| 「おい、待てってば」 ジョウの声が室内に響いた。 リビングでのんびりと寛いでいたタロスとリッキーが何事かと振り向くと、ジョウとアルフィンが外出先から帰ってきたところだった。アルフィンは顔を紅潮させて足早に自分に割り当てられた部屋へと向う。無言だった。表情から相当機嫌が悪い事が窺がえる。ジョウが後を追う。懸命になにかを説明しているようだった。 「いやっ!ジョウなんて大っ嫌い!」 振り向いてそう叫ぶとアルフィンは自室に飛び込みさっさとドアを閉めた。 鼻先でドアを閉められたジョウは、腰に手をおき盛大なため息を一つつきうなだれた。そして、バツが悪そうにタロスとリッキーに向き直った。 「邪魔して悪かったな」 後手で頭を掻きながら謝罪した。 「いや、あっしらは別に」 「気にする事ないよ、いつものことだろ?」 こういう状況に慣れっこの二人の返答に、ジョウは苦笑するしかなかった。
アルフィンのご機嫌取りを後回しにして、ジョウはリビングのソファにどっかりと腰をおろした。 久々の長期休暇の少し早めの夕食後。ウィンドショッピングに連れまわされた挙句のアルフィンの大噴火だった。いちど損ねたアルフィンの機嫌を元に戻すにはもう少し時間が必要であったし、さすがのジョウも慣れぬこと(ウィンドショッピング)の疲れが一気に噴出した。腕組をしてソファに深く沈み込み目を閉じ気力の回復をはかった。 だが、瞑想は長く続かなかった。 「で、今日は何が原因だんだい?」 リッキーが訊いた。 ジョウは鬱陶しそうに薄目を開け、瞑想の邪魔をした張本人にちろりと視線を向けた。ポテトチップスを口に放り込みながらどんぐり眼をくりくりとさせてこちらを見ている。目が合ったがジョウは再び目を閉じ、その視線を無視した。 「ガキはだまってろ」 見かねて横からタロスが口をはさんだ。二人の事だ詮索するなと眼で威嚇する。タロスの相貌で睨まれるのだ。大概の人間はそれだけで震え上がる。だが、リッキーはそんな視線を意に介さず口を尖らせて反抗した。 「だって訊いておかないと俺らも巻き添え食うんだぜ」 アルフィンの噴火に慣ているとはいえ、そのとばっちりを受けることは何度経験しても慣れない。毎度のことながら恐ろしい。原因のリサーチをしておかないと不用意な一言で自分も被害を被ることになるのだ。 「訊く権利があるってもんだい」 ジョウは頭を抱えた。リッキーの言っている事は屁理屈だが反論は出来ない。機嫌の悪いアルフィンは毛を逆立て暴れるハリネズミのようなものだ。触れるものすべてに危害を与える。リッキーに絡むアルフィンの姿が容易に想像できた。 だが、原因と訊かれると答える気が失せる。 「原因、ねえ」 ぼそりと呟くと、ジョウは再び重い瞼を上げ、宙を眺めた。
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