに結婚してくれとかそんなんじゃないんだ」
    両手をばたつかせ、口からはなぜか、言い訳めいた言葉が出てしまう。
    「突然こんなこと言ったら、驚くよな。
    ただ、なんだ、俺はそういうつもりでいるからって言いたかっただけで…」
    ―あぁ、俺は何を言っているんだ
    ジョウは天を仰いだ。
    アルフィンの瞳からは今にも涙が溢れ出しそうだった。
    お願いだ、頼むから泣かないでくれ、そう心の中でジョウはアルフィンに懇願していた。
    一世一代の大告白だから、喜んで受け入れてもらいたいと思う。だが、アルフィンの涙には弱い。泣かれるとどうして良いのかわからなくなる。今までにも何度となく経験してきたアルフィンの涙。だが、上手く対応できた例はない。だから。願わくば笑顔で応えて欲しかった。
    だが、ジョウの儚い期待は虚しくも崩れ去った。ついにアルフィンは大粒の涙をぽとぽとと落としてわっと泣き出した。
    「なんで泣くんだよ」
    困り果てた声でジョウはアルフィンに言った。
    「だって、だって…」
    アルフィンはすすり上げながら、懸命にそれだけを口にしたが、それ以上言葉を紡ぐ事が出来なかった。
    ずっとずっと待ち望んでいた言葉を聴いた。夢にまで見たジョウのプロポーズ。夢の中の自分はその言葉をしっかりと受けとめ
    「ありがとう、嬉しいわ」
    と返事をしていたはずなのに。今のアルフィンは頭が真っ白になり、思考回路が停止していた。ただ涙が後から後から涌き出てくる。アルフィンはその涙を止める事も、拭うことも出来ずに流れるに任せた。

    ジョウは泣きじゃくるアルフィンを目の前に、何と声をかければ良いのかわからずにおろおろするばかりだった。小康状態にはなったもののアルフィンは一向に泣き止む気配を見せない。肩を小刻みに振るわせ、時折しゃくりあげるように顎を引くだけで、俯いたまま涙を落としていた。
    「お願いだから、泣き止んでくれよ」
    ジョウはようやくそれだけを口にした。そして、そっと手を回しなだめるようにぽんぽんと背中を叩いた。絹糸のような金の髪がジョウの鼻先をくすぐる。ジョウはその髪を押さえるように髪を撫でた。そうしているとアルフィンに対する愛おしさがこみ上げてきた。

    アルフィンにプロポーズをしようと思ったのは何も昨日今日の事ではなかった。恋人と呼べるようになり既に数年が経ち、周囲もそろそろ、という噂を立たせ始めていた。しかし、ジョウの性格がそれを先延ばしにしていた。
    リッキーには1度ならずと、いつまで待たせるのかと問い詰められもした。―酒の席でそのテのことでアルフィンに絡まれることがあるらしいからなのだが―だが、なんだか気恥ずかしくどうしても1歩が踏み出せずにいた。
    このままなし崩し的に、と考えもした。しかし、恋人としての始まりがそうであったのに結婚までがそうなると、男としてなにか釈然としないものがあった。
    それに女性というのはプロポーズをとても大事なイベントと位置付けるものだとタロスから耳にタコができるほど聴かされていた。アルフィンの性格を考えると尚更だろう、とも。
    しかし、チャンスは巡って来た。このチャンスを逃したら、いつ次ぎが巡ってくるのかわからない。平静を装い告白したが、その実、ジョウの心臓は爆発寸前だった。
    だが、腕の中で喜びの涙を流すアルフィンを見ていると、なんでもっと早く勇気をださなかったのかと後悔の念が噴き出してきた。きっとアルフィンは自分の言葉を待ちつづけていたのだろう。そんなおくびにも出さずにジョウと接していたアルフィンを思うと胸を締めつけられた。
    ―幸福にしよう。お袋のように人生の最後で幸福だった、と言えるように。
    ―全身全霊をかけてこの腕の中の宝石を、アルフィンを幸福にしよう。
    ジョウは心に誓った。そして
    「愛してるよ、アルフィン」
    そう言い、ジョウは腕に力をこめた。



    ―幸福せにね、ジョウ
    ―そして、ジョウの大切な女性
    ―ジョウを宜しくたのむわね・・・



    <おしまい>
fin.
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